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2007年1月21日 (日)

練習 33


 そういうことで今日も弁当話だ。
どういうことだ、という突っ込みは却下。質問は受け付けません。
以前はそういう事に全くと言っていいほど興味がなかったんだが、いざ見始めるとだな。これが随分と違うもんだ。
まず簡単なものから作り方を学ぼうとするだろう?
取り合えず身近な料理人である母親の出番だ。
俺の場合は、玉子焼きなんかの弁当のおかずを聞いたわけだが、ここで一つ驚かされた。
生まれてこの方、ずっと口に入れている物なのに何にも知らないってことにだ。
こんな簡単で、料理とも言えるか?なんて、やる前は思ってたのにな。
自分でやってみると当然に上手くいかない。
イメージでは、初めてながらもそれなりに上手くいくはず、と考えてた自分が恥かしくて穴があったら入りたいとは正にこのことだ。
こんなこと絶対に人には言えん。
ハルヒや朝倉なんて勘弁な。あのニヤケ面に笑いの種を提供してやる気もない。
長門ならどうだろう。
笑ったり(そもそも、そんな顔が想像出来んが)はしないだろうが、それでも言いたくないね。
自分で言うのもなんだが、長門の為に弁当を作ってやると言うんだ。
なるべく情けない姿は見せたくないだろう?
変な見栄というなら笑ってくれ。俺だってそう思う。
しかしだな。それでも見せたくないもんだ。
まあ、話が横に逸れたが、そうやって食べる飯がどうやって作られるのか俄然興味がわいてくるって寸法だ。
実践あるのみだと思うが、知識がなくちゃな。
右も左も分からない状態で取り組んでちゃ、結局母親の手を煩わせる事になる。
夕飯ならまだしも、朝のこの忙しいときにわざわざ仕事を増やす息子をありがたがる推称な人間なら別だが。
そういうわけで、始めは朝食や弁当作りを手伝いながら(それでも皿を出したり料理とは関係のないことばかりだが)まず観察。
手の空いたところを見計らって、疑問に思ったことを彼是質問する。
成る程と思うこともあれば、さっぱり分からないこともある。
その辺りの疑問をなるべく潰していってだな、そろそろ手を出していくわけだ。
このとき一番の強敵。俺に立ちふさがる壁は意外なヤツだった。
早起きなんですよ、早起き。
朝一番から元気いっぱい。いつでも天気予想図快晴マークみたいな妹が起こしてくれるまで起きられない事もある。
そんな俺が家で、母親に次いで2番目の早さでベッドから身体を起こさにゃならん。
始めは、料理よりも何よりもこの早起きが辛い。
元々夜更かしはするタイプじゃないが、睡眠時間と関係なく普段起きない時間に起きるというのは辛いもんだ。
そこで起き抜けでぼんやりする頭に、文字通り冷水をかける……とは行かないが、顔を洗ってシャッキリさせる。
素早く朝食を済ませ、母親の弁当作りを手伝う。
全部の準備が終わってしまえば、俺が台所を使おうと文句も言うまい。
自分でやるといった分だけスペースを空けておき、さあ調理開始だ。
と、意気込んでみたものの、やっぱり上手くいかない。
準備の段階からまごまごしていると、見かねた母親に手伝ってもらう羽目にあう。
さっきも言ったとおり上手く出来るわけなくてな。
横であれこれ指示されることの半分も出来ないまま出来上がったのが、以前の玉子焼きだ。
味付けは母親の言う通りで問題はない。
焼き方は流石にな。実際やってみると焼けるタイミングも分からんわ、剥がそうとして破れてしまうわで散々だ。
これは長門に内緒だったんだが、最後は結局頼っちまった。
それで体裁は整ったが、まごまごしてた分焼きすぎてあの様だ。
ベロベロ捲れてしまってな。ありゃ悲惨だった。
まあ、捲れた玉子焼きをモグモグと口にしまっていく様子は可愛かったが、うん。
また実際にやってみると湧き上がる疑問や、自分の出来ない事なんかが具体的に分かって色々考えるんだ。
その横で母親が色々助言してくれるのは、ありがたいんだがアドバイザーは無理難題を仰る。
そのありがたーい助言を生かせず一度失敗。これは俺の朝ごはんになる予定だ。
失敗し無残な姿に成り果てた玉子焼き。この材料となったタマゴを産んだ母鳥の気持ちを考えると夜も眠れん。朝になったばかりだしな。
その失敗を胸に、もう一度フライパンに油を敷く。
今度は黙って見てるだけ。そりゃありがたい。
アドバイスを頭で反芻しながら、タマゴをかき混ぜフライパンに流し込む。
そうやって出来たのが、この玉子焼きってわけだ。
上手くいったと自分でも思うし、長門にも褒めてもらったしな。
まだまだ上達の余地もあるのは分かっているし、目の前に大きく立ちはだかるのは朝倉涼子だ。
ヤツに勝たずして本当の勝利は訪れない。

「どうしたの?」
「……ん?いや、別になにも」
「そう」
 空の弁当箱を脇に置き、俺を心配そうに見つめる長門。
なんだ、知らない内に食べ終わったみたいだな。
「そろそろ時間」
「そうだな。じゃあ教室に戻るとするか」
 二つの空になった弁当箱を片付け、二人で部室を後にした。
こんな明るい時間に二人で部室を出る。
これだけ通った部室にも、こんな風にすることは稀だ。しかも今日は弁当箱を片手に持って。
見慣れた光景が、感じる空気が一気に違うものに思えてな。
新校舎への帰り道。一人胸が高鳴っていたんだが、長門はどうだったんだろう。
2歩ほど先を行く長門の背中からは変化を読み取る事が出来なかった。

 さて。教室に帰った俺は谷口から「どうしてお前が朝倉に弁当作ってもらってるんだよ」と問い詰められた。
はっきりいって勘弁してほしい。
ここで面白がって否定しない朝倉も勘弁してくれ。
ハルヒがいなかったのが不幸中の幸いというところか。

 

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