« 本部外広報 | トップページ | 新婚なの! 5-2 (2) »

新婚なの! 5-2 (1)


「なのは、準備できたぞ」
「私はもうちょっと~」

 朝ごはんを食べ終わり、後片付けは二人で一緒にやった。
台所の流しはそれほど広いわけじゃないから、二人で並んで洗い物するには狭いなんてことは百も承知。
でも、なのはのヤツが何時までも朝ごはんを食べ終わらないし、一度にしないと面倒だ。
だから、なのはの話に付き合いながら待ってたんだ。
やっとのことでなのはがご馳走様をしたから「片付けるぞ」って言ったら「私もする~」って。
食べ終わったばかりなんだし、ゆっくりしてりゃ良いのにさ。
そういう訳で、それほど広くない流し台で一緒に洗い物をすることになったんだ。

「お前が行くって言うんだからな」
「分かってる、分かってる~」
「少し急かして丁度いいぐらいっての、どうにかしろよ」
「ヴィータちゃんが早すぎるんだよ~」
「お前が遅すぎんの」

 洗い物が終わって、少しのんびり。ソファーに腰掛けてテレビでも見ることにした。
ただ、いつもこの時間は一番忙しいときだし、何やってるのか知らない。
テキトウにチャンネルを変えて回ってると、ちょうど天気予報が始まった。
未だに予報なのが可笑しいね、天気予定とかにしてくれると便利なのに、なんてなのはのヤツが言うからさ。
お前は洗濯しないから心配しなくても良いだろ、って言ってやるんだ。
勿論これは少し嫌味も混じってる。
そしたらよ、ヴィータちゃんがお天気の心配しなくても良いように、だってさ。
……ふん。全然嫌味が通じないでやんの。そんなことで機嫌とったつもりでいるんじゃないぞ。

「ヴィータちゃん。どういう格好にした?」
「今日は暑くなるらしいからな」
「じゃあ、この間買ってあげたワンピ?」
「まだ着てねーよー」
「そうなんだ? やっと着てくれるんだー」
「……あー! うっせ! 黙って早く用意しろ!」
「は~い」

 余りのんびりしても早く起きた意味が無くなるからな。リモコンを取り上げてテレビを消した。
なのはは何か文句言ってたけど、見てると手が止まるんだから仕方ない。
いい加減用意をしなきゃいけないのが分かったのか、なのはも渋々腰をあげ、部屋へ引き上げていった。
あの日以来、結局なのははアタシのベッドで寝てるけど、着替えとかはまだ自分の部屋だ。
まあ、それまで持ち込まれたらアタシの部屋がなくなるから勘弁だけど。
アタシはなのはが用意する間に洗濯・掃除を済ますことにする。
なのはと違って準備が早いから、こうやって間を縫って家事を済ますんだ。
アタシの準備が早いこと。なのはは、もう少し格好に構えっていうけど、はやてなら兎も角、お前の着せ替え人形は勘弁だ。
洗濯機を動かしながら掃除機をかける。
普段帰りが遅いし、休日はいつもこんな感じで忙しい……アタシだけだけど。
大方掃除を終えると、扉の開いた部屋からお約束の言葉が飛んでくる。
言い難いが、別になのはの格好なんてそんな気にしないから「別に何だって良いだろ。今日は暑いぞ」とか返事しておく。
色々な作業をしたり、自分の着替えをしたりする片手間に、なのはの相手をするのは大変だ。

「しっかし、今日のなのはは一段と遅いな。全く」
「もう少しだからね~」
「へいへい」

 大方終わったところで自分の用意を始める。
今日の格好は……その辺は省略だ。
そろそろ準備を終えてなのはが出てくるころだからな。

「お待たせ、ヴィータちゃん」
「よっこいせ。んじゃ行くぞ。忘れもんないか?」
「うん、大丈夫。それにしても……えへへ~」
「なに笑ってんだよ。気色悪い」
「だって。何だかんだ言って、ヴィータちゃんも楽しみにしてくれてたんだなーって」
「な、な! アタシがいつ楽しみにしたって言うんだよ!」
「私が買って上げたの着てくれてるし、今日のヴィータちゃん。普段より用意早かったよ?」
「は?」
「自覚ないの? お掃除もお洗濯も。着替えだって早かったんだから」

 準備万端。パリッとスーツっぽい服で決めたなのはがにっこり笑う。
全然自覚なかったぞ。今日はなのはが遅かったんじゃなくて、アタシが早かったなんて。
ま、まさかな。どうせハッタリに決まってる。

「そっかぁ。知らない内に早く準備しちゃうほど楽しみだったなんて」
「な、なな! 違うぞ、今日は偶々早かっただけで、そんな、別に」
「毎週してることなんだもん。私だってヴィータちゃんのタイミング、ちゃんと覚えてるんだよ」
「アタシの……タイミング?」
「そう。何をどのくらいでするのかって。ヴィータちゃんだってそうでしょ?」
「な、なにがさ」
「私のこと、ちゃんと見てくれてるの。知ってるよ」
「~~~っ! う、自惚れんな!」
「自惚れてなんてないよ。だって本当のことだもん。毎朝のこと、ちゃんと知ってるよ」

