« 2007年9月 | トップページ | 2007年11月 »

2007年10月31日 (水)

新婚なの! 5-6

 
 
 
「お待たせいたしました。こちらがご注文の品になります」

 豪華なソファーに腰を下ろし、必要以上に引っ付くなのはを引き剥がしたりしていると、直ぐにさっきの店員がやってきた。
目の前のテーブルに差し出されるシックな色の小さなケース。
こういうの、なのはが見てたテレビ番組で見たことある気がする。
若しかして、あのときから考えてたりしてたのか?
顔はテーブルに向けたまま、横目でなのはを盗み見ると、ばっちり視線があった。
慌てて視線を外す。
なのははそれに気付いてたろうけど、その場では黙って店員に顔を向けた。

「中を確認しても良いですか? はい、これ。ヴィータちゃんの指輪だよ」

 黙って頷くのを見てから、ケースを手に取りアタシの前に持ってくる。
それを見るや、店員は一礼をして部屋を後にする。
でもそれはしっかり見てたわけじゃなくて、ただ視界の端に何となく感じていただけ。
もうアタシは、なのはの持つケースに心惹かれていたから。
そして、なのはの手で開かれたケースの中には、シンプルな飾りっ気のない銀色の指輪が入っていた。

続きを読む "新婚なの! 5-6"

| | コメント (0)

2007年10月30日 (火)

新婚なの! 5-5

 
 
 
「ありがとうございました」「した」

 あれから慌ててタクシーに転がり込んだなのは。
アタシはというと、後部座席で運転手を背に抱きついたまま。
なのはが行き先なんかを説明しているときも抱きついたまま。
はっきり言って恥かしすぎて、今更離れる事なんて出来ないもんだから、ずっとくっ付いてるほか無かった。
今更離れたところで一体どういう顔すりゃ良いんだよ。
でも、そんなアタシのことをどう勘違いしたのか、なのははずっと背中を擦ってくれてた。
なのははアタシを落ち着かせようとしたんだろうけど全く逆効果で、落ち着くどころか興奮してしまった。
そんな状態で離れると、この狭い車中で何するか分からなかったら、余計に離れられない。
だから仕方なくずっと抱きついてた。
うん、仕方なかったんだ。

「うぇっへへ~」
「な、なんだよ、その気色悪ぃ笑い方はよ」
「だってぇ、今日は朝からヴィータちゃん分を補給しすぎてるかな~って」
「う、うっさい///! そんなだらしない顔すんならもう補給させてやんねーぞ!」
「わ、分かったヴィータちゃん!」

 言った途端にキリリと凛々しい顔つきにな……いや、それを通り越して殺気立ってる。
い、いかん。これじゃ一騒動起きそうな勢いじゃないか。
コイツはやる事が極端なんだ。
だらしない顔するなとは言ったけど、そこまでやれとは言ってない。
ココは、なんとは早く間違えを直させないと大変なことになる。

「ま、まあ今のは言い過ぎた。例えばの話だよ、例えば。な、そんないつもピリピリしなくたって……」
「そう?(にぱー」
「―――はぁ?」
「ヴィータちゃんならそう言ってくれると思ってた~。もう、こんな顔するの疲れちゃうよ~」
「な、なな何言ってんだ?」
「ヴィータちゃんは優しいよねって話」
「そ、そんなこと言ってないだろ。今のは上手くいったぜ!って顔だったぞ」
「え~、私そんな顔してないったら」
「いいや、してたね。局の総務課を誤魔化せてもアタシの目は誤魔化せないぞ!」
「何で総務課かな。ま、いっか。そうだね。ヴィータちゃんの目は誤魔化せないね」
「ふん、そりゃそうだ。なんたって―――」
「私のこと大好きなんだもんね。やっぱり好きな人のことは一番詳しくいたいもん」
「な、ななな!」
「私のことヴィータちゃんが一番詳しく居てくれて嬉しいな♪」

 目まぐるしく変わるなのはの表情やらに振り回されて、全然頭がついていかない。
どこまでが本当でどこまでが嘘なのか、さっぱり何やら分からなくて、何とか喋ろうにも口がモゴモゴするばかり。
結局最後には、ニコニコ笑うなのはに頭を撫でられて、なんとなしに落ち着いてしまうんだ。
これが悔しくってしょうがない。

「うぅ~」
「ほらほら、怒らないでヴィータちゃん。もうお店の前なんだから」
「お、お前! それを分かっててやったな!」
「まさか。私、そんな器用なこと出来ないよ? いつもは私、鈍いんでしょ?」
「う、むぅ~」
「そんな牛さんみたいに唸ってばかりだと、せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃう」
「んが、むぐぐ」
「えへへ。ヴィータちゃんのお鼻、可愛い~」
「んぐ~……ってい! 人の鼻を摘むな!」
「うふふ。プニプニしてて可愛かったよ? さて。そろそろお店に入ろっか?」
「くぅ~!」

 てんで悪いと思ってないような――いや実際思ってないかもしれない――顔で、さも当然のように手を差し出す。
アタシも一応は悔しがって見せるけど、ホントのところ、言うほど悔しがってはいない。
なのはに付き合ってて、これぐらいで頭に血を上らせたら幾ら頭の血管があっても足りやしない。
こればっかりは、なのはとの付き合いが長くて、且つアタシだけが得ている理論だ。
いや、アリサ辺りは知ってるかもしれない。
逆に付き合いが長くても、はやてとフェイト、すずかは知らないかもしれない。
そりゃそうか。その3人の前で、なのはがそんなふざけた態度取ったこと無いもんな。
いつもアリサが一人でプリプリ怒ってるだけだ。
こんな態度、特にフェイトの前じゃ…………まあ良いや。今は止めとこう。

「今日は素直に手を繋いでくれるんだ」
「ま、まあな。今日はそういう日だし、偶にはこう言うのも良いだろ。い、嫌なら別にしなくたっていいんだぞ」
「ううん! とっても嬉しいよ!」
「ふ、ふん。なら良いさ」

 なのはに手を牽かれ、店のドアをくぐる。
真っ直ぐ見つめた先のディスプレイの前には、この前とは違った店員がかしこまっていた。
他に店員も客も見当たらない。
その人はアタシ達を確認するや否や、深々と頭を下げ、ゆっくりと上げると素敵な笑顔を向けてくれた。

「こんにちわ。お久しぶりです」
「先日は失礼致しました。まさか急用が入ってしまうだなんて」
「いえ、こちらこそ予定より早くお伺いしてしまって」

 アタシより一歩前に出て店員さんと真面目にやり取りするなのは。
こういうなのはを偶に見ることがあるけど、とても同一人物には見えない。
航空隊の教導で一緒になったり、他に局の仕事をしているところをだったり。
そろそろ入局10年を迎えるベテランっぽいその姿に、びっくりするやら見直すやら。
でも、そう思うのはアタシを含めほんの一部で、いや、下手をしたらアタシだけかもしんない。
その他、殆どの連中は"そういうなのは"を、本当だと思ってるわけだから。
初めのころは、それが腹立たしいかったと言うか、嘘つき呼ばわりされそうな勢いだったのを思い出す。

「それではご注文の品を直ぐにお持ちいたします。こちらでお待ちください」
「はい、分かりました。それじゃヴィータちゃん、行こうか?」
「あ、ああ。分かった」
「なに? 何か考えごとでもしてた?」
「し、してないぞ。なんでさ」
「だって。私の手、ずっと握ったままだったから。お店に入ったら直ぐに離しちゃうのかと思ってた」
「おわあっ!?」

 言われて自分の手を見てみると、アタシの右手はしっかりとなのはの左手を握っていた。
少し自慢げに、誰にするでもないくせにそういう顔をする。
慌てて大げさに手を振り払い、数歩距離を取った。
その際間抜けな声を上げちまったけど、幸い他に店員も客もいなくて、これ以上恥かしい思いをすることはなかった。

「もう、どうして離しちゃうの?」
「あっ……そ、そりゃお前、なんだ」
「なぁに?」
「人前であんま引っ付くもんじゃねーからだ」
「人前で? だったら人前じゃなかったら良いんだ」
「何でそういう発想になるんだ? 否定しない事は必ずしも肯定じゃないだろ」
「でも、肯定しないからって否定にはならないよ」

 これじゃ堂々巡りだ。
確かに「○○をしちゃいけない」とあれば、それ以外はしても良いってことでもある。
けど、それは積極的に肯定することじゃなくてだな、その……
あー、くそ。面倒なヤツだな。アタシは!

「……それで良いよ」
「ん? なにが」
「お前の言う通りで良いって言ってんの!」
「本当? わーい。えへー」
「ちょ、調子に乗ってくっ付くな! そ、それとな、さっき手を離したのはだな」
「離したのは?」
「ただ。ただ、いつもの癖が出ただけで別に他意はない。それだけ」
「じゃあ、今もくっ付いてて良いんだね?」
「ま、まあな///。ほれ、あっちで待ってろって言われてたんじゃなかったのか?」
「うん。じゃあ、あっちに行ってゆっくりベタベタしてよーね~」
「あ、あの店員さんが来たら離れるんだぞ。あんますると禁止だかんな!」
「は~い」
「ホントに分かってんのかよ」

 いつも通りのなのはの反応に、不安を抱えながらも繋ぎなおした手に牽かれて奥の別室へ足を運んだ。
 
 
 

| | コメント (0)

2007年10月29日 (月)

新婚なの! 5-4

 
 
 
「せっかく早起きしたのに、結局そんな早くなくなっちゃったね~」
「ま、まあな」
「ヴィータちゃんが早く用意してくれたのにね~」
「う、うっせ」

 家から歩いて行くには流石に遠いし、免許はなのはが持ってるけど車ないし。
車両課から回してもらうなんて公私混同は出来ない。放っておくとなのはがやりそうなので予め釘を刺しておいた。
だから今は、近くの公共施設にでも立ち寄ってタクシーを待っているところ。

