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2007年5月26日 (土)

目を覚ましたら 9-1

 
 
 
 あれだけ泣いたのはいつ以来だろうって。ふと、そんなことが思い浮かんだ。
闇の……夜天の書に蒐集されて消えちまった後、はやてに呼び戻してもらって元気に立ってる姿を見たときかな。
嬉しくて、どうしようもなく嬉しくて思わず泣いちまったけど、今思い出せば、あんなみんなの前だったしすげー恥しかった。
あの後でアイツにどれだけ笑いのネタにされたことか。
それ以来……いや、違うな。その後に一回あったや。
長く掛かったはやてのリハビリが終わって、車椅子を片付ける事になったときだ。
はやてがさ、何の支えも無しに一人で歩けるようになってさ。

「もう、お役ゴメンかー。長いことありがとうな。……よし、最後にちゃーんと綺麗にしてあげないかんね」

 なんてはやてが言いながら、雑巾で車椅子を拭き始めたとき。
普段からアタシが拭いてたりしてたからさ、全然汚れてなんてなかったんだけど、最後だから自分でしたかったんだと思う。
ずっと自分の足の代わりをしててくれた大切な車椅子だもんな。
それで、一人で立ったり座ったりしながら車椅子をゴシゴシ拭いたりしてさ。
その姿を見てたら、ああ。本当に必要なくなったんだな。もう一人で歩いたり走ったり出来るんだって思ったら、知らない間に泣いてたんだ。
気がついたら目の前にはやてがいて、「どないしたん。どっか痛い?食べ過ぎてお腹か?」って。
その目の前にいるはやての顔が滲んでて全然見えねぇの。
そこで初めて自分が泣いてるんだ、それも目の前が見えないぐらいに大泣きしてるんだって気づいたんだ。
なんでか分かんないからさ。やめることも出来なくていつまでも泣いてたら、はやてが泣き止むまでずっと抱いててくれた。
変なの。
念願叶って歩けるようになってさ、それで泣きたいぐらい嬉しいのは、何をおいてもはやて自身なのにさ。
それなのに何時までも泣き続けてはやてを困らせて。
ぐずぐず鼻を鳴らしながらも泣き止んだ頃には、はやての服、ベタベタになってたもんな。
その時は笑って許してくれたけど、後でアイツに耳打ちするもんだから、また散々ネタにされた。実はちょっと怒ってたのかも。
 
 
 
 こうやって思い出すと、アタシが泣いてるとき、いつもはやてに抱きしめて貰ってるんだ。
ぎゅーって抱きついていると、抱き返してくれて頭をずっと優しく撫でてくれるの。
人に抱きしめてもらうって凄い力が湧いてくるんだ。安心して不安とか全部なくなっちまうの。
ああ、今自分は守られてるんだって。この人のためならもっと頑張れるなって気持ちがどんどん出てくるんだ。すげーな。
けどさ。これってはやてにして貰ってるからで、他の人じゃ駄目で、はやてだけが特別なんだと思ってた。
でも、そうじゃなかったんだ。
あるとき、アイツに抱きしめてもらった事があるんだ。
はやての時みたいに真正面からじゃなくて、後ろからだったけどさ。
背中とお腹に回された手から、じんわりとアイツの体温が伝わってきて、そこから身体中がポカポカしてくるんだ。
そのとき思ったんだ。ああ、こういうのも良いな、って。
あっ、勘違いすんなよ。効果は勿論低いんだからな、はやてに比べたら全然大したことないんだからな。
具体的に言うとだな、え~っと……100分の1ぐらい。はやてのギガ美味なご飯とシャマルの作ったご飯ぐらいの差。そう、そのぐらい。
それでも、しないよりマシっていうか、して貰うのは、その……正直嬉しかった。誰にも言ってないけどさ。
 
 
 
 だからさ、はやてが「人にされて嬉しかったら、ちゃんとお返しするんやよ」って言うからさ。
ホントは特別に、はやてにしかしないんだけどさ、ホントに特別に、アイツを抱きしめてやっても良いんだぞって、光栄に思えよって。
そう、言ってお返ししてやるつもりだったんだ。
それに…………"約束"もあったしさ。
だから、そう言うこともあって、アタシはそうしてやるつもりだった。
それなのに、それなのに…………!
アイツを抱きしめてやれたのが、あんな時だったなんて。
アタシがしてもらったこと、何一つとして返してやれなかった。アタシが感じたこと、一つでも感じさせてやれなかった。
一つもお返しが出来なかった上に、約束を守る事すら出来なかった。
抱きしめて貰うことが、こんなに良い事だって、気持ち良いことだって知ってるのに。
それなのに、何もしてやれなかった。
アイツに対して、何もしてやれなかったんだ。
 
 
 

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