ヴィータの歪んだ愛情
*特にネタバレ要素はありませんが、時間軸は26話中のお話になります。
「ヴィータちゃん。一寸待ってヴィータちゃん」
あのジュエルスカリエッティに係わる一連の事件が終わって少し。
事後処理やら何やらで、まだまだ忙しく駆け回っている中。不意に背中に声がかかった。
えらく切羽詰った感じの声の主は、シャマルだった。
「どうしたよ、シャマル」
「ど、どうしたのじゃないわよ。もう」
「少しは運動したらどうだ? こんなちょっと走ったぐらいで息切らせて」
「そういう、人の心配してる場合じゃないの。分かってるでしょ?」
「……さぁね」
追いついたシャマルは肩を上下させながら、不機嫌そうにアタシを見つめる。
その原因が分からないわけじゃないけど、敢えて知らない振りをした。
「あのさ。まだ忙しいんだし、要件は手短に頼むわ」
「手短にって……まあ良いわ。どうして治療の続きに来ないの?」
「続き? さて、なんのことか分かんねーな」
「ヴィータちゃん!」
「っせーな。わぁってるよ」
珍しくシャマルのヤツが怒るものだから、仕方なく答えることにした。
シャマルの言いたい事は分かってる。
ゆりかごで負ったこの胸の傷。
はっきり言って普通の人間なら確実にあの世に行ってた。
アタシ等みたいなプログラム体だからこそ、命を落とさずに済んだだけのこと。
それでも身体に追ったダメージが大きい事には変わりなくて、今でもホントは絶対安静だった。
「でもさ。他の連中だって大変なんだ。アタシだけ寝てるわけにもいかねーだろ」
「それならなのはちゃんもヴィヴィオちゃんだって……」
「あの二人と比べるなよ。
なのははブラスターモードの反動で疲労が溜まってるってレベルじゃねーんだ。
ここでしっかり休養取らせておかねーと、また前みたいな事になるだろ?
それはヴィヴィオも同じじゃん。体内に取り込んだレリックふっ飛ばす為に、なのはの全力砲撃受けたんだぞ?
あの小さい身体にアレを受けたとなりゃどんな後遺症が出るか慎重に見極めないと駄目だし、それに……」
「ヴィータちゃんの言うことは尤もよ?
だから二人は。特になのはちゃんはベッドに縛り付けてるんだし。
でもね。それはヴィータちゃんだって同じ。
ううん。私に言わせて見れば、なのはちゃんより安静にしてなきゃいけないのよ?」
「……アタシまで休んだら誰が穴、埋めんだよ」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「あーあー、分かったよ。今日の分が終わったら戻る。約束するから」
「ホントね? 約束よ?」
そうは言っても信用ならないのか、肩を掴んで捕まえようとするシャマル。
それをふら付く足取りで華麗にかわすと、また後ろで騒いでるのを放って仕事に向かった。
「大体治ったんじゃないかしら」
「まあな。怪我の治りの早さが自慢なんだ」
「いつから自慢にしてたの?」
「……覚えてねーや。んじゃもう良いだろ? 行くぞ」
ワイシャツを着込み、制服の上着を羽織る。
椅子から立ち上がったところで、シャマルに腕をつかまれた。
「まだなんかあんのか?」
「怪我は治ったし、まだ無茶は出来ないけど通常の訓練ぐらいなら出来るようになったわ」
「なら問題ねーな」
「ねぇ。その胸の傷、まだ全然消えてないわよ」
「……ふーん。でもさ、問題ないんだったら別に良いよ」
「でも、結構目立つわよ? その辺りの技術だってあるし、今なら綺麗に消せ――」
「良いったら。こんなところ人に見せる訳でもねーし」
「で、でも女の子なんだから」
「そんなに見た目の心配するんだったら、自分の弛んだ脇腹のことでも心配したらどうだ?」
「――え? き、きゃっ! ど、どうしてそれを知ってるのよ!」
「あ、ホントだったのか。鎌掛けただけなんだけどさ」