「ねぇ、ヴィータちゃん」
「なんだよ」
「その格好。ちょっと目立たない?」
「わ、分かってるよ。そんなことはさ」
「やっと着てくれたのは凄く嬉しいけど、こういう日に着るのじゃなくてもっと」
「知ってる。ちょっとしたドレス仕様だからって言いたいんだろ」
「うん。駄目ってわけじゃないけど」
「あ、あのさ。なんて言うか、そのよ」
「うん?」
「きょ、今日はさ。大切な日じゃんか。け、けけけ結婚指輪、取りに行くんだろ」
「うん、そうだよ」
「だからさ。そういう日だってこと。アタシにだって分かる。だから、その、えっと」
「うん」
「他にさ。ちゃんとしたの持ってないし。あったとしても局の制服だしよ。でもそれじゃ味気ないしさ」
「うん。そうだね」
「ちゃんと大切な日には、しっかりした服装でないと駄目だって、はやても言ってた」
「うん」
「……そ、そういう訳だからさ。その……」
「私の買って上げたの、着てくれたってこと?」
「か、かか勘違いするなよ! 別に持ってないわけじゃないんだからな!
 お前が買ったのをわざわざ探して着たって訳でもないんだからな! 調子乗るなよ!」
「さっき持ってないって言ったじゃない」
「こっちの家にはないって意味! はやての家に帰ればちゃんとあるんだぞ! はやての買ってくれたのが!」
「ふ~ん、そっか」
「でもよ。取りに帰る時間なかったし、お前が約束しちまったって言うから仕方なくなんだからな!」
「今日取りに行くのは分かってたんだから、昨日のうちに取ってくれば良かったのに」
「!!! う、うっさい!」
「五月蝿くて良いも~ん」
「わっ!? ば、ばか! 抱きつくな!」
「うぅ~~ん。ヴィータちゃんったら可愛くて仕方ないんだも~ん」
「家じゃないんだぞ! ここを何処だと思ってるんだよ!」
「気にしない気にしない。新婚さんなんだもん、これぐらい当然だよ~」
「だ、誰がアタシ達を新婚だって分かるって言うんだよ!」
「その為に指輪を取りに行くんだったね。あ~、早くタクシー来ないかなぁ~」
「ぐぅ~! 離れろったら~!」
「駄目だよ、そんな暴れたらせっかく可愛いのに皺になっちゃうし、髪だって、ほら」
「うぅ~……!」
「うふふ。すっごく似合ってる。見立てたとおり、その赤い髪にぴったりだよ」
「うぅ……」
「このおっきなリボンもアクセントになって可愛い。どう? ヴィータちゃんとしては」
「べ、別に。リボンとかそんな、興味ないし」
「髪留めとかリボン、いっぱい持ってるの知ってるよ」
「お、お前、勝手に人の引き出し開けんなって!」
「やっぱり持ってるんだ」
「あ、ぐぅ……」
「それにね。開けなくたって、毎日ヴィータちゃんのこと見てれば分かるよ。そのぐらい」
「う、ぐぅ……」
Vattach_72

 こんな往来の激しいところで大声出すのはマナー違反というか、格好も手伝ってイヤでも目立つ。
でも、小さく呟いて否定するんじゃ効果ない。
それは、なのはに対してじゃなくて自分自身に対してなんだ。
若しかして、朝からタイミングが合わなかったのは、なのはのせいじゃなくて自分の問題だった。
洗濯も掃除も、服を選ぶのもその他、出かける準備まで全部。
なのはが遅いんじゃなくて、アタシが早かったんだ。
指摘されるまで分からなかった。
今日これからの事が楽しみで、そわそわしてて、思わず早く準備してたなんてさ。

「気分で変えたり、出かけるときとか。はやてちゃんの家に帰るときにするのがお気に入りなんだよね」
「…………」

 別に結婚したって言うんだし、勿論なのはのことは嫌いじゃない。
だから、今日のことだって躍起になって否定する必要は全くないんだ。
なのに、何でか知らないけど、いつもの調子って言うか。
まだ素直に認めることが出来ない。
何でだろう。何が怖いんだろう。
今日だって、ちゃんとこういう日を大事にしようって事で服を選んだのにさ。
だから……なのはに言ったことはホントで、ほんの少し――嘘。

「分かってる、ちゃんと分かってるよ」
「……ふん。お前、全然アタシのこと分かってねーよ」
「そっか……うん、そうだね」
「はやてと一緒に居る時間の方が長いんだ。お前なんかよりはやての方がずっとアタシに詳しい」
「そうだね。悔しいけど、はやてちゃんには負けちゃうね」
「ったりめーだ」
「でも!」

 抱き上げて自分の顔の真正面へアタシの顔を持ってきた。
いつもニコニコ、へらへら笑ってるくせに。
こういう時にする真面目な顔が、人をからかってるみたいで……

「結婚したんだもん! いつかはやてちゃんの時間を追い越しちゃうんだ!」

 そんで自信満々に言い切るこの性格が―――好きじゃない。

「約十年だぞ、十年。そんな簡単にいって大丈夫なのかよ」
「大丈夫だよ。ヴィータちゃんが私を嫌わない限り、ね」
「なんでアタシが心変わりするのが前提なんだよ。お前の方が先かもしれねーじゃん」
「あっ、だったら今は私のこと好きだって。認めるんだ?」
「~~~~!?」
「えへへ~、ヴィータちゃんったら素直じゃないんだから~」
「アタシはなんも言ってねーぞ!」
「目は口ほどにモノを言うって言うでしょ?」
「わー! だったら見るな、見るなー」
「いたっ!? いたたた! ヴィータちゃん、目を押さえるの禁止~!」

 卑怯な技だけどしょうがない。
ベルカに伝わる目潰し攻撃だ。ちょうどジャンケンのチョキの格好なんだ。
ちなみにグーとパーもあるぞ。グーはパンチで、パーは張り手だ。
しかし、それでもアタシを抱き上げる手を離さないなのは。
ここまで来ると根負けしてやっても良い気がしないでもないけど、今日ばかりはアタシにも意地がある。
なのに、この日は意外なところから、なのはに援軍が現れた。

「お客さん、乗られますか?」
「「えっ!?」」

 抱き合ったまま揉み合うアタシ達の横にぴったりと停車したタクシーの運転手だった。

「あ、あわわわわ!」
「乗ります、乗りま~す!」

 アタシはなのはに抱えられまま、タクシーに転がり込み、結局今日もなのはに負けた格好になった。
 
 
 
 本日のイラストは月咬洞さんに頂きました。

 
 

| | コメント (0)

2007年10月28日 (日)

新婚なの! 5-3


「なのは、準備できたぞ」
「私はもうちょっと~」

 朝ごはんを食べ終わり、後片付けは二人で一緒にやった。
台所の流しはそれほど広いわけじゃないから、二人で並んで洗い物するには狭いなんてことは百も承知。
でも、なのはのヤツが何時までも朝ごはんを食べ終わらないし、一度にしないと面倒だ。
だから、なのはの話に付き合いながら待ってたんだ。
やっとのことでなのはがご馳走様をしたから「片付けるぞ」って言ったら「私もする~」って。
食べ終わったばかりなんだし、ゆっくりしてりゃ良いのにさ。
そういう訳で、それほど広くない流し台で一緒に洗い物をすることになったんだ。

続きを読む "新婚なの! 5-3"

| | コメント (0)

2007年10月27日 (土)

本部外広報

 
シャマル合同誌

 ギコガコ堂さんが11月11日開催のリリカルマジカル3において配布される本の宣伝です。
シャマル中心合同誌、その名も「しゃまるでございまーす ユニゾン!」です。
詳しい内容は上記バナーから合同誌告知コーナーへアクセス!してご覧になってください。


| | コメント (0)

新婚なの! 5-2

 
 
 
「起きた? それならね、目玉焼き? それとも違うのにする?」
「んー……目玉焼きで良いや。ふぁあ~」
「分かった。それなら先に顔洗ってきてね~」
「へいへい」

 随分やる気みたいだ。
ついこの間も朝の用意してもらったけど、実を言えばなのはが準備することは殆どない。
毎日アタシが起こしてアタシが準備して……ってこと。
一人暮らしするために、はやての特訓受けたんだけどよ。その成果の殆どはなのはの世話に使われている。
何だかズボラ加減に拍車を掛けちまった気がしないでもないんだけどよ。
まあ、偶にこうやって代わってくれるし、それほど文句もない。
だけどさ。普段やらないのは出来ないからじゃなくて、本当は出来るんだけど~っての。ムカつくなぁ。

「ふぃ~。すっきりした」

 顔を拭きながら鏡に映った自分を見る。
自覚はないけど、すっかり顔色も元通りらしい。うん、そう見える。
たった一日でこれじゃ、アタシも情けないもんだ。これだからさ、からかわれたりするんだな。
濡れない様に前髪を脇に留めてたヘアピンを外し、改めて後ろ一本で髪をまとめる。
これから朝飯だからな。だらだら垂れてくるようじゃ行儀が悪い。
さて。歯でも磨くか。
何度言っても聞かなくて、結局アタシが根負け。一つのコップに突っ込まれた歯ブラシ二本。
赤いのは当然アタシの。髪の毛の色に合わせたんだ。
そしてもう一本。我が物顔で居座ってる青色のがなのはのだ。
何で青色にしたのか聞いても教えてくれない。
人の場所に置かせてやってるんだから、それぐらい教えてくれたって良いのによ。
どうせアイツのことだから大した理由じゃないか、くっだらないんだろうけど。
歯ブラシを水で濡らして、歯をワシワシ磨き始めたところで台所から声が掛かった。

「ヴィータちゃ~ん。もうそろそろ出来るよ~」
「……へ~い」

 偶にしてくれるし、本当は出来るって言ったけどよ。この辺りが甘いんだよな。
アタシならちゃんとなのはのペースとか全部考えて計算して用意するってのに。
大体分かってるんだ。なのはが何をどのくらいのペースでするのか。
転がり込んできてから結構経つしさ。
だから、それを計算に入れて進めるのが身についたって言う―――
あっ! 違う! 毎日毎日一緒にいりゃイヤでも身に付くって話で、別になのはの為を思ってるとかそんなんじゃ……
そ、それに! 二度手間になるのイヤなんだ。それでなくても朝は忙しいんだからよ。
だから仕方なく! そう、仕方なく。
生活の知恵ってヤツで、別になのはの事がどうとか関係ないんだ。
むぐぐぐ。一体誰に対して言い訳してんだ、アタシ。
……歯を磨くのもそこそこに、うがいをして歯磨き終了。
後でもう一片、うがいだけでもしとくかな。

「ヴィータちゃん、グッドタイミングだよ!」
「あー、はいはい。そんで、トーストはどうなってんだ」
「パンはねぇ、あと一寸のはずだよ。だからヴィータちゃん見てて」
「……へーい、っとと」

 トースターを覗き込めば、もう良いコロ加減にキツネ色寸前のパンが二枚並んでいた。
別にこれぐらいで良いやと、蓋を開けてパンを取り出す。
しかし、焼き立てのトーストを乗せる皿がない!

