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2007年6月23日 (土)

目を覚ましたら 14-2

 
 
 アイツのいる病棟は医務局の奥の、大きな渡り廊下を渡った向こう側にある。
ここは腰をすえてじっくり治療する連中のいるところだから、それなりに大きなリハビリ施設とか特殊な訓練室とか設けなくちゃいけない。
病棟を端に作ってあるから、病室とか施設とか増やすのも楽チンだしな。
見舞いに行く身になってみると少し不便だけど。
そんな病棟に繋がる渡り廊下を、白衣を着た先生や看護婦さん、キャリアーを押して行き来したりする合間を、見舞い客が歩いている。
アタシはそんな中を一人で歩いていると、アタシの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
別に振り向かなくても誰だか分かるけど、追いつくまで振り向かないでいると無視してるみたいだし、首だけ回してチラッと肩越しに後ろを確認した。
やっぱりシャマルだ。
手を振りながら走ってくる。
追いつけないでいると、何時までもアタシの名前を呼びながら走りそうだったから立ち止まって待つことにした。
恥かしいしな。

「はぁはぁ……おまたせ、ヴィータちゃん」
「そんな息切らせるほど走んなくて良いじゃんかよ」
「そ、そんなこと言ったって私がいなきゃダメなんだから~」
「歩幅違うんだしよ、直ぐに追いつくって。それにさ」
「なに?」
「アイツの病室どこにあるか知らねーしよ。受付に寄り道する時間もあるし」
「そ、それもそうね。やっぱりそんな急がなくても良かったかしら」
「そうそう。そんじゃ案内頼むな、シャマル」
「お任せあれ、よ」

 先に一歩踏み出すシャマル。
後はついて行けば良いだけだから楽だな……って思ったけどよ。やっぱ歩幅が違うから直ぐに差がついちまう。
やっぱこんだけしかないと不便な気がしてきた。
はやてもアイツもテスタロッサも、そういやすずかとアリサもどんどん大きくなるもんな。
今はまだ良いけど、その内歩幅合わなくなっちまうんだろうな。
いっつも変身魔法使って身長高くしておくのは負担高いしよ、前にも言ってみたことあるけどさ。
はやてが「えー、あかんよー。ヴィータはそれが可愛いんやから」とか言うから「可愛いより強い方が良い」って反論すると「可愛いは強い!」って怒られた。
叱られちゃしょうがない。
幸いアタシは足が速いから我慢する事にしたけどさ。やっぱり一人だけ小さいままって言うのはさ、その……寂しいな。
はやてを負んぶ出来なくなるし、このままだと抱きつくのもだんだんやり辛くなる。
こういう風に抱きついたり出来るのも今の内だけかなぁって思うとさ、やっぱりちょっとは身長高くしてーなって思うわけよ。
そんな風に考え事しながらシャマルの後ろを歩いていたら、急に何かにぶつかった。
柔らかいな、なんだろう。

「うわっぷ。な、なんだ?……シャマルのお尻か」
「あら、シグナム。どうしたの?」
「シグナムぅ?」
「ああ、シャマルに……ヴィータか」

 シャマルの着こんだ白衣の横から顔を出すとちょうどシグナムがこっちに近づいて来てるところだった。

「いや、なに。少しあちらに顔を出しに行っていただけだ」
「ふぅん。シグナムだけでよかったの?」
「ああ、ちょうどリンディ提督がいらっしゃったのでな。問題はない」
「…………」
「そうだ、シグナム。ヴィータちゃんに会うのは久しぶりじゃない?」
「……ああ、そうだな。そう言えばそんな気もする」

 なんだか拍子抜けだ。
アタシを見つけるなり怒鳴り散らすかと思ったのによ。
別に怒鳴られたいわけじゃないけどさ。そうされるかもって身構えてたところで何にも来ないとちょっとガッカリするだろ?しないか。
しかし、元気ないな。
何時にも増して時化た顔してやがる。
もうちょっとニッコリ笑ってないと老けて見えるぞ。

「おい。ヴィータ」

 そらおいでなすった。
シグナムはたまーに常識ないところあるからな。こういう所でも平気で大声上げて怒ったりする。
まあ、今のアタシがあんま偉そうな事言える立場じゃないけどよ。いろんな意味で。

「なんだよ。説教なら後でゆっくりタコに耳が出来るぐらい聞いてやるから。今はちょっと勘弁……」
「そうではない」
「じゃあ、あんだよ」
「ふぅ……私にだってそれぐらいの常識はある。こんなところでお前を叱り付けるようなことはせん」
「そりゃありがたいけどよ」
「いや、次に会ったときにこうしてやろうと、準備していた事は山ほどあるんだ。
 上司や同僚にな、お前の文句を言われるたびに見つけ出して、ああ言ってやろう、こう叱り飛ばしてやろうとな」
「へ、へん。ご苦労なこって」
「主が悲しそうな顔をするたびに、このレヴァンティンの錆にしてやる回数を数えたりな」
「その前にレヴァンティンが折れちまうよ」
「夕食時に空席のままのお前の席を見るたびに苛苛して、これは本人にぶつけねば飯が不味くなる等とな」
「だったら。いまそうしたら良いだろ」
「それでだな。あの……ゲボウサと言ったか?あれも一人で寂しそうにしていたぞ」
「???」

