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新婚なの! 4-3 (3)

 
「あらヴィータさん。お加減はいかがかしら」
「……んー。別にぃ」
「とてもそうは見えませんですけど。顔色も良くありませんわよ」
「……ふぅーん」

 午後のチャイムが鳴る前に声をかけられた。
どうやら今のアタシは顔色が良くないらしい。朝、髪を整えてたとき。鏡見てたけどどうだったかな。覚えてねーや。
ちゃんと……とはいい辛いけど、栄養的に朝食はばっちり取ってるし、なのはのヤツの準備だってしてきた。
仕事だって相変わらずのデスクワークだけど、しっかりこなしてる。
何も問題はない。ない、はずだ。

「何もないのでしたら良いのですけれど」
「残業イヤなら人の心配より自分の心配だぞ」

 アタシの返答に苦笑いを浮かべて帰っていった。
 
 
 
 
 
 昼休み中に午後からの航空隊候補生の教官要請が来た。
こういうのは事前に、せめて午前中に連絡しといて欲しい。
だけど、急に言われて機嫌が悪いとか気が乗らないとか、そういう事は言ってられない。
可愛い後輩の世話だかんな。それに、なのはと一緒に空を飛ぶかもしれねー連中だ。
ここ幾らかすっきりしない日が続いてたし、ここらで一度しっかり身体を動かしておくのがいいかも知れない。
ちょいとアタシの健康のために付き合ってもらうか。
恨むなら、ドタキャンした教官にしておくれ。
 
 
 
 
 
「たでーま~……」

 相変わらず真っ暗な家に帰ってくる。
午後からの訓練はアタシ的にはさっぱりだった。
どいつもこいつも出来が良くて、急遽任されたアタシとしては特にする事はなかったから。
しかも――これは空を飛ぶヤツには割りに多いんだけど――なのはやらの話をせがむヤツが多くて困った。
良い意味でも悪い意味でも"ユニーク"なヤツだからな、それだけ注目も高い。
隊員の誰かが、アタシとなのはが知り合いだってのを知ってたらしくて、合間の休憩に、てわけだ。
二度目の区切りの頃にはアタシもやる気なかったし、連中もそわそわしてたのは分かってた。
それで一通りのメニューをこなして、それから話に付き合ってやった。
先輩の話を聞くのも良いもんだ。課外授業ってヤツだな。
でも、それが良くなかった。アタシ的に。
なのはの話をする内に、なんつーか、その……随分熱が篭ってたみたいで。
隊員の一人に「随分詳しいんですね」だってよ。
そりゃそうだ。アタシとなのはは――って。そこまで言って、何故か続きを言うのが躊躇われた。
何でか分からないけど、何か胸の辺りが寂しいと言うか、背中を冷たい風が撫でていくような感覚というか。
兎に角、さっきまの熱が何処かにさらわれたみたいに無くなっちまって、一気に冷たくなる。
その後は適当に誤魔化して、それでもしつこく聞いてくる連中には特別キツイメニューをご馳走してやった。

「――ん? なんだ? 蚊帳がそのままじゃねーか」

 電気をつけて、少しだけの期待をこめてテーブルの上に視線をやる。
そこには朝、家を出たときのままの。蚊帳の中には手付かずの弁当とナフキンがあった。
次いでソファーの上。そこにも朝、出かけたままの格好の着替えが並んでいた。

「なんだよ、今日はいっぺん帰ってくる暇さえなかったのかよぉ……」

 そのまま制服の上着も脱がず、なのはの着替えを並べたままのソファーに倒れこむ。
今日は午後から。いや、午前中。ううん、もっと前。二日ぐらい前から自分の気持ちに整理がつかない。
やる気が出ないっていうか、何かどうでもいいって言うか、そういうの。
それでも弁当作ったり、着替えの準備したり、今度の休みに間に合うように仕事片付けたり。
なのに、それらすらもどうでもよくなったって言うか。
もう、何もしたくなくなった。
自分でも何が起きてるのか分からない。
ただ、とにかく身体に力が入らなくて、答えの見つからない押し問答を繰り返す。
答えがでなくても、このソファーに突っ伏してるってことだけは、どうしようもない現実。
そんな現実から目を逸らすかのように目を閉じる。
それでも何が変わるわけでもなくて、また思考はグルグルと迷路の中に迷い込むだけだった。
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 でも、こんな事してたってしょうがない。
明日だってまだ仕事があるんだ。こういう日は早く寝てしまうに限る。
結局何も答えが出るわけでなくて、アタシの胸のうちは変わらず空虚なまま。
それでも、小さな答えみたいなものは出てて、瞼の裏