シャマルさん 33
「うんしょ、えいしょ。こ、これは随分せま、うわっぷ!植木が邪魔よー」
右側の家から塀を抜けて出てる植木が道を塞いでる。
あの子は背が低いから、その下をすい~っと抜けていくけれど私はそんな訳には行かないのよ。
ワサワサと顔にかかる枝を手で除けながら、必死についていく。
だけど、こんなところを家に住んでる人に見つかったら不味いわよね。静かに、静かにぃ……
んぎゃ。いやーん、くもの巣じゃない~!
し、しまった。静かにしなきゃって思ったばかりなのにー。
「あら?誰かいるのかしら?」
「まさかぁ。きっとネコか何かだよ」
「(ど、どうしましょう。え、ええっと、ここは上手く誤魔化さなきゃ)」
「もし泥棒か何かだったらどうする?」
「お巡りさんに来てもらわなきゃ」
「(お巡りさん?こ、これは不味い!)に、にゃ~ん」
「……ねこ?」
「ホントにネコかな。ちょっと見てくる」
女の子の足音がどんどん近づいてきて、ガサガサと植木を掻き分けている。
「(どうしよー!)」
「わん!」
「……あれ?お母さん、あそこに犬がいるよ?」
「あらホント。きっとあの野良犬が家の横を通っていったのね」
「な~んだ。心配して損しちゃった」
「でも泥棒じゃなくて良かったじゃない」
「うん、そうだねー」
またガサガサと音がして、女の子の足音が遠ざかって行く。
何やら母親と話しながら家の中へ上がっていったみたい。それからすぐに窓を閉める音がした。
「ふぅー。助かった~」
「……」
一足先に抜け出たあの子が、呆れた顔つきで私のことを見てる。
うぅ~、悪かったわよ。どうせ私は間抜けですよ~だ。
「わん、わん!」
そうね。こんなところで落ち込んでる場合じゃないわ。
もう一段腰を落とし植木を潜り抜け、身体を斜めに出来るだけ早く塀の間を通り抜ける。
「う~ん、よいしょ。ふぅ、何とか抜けられたわ」
「わん」
一息つく間もなく、早く着いて来いと私に発破をかける。
なだらかな山の斜面を駆け上がり、あの子の後ろを必死についていく。
山の中を通るって、どんな酷い道になるのかと思ったけど拍子抜けに終わりそうだった。
この子たちがよく使ってるのかしら。
一見するだけでは分からないけれど、あの子が通った後ろには明らかに一本の道を見出す事で来た。
すっごーい。
きっと街中にこの子達だけの秘密の抜け道や近道があるのね。
冬も本格的に始まり始めたこのごろ。山の草木も夏のような青々しさもなくなり、今は茶色く染まっている。
それでも緑の葉をたくさん蓄えてる木もあるけれど、その数は少ないわ。
街路樹と同じように冬の装いになった枝を掻き分け、ガサガサと乾いた落ち葉の上をあの子を追って走ってる。
ふふふ。何だか楽しくなってきた。
そのまま幾らか登ったところで、一気に視界が開けた。
「あ、あー!はやてちゃんの学校!」
ちょっとずつは見えてたけど、それが学校の天辺だったなんて。
今私ははやてちゃんの学校のちょうど裏手に出たのね。
ここまで来たら後一息!山の斜面を降りていくだけだから簡た―――
「うわわ、きゃーーー!?」
「っ!?」
斜面を駆け下りようとした途端。
踏み出した先は地面じゃなくてうず高く落ち葉が積もっていてただけだった。
その中に勢いよく足を突っ込んで左足は伸びきってしまい、バランスを崩して前のめりに。
何とか体勢を立て直そうにも、斜面に積もった落ち葉はよく滑って、一気に下のほうまで転がり落ちてしまった。
「い、いったー……きゃっ!?だ、大丈夫!?」
「……く、くぅ~ん」
一番下まで落ちたろうに、それほど衝撃はなかった。
ゆっくり開いた目に飛び込んできたのは、私の下敷きになって弱弱しく鳴いているあの子だった。
「どこか怪我はない?い、痛かったら言ってちょうだい!」
「ぐ、ぐぅ~」
「あ、ゴメンなさい!重かったでしょう?」
苦しそうな鳴き声に自分が上に乗っていたのを思い出し慌てて退くと、ヨロヨロと身体を起こす。
どうしよう。只でさえ無理をしてるって言うのに、私の下敷きになって余計に悪くしてないかしら。
ああ、やっぱり具合が良くないみたい。
何とか起き上がったものの、直ぐにヘタリと座り込んでしまった。
「うーん、どうしたら良い?」
ちょっとこのまま放っておくわけにはいかない。
でも、時間はどうかしら。もう、校門で待っててくれてるわよね。
キョロキョロと周りを見渡し、人がいないことを確認する。
耳を澄ませば、学校から子供たちの楽しげな声がたくさん聞こえる。
まだお昼休みは続きそう。
「……よし、この子が先よ」
クラールヴィントをかざし、しっかりと癒しのイメージを練る。
直ぐそこには学校や生活道が見えるけれど、回りには木や草が生えていて私たちを隠してくれている。
ごく至近距離で効果を絞れば大丈夫よね。
今度は怪我を治すだけじゃなくて、体力も回復させたい。
次第にかざした左手に緑の優しい光りが宿り、この子の身体全体を覆っていく。
尻尾も耳も垂れ下がり、顎を前に出してへたり込んでいた身体が徐々に力を取り戻していく。
ぐったりと下げていた瞼を開け、不思議そうに首を振る。
「どう?これで少しは良くなったと思うの。ちょっと絞ってるから完璧ってわけにはいかないけど」
「……くぅーん」
「よーし、取りあえずこのぐらいで良いかしら」
「……わん!」
「どうしたの?どこか痛いところでもあるの?」
「わ、わふっ!」
「大丈夫ってこと?……じゃあ、ここからは私一人で行けるから」
「……」
「戻ってくるから大人しく待っててね?他にも診て見たいところがあるから。良いわね」
「……くぅ~ん」
「ちゃんとそこで大人しくしてるのよー」
体中についた落ち葉を払いながら、その場を後にする。
何度も何度も振り返って確認するけど、あの子はちゃんとその場で大人しく座っていた。
やっと私の言う事を聞いてくれる気になったのね。
じゃあ、はやてちゃんに頼まれ物を届けたら直ぐに戻ってくるから。
言う事聞いて、そこでジッと大人しく待ってるのよ。
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