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新婚なの! 4-2 (1)

 
 身体中の血液がグルグルと駆け回っているのを感じられる、なんて大げさな表現だけど。
それぐらい身体がカッカと熱くなって、沸騰しそうだった。
湯気が立ち昇りそうな頭を抱えたままテーブルに残った朝食を片付け、流し台へ運ぶ。
エプロンを着けて洗い物をする。なのはが食べっぱなしにしたお皿とコップを。
それが終わってエプロンを椅子の背にかけ、出勤の準備をする。
昨日の帰ってきたままになった制服をハンガーにかけて、ペタペタと便利グッズで皺を取る。
これはズボラななのはが通販で買ったもんだ。
初めは横着するなって言ってたんだけど、たまにこうやって忙しい時なんかにコッソリ使ってる。

「はぁ……知らねー内に私物、増えたなぁ」

 手にした皺とりグッズを見つめながら呟く。
家中どこを見渡してもなのはの私物を見つける事が出来る。人の部屋にまで置きやがって。
アタシの家だって言うのに、どこも彼処もなのはの跡を見つける事が出来る。
その際たる場所が、なのはの部屋だ。
元から広くもない部屋なのに、ちゃっかり一室占拠しやがってよ。

「…………な、なに意識してんだ。アタシは///」

 なのはの部屋に入って、脱ぎ散らされた服やらを拾って洗面所へ向かう。
今のうちに洗濯して、帰ってきたらアイロンかけておかないと。またハンカチ貸す羽目に遭うからな。
下着や上着、色物なんかを仕分けて洗濯機へ放り込む。
こういうの、技術が進んで全部一気に洗えるようにしてくれりゃ楽なのによ。
スベスベと触り心地の良い下着。こんなのまでアタシに洗わせんなっての……


 


 なのはに遅れること幾らか。家の片づけを済ませて出勤する。
何となくだけどアタシを捉える視線を幾つか……いや、随分感じる。
なんだろ? 変な頭でもしてんのか?
さり気なく頭を触ってみるけど、特に気づくことはない。
服は制服だし、なのはみたいにタイトのチャックが開いてるなんて間抜けなこともない。
こういう風にチラチラと遠巻きな視線に捉えられるのは初めてじゃないけど、前のときとは違う。
その不可解な視線を潜り抜け、自分の職場に向かった。
 
 
 
 
 
「ヴィータさん。いまお暇?」
「……あー、どうしたんですか」

 昨日より頭も身体も熱くてボーっとして、さらに症状が悪化してる気もしない。
でもこんなこと言ってたらまた残業決定だし、今度の休みのこともある。
何とか自分を奮い立たせて、詰まらない書類を前にモニタにかじりついて1時間。
徐々に調子が出てきたところで、モニタの向こうに見える三人組。
何やらアタシに用があるみたいだ。

「失礼だとは思うのだけど、単刀直入に。昨日の昼休み、ロビーで何をなさって?」
「昨日の……い、いいいや! 別に! 別になんもしてねーって!」
「きゃー! やっぱり!」
「ほらぁ、私の言ったとおりでしょ~」
「そこで、ヴィータさん。そのお相手とはどういったご関係で?」
「……べ、別に。なんでもねーでございます」
「そう? ヴィータさんは、そんな何でもない相手と公衆の面前でディープキスしたりするですの?」
「うおいっ!? ちょっと待てぇ! アタシが何をしたって!?」

 思わず大声を上げたが、これは仕方ないっていうかマジ仕方ない。
何やら半日ちょっと経つ内にトンでもない方向に話が飛んでってないか?
明後日とか斜め上ってレベルじゃねーぞ!
アタシの反応を見て何やら顔を見合わせる三人、そして、朝に感じたような周囲からの視線。一体何だってんだ。

「だから、ヴィータが管理局のエースオブエースを捕まえてディープキスを……」
「そ、そんな事してねーって! 頬っぺただ、頬っぺた!」
「あら。ということは、キスはしてたのですね」
「あっ……」
「すっごーい。ヴィータがなのはさん狙いって本当だったんだぁ」
「浮いた噂一つ立たないヴィータが、実はそんな人を狙ってたとは……ふーむ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。一体全体どうなってんだ?」
「ですから、ヴィータさんがなのはさんを落とそうと既成事実の……」