 まさか自分が知らない内に浮かれて早く準備してたなんて。
それも、なのはがアタシのこと。ちゃんと覚えてたから言えることだ。
しかも、しかもだ。
アタシがなのはの事、ちゃんとタイミング計ってやってる事までバレてるなんて。
今この頭というか胸の中を渦巻く、何て言って表現していいか分からないモノ。
それが身体中を駆け巡って、頭の天辺と足がひっくり返りそうだった。

「ほら、ヴィータちゃん。行こうか?」
「……」
「えへへへ。どうしたの、びっくりした顔して。あ、若しかして。私がそんなの気付いてないって思ってたの?」
「……まあな」
「酷いなぁ、一緒に暮らし始めて結構経ってるんだし。私、これで勘は鋭い方なんだから」
「それをもう少し良い風に使って欲しいけどな」
「良いときに使ってるよ? 例えば今とか」
「……へん。言ってろ」
「じゃあどんどん言っちゃうね」

 少し身を屈めてアタシを抱き寄せる。
いつの間にか、カンカンと踏み切りの警報のように早くなっていた鼓動。
それを落ち着けるかのように、ゆっくり、ゆっくりと肩を撫でてくれる。
普段なら突き飛ばすところだけど、今ばかりは自分の内側の方が大変でそれどころじゃない。
そのまま、なのはのするように任せていると、撫でてくれているタイミングに合わせるように鼓動はゆっくりと落ち着いてきた。
そして、内側のぐるぐる渦巻くモノが落ち着いてくるにつれて、別の問題が湧いてくる。
"何て言って表現していいか分からないモノ"ってのが、恥かしいって気持ちだって分かってきたから。
一気にメーターが振り切れる。
何だか分からなかっただけで、これは"恥かしい"ってのに部類されるモノだ。

「うぅ~」
「ど、どうしたの? いきなり唸ったりして」
「は、離れろ! 調子乗っていつまでもくっ付いてんじゃねーよ!」
「ええ~、何だか急に態度変わりすぎだよ~」
「うっさいうっさい! ばーか!」
「もう、直ぐにバカって言う。そういう子はこうなんだからね!」
「んぎゅ!?」

 抱いていた腕を振り払えたかと思うと、肩から離れた手はアタシの腕を掴み、そのまま胸の谷間に顔が埋める。
今度は両手で思い切り。背中に回された手でアタシは身動きが取れない。
顔は完全に胸に埋めて、思わず間抜けな声を上げてしまった。
ジタバタ騒いでも一向に離れられない。
暫く暴れたあと、抱きついたままでいい加減息が続かなくて、仕方なく息を整える。
すると、埋まった鼻はシャツ越しに、なのはの匂いを思い切り感じた。
何時もと違う香水、付けてるのか?
ちょっと甘ったるくて、鼻腔をくすぐる度に頭の芯がふんにゃり溶けるような感覚がする。
一息整えるつもりで、大分深く呼吸してたのが仇になった。
疲れて暴れるの止めたんじゃなくて、いつの間にか頭の芯が溶けてたんだ。
もう腕にも足にも力が入らなくなってて、黙ってなのはに抱きつくしかなくなってた。

「あれ、どうしたのヴィータちゃん。急に大人しくなりすぎだよ?」
「…………」
「えへへへ、抱きついてくれるのは嬉しいんだけど」
「……るせーなぁ」
「ん? なぁに?」
「うるせ~。ちっと黙ってろよ……」
「はいはい」

 ちょっと落ち着くまで、なんて嘘言って。黙ってそのままくっ付いてた。
 
 
 
 
 
「んっふふ~」
「な、なんだよ。気色悪ぃな~」
「だって~。朝からヴィータちゃん分を補給出来ちゃったんだも~ん!」
「~~~///」
「そっか、そっか。今度から休みの日とかはこれ付けることにしゃお~っと」
「んぐぐぐ」
「あ、そうだヴィータちゃん。ちょっと汗かいちゃってない?」
「汗? どうだか、あんま分かんねーけど」
「今日は暑いから制汗も兼ねて付けとこーね」
「んひゃっ!?」

 バッグをゴソゴソしたかと思うと、小さなスプレーをアタシの脇やらに吹きかけやがった。
こういうのは冷たいって言うか、何か苦手なんだ。だから、はやてといた時もあんまりさせなかった。
女の子だから汗臭いのは駄目ーって言うのがそうらしくて、なのはとはやては同じ事を言う。
別に訓練後は汗臭いの当たり前だし、それ以外でもアタシのこと気にするヤツなんていないだろうに。

「これでヴィータちゃんも良い匂いするよ? ほら」
「うわっ、わっ! そんなとこに顔寄せんじゃねーって!」
「ん~……今日は髪、結ってないんだね」
「それはいいから! 早く離れろ!」
「や~だ。だって、さっきはヴィータちゃんがくっ付いてたんだから、今度は私の番~」
「……! ぐぬぬ」

 そのまま抱きついてくるなのは。
そう言われちゃ反論のしようがない。
今度はなのはに抱きつかれたまま、黙ってくっ付いてた。
 
 
  


 新婚なの! 5-2 (2) >


 

|

« 本部外広報 | トップページ | 新婚なの! 5-2 (2) »

新婚なの!」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 本部外広報 | トップページ | 新婚なの! 5-2 (2) »