「うわっちちち! さ、皿! なんだよ、なのは! 皿出してないのかよ!」
「え~! え、えっとえっと。これだよ、ヴィータちゃん!」
「どっせ~い!」

 パンをお手玉しながらなのはを呼べば、手元にあった皿を掴んで走ってくる。
タイミングをバッチリ合わせてトーストを放り投げ、見事に皿の上に二枚を着地させた。

「ふ、ふ~。なんだよ、ちゃんと用意しとけっての」
「ごめんなさい、ヴィータちゃん。手、大丈夫?」
「う、うん。思ったより熱くてびっくりしただけ。大丈夫だ」
「今大丈夫だと思っても、後から腫れてくることあるから……」
「しっかし、パンの耳ってどうしてこう熱いんだろうな」
「ほら、ヴィータちゃん。見せてみて?」
「あっ……!」

 アタシの手の心配をしながらテーブルの上に皿を乗せる。
ふーふーと冷ましている手を取って、トーストを摘んだ指をジッと見つめたかと思うと。
アタシの目を見つめながら、おもむろにその指を口に含んだんだ。
呆気に取られるアタシを見据えたまま、柔らかな唇で優しく挟み込み、舌全体でゆっくり指先を舐める。
指を這う舌の感覚もそうだけど、アタシを見つめたままの、その瞳から目が離せなかった。

「…………んっ。これぐらいで良いかな?」
「あ、あぁ。そうだな」
「えっへへへ///」
「な、なんだよ。気色わりぃな」
「だって。なんだか新婚さんみたいなんだもん♪」
「な、なぁっ! ば、ばば……」
「なんだかやっと雰囲気出てきたみたい~って。ヴィータちゃんもそう思うでしょ?」

 指から離れていく唇と、その隙間に僅かに覗く舌。
やけに艶かしいと思った瞬間、何時ものハニカミ笑いを見せてくれる。
くるくると表情の変わるなのはに、アタシは何とか言葉を返すのが精一杯。
指をそっと握る手から嬉しさが伝わってくるようだった。

「ふ、雰囲気とか、別に前とやってること変わんねーじゃんか」
「そう~? 前はそんなに指、素直に舐めさせてくれなかったよ?」
「き、今日はたまたま――つーかなのは! フライパンはどうなってんだよ!?」
「フライパ……あ、あーっ!」

 気恥ずかしさから視線を逸らし、なのはの肩越しに見えた調理台。
そこには調理台にかけられたままのフライパンの柄だった。
そろそろ出来るとアタシを呼んだんだ。しかも、グッドタイミングとも言ってた気がする。
相当ヤバいんじゃねーか? いや、もう駄目だろ。
慌てて調理台に戻るなのは。
料理が出来ないで有名なシャマルですら、すでに偶にしかする事のなくなったようなミス……かもしれない。
きっと落ち込んでるだろ。
料理を偶にしかしないからだ、なんて事は言わない。
元々ここはアタシの家なんだし、なのはの分まで作ってやるって決めたのは自分だから。
一緒に暮らしていく上で、やっぱりこういう相手の厚意を無駄にするような事はしちゃいけないんだ。

「なぁ、なのは。偶にはさ、そういうミスもあるって」
「……」
「べ、別にさ。タマゴなくたって良いし。ほら、早くパン食べようぜ」
「……あ、あのね」
「な? ほら、そんなに落ち込むなって。せっかくの休みなんだしよ」
「あのね、ヴィータちゃん」
「な、なんだよ」
「実は、えっと―――」

 なのはが言いよどんだ理由は簡単だった。
こっちの世界の調理台は賢くて、放りっ放しで焦げ付くとか、まず起きないんだよな。
フライパンを覗き込んだときにそれは直ぐ分かったんだけどよ。
珍しくというか、なんて言うか、その……アタシが心配するもんだから。
それで「ホントは大丈夫だったよー」って言い辛くなったんだとよ。
ふ、ふん。柄にもないことするなってことだ。
でもさ。そんななのはの様子。なんで気付かなかったんだろうな。
ホッとしてるのだったら分かりそうなもんなのに。
顔は洗ったけど、まだ寝ぼけてるのか?

「もう、だから謝ってるじゃない~」
「別に怒ってねーです」
「それが怒ってるって言うのに……」
「……」

 テーブルの向かいでトーストの端をかじりながらイジイジとするなのは。
流石にトーストに塗られたジャムの量も控えめだ。
ちょっとこれは意地悪しすぎたかも知れない。そう思ってアタシも言い出すきっかけを考えてるんだけど中々上手く行かない。
別にここまで落ち込ませるつもりはなかったんだ。
ただちょっとお灸を据えてやる位のつもりで、その。怒った振りをしただけなんだけど……失敗だ。

「なぁ、なのは」
「な、なぁに!?」
「き、今日行く店よ。開店何時からだって?」
「え、えっとね! 朝十時からだよ!」
「十時からか……まだ時間あるな」
「ど、どうしたの?」

 アタシの言葉を待ちわびたように、ぱぁっと表情が明るくなる。
そして、何か含んだように言えば、上目遣いで心配そうにアタシの様子を窺う。
大分堪えてるみたいだ。
こりゃ早く言ってやんねーとな。

「あ、あのさ。いっつも朝は忙しいじゃんか」
「そ、そだね。バタバタしてて落ち着かないもんね」
「だからさ。その……今日ぐらいはゆっくりしても良いんじゃねーのって」
「……!」
「だ、大体、お前がさっさと起きて準備すりゃ毎朝アタシが忙しくする事ないんだからな!」
「う、うん!」
「だからしっかり反省しろよって事で、別にお前と一緒にゆっくりしたいとか、その……」
「分かってる。分かってるよヴィータちゃん」
「ホントだかんな! たまにはゆっくりしたいって、お前が急かすからそう言うだけだかんな!」
「うんうん。分かってますよ~。えへへ」
「へん。どうだか……」

 ゆっくりしろって言ったのに、食欲が戻ったのかパクパクとトーストを口に運ぶなのは。
ちょっと言うのが早かったかなと思いながら、アタシもトーストに噛り付いた。
なのはの返事に機嫌悪そうに答えるアタシの頭の中は、"家に一人でいてもしょうがないし"。なんて思ってたこと。
つい先日のことなのに、すっかり頭から抜け落ちてた。
 
 
 
 新婚なの! 5-3 へ。

 

| | コメント (0)

2007年10月26日 (金)

新婚なの! 5-1

 
 
 
「ヴィータちゃん、起きて~」
「…………んん~、なんだぁ?」
「何だ、じゃないよ。朝だよ」
「朝ぁ? ちょ、ちょい待ち……」

 枕に顔を埋めたまま、もそもそと布団の中を移動する。
いつもならちょっと手を伸ばしたところに目覚ましを置いてるんだけど、今日はベッドを半分移動しなきゃならない。
あの日以来、ここ二日。なのはの寝てるせいで時計が置いてある反対側で寝る羽目にあってるから。
だからその分、余計に移動しなきゃならなくて。
なのはの使ってたクッションに頭を移して、布団に潜ったまま手を伸ばす。
やっとのことで目覚ましを手に取ることができたアタシは、眠気眼を擦りながら時計の針を確認した。

「……なんだよ、まだ七時じゃんか」
「もう七時、だよ」
「今日は休みなんだから、もうちょっとゆっくり寝かせてくれよ……昨日は最後の追い込みで忙しかったんだ」
「だめだめ。昨日、早く行くから準備しててくださいって言ってあるんだから」
「……ったく。なんでそんな事言うんだよぉ……今日取りに行きますだけで良いじゃんか……」
「だ~め。いつ取りに来るか分からないなんて迷惑じゃない?」
「……そりゃそうだけどよぉ。面倒なヤツ」

 自分の枕に戻ろうかと思ったけど、何だか面倒になってそのままクッションを抱え込む。
二日使っただけなのに、なのはの匂いがしっかりと鼻の奥まで届く。
別に刺激的な匂いじゃないし、それで目が覚めたりすることはないけどさ。
ぼんやり頭で、このクッションも洗濯して良い匂いの柔軟材かけてやるなんて考えてた。
そうやってると、布団を引き剥がされ身体を持ち上げられると、ベッドの上でひっくり返された。
まだクッションを抱えたままで、目の前は真っ暗。
直ぐにベッドが跳ねるようにして、アタシの周りが沈み込む。
なのはが覆いかぶさるように四つん這いになってんだな。
今起きると面倒だから、クッションを抱えたまま返事をした。

「……なんだよ、そんな事したって起きないぞ」
「だったら……こうしちゃうからね!」
「!!! んひゃ!? あにすんだよ!」
「ほぅら起きた。えへへ、おはようヴィータちゃん」
「あ、んぐ……ああ、おはようさん」

 何するかと身構える暇もなく、ヘソの辺りに顔をくっつけて鼻先でくすぐる。
それと同時に脇腹も摘まれちゃどうしようもない。
ここで文句言っておかないと調子に乗っていつまでもやるから、クッションを放り投げて怒ってやった。
それなのに本人は全然効いてない顔。ニッコリ笑って、朝の挨拶。
その顔を見てたらこれ以上怒るのも馬鹿らしくて、仕方なくアタシも返すことにした。