 どういう事だ。
いつの間には噂が巡り巡って、アタシがなのはを好きってことになってんのか?
待ってくれ。それはない。
なのはがアタシを、その、なんつーか、えっと……す、好きだって言うのは、まあ、なんーか。
百歩譲ってそれが噂になってだな。なんでアタシがなのはを好きって噂になってんだ?
しかしこれでハッキリした。朝から感じていた視線の意味が。
なるほどな。こういう意味だったのか。

「待て待て。アタシがなのはをどうこうって言うのはどっから出てきた話なんだ?」
「そんなの。前々からよねぇ?」
「うん。そういう噂があったんだけど、私たちにしてみれば流石にそれはないんじゃないかって」
「ウソばっかり。私がその噂聞きつけたとき、すっごく食いつき良かったわよぉ」
「知らぬは本人ばかりなり。この話自体は以前からあったりなかったりですの」
「ぐぐぐ……尾ひれがつき過ぎっつーか、根も葉もなさ過ぎる」
「では。なぜそのような事を? ヴィータさんのお国ではどういう時にキスをなさったり?」
「そうそう! 何処出身だったか忘れちゃったけど、そういう国だったの?」
「まさかぁ、キスで子どもが出来る国はあっても、それはないわよぉ」

 下手な言い訳は出来なさそうだ。
何より「アタシからなのはに」ってのがネックになってる。
はぁ、一時の感情で動いちゃ駄目だっていう見本みたいな話だ。
あと。キスだけで子どもが出来る国ってどこだよ。それの方が知らねーよ。

「あ、あのさ。実を言うとアレはアタシが前に住んでた国でさ、挨拶みたいなものなんだ」
「へぇ~、挨拶でキスをする国があるんだ」
「ホントだって。因みにアタシとなのはは同じ国出身だ」
「でも、私はヴィータさんにされた事、ありませんでしてよ」
「ま、まあ、そりゃなんつーか。特に親しい間柄だけっていうので、その……」
「じゃあじゃあ! 私たちも親しい間柄になったらキスしてくれちゃったりしちゃったり?」
「う、う~ん……」
「ヴィータは好きだけど、ディープキスとなるとちょっとぉ」
「だから口にはしてねーって言ってるだろ」
「でも、キスしたことは認めますのね」

 こりゃキスの一つぐらいは認めた方が良さそうだ。
まあ、その、実際やっちまってる訳だし。う、うぐぅ……
何故だか昨日の光景が瞼の裏でフラッシュバックする。
身体のどこかに残っていた感覚が一瞬で全身を駆け巡り、今でも昨日のロビーのままにいるような錯覚さえ覚えた。
やべぇ。このままじゃ昨日の二の舞だ。
うわーん。なんだかムズムズして居ても立ってもいられないって感じになってきたぞ。
行き場のない感情がモヤモヤと胸にたまって、何も掴めず手持ち無沙汰な手をニギニギとしてみたり。

「……あ、あぁ。まあな」
「そうですの。では、これでお暇致しますですわ」
「え、ええ!? こっからが重要なんじゃないー!」
「そうよ、他の子たちが手をこまねいている内に私たちが真相に迫るってぇ」
「別に。これだけ分かればヴィータさんへの要らぬ噂に注意出来ますでしょうし」
「う、ん?」

 なんだ? ただの興味本位で聞いて回ってたわけじゃねーってか?

「当初の目的は果たせましたし。そうそう、このこと、私たち以外に喋っていませんでして?」
「あ、当ったり前だ。こんなこと自分からベラベラ喋るかよ」
「何言ってんの。ヴィータから言うなら変な噂にならないでしょ」
「そうそう~」
「では。毎日残業ばかりしてると身体に毒でしてよ」
「わーってる」

 他の二人をグイグイ押しながら帰って行く。と、同時に周囲の視線も減っている気がした。
訳も分からぬ状況に、火照り始めた身体も少しだけクールダウンしてるみたいだ。
気になって仕事に集中できないって状況は相変わらずだけど、不可解な周囲の反応を心配する方がまだマシだ。
少しずつ邪念を払うように、目の前のモニタに集中していった。


 


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