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2006年12月 5日 (火)

練習 15


「朝倉。明後日当たりに補充して欲しいんだけど」
「もうそんな時期?ええ、分かったわ」
 こんな会話を聞いたのは2日前だ。
最近のハルヒは大人しい。朝倉が上手く付き合ってくれているお陰だ。
以前は朝倉の言葉なんかに耳も貸さなかったハルヒだが、今は一番親しげな感じになっている。
凄いぞ、さすがハルヒを観察しているだけある。対策と傾向をしっかり練っているんだろう。
……今はそれほど仕事熱心ではないようだが。

 そんなこんなで放課後だ。
朝倉に「お願いね♪」と押し付けられた掃除当番をやっとのことで終えた俺は足早に部室へ向かった。
ノックの返事が無いことを確認し、ドアを開ける。
「なんだ。珍しく全員揃ってるじゃないか」
 古泉はカードゲームの準備を整え、朝比奈さんはメイド服に身を包みお茶の用意をし、ロッカー棚の影に長門の姿。
そして我らが団長様はパソコンの向こうにふんぞり返っていた。
「なんだ、キョンだったの」
「何だとは何だ」
 モニタからチラリとこちらを伺い、それだけ言うとまた視線を元に戻す。
悪かったね。お望みの人物でなくて。なら一体誰だったら良かったんだ?
「ごめんなさい、ちょっと退いてくれるかしら?」
 突如後ろから沸いた声に驚き飛び退くと、そこには大きなダンボール箱がいた。
「私よキョン君。退いたついでで悪いんだけど上の箱を取ってくれる?」
「あ、ああ。待っ……」
「でかしたわよ!朝倉!」
 俺がダンボールに手を伸ばす前に、福男を争うかのような勢いでハルヒが飛んできた。
軽々と朝倉からダンボールを一つ取り上げると、さっさと中へ引っ込んでいく。
少し太めの眉毛を下げ、困ったような表情を作って俺を見る。
「いつまで女の子に重い荷物を持たせておく気?」
「お前が普通の女の子なら直ぐにでも手伝ってやるよ」
 それにそのダンボール箱が本当に重いのかも気になった。ハルヒは軽々と持ち上げていったぞ?
そのままハルヒを目で追っていると、長机の上にダンボールを置くところだった。
ハハハ、古泉のヤツが慌ててカードをしまっている。こりゃ今日も相手をしてやれなんな。
 ドスンッ!
机が拉げるんじゃないかと思うほどの音を響かせた。
その衝撃たるや少し離れて本を読んでいた長門の髪を揺らすほどだった。
「どう?分かってくれた?」
「いや待て。アレは俺も持てるか自信ないぞ」
「じゃあ鍛えておいてね」
 委員長スマイルで部室の中へ入っていく朝倉。
ハルヒよ。あんなダンボールを二つも抱えてた朝倉を不思議に思わんのか。
「さあ!ダンボールを開けるわよ!」
 お前は色気より食い気か。ホッとするようなガッカリするような。

 毎回朝倉の持ってくるダンボールを丁寧に開けていく。
今のところハルヒの言う「いつか」というのは訪れる気配は無く、部室にはダンボールが溜まって行く一方だ。
「わー!アルファベットチョコじゃない!」
 喜びの一声とともに、机の上にどんどんチョコを積み上げていく。
若しかしてこのダンボール一杯のチョコなのか?
「もちろん。チョコレートって食べ始めると止まらないでしょ?」
 俺はそうでもないのでコメントに困る。
しかし、女の子というものは甘いものが好きって言うのは本当みたいだな。
「チョコレートは肌も綺麗になるし、ストレスにも良いみたいですよ?」
 ならお前が食ってろ。随分ストレス溜まってるんじゃないか?
「いや。最近はそれ程でもありませんよ」
「こらー!そこの3人!早く仕分けの手伝いしなさいよー!」
 既に封を切って中身を広げている団長様のお呼びがかかる。
何を仕分けるって?箱の中身は全部チョコレートなんじゃないのか?
「アルファベットチョコなのよ?アルファベットごとに分けるんじゃない!」
 ……一体何を言ってるんだ。普通そんな事しないだろ。
「有希とみくるちゃんはまず最初に分けるわよね?」
「え、えーっと。そうですねー」
「分からない」
 朝比奈さんは何とか話をあわせようとしている。未来にもアルファベットチョコは残っているんだろうか。
あの様子からでは、残っていないのか、そんな食べ方をしないのか分からん。
しかし長門はマイペースだな。
「有希は分けないの?」
「それを食べたことがない」
「そう。んー、良いわ!有希を仕分け作業隊長に任命してあげる!頑張んなさい!」
「さー、いえっさー」
 ハルヒにも長門がアルファベットチョコに釘付けだったことに気がついたのだろうか。
長門を傍迷惑な役職に任命する。それにいつも通りの抑揚のない声で応える長門。
当の本人はというと、2袋ほど手に持って団長席に戻っていった。
「ハルヒ。お前も一緒にやれば良いだろう」
「私には別にやることがあるの。アンタはあっちに行ってなさい」
 こっちを見もせず黙々と分別作業をこなして行く。
元々俺の話など聞いちゃいないハルヒだ。別に今更かとも思うがやはり面白くない。
溜息の一つでもつこうかと思っていたところで、不意に袖を引っ張られた。
「手伝って」
 仕分け作業隊長のご命令だ。ありがたく賜ろうじゃないか。
「妬けちゃうわね」
「ええ、全く」