「もう。そんな怒るぐらいなら初めから素直に起きたらイイのに」
「へん。毎朝アタシに叩き起こされてるヤツのセリフとは、到底思えないな」
「ヴィータちゃんに起こしてもらいたいんだもん。さ、朝ごはんの用意するから。早く起きてね」
「ふぇ~い、分かりましたよ~」

 ニコニコと笑いながらアタシの頭をひと撫ですると、部屋から出て行った。
去り際になんかトンでもないこといった気がするけどさ。まあ、聞かなかったことにする。
戸も開けっ放し出て行って、後姿をボーっと眺めていると部屋着のままな事に気付いた。
さっきは確かエプロン着けてたよな。
早く出かける為に朝の用意をする気満々ってことか。
と言うことは、なのは。結構先に起きてたってことだよな?
それにしても……

「何時起きたんだ? 全然気付かなかったぞ」

 なのはが寝ていた場所を手でなぞってみる。
布団を捲ってそれ程経ってないのに、すっかり冷たくなってる。
冷たくなったシーツに、なのはが寝ていたという痕跡を確認できない。
やっぱり随分先に起きたみたいだった。
それだけ早く出掛けたいってことか。
なのはの気持ちを確認したアタシは、思い切り伸びをするとベッドから降りてなのはの待つリビングに足を向けた。
 
 
 

| | コメント (0)

2007年10月24日 (水)

新婚なの! 4-8

 
 
 
「ねぇねぇ、本当に良いの?」
「二度も言わねーからな。イヤならいいんだぞ」
「ううん! だめだめ、せっかくのチャンスなんだもん。絶対にそんなことない!」
「分かったら大人しくしろ。良いな」
「は~い」

 遅すぎる夕食を食べ、すっかり日付が変わったころ。
後片付けしてる間になのはを風呂に入れ、出てきたときに言ったんだ。
「お前のベッドシーツ、洗濯したまんまだから今日は寝るとこないぞ」って。
そう言われりゃ当然「えー。じゃあ今日はどこで寝たら良いの?」と返す。
だからさ。「この家にベッドは二つあるだろ?」って。
そしたらよ、「えー! ヴィータちゃん、私と寝たいのー!?」なんて言うわけよ。しかも大声で。
時間帯考えろ。近所迷惑だろうが。防音対策はバッチリで助かったな、なのは。

「あとな。勘違いするなよ? ベッドがないからってだけで、別にお前と一緒に寝たいわけじゃないんだからな」
「はいはい、分かってますよ~。えへへへ~」
「っけ。気色悪いやつ。ほれ、早くしろ」
「わーい。ヴィータちゃんのベッド初めて~」

 その後風呂に入ってる間、アイツが何してたかはしらないけど、随分そわそわしてたみたいだ。
アタシが風呂から出てくるなり抱きついてきて、部屋まで手を牽こうとするんだから。
髪の毛乾かすから待てって言うと、意味もなく歩き回ったり髪の毛触ったり、やたらテレビのチャンネル変えたり。
様子見てると危ないヤツに見えてきて可哀想だったから、なるべく早くした。
流石に乾かさずに寝るわけにはいかないからな。朝の寝癖直しとか風邪引いたりとか。
実を言うと自分自身でも驚きだったっていうか、乾かす手が自然に早くなっていったって言うか、なんて言うか。
こんなの絶対になのはには言いたくないし、バレたら死ぬしかないけど、アタシもそわそわしてたって事だ。
だから、「終わったぞー」って戻ったときに、まだ生乾きのような気がしたけど気付かない振りをした。

「ああ、待て待て。いまクッション取ってやるから。えいしょっと」
「え~、大きな枕なんだから一緒に使おうよ~」
「ば、バッカ言え! そんなしたら顔が近すぎるだろうが」
「私は困らないよ。それにね、結婚してるんだから良いじゃない」
「け、けっけけ……ああ、駄目だ! そんなのに流されたりしないぞ」
「ちぇ~。今日は別々の枕で我慢する事にします」
「今日はって……まあ良いや。ほれ、ここだ」
「は~い!」

 ポンポンと叩いて形を整えるてアタシの隣におく。
布団を持ち上げるや否や、いきなりアタシに抱きつくように飛び込んできやがった。
ボスンと、聞いたこともない音を立てるベッド。
その勢いで倒れこむアタシに被さる布団。
急に真っ暗になって慌ててると、布団の中でなのはの顔が薄っすら見えた。

「えへへ。久しぶりのヴィータちゃん分だね」
「な、なんだ? そのヴィータちゃん分ってのは。それとな、離れろ」
「やだよ。だって、この三日間。全然会ってなかったし、抱きしめてなかったんだもん」
「…………ああ、仕方ねぇな」
「んふふ~。ヴィータちゃん分、補給~」
「あのさ。抱きつくのは良いから、いい加減外出ないか? 熱いんだけどさ」
「私はこのくらいの方が良いよ。だってベタベタしてるって感じする」
「せっかく風呂入ったってのに……仕方ないヤツだな」
1187885826291

 そういって諦めると、それも伝わったのか顔を胸元に下げていって鼻をくしゅくしゅと押し付ける。
鼻先で撫でられるのと部屋着越しに感じる微かな鼻息が堪らなくくすぐったい。
それよりも、全くアタシの言う事聞かない心臓の音が心配でならなかった。
なのは何かに抱きつかれて、こんなにドキドキしてるなんて知られたくなかったから。
肩を押して退けようとするも、敵も然る者。
がっちり腰を抱いてるものだから、全然動く気配がない。
もう少し頑張ろうかとも思ったけど、布団の中は暑いしこれ以上頑張ることもないかって止めた。

「ん~。ヴィータちゃん、相変わらず良い匂い~」
「あ、あのさ。一緒のボディーソープ使ってるんだしよ。お前の同じ匂いなんだぞ///」

 それだけじゃない。
それほど拘りがあるわけじゃなし、こっちの世界のは良いの揃ってるから同じシャンプーやらを使ってる。
だから、胸元で時折顔を動かし、揺れる髪から漂う香りが布団の中に充満していた。
それに、今言ったボディーソープの香りも布団の暑さが手伝って、いつもより匂い立っている。
なのはがアタシの良い匂いっていうのは、アタシもなのはを良い匂いって感じてるってことなんだ。

「違うよ。これはヴィータちゃんの匂いなの」
「わかんねーな。そんなの」
「じゃあね? ヴィータちゃんも私に抱きついてみれば分かるよ」
「は、はぁ? なんでそんな――うわっぷ!」
「どうかな。分かんない?」
「…………分かんない」
「強情だなぁ、ヴィータちゃんは」
「うっせ」

 顔を離したかと思うと、いきなり自分の胸元に抱き寄せるなのは。
いつの間にか随分と大きく育った胸に顔が埋まる。
ドキドキとした心臓の音が伝わってきて、さっきから感じていた匂いが一層強くなる。
頭がクラクラしてきた。
これは暑いからだ。
布団の中に二人で頭まで入ってるから暑さでクラクラしてるんだ。
絶対になのはとか関係ないんだからな。そうだ。関係なんかあるもんか。

「ヴィータちゃん。大人しくなっちゃったね」
「…………」
「分かるかな。私、とってもドキドキしてるの。えへへ」
「ああ、こんなけ近けりゃイヤでも分かるよ」
「ヴィータちゃんに抱きしめてる時からこうなんだよ?」
「ああ」
「ヴィータちゃんを抱きしめたら、もっとドキドキしちゃってるの」
「……ああ、分かってるよ」
「ふぅ、ちょっと暑くなってきちゃったかな?」
「ほれ見ろ。アタシの言った通りじゃねーか」
「布団から出る?」
「……このままで良い」
「なんで? ヴィータちゃんは暑くないの?」
「暑いけどさ。外に顔出したら同じ枕使うんだろ? お前と顔引っ付き合わせて寝るなんて勘弁だ」
「そっか。なら、このままで良いね」
「ああ。仕方ないからな」

 なのはのアタシを抱く腕に一層力が篭る。
でも、アタシは腕に力を込めて抱きついたりしない。一応プライドがあるんだ。
なのはに……抱きついたりするかよ。

「ねぇ、ヴィータちゃん」
「ん? あんだよ」
「あのね。本局に行ってる間にね」
「うん、この三日間にか」
「ちょっと噂を耳にしたんだけど……」

 声のトーンが落ちてる。
もしかしてだけど、あのことかなって直感的に感じた。
やっぱこれは説明っつーか……言い訳はしない方が良いよな。

「なんだ、言ってみろよ」
「……やっぱり良い」
「んぐぐぐ。苦しい苦しい!」

 別に一緒に寝ようとか言ったのは罪滅ぼしとかそういうんじゃない。
でも、なのははそう思ったのかもしれない。
だから、それは違うんだって。
絶対に言わないけど。死んだって口に出したりしないつもりだけどさ。
久しぶりに夕ご飯一緒に食べて、やっぱりこういうの良いなって思ったんだ。
今までの味気ない三日間。
今日のソファーで漏らした一言がアタシの本音なんだって、自覚せざるを得ない。

「あ、あのさ。実は……」
「良いの。良いんだって。ヴィータちゃん」
「でもさ」
「だって。ヴィータちゃんと結婚してるんだもん」

 顔は見えない。口調から判断するだけ。
若しかしてアタシの言いたいことが分かったのかもしれない。
凄く自分勝手で卑怯で、こんなの褒められる行為じゃない。けどさ。
抱きしめた手の、利き手の方でアタシの頭を優しく撫でてくれた。
まるで「分かってるんだよ」とでも言いたげに。

「……お前さ」
「なに?」
「こういう時だけ勘、良いのな。いつもズボラで横着の癖に」
「え~。それって全然褒めてないよ」
「ふ、ふん。そうそうタダで褒めたりするかよ」
「もう。意地悪なんだから」
「残念だな。アタシはいつだってお前限定で意地悪だよ」

 もう恥かしくて堪らなくて、顔を見られないように思い切り抱きついた。
 
 

