お引越しなの!2 StS 12
「こっちの色なんか良いんじゃないかな」
「へぇ~、そういう色もあるんだ。他にはどういうのがあるか分かる?」
「えっと……これとか」
「ふーん、なるほど」
「何か良いのあった?」
「そうだね。これとか。あっ、キャロにはこっちが良いかなって」
「う、うん。でも、部屋の壁紙はどこも同じだから」
「それなら二人とも同じで構わないかな?」
「フェイトちゃんからの贈り物だもの、大丈夫だよ」
「だったらこれかな。二人とも荷物は少ないけど、これから増えてくだろうし大きめでも良いよね」
その後も終始このような感じで収納や鏡台などを見て回ったのですが、私は余り満足出来ませんでした。
良い買い物は出来たと思うのだけど、フェイトちゃんが気も半分で。
やはり二人のことが頭にあって、私たちの家具探しに専念出来なかったのが原因です。
でも、それは非常に個人的なことだし、フェイトちゃんに何の非もありません。
ただ、私のわがままのせいで、私だけが困る事で、それは口に出してはいけない事でした。
「流石に大きなところだと見て回るだけで大変だね」
「うん、売り場を移動するだけで疲れちゃう。何か乗り物なんかあったら便利なのにね」
「うふふ。普段飛んでばかりだから、そう思っちゃうのかな」
「歩くのに疲れちゃうだなんて。ヤダなぁ、私たちまだ若いのに~」
歩き回って疲れた私たちは、少し開けた場所に設けられたベンチに座っています。
隣のベンチも、またその向こうも。座っている人たちは一様に疲れた顔。
う~ん、これは解決策を講じないと駄目かもしれない。
技術は進んでいるのに肝心なところでローテクなんだから、不思議な世界。
疲れた身体と頭では、特に良いアイデアなど浮かぶはずもなく、空気が口から漏れるばかりでした。
それでも隣に腰掛けるフェイトちゃんは、カタログを眺めています。
ほぼ真横の私からでは、内容を見ることが出来ません。
けれど、キャロとエリオのことを考えるだろう事は容易に予想できます。
その横顔を眺めていると、さっきとは別の理由で溜息が漏れてしまいました。
「なのは、何か買ってくるよ。そこで待ってて」
「じゃあ、私も一緒に行くよ」
「ううん、そこで待ってて。無理しなくて良いから」
腰を上げようとする私の肩に手を置き、宥めるように軽く押さえられてしまう。
一緒に行きたいのも確かだし、別にそれほど疲れてたわけじゃない。
溜息のせいで変に気を使わせちゃったみたいで、何だか居心地が悪かった。
でも、無理について行こうとすれば、また心配させちゃう。
「うん……じゃあ、何かすっきりする感じのが良いかな」
「了解。そこで大人しく待っててね。直ぐに戻ってくるから」
「そんな急いで魔法使ったり、走って転んだりしちゃわないように気をつけてね」
「も、もう。流石にそんな慌てたりしないったら」
「えへへ、じゃあ、よろしくね」
手を振って見送る私に、何度も振り返りながら小走りで駆けて行くフェイトちゃんでした。
少し足を投げ出してはボンヤリとさっきの自分に考えを及ばせる。
態度は変じゃなかったかしら。フェイトちゃんを不快に思わせてなかったかしら。
"これはエリオに良いかな""キャロは何色のが似合うだろう"
部屋の見取り図片手に家具売り場を歩く。
嬉しそうに、ウキウキしながら選ぶフェイトちゃんに相槌しか打てなかった。
そんな私にも不機嫌になることなく、ニコニコしている。
あと幾らか経ったらやってくる二人の姿に思いを馳せながらの家具選び。
結局どれを買ってあげるのか決めるまではいかなかったけど、フェイトちゃんはとても楽しそうだった。
「こういう事、してあげたくて仕方ないんだろうなぁ……」
自分がしてもらった事。してもらいたかった事。
それを全部、二人にしてあげるつもりなんだ。
そんなフェイトちゃんの細やか願いさえ、私は素直に同意して上げられなかった。
「…………はぁ。何やってるんだろう、私」
また深い溜息が一つ、零れた。
「な~のはっ。どうしたの?」
「……あ、フェイトちゃん」
ふと、足元が暗くなったかと思い、顔を上げる前にフェイトちゃんの声が振ってきた。
手には大きめのカップが二つ。
このカップは底辺からストローが伸びているの。これ、初見のインパクトが凄かった。
取っても兼ねている様で合理的なのかそうじゃないのか、私としては判断に困ったのを思い出しました。
「はい、ちょっと冷たいから気をつけてね」
「ありがとう。あ、本当だ。冷たーい。でも気持ち良い~」
手に取るカップは思ったよりヒンヤリと冷たくて、ささくれ立った心を落ち着かせてくれた。
両手で持ってお凸に当てている私の横で、腰を下ろすフェイトちゃん。
何か気になるのか、ちらりと見やるとこちらに顔を向けていました。
「どうしたの、フェイトちゃん」
「ちょっと、良いかな?」
「……え?」
私の返事を待たずに伸ばされた手は視界を覆うようにして、お凸に伸びます。
触れた手の平が冷たくて――勿論カップよりは冷たくないんだけど――顔を引きそうになる。
それでも手のしっとりとした感触に、直ぐに私はゆったりと身を任せるのでした。
「ちょっと熱いかな……辛いならちゃんと言ってくれなきゃ」
「……ううん、違うの。今日はちょっと色々考えちゃって」
「それなら良いんだけど、黙ってちゃヤダよ?」
カップを脇に置き、手を重ねる。
充分に冷やされた手は重ねられたフェイトちゃんの手を暖かく感じさせ、ホッとする。
徐々に距離を詰めていくと、フェイトちゃんも同じように思っててくれたみたい。
頭を預けるように肩を寄せて、目を閉じれば、より鮮明にフェイトちゃんを感じる事が出来ました。
「何か不思議な食感だったね」
「うん、一体何が入ってたんだろう?フェイトちゃん、知ってる?」
「う~ん、詳しい説明書き読まなかったから……ごめん」
空になったカップを覗き込みながら顔を見合わせる。
ちょっとした事なのに眉を下げて謝るフェイトちゃんが可愛らしい。
もっとこの顔を見てたいけど、それにはフェイトちゃんを困らせないといけない。
だけど、そんな事は出来ないもん。諦めるしかないよね。
「もう大丈夫?」
「うん、もう元気だよ。フェイトちゃんのお陰かな」
「うふふ。大げさなんだから、なのはは」
満更でもなさそうなフェイトちゃん。ほんのりピンクに染まる頬。
ちょっとした事で表情に出る、その変わらなさが私をいつも飽きさせない。
二人っきりなら、すぐにでも抱きしめちゃうのに。
行き場のないこの両手を、こっそり後ろに隠すのでした。
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