 仕分け作業は面倒を極めるかと思われた。
だが、長門と朝倉の初生雛鑑別師よりも正確無比な仕分けによってあっという間に終わった。
ハルヒが一緒ならこんな動きは出来なかったからな。
長門の隊長任命は結果として良い判断だったぞ。
「ハルヒ。仕分け終わったぞ」
「……」
 返事がない。ただのしかば……じゃない。一体どうしたって言うんだ。
分別作業は終わったようだが、まだ何かしている。時間がかかりそうな雰囲気だ。
「どうです?一緒にゲームでも」
 さっきのヤツはどうしたんだ?手に持ってるのはトランプじゃないか。
うん、そうか。アレは多人数でやるゲームじゃないと。気が利くな、古泉。
チョコレートを端に退け、俺たちはハルヒの作業が終わるまで5人でババ抜きに興じることにした。

「出来たわよー!」
 俺が2回目の敗北を迎えた頃、ハルヒが椅子を後ろに飛ばすように元気に立ち上がった。
いつも元気だな、ハルヒ。俺にもその元気を分けて欲しいよ。
「有希、こっちにいらっしゃい」
 手招きに引かれ団長席に向かう。
「はい、これ。仕分け隊長だったから一番に渡すわね」
 ハルヒがダンボールの切れ端に乗せてアルファベットチョコを渡す。
意味が分からず首を僅かに傾けたまま、元いた席に戻っていく。
「次はみくるちゃんね」
 朝比奈さんはメイド服のスカートを揺らしハルヒのところへ。
「いつもありがとうね、みくるちゃん」
 長門にしたのと同じようにする。
朝比奈さんは直ぐにハルヒの意図を理解したようで、受け取ったものを落とさないよう丁寧に頭を下げた。
その後、古泉、朝倉と順に手渡していった。
二人も直ぐに分かったようで、古泉はいつもとは違った微笑を返し、朝倉も委員長スマイルではなかった。
「キョン、アンタで最後よ」
「へいへい」
 面倒くさそうに答える俺にハルヒも負けじと面倒くさそうな雰囲気を作った。
「アンタも一応団員だからね」
 俺は栄えある団員一号じゃなかったのか?いや、別に名誉には思っちゃいないが。
ハルヒに手渡されたそれには、アルファベットチョコが4つ乗っていた。
「K・Y・O・N……なんだこれ」
「アンタの名前じゃない」
 文字にすると「・Y・」が顔に見えるな、などと関係の無いことを考えていた。
「古泉、お前のはどうだ?」
「もちろん僕の名前のアルファベットを並べたものですよ」
 これ見よがしに俺が読めるように向きを変えてくれる。
「私もです」
 手を上げ答えるのは朝比奈さん。
「私もよ、キョン君」
 新参のお前までちゃんとしてもらってるのか。
「右に同じ」
 さすが仕分け作業隊長。
「全員フルネームなのか?」
「「「「もちろん(です、よ)」」」」
 ……ハルヒ。お前に一言あるんだが、発言の許可をもらって良いか。
「却下よ」
「ちょっと待て。なんで俺だけ愛称言うかあだ名なんだ!」
「べ、別に良いじゃない!アンタはキョンでしょ!」
 な、なんだなんだ?その剣幕は。そんな怒るようなことか?
「もういい!今日は解散!」
 いそいそと荷物をまとめたハルヒは、誰かが声をかける間もなく部室を飛び出していった。

 
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