続きを読む "新婚なの! 4-8"

| | コメント (0)

2007年10月23日 (火)

新婚なの! 4-7

 
 
 
「あらヴィータさん。お加減はいかがかしら」
「……んー。別にぃ」
「とてもそうは見えませんですけど。顔色も良くありませんわよ」
「……ふぅーん」

 午後のチャイムが鳴る前に声をかけられた。
どうやら今のアタシは顔色が良くないらしい。朝、髪を整えてたとき。鏡見てたけどどうだったかな。覚えてねーや。
ちゃんと……とはいい辛いけど、栄養的に朝食はばっちり取ってるし、なのはのヤツの準備だってしてきた。
仕事だって相変わらずのデスクワークだけど、しっかりこなしてる。
何も問題はない。ない、はずだ。

「何もないのでしたら良いのですけれど」
「残業イヤなら人の心配より自分の心配だぞ」

 アタシの返答に苦笑いを浮かべて帰っていった。
 
 
 
 
 
 昼休み中に午後からの航空隊候補生の教官要請が来た。
こういうのは事前に、せめて午前中に連絡しといて欲しい。
だけど、急に言われて機嫌が悪いとか気が乗らないとか、そういう事は言ってられない。
可愛い後輩の世話だかんな。それに、なのはと一緒に空を飛ぶかもしれねー連中だ。
ここ幾らかすっきりしない日が続いてたし、ここらで一度しっかり身体を動かしておくのがいいかも知れない。
ちょいとアタシの健康のために付き合ってもらうか。
恨むなら、ドタキャンした教官にしておくれ。
 
 
 
 
 

続きを読む "新婚なの! 4-7"

| | コメント (0)

2007年10月22日 (月)

新婚なの! 4-6

 
 
 
 その日も目覚めは早く、寝た気がしなかった。
昨日に比べれば寝つきは良かったし、別に夢見が悪かったわけでもない。
それでも疲れは全然取れた感じしない上に、かえって疲れた感じすらする。
頭は冴えないし、身体は重い。
それでも起きないわけにはいかないし、ぐたぐたしてると時間がなくなる。
仕方なくベッドの上でストレッチをしてから、部屋を出て朝の準備を始める。
さっさと出勤の準備を済ませ、なのはの着替えと弁当に取り掛かる。
一昨日洗濯しておいたから着替えの余裕はまだある。今日は手間のないようにソファーの上に並べておいた。
久しぶりに弁当を二人分作る。
なのはのは後で自分で包ませよう。
ナフキンと箸を並べて、卓上蚊帳を上に被せて置く。
洗面所に向かって洗濯。
なのはが置いてった分を部屋から取って来て、自分のと一緒に洗濯機に放り込む。
グルグルと回る洗濯槽を見つめながら、顔も見てないヤツの洗濯物を洗うなんて変な気分だなって考えてた。
知らない内にボンヤリしてたみたいで、終わりを告げるブザーに我に返った。
その後も順調にこなして、窓際に洗濯物を干して終わり。
早く起きたせいで、まだ何時もより早い時間だったけど、一人で家にいたってしょうがない。
重い身体を引き摺って、その日は早くに出勤する事にした。
 
 
 
 
 
「たでーまー……」

 今日も一日順調にこなした。
明後日の休みに向けて、この辺りでスケジュールを順調に消化出来ているのは良いことだ。
なのはが休み取れるのに、アタシがダメじゃ意味ないもんな。

「……って。また一人か」

 玄関を開けた時点で明かりが点いてなかったんだから分かってる事なのに、確認するように呟く。
真っ暗な部屋を進み電気を点けて、テーブルの上を確認した。
ちゃんと蚊帳を退けて弁当を持っていったみたいだ。ソファーの上に並べておいた着替えもなくなってる。

「ん。よしよし」

 何か胸の辺りがホカホカする。ここ三日ぐらい感じてない感じだ。
部屋に戻って制服を着替え、夕食の準備に取り掛かる。
エプロンをつけて今日もスーパーで買って来たモノを買い物袋から取り出し、夕飯に使う分以外は冷蔵庫にしまう。
ついでに冷蔵庫から目ぼしいものを取り出し、踏み台を持ってきて台所に立つ。
さて。何にするかな。
なるべく弁当に入れれそうなモノが便利で良いんだけどさ。
明日悩まなくて良いし。

「なぁ、なのは。なにか食べてーもんあるか?」

 "いつも"の位置、席に着いてるはずの、なのはに声をかけ、振り返る。
だけどそこには誰も居なくて、テーブルの上には中身のなくなって役目を終えた蚊帳だけがあった。

「…………な、何でもねーよ。そうだ、ただの独り言だよ」

 何事もなく夕食の準備に取り掛かるのが精一杯。
その後はどうやって風呂に入ったりベッドに入って寝たのか覚えてない。
気がついたら朝だった。
 
 
 その日の朝もちゃんとなのはの分の弁当と着替えは用意はしてやったけど、それまで。
それ以上はやる気が起きなくて、なんだか自分の分はいい加減。
エプロンに変える際に上着を放り投げたせいで、椅子の足元にクシャクシャになってる。
自分のした事なのに……いや、だから余計にイライラして、後片付けもそこそこに家を飛び出した。

 
 

| | コメント (0)

2007年10月21日 (日)

新婚なの! 4-5

 
 
 
 上着を脱いで近所のコンビニに弁当を買いに行った。
なのはが帰ってこないって分かったら、急に飯を作る気がなくなっちまったから。
ここ二日ばかり碌な晩飯作ってないし買い物にも行ってない。
冷蔵庫の中はガランとしていて残り物すらマトモに無いっていう理由もあったけど。
前に作って冷凍庫で凍らせたのがないわけじゃないけど、そういう気分じゃなかった。
その日は弁当食べて風呂入って、洗濯物のアイロンかけたりしてから、直ぐに寝ることにした。
早い時間だったし別にそんな眠たくもなかったんだけどさ。
いつもなのはと一緒にテレビ見てる時間だったけど、なのはが見てただけで普段何やってるか知らないし。

「明日、何時ごろ帰ってくんのかな……」

 アタシとなのはの部屋は別だ。
この家に入り浸るようになってから、幾度と無く一緒の部屋になろうとするのを阻止してきた。
だから、今もこの部屋にはアタシ一人。
普段と何も変わらない部屋に、変わらないベッド。
なのに、やけに広く感じる一人の部屋に、一人のベッド。
今まだって、こうやって一人のことはあったって言うのにさ。
"この家に今一人なんだ"という感覚が異常に鋭く、重く圧し掛かってきて堪らなく嫌な気分になる。
そのモヤモヤした気分を掻き消すために、思いっきりクッションを抱きしめてギュッと固く目を瞑って眠る事にした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その日はいつもより一時間以上早く目が覚めた。
全然眠った気がしない。頭は重いし肩や背中が酷い筋肉痛みたいな感じだ。
ベッドの上でじっくりストレッチをしてから起きる事にしたんだけど、どうにも調子が出ない。
サッパリしようとシャワーを浴びてから朝食の準備に取り掛かったんだけど、これも然り。
面倒くさくって、腹持ちの良いけど味気ない栄養食を採ることにした。
これもなのはが買ってきたのなんだけどさ。
そんときは「こんなの食べるな。アタシが毎朝作ってやってるだろ」なんて言ってたの思い出す。
すぐに冷蔵庫にしまいこんで嬉しそうな顔してたっけか。
なのはの顔を思い出しながらゼリーを飲み下していく。
まあ、確かに便利は便利だ。……後で買い足しておこう。

「そうだ。なのは、着替え取りに来るかもしんねーな」

 制服の袖に腕を通し、出かける準備を終えようとした頃。
昨日、畳んだままにしてあって洗濯物が目に入った。
電話口の様子からすると、多分今日も泊まりだ。そうなると明日の分の着替えが必要になるはず。
きっととんぼ返りだ。

「仕方ない。着替えぐらい用意しておいてやるか。家中ひっくり返されても困るしさ」

 早く起きたお陰で、まだ余裕はある。
一度鞄を下ろして上着を椅子に放り、なのはの部屋に向かう。
下着やらシャツやらをタンスから取り出してベッドの上に並べてやった。
それにしてもシーツぐらい整えて出て行けよな、なのはのヤツ。起きたまんまになってるじゃねーか。
布団を直しシーツを整えながら、週間天気予報を取り出す。
今週はずっと晴れみたいだ。今度の休みにでも一緒に干すかな。

「……これで良しっと。さて、あとは……飯の用意かな」

 ここで早起きしたのが効いてきたな。まだ余裕だ。
簡単な弁当になるものでも……って。しまった。昨日はコンビニ弁当だったんだ。
ああ、やっぱ手抜いたり駄目だってことだな。
くそっ、どうするよ。
冷凍庫の中にあるのは弁当には向かないし……

「駄目だ。今日は何ともならねぇ。悪いな、なのは」

 何も用意できなくて、綺麗に片付いたままのテーブルに後ろ髪引かれながら家を後にした。
 
 
 
 
 
 その日は順調に仕事が進んだ。
流石に二日も三日もウダウダ言ってられない。
ただ、それに気付いたのは夕方。昨日より残りの書類が少なかったから。
それから三時間ぐらいチェックしたり明日の確認をして局を出た。
家路の途中、今日何してたか思い出すんだけど特に何も思い浮かばない。
代わり映えしないデスクワークばっかだったせいか。
こういうのルーチンワークとか言うんだっけ。ま、どうでも良いけどさ。
なんも頭使ってなかったってことか。ミスとかないかな……

「あ、そうだ。今日はちゃんと晩飯作んないとな」

 若しかしたら、またなのはが泊まりになるかもしんないし。
それなら明日は弁当作ってやりたいしさ。別に、食堂のランチが駄目って言ってるわけじゃないけど。
あのさ。いつも弁当渡してやるときの、嬉しそうに鞄に仕舞いこむ顔がさ。その……ううん、なんでもない。
朝の轍を踏まないよう、途中でスーパーに立ち寄って叩き売りされてるのを幾つか買い込む。
取りあえずの、ってヤツだ。ちゃんとした買い物は、今度の休みになのはと一緒で良いし。
中くらいの買い物袋をぶら下げて家に帰り、テーブルの上に買ってきた物を並べようとしたら一枚の紙が目に入った。