「~~~~! ヴィ、ヴィータちゃん!」
「おう、シャマルが怒った~。シャマルこぇ~」
立ち上がって、頭から湯気を出しそうな勢いで怒るシャマル。
こりゃ余程気にしてたらしい。冗談抜きにさっさと退散するべきだな。へっへっへ。
「あ、ヴィータ副隊長。今からお風呂ですか?」
「おう、スバル。今日の分はもう終わったのか。珍しく早いじゃん」
「あ、あー……いひひ~。それが実は」
「ティアナに手伝ってもらったんだな? あのな、デスクワークは何処に行っても」
「わ、分かってます、分かってますからー」
「ふん。今からそんなじゃ、将来なのはみたいになっちまうぞ」
「えー! なのはさんみたいにですか!? えへへー。嬉しいなぁ~」
「……はぁ。こりゃ本格的に心配になってきたぞ」
一人でくねくね身体を揺らしてるスバルは放って、湯船に浸かることにしよう。
一杯汲んで掛け湯をしたら、ゆっくり湯船に身体を浸した。
熱めのお湯が身体に染み渡ってくみたいに、手足の先からジーンとする。
その痺れがお腹の奥まで沁みてきたところで、溜まったものを全部吐き出すように息を深く吐いた。
「うへぇぇ~~……良い気分だぁ」
「ヴィータ副隊長。ご一緒して良いですか?」
「おう。良いぞ~」
「それじゃ、失礼しまーす」
スバルが勢いよくザブンと波立たせて湯船に突っ込んできた。
こいつ。元気なの良いが、全く躾がなってねーな。ゲンヤさんとギンガはどうしてたんだ。
いや。今こいつの手綱を握ってるのはティアナか。
よし。後でティアナに説教だ。
「……うん? どうしたスバル」
「あ、えっと……いいえ。なんでもないです」
「何でもないことないだろ。ほれ、言ってみろ」
「でも、こういうのって……聞いちゃ駄目な気がして」
「お前な。そこまで言っといて聞かないって逆に駄目な気がするぞ」
「そ、そうですか!? じゃあ、その……怒らないですか?」
「努力する」
「うぅ~。その言葉、信じます」
そう言いながらもちょっとずつ距離を取るスバル。
普段のアタシはそんなに怒ってばっかだったか? そうでもない気がするんだけどよ。
「それじゃ……あの。胸の傷、消さないんですか?」
「あ、ああ。これか。そうだな、別にそんな気はないね」
「でも、消えないわけじゃないんでしょ? この間ティアだって足の傷、綺麗に消しましたよ?」
「ティアナは足だったからな。どうしたって目立つだろ? 傷が残らなくて良かったよ」
「それだったらヴィータ副隊長だって同じじゃないですか!」
「またそれか。良いの、アタシは」
「で、でも……」
「あんましつこいと怒るぞ!」
「怒らないって言ったのに~!」
「言ってねーよ!」
思いっきりお湯をぶっ掛けてやると、スバルは前も隠さずに風呂を出て行った。
「さて。身体洗って早く寝るか」
一人きりになった風呂場で、じっくりと姿見の前に立つ。
映し出されたアタシの胸元には、くっきりとあの時の傷が今だ生々しく残っていた。
右手でそっと傷跡をなぞって見る。
ガサガサして生暖かいそこには、確かに命が通ってる感じがした。
それが感じられるってのもあったけど、それより―――
「へ、へへへ。これ、なのはと同じ傷なんだぜ」
あの時のなのはの傷。
今はすっかり綺麗に治ってて、その痕跡すら確認することも出来ないけど、アタシはしっかり覚えてる。
まさか数年越しに同じ怪我をするなんてさ。
誰が望んだって、これ以上になのはと一緒のモノなんてないんだ。
世界で唯一。他の誰も持ってない、スバルだって、あのフェイトだって。
なのはとお揃いの、傷。

本日のSSは楽描き格納戸のカプセル超獣さんの絵を元に書きました。
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