 シグナムにしては珍しく人の目を見て喋らない。
視線をあっちこっちに散らしてこっちを見ない。どうしたんだ?
いつもは「やましい事があるからそういう態度を取るんだ!」とかアタシにガミガミ言うくせによ。
しかもゲボウサとか言い出した。
お前の口から出るその名前はなんだかすっげー間抜けだ。
これが普段なら大笑いしてたところだぞ。
くっくっくっ。今ほど録音機を持って歩かなかった事を後悔したことはねーぜ。
はやてに聞かせてやったら喜んだろうなぁ。

「うっふふふふ」
「な、なんだシャマル」
「そうだぞ、いきなり笑い出して。気色悪いぞ」
「ごめんなさいね。おかくしくって、つい。でも……うふふふ」
「おい、シグナム。笑われてるぞ」
「ああ。何か知らんがな」

 顔を見合わせてシャマルの顔を覗き込む。
相当可笑しいみたいだ。大人しく口に手を当ててるなんてものじゃなくて、もう片手でお腹を抱えてる。
何かそんな面白いことあったか?
そりゃシグナムが時化た面して「ゲボウサ~」なんて言うのは確かにアタシもそう思ったけどさ。
そこまで面白くはないだろ。

「っふふふふ。う、ううん!ごめんなさいね。ちょっと笑いすぎたわ」
「全くだ。どういうつもりだ」
「だってぇ。シグナムったらやっぱり自覚ないんだもの」
「なんのだ?」
「本当はヴィータちゃんが心配でしょうがないんでしょ?」
「な、なにぃ!?」
「お、おい。なに言ってんだよシャマル。頭大丈夫か?これから一緒に診てもらえよ」
「じょ、冗談じゃないわよ」
「わ、私がいつヴィータの心配などしたと言うんだ!」
「そう?じゃあね、例えば……ヴィータちゃんが好きなおかずが出たりするでしょ?
 そうするとね。"今日は余ってしまいましたね"とか、余ったおかずが乗ったお皿を見ながら寂しそうに言っては
 その残りを食べるんだけど、"こんな事をしていては適正体重を維持するのが難しくなる"とか何とか言っちゃってるの。
 逆にヴィータちゃんの嫌いなおかずが出るとね。"今日は口うるさく言わなくて助かります"とか言う割に、何だか残念そうだし
 寝しなにリビングのテレビを見て"最近はテレビを見る時間も減りましたね"とか、言って電源切ったりするの。その様子が何とも言えなくてね?
 何だかんだ言いながら、シグナムだってヴィータちゃんのこと心配してるんだなーって。はやてちゃんと二人で笑ってたのよ」
「へ、へぇ~」
「んぐぐぐ」

 言ってる様子は想像出来るけど、どんな顔してるかは思いつかないなぁ。
一体どんな顔してるんだろう。
それにしてもシグナムがアタシの心配ねぇ。
シャマルはまだ楽しそうにその話の続きをしているし、シグナムはどんどん居心地悪そうにしてる。耳まで赤くなってきたぞ。
やっぱ図星だったんかな。

「―――というわけなの。どうかしら、ヴィータちゃん」
「う、うん。まあ、なんて言うか」
「へ、下手なことを言ってみろ。本当にレヴァンティンの錆にしてくれるぞ」
「あ、あのさ。シグナム」
「な、ななな何だ!何だ!」

 胸元からレヴァンティンを取り出して思いっきり握り締めてやがる。
こりゃ、本当にここで抜きかねないぞ。やっぱり冗談を言うのは止めておこう。

「……ありがとな。色々迷惑かけてさ。小言なら後で好きなだけ言わせてやるからよ」
「……そうか。あ、ああ、分かった分かった」
「んじゃな。アタシ、ちょっと行かなきゃいけないところがあってさ」
「あ、ああ……」

 呆けてデバイスを手放したシグナムの横をすり抜け、シャマルに手招きする。
未だにシャマルは楽しそうに、必死で笑いを堪えている。この様子ならアタシが心配するまでもなさそうだ。
パタパタと追いかけて、シグナムをその場に残そうとしたところでアタシを呼び止めた。

「おい、ヴィータ」
「ん?あんだよ」
「……主が心配しておられる。早く戻って来い」
「ん。分かってる」
「いつ、お前が戻ってきても良いように夕飯は準備してある。もう冷蔵庫はいっぱいだ。
 ここ何日か、全部残り物だったのだぞ。決して主の作るモノに不満があるわけではないが、流石に滅入る」
「任せろよ。ちゃんと全部食べてやるからさ」
「主のベッドはゲボウサと二人で寝るには大きすぎる。冬は寒いからな。お前など湯たんぽ代わりだ」
「アタシは暖けーんだぞ。シグナムよりは役に立ってるってことだ」
「それと」
「なんだよ、まだあんのか」
「……いや、これは主から直接聞くと良い」
「ちぇ。勿体つけやがって。そういうの印象悪いぞ」
「んむ……。ではコレで最後だ。……テスタロッサのこと。
 模擬戦の相手が居なくては困るのでな。その、頼む。悔しいが、私ではどうにもならん」
「へいへい。分かりましたよ」

 振り返らずにシグナムの声だけ聞いてたから、こっちを向いて言ったのかそうじゃないのか分からない。
けどさ。シグナムの口から出た「早く戻って来い」って言葉。
すっげー元気づけられた……なんて絶対に本人には言わねーけど。
それと。はやてが寂しがってるのも分かった。
駄目だな、言われなきゃそんな事分かんないなんてさ。アタシははやての守護騎士なのによ。
こんなんだから、アイツのことも守れなかったりすんだな。
 
 
 
 

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