「なんだこれ……ん?」

 なのはの置手紙みたいだ。このご時世に古風な事するやつ。
内容は"着替えありがとう それと今日も帰れそうにありません 一応明日のお昼に取りに戻ります"とだけあった。
汚い字ではないけど、かなり急いで書いたのか割りに乱れてる。
どうせ家を出ようとしたところで思いついてメモ帳を探したんだけど中々見つからなくて、時間がなくなっちまったんだろう。
メールでもすれば良いのにさ。わざわざこんな事してよ。
何考えてんだか……

「…………ちぇ。明日の弁当の準備だけして今日も寝ちまおうっと」

 その日は簡単な夕食で済ませて、弁当と着替えの準備を済ませると昨日と同じに早く寝る事にした。
 
 
 

| | コメント (0)

2007年10月20日 (土)

新婚なの! 4-4

 
 
 
 その日の午後は普通に仕事が出来た……とは言い難かった。
アタシ達のことが同僚の間で噂になって嬉しそうにしてたなのはを思い出してたから。
そして、それを必死に否定してた自分のこと。
さっきも考えてた通り、アタシ達は結婚してるんだから、それを公衆の面前でするかどうかを置いておけばだ。
それをしたって嘘でもさ、なのはが満足そうなら別に良いじゃんって。
事実なんだし、何も周囲にバレて困るような関係じゃないんだし。
ただ、あんま言いふらされたり噂になったりするのは、良い気分はしない。
それに、不意に思い出されるアイツのこと。きっと、今回のことも耳には言ってるはずだ。
アタシとなのはが浮かれてるのを聞いて……いや、アタシは浮かれてなんざいねーけどさ。ホントだ。
そんなこんなで、色々考えているうちに、なんとなく一日が終わっていった。
 
 
 
 
 
「たでーまー……て。誰もいないか」

 センサーで家に帰ってくるある範囲になると家の様々な電源が入るサービスがある。
初めは便利だと思ってたけど、誰も居ないのに電気点いてるって変な気がして直ぐに止めた覚えがある。
そんなわけで真っ暗な部屋を歩いて電気をつけていく。
いい加減にソファーに鞄を放り投げ、部屋に着替えを取りに行こうとしたところで端末の呼び出しがあった。

「おっと、なのはからか……はい、ヴィータです」
『あ、ヴィータちゃん? 私、なのはだよ』
「んなこと分かってるって」
『それだったら"はい、ヴィータです"っていうのも変じゃない? ヴィータちゃんの携帯にかけてるんだし』
「そ、それは……そんなの分かんねーじゃん。アタシ以外のヤツがさ、その」
『はいはい。分かってますよ~。えへへ』
「ちぇっ。んで、要件はなんだ。わざわざ電話するんだから相当なモンなんだろうな?」
『もう。ヴィータちゃんの声が聞きたくて電話したのに……ひどい』
「ば、バカ///! 電話だってタダじゃねーんだぞ。何にも用ないんだったら切るからな」
『家族間通話は無料なのに……ひどい』
「か、家族……うぅ~~うるさい! からかうなら切るぞ!」
『ま、待って待って! あ、あのね。今日は帰れないかもって言ってたけど』
「案の定、帰れなくなったってわけか」
『うん。だから、それを言っておこうと思って。それで、今どこ?』
「ちょうど家に帰ってきたところだ。今日はほぼ定時上がり」
『そっか。ご飯とか用意しちゃう前に連絡できて良かった』

 アタシの意地悪な言葉にちょっとだけ拗ねたみたいな態度を取るなのは。
だけど声のトーンは寧ろ上がっていて、それが見せているだけというのが分かる。
部屋に着替えしに行くのを止めてソファーに引き返し、ドカッと腰を下ろす。
ちゃんとご飯が要らないときは連絡するよう躾けたのはアタシだ。
夜遅く帰ってきたからさ。また夕飯作るの面倒じゃん。台所は片付かないし。
まあ、今から思えばその時から夕飯作るのが当たり前になってたってことだよなぁ。
なのはを躾けたようで、実はアタシが乗せられてたってことか……ふぅ。

「二度手間になったりするの心配してくれるのは良いけどさ。それだったらメールでも良いだろ」
『メールだったら見ないかもしれないじゃない。だから』
「よっぽど忙しいときを除いてさ、アタシがお前からのメール見なかったことあったか?」
『今日がそのよっぽど忙しいときかもしれないじゃない』
「ま、まあそういう可能性もあるけどさ」
『でも……そうだよね。ヴィータちゃんは私のメール、絶対に見てくれるもんね♪』
「うん?」
『やっぱり好きな人からのメールは待ち遠しかったりする?』
「た、たた他意はないんだぞ! 勘違いすんなよ!」
『うふふふ~。そんな照れなくても良いのに~』
「あ、あー! そんな言うなら切るぞ! もう要件は済んだんだろ?」
『えー。もう少しお話しようよー』
「悪いけどアタシから何も言うこと無いです」
『もう、ヴィータちゃんの意地悪』
「ふん。答えないからな。そんで? 泊まりは今日だけなのか?」
『う、うーん。分かんないってのが正直なところ。土壇場でゴタゴタ揉め始めちゃったし……』
「相変わらずオッサンどもは変なところで意地張るな。主導権がどうとか、そんなこったろ」
『そうだね。はぁ……上手くいったとしても明日も帰れそうにないかな』
「そか……うん、分かった」
『な、なに? 私が帰れないって分かって寂しくなっちゃった? ねぇ、寂しい?』
「バカっ! 下らないこと言ってねーでさっさと仕事戻れっ!」
『わーん。ヴィータちゃんが怒った~』
「もう切るからな。本当に切るかなら!」
『はーい。じゃあ、ヴィータちゃん。お休みね♪(チュッ』
「あっ……」
『ばいばーい。また明日電話するね~』
「わ、分かった。んじゃーな」

 電話が切れた。
最後にアホみたいなことしやがって……
それでも、直ぐに電話を切ったわけじゃない。ほんの一寸、間があった後、惜しむように別れの挨拶してた。
若しかしてアタシが何か言うの待ってた……なわけないか。
だってさ。今のことだって同じようにしたの一回目じゃないし、それで返した事もない。
あっても電話口で怒るぐらいだ。
それでも、以前とは少し違う関係になったことで、なのはとしては何か期待してたんじゃないか?
いま、なのはは端末の通話画面を前にどんな顔をしてるんだろう。
落ち込んだりしてないだろうか。
これからまだ仕事だって言うんだ。何か一言かけてやった方が良かったんじゃないか。
なのはとの通話時間が表示されたモニタを見つめながら、小さく溜息をついた。
 
 
 

| | コメント (0)

2007年10月19日 (金)

新婚なの! 4-3

 
 
 
 正午のチャイムを聞いてから席を立つ。
今日は弁当持参じゃないから、チャイムと同時に飛び出して食堂へ行くぐらいの事が必要なんだけど。
そんなの、どこの腹ペコ学生だよって話だ。
管理局の食堂はでっけーんだ。昼休み終わってからでも充分ランチにありつく事は出来る。
流石昼休みだ。往来激しい通路を縫うように歩いて食堂を目指す。
小さなモニタを呼び出して今日のメニューを眺めながら歩いていると、ふいに呼び止められた。

続きを読む "新婚なの! 4-3"

| | コメント (0)

2007年10月18日 (木)

新婚なの! 4-2

 
 
 
 身体中の血液がグルグルと駆け回っているのを感じられる、なんて大げさな表現だけど。
それぐらい身体がカッカと熱くなって、沸騰しそうだった。
湯気が立ち昇りそうな頭を抱えたままテーブルに残った朝食を片付け、流し台へ運ぶ。
エプロンを着けて洗い物をする。なのはが食べっぱなしにしたお皿とコップを。
それが終わってエプロンを椅子の背にかけ、出勤の準備をする。
昨日の帰ってきたままになった制服をハンガーにかけて、ペタペタと便利グッズで皺を取る。
これはズボラななのはが通販で買ったもんだ。
初めは横着するなって言ってたんだけど、たまにこうやって忙しい時なんかにコッソリ使ってる。

「はぁ……知らねー内に私物、増えたなぁ」

 手にした皺とりグッズを見つめながら呟く。
家中どこを見渡してもなのはの私物を見つける事が出来る。人の部屋にまで置きやがって。
アタシの家だって言うのに、どこも彼処もなのはの跡を見つける事が出来る。
その際たる場所が、なのはの部屋だ。
元から広くもない部屋なのに、ちゃっかり一室占拠しやがってよ。

「…………な、なに意識してんだ。アタシは///」

 なのはの部屋に入って、脱ぎ散らされた服やらを拾って洗面所へ向かう。
今のうちに洗濯して、帰ってきたらアイロンかけておかないと。またハンカチ貸す羽目に遭うからな。
下着や上着、色物なんかを仕分けて洗濯機へ放り込む。
こういうの、技術が進んで全部一気に洗えるようにしてくれりゃ楽なのによ。
スベスベと触り心地の良い下着。こんなのまでアタシに洗わせんなっての……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 なのはに遅れること幾らか。家の片づけを済ませて出勤する。
何となくだけどアタシを捉える視線を幾つか……いや、随分感じる。
なんだろ? 変な頭でもしてんのか?
さり気なく頭を触ってみるけど、特に気づくことはない。
服は制服だし、なのはみたいにタイトのチャックが開いてるなんて間抜けなこともない。
こういう風にチラチラと遠巻きな視線に捉えられるのは初めてじゃないけど、前のときとは違う。
その不可解な視線を潜り抜け、自分の職場に向かった。
 
 
 
 
 
「ヴィータさん。いまお暇?」
「……あー、どうしたんですか」

 昨日より頭も身体も熱くてボーっとして、さらに症状が悪化してる気もしない。
でもこんなこと言ってたらまた残業決定だし、今度の休みのこともある。
何とか自分を奮い立たせて、詰まらない書類を前にモニタにかじりついて1時間。
徐々に調子が出てきたところで、モニタの向こうに見える三人組。
何やらアタシに用があるみたいだ。

「失礼だとは思うのだけど、単刀直入に。昨日の昼休み、ロビーで何をなさって?」
「昨日の……い、いいいや! 別に! 別になんもしてねーって!」
「きゃー! やっぱり!」
「ほらぁ、私の言ったとおりでしょ~」
「そこで、ヴィータさん。そのお相手とはどういったご関係で?」
「……べ、別に。なんでもねーでございます」
「そう? ヴィータさんは、そんな何でもない相手と公衆の面前でディープキスしたりするですの?」
「うおいっ!? ちょっと待てぇ! アタシが何をしたって!?」

 思わず大声を上げたが、これは仕方ないっていうかマジ仕方ない。
何やら半日ちょっと経つ内にトンでもない方向に話が飛んでってないか?
明後日とか斜め上ってレベルじゃねーぞ!
アタシの反応を見て何やら顔を見合わせる三人、そして、朝に感じたような周囲からの視線。一体何だってんだ。

「だから、ヴィータが管理局のエースオブエースを捕まえてディープキスを……」
「そ、そんな事してねーって! 頬っぺただ、頬っぺた!」
「あら。ということは、キスはしてたのですね」
「あっ……」
「すっごーい。ヴィータがなのはさん狙いって本当だったんだぁ」
「浮いた噂一つ立たないヴィータが、実はそんな人を狙ってたとは……ふーむ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。一体全体どうなってんだ?」
「ですから、ヴィータさんがなのはさんを落とそうと既成事実の……」

 どういう事だ。
いつの間には噂が巡り巡って、アタシがなのはを好きってことになってんのか?
待ってくれ。それはない。
なのはがアタシを、その、なんつーか、えっと……す、好きだって言うのは、まあ、なんーか。
百歩譲ってそれが噂になってだな。なんでアタシがなのはを好きって噂になってんだ?
しかしこれでハッキリした。朝から感じていた視線の意味が。
なるほどな。こういう意味だったのか。

「待て待て。アタシがなのはをどうこうって言うのはどっから出てきた話なんだ?」
「そんなの。前々からよねぇ?」
「うん。そういう噂があったんだけど、私たちにしてみれば流石にそれはないんじゃないかって」
「ウソばっかり。私がその噂聞きつけたとき、すっごく食いつき良かったわよぉ」
「知らぬは本人ばかりなり。この話自体は以前からあったりなかったりですの」
「ぐぐぐ……尾ひれがつき過ぎっつーか、根も葉もなさ過ぎる」
「では。なぜそのような事を? ヴィータさんのお国ではどういう時にキスをなさったり?」
「そうそう! 何処出身だったか忘れちゃったけど、そういう国だったの?」
「まさかぁ、キスで子どもが出来る国はあっても、それはないわよぉ」

 下手な言い訳は出来なさそうだ。
何より「アタシからなのはに」ってのがネックになってる。
はぁ、一時の感情で動いちゃ駄目だっていう見本みたいな話だ。
あと。キスだけで子どもが出来る国ってどこだよ。それの方が知らねーよ。

「あ、あのさ。実を言うとアレはアタシが前に住んでた国でさ、挨拶みたいなものなんだ」
「へぇ~、挨拶でキスをする国があるんだ」
「ホントだって。因みにアタシとなのはは同じ国出身だ」
「でも、私はヴィータさんにされた事、ありませんでしてよ」
「ま、まあ、そりゃなんつーか。特に親しい間柄だけっていうので、その……」
「じゃあじゃあ! 私たちも親しい間柄になったらキスしてくれちゃったりしちゃったり?」
「う、う~ん……」
「ヴィータは好きだけど、ディープキスとなるとちょっとぉ」
「だから口にはしてねーって言ってるだろ」
「でも、キスしたことは認めますのね」

 こりゃキスの一つぐらいは認めた方が良さそうだ。
まあ、その、実際やっちまってる訳だし。う、うぐぅ……
何故だか昨日の光景が瞼の裏でフラッシュバックする。
身体のどこかに残っていた感覚が一瞬で全身を駆け巡り、今でも昨日のロビーのままにいるような錯覚さえ覚えた。
やべぇ。このままじゃ昨日の二の舞だ。
うわーん。なんだかムズムズして居ても立ってもいられないって感じになってきたぞ。
行き場のない感情がモヤモヤと胸にたまって、何も掴めず手持ち無沙汰な手をニギニギとしてみたり。

「……あ、あぁ。まあな」
「そうですの。では、これでお暇致しますですわ」
「え、ええ!? こっからが重要なんじゃないー!」
「そうよ、他の子たちが手をこまねいている内に私たちが真相に迫るってぇ」
「別に。これだけ分かればヴィータさんへの要らぬ噂に注意出来ますでしょうし」
「う、ん?」

 なんだ? ただの興味本位で聞いて回ってたわけじゃねーってか?

「当初の目的は果たせましたし。そうそう、このこと、私たち以外に喋っていませんでして?」
「あ、当ったり前だ。こんなこと自分からベラベラ喋るかよ」
「何言ってんの。ヴィータから言うなら変な噂にならないでしょ」
「そうそう~」
「では。毎日残業ばかりしてると身体に毒でしてよ」
「わーってる」

 他の二人をグイグイ押しながら帰って行く。と、同時に周囲の視線も減っている気がした。
訳も分からぬ状況に、火照り始めた身体も少しだけクールダウンしてるみたいだ。
気になって仕事に集中できないって状況は相変わらずだけど、不可解な周囲の反応を心配する方がまだマシだ。
少しずつ邪念を払うように、目の前のモニタに集中していった。
 
 
 

| | コメント (0)

2007年10月17日 (水)

新婚なの! 4-1

 
 
 
 
 
 その日は遅くに帰ってきたせいで、なのはと特に何を話すわけでもなく床に着いた。
その日と言っても日付は変わってたわけで、数時間も寝ないうちにまた起きて出勤の準備だ。
今日もデスクワークが主で良かったや。こんな調子じゃマトモに身体が動かねーもん。
 
 
 
 
 
「……タちゃん、起きて。ヴィータちゃん」
「う、うぅん……なんだぁ?」
「もう朝だよ」
「―――あ、朝ぁっ!?」
「うん、もう朝だよ。いつもより少し早いけどね」
「な、なんだよ。驚かせんなって……」

 短時間でもぐっすり眠る、そんでしっかり疲れをとる。直ぐに目を覚ます。
アタシらはずっとこうしてきたし、まあ、元が人間じゃないって言えばそれまでなんだけどよ。
それが身についてたはずなのに、それなのに、今日のアタシは聞きなれたなのはの声に引き戻されるまで目が覚めなかった。
何でだろうな……?
恨めしく目覚まし時計を見つめれば、なのはの言う通りいつもより早い時間だ。
あと30分もすると、ベッドから降りてなのはを起こしに行く時間になる。
これなら起きれなくても言い訳立つか。
普段やかましく寝坊なのを怒ってるなのはに対してさ。

「あれじゃない? 昨日のヴィータちゃん、随分興奮してたのかも」
「アタシが? なんでさ。つーかさ、何がアレなんだよ」
「私が起こさないと起きれなかった理由。そうだって、顔に書いてあるよ」
「あのさ、いつもより早いんだ。起きれなくて当然だ。そんで? 昨日のアタシが何だって?」
「さぁ? ヴィータちゃんに分かんない事が私に分かるわけないじゃない」
「……そりゃそうか」
「個人的に思い当たる節がないわけじゃないけどね。ほらほら起きて」
「んだよ。その気になる言い方は。ほれ、言ってみろって」

 珍しくエプロン姿のなのはが、アタシをベッドから起こそうと布団を乱暴に捲っては、抱きかかえて起こそうとする。
別に大人しく従う事なんかないし、一々ベタベタするなって何時もなら追い払うんだけど。
まだ頭がぼんやりするし、なのはの含むところが気になってそれどころじゃなかった。
自分がどんな顔して見上げているか知らないけど、なのはは満足そうな顔。
あんまいい顔してねーんだろうな。
にんまり口元を緩めて、こう続けた。

「怒らないって約束してくれるなら言う」
「そりゃ怒らせるって予告してるようなもんじゃねーか。ふ、ふぁ~あ……まあ良いや」
「えへへー。あのね、自惚れかな~って思わないこともないんだけどね」
「……う、うぅ~ん。あふっ……むにゃ」
「昨日、ヴィータちゃんがキスしてくれの。ドキドキしちゃって私は眠れなかったかなぁって」
「――はぁ!?」
「だから。私がしたキスでヴィータちゃんも興奮してたんじゃないかな?って」
「ば、ばばばばバカ言え! 朝から何ふざけたこと言ってんだ!」
「ほら~、やっぱり怒った」
「うっせ! 朝からそんな冗談聞かされりゃ誰だって怒るっての!」
「きゃー、ヴィータちゃんこわ~い」

 手元にあったのは掴んだままの目覚まし時計だったから、さすがにこれをぶつけるわけにも行かない。
かと言って枕を持ち直す時間はなくて、その間に戦技教導官は軽い身のこなしで、さっさと部屋から出て行ってしまった。

「……はぁ、朝から汗かいちまった」

 さっきまでのハッキリしない頭は何処へやら。
すっかりテンションの上がってしまった身体を起こして、ベッドから降りた。
 
 
 
 

続きを読む "新婚なの! 4-1"

| | コメント (0)

2007年10月16日 (火)

日記 web拍手お返しとか


 
 「甘く慰めて」は色々思うところがあって書いてみました。
しかし、まさか書き始める前は二週間もかかるとは夢にも思わなかったのでした……という。

 特に何も考えず、書きたいことだけ書くとこういう内容になります。
そこで。一度で良いから初めから最後まで、ただひたすらにイチャイチャするだけの甘々なSSが書いてみたいです安西先生!
お引越しSSでも新婚SSでも、どうにも落ち込んだり悩んだりする場面が勝手に湧いてくるので。

 兎に角。なのフェ・なのヴィは正義ということで、今後も方針は変わらなさそうです。

 
 web拍手、10月の昨日分まで返信させていただきました。
 
 

続きを読む "日記 web拍手お返しとか"

| | コメント (0)

2007年10月14日 (日)

甘く慰めて 後

 
 
 
「わぁ! ねぇ、フェイトちゃん。雪だよ!」
「本当だね。どうりで冷えるわけだ」

 窓際のソファーに二人で腰掛け、すっかり冷えてしまったミルクキャラメルのコップをテーブルの上に。
なのはの上げた声に外を見れば、いつの間にかずんぐりと立ち込めた雪雲から、ちらちらと雪が舞い降りてきていた。
暫し言葉を忘れて、ぼんやりと外を眺める。
舞い降りてくる雪を眺めていると、何故か自分が空へ昇っていくような、そんな錯覚に囚われる。
私たちは空を飛べるけど、それとはまた違った感覚は足元が覚束ないような不安。
それはなのはも感じたのか、ソファーについていた手を重ねてくれた。

「フェイトちゃん。また、手が冷たくなってる」
「そう、かな。ちゃんと空調は効いてるよ?」
「もう。そうじゃなくて……」

 空を見るのをやめ、顔をあわせれば、重ねた手にもう片方の手を。私の手を持ち上げて両手で包んでくれる。
じんわりとなのはの体温が伝わってきて、それは宛らなのはの優しさのよう。
その温かさは手だけじゃなくて、腕を通って全身に染み渡っていく。
でも、それを片手だけじゃ物足りなくって、もう片方の手をなのはの手に重ねてみる。
いつも温めてもらうばかりの私。
今日のことで思った。いつもして貰ってばかりじゃなくて、こうやって、なのはにもして上げたい。
だから、もっと。なのはとの距離を。

「ほら、こうするとなのはも温かいでしょ?」
「うん。とっても……あ、そうだ。あれ、温めなおしてくるね」
「あれって、キャラメルミルクのこと? でも、それなら」
「ううん。良いから。ね?」
「あ、うん」

 私は一時だって離れたくなくって、手すら離したくなかったけど、なのはが言うなら……仕方ない。
コップを二つ持ってソファーを離れるなのは。後姿をぼんやりと眺めていると、ぐっと部屋が寒くなった感覚。
ぽっかりと空いてしまった左側。あり得ない筈の、隙間風が私を撫ぜる。
呼び止めようと思う前に、頭で考えるよりも先に、私の足は駆け出し手は背中に伸びていた。

「フェ、フェイトちゃん!?」
「駄目だよ、なのは。行っちゃ……ヤダ」
「でも、これじゃ動けないよ」
「だったらそのままで良い。いま温めなくても良いよ……」
「私は、フェイトちゃんと一緒に雪を見ながらキャラメルミルク、飲みたいな」
「……そう?」
「うん。初めての雪だよ。フェイトちゃんと一緒に、ね?」
「……分かった。でも」
「一緒にね。もう、ワガママなフェイトちゃん」

 半ば呆れたように。でも、嬉しそうななのは。
なのはが居れば寒くないよって。そう言って抱き止めることが出来たら良いのに。
流石にソレを言うほどの勇気がなくて、喉の奥で引っ掛かったまま、ワイシャツの裾を摘むようにして給湯室へついて行った。
簡単に温めなおして、また同じようについて行く。
一つずつ持って、空いた手を繋ぎあいたかったのに、なのはは駄目だって。
両手のコップを恨めしげに見つめながらソファーへと戻っていく。

「はい、フェイトちゃん」
「うん」
「こうして……はい。どうかな」
「……温かいよ。なのはの手が」
「えへへ。こうやってして上げたかったんだ」
「私も。こうしてくれるのが一番温まるよ。なのはの手が私にとって、一番」
「嬉しい。私がフェイトちゃんの一番だってこと。ねぇ、私の一番にフェイトちゃんはなってくれる?」
「! も、もも勿論! なのはが望むなら、わた私……」

 私の両手に手を重ね、真っ直ぐに見つめるなのは。
その瞳に、その言葉に心の底まで射抜かれてしまうようで、私は肝心なところで言葉に詰まってしまった。
でも、そんな私になのははニッコリ微笑み返してくれる。
手に込められる力も、私の言葉への返事だって、なのはの気持ちが伝わってくる。
恥かしいなって思う気持ちも、じんわりと広がるソレに徐々に薄れていった。

「フェイトちゃん。そうやってはにかんでるの、とっても可愛いよ」
「か、かわ可愛い!?」
「うん。はにかんで……そう。ほっぺをちょっとだけ赤く染めて」
「う、うぅ……」
「ねぇ、フェイトちゃん。順番、逆になっちゃったけど……聞いてくれる?」
「う、うん」

 重ねられていた手は、そっと私の手から離れていって。
私の頬を撫でる左手の人差し指が耳をなぞり、そのまま髪を通して絡めとっていく。
右手は腰を取って、隣にぴったりとついたなのはに、思わずドキリとさせられる。
少し思いつめたかのような顔。
今日一番の揺れる青。
深い、肺の中の空気を全部入れ替えるつもりのような深い深呼吸の後。なのはは切り出した。

「サラサラと指どおりの良くてシルクのような、キューティクルの整った髪が。
 まるで太陽を思わせる、空を飛ぶフェイトちゃんの軌跡のような金に輝く髪の色が」

 ―――髪を指に絡め、まるで梳くようにゆっくりと。

「深紅に、どこまでも深くて吸い込まれてしまいそうな紅に憂いを湛えた瞳が。
 その優しげな眼差しに、深紅の瞳に映り込むことが、私をとても心安らかにしてくれる」

 ―――なのはの飛ぶ晴天の空を思わせる、抜けるようなどこまでも続いていく青の瞳に私が映る。

「まるで紅を差したように赤い唇。柔らかくて吸い付くような、甘い囁きをくれる唇が」

 ―――寄せた唇が、先を掠めていく。

「私の名前を呼んでくれる、その声が。歌うように、優しさの中に強さを秘めた声。
 その声で名前を呼ばれるたびに、私、心がざわめいて、フェイトちゃんを抱きしめたくなっちゃう」

 ―――腰に回した手に力がこもり、髪を梳かしていた指は再び私の手に重ねられる。

「長くしなやかなで柔らかなその肢体が。細くて、いつも心配しちゃう。
 甘い匂いに少しひんやりとした手足、優しさを現したかのような胸にざわめいた心が静まっていくの」

 ―――腕を引かれ、なのはの腕の中に納まる。髪の、微かな香水の香りが鼻先を撫で、私を包んでくれる。

「控えめで困ったさんで、怖がりで自信がなくてホントは寂しがり屋の心が。
 でも、私を受け止めてくれる、包み込んでくれる、きっと私の半身なんだって思わせる、その心が」

 ―――重ねた手が、抱いた手が。私を映す瞳が。囁く唇が…………震えてる。

「好き。大好きなの。全部が、全身で。心からフェイトちゃんを求めてる」

 コップを離し、重ねられた手を握り返し、抱いた腕を引き寄せる。
透き通る青い瞳に応え、震える唇を―――塞いだ。

「……なのは。ずるいよ。私だってなのはに言いたいこと、たくさんあったのに」
「どうしても我慢できなかった。ずっとこの想いを伝えたかった。全部吐き出して、離したくなかった」
「それは私だって一緒だよ。抑えきれない想いに振り回せれて、言葉に出来なくて、伝えられなくて……凍りつきそうに」
「この四日間。今までこんなに距離を感じたことがなかった。
 離れてしまった距離を取り戻すために今日だって……ホントは全然余裕なんてなかった」
「私も、どうして良いか分からなかった。逃げ出したのに、戻りたくて仕方なかった。
 失敗を取り戻したくて。でも、何も思いつかなくて。一人で泣いてばかりだった。なのはが恋しくて」
「嬉しかったよ。フェイトちゃんの初めてが。失敗も含めて、フェイトちゃんの全部が。
 私だけのモノだって。失敗も成功も、悲しみも嬉しさも全部。私と……フェイトちゃんで共有できるんだって」
「なのは。本当に良いの? 失敗ばかりで……こんな私でも?」
「うん。全部含めて。何が欠けてもダメ。全部欲しいの。フェイトちゃんの、全てが」

 今日、部屋に戻ってきてからのなのはとは別人みたい。
儚くて脆くて、今にも崩れそうで。必死だと訴えたその声は、嘗てなく不安に震えていた。
震える唇を。声を。唇を重ねて、身体を抱きしめて。なのはの不安に凍りつきそうな心を溶かしてあげたかった。
いつもなのはに貰っているものを、返すのは今だって。これが出来るのは私だけなんだって。
そう思えてくると、さっきまでアレだけ躊躇した行為が、とても自然に、惹き合うように。

「……泣かないで。私、なのはにはいつも笑顔でいて欲しい。そのためだったら、何でも出来る」
「じゃあ、私が欲しいときにしてくれる? いつも傍にいてくれる?」
「うん。もう離さない。逃げ出さない。全部欲しいって言ってくれるなのはが、そう願う限り」
「なら、ずっと一緒だね」
「この涙みたいに。流す涙は全部甘くしてあげる」

 怖かった。なのはに嫌われることが。その手を二度と握れなくなることが。
大げさだって思うこともあった。だけど、その想いは私を狂わせて、見えなくしていたのかもしれない。
失敗が怖くて何も出来なかった。そして訪れた失敗に、繋いでいたはずの手を離してしまった。
今なら分かる。はやての言っていたことが。
あの時は想像できないなんて思ったけど、それは私がなのはのことを知らなかっただけ。
これだけ近くに居たのに。ううん、近すぎて見えなかったのかもしれない。
でも。もう大丈夫。
あの時の死んでしまいたいとまで思った心は、この触れ合う温もりに溶けていく。
甘い囁きに、甘い香りに、キャラメルミルク味のキスに。
 
 
 
―――終わり。
 
 

続きを読む "甘く慰めて 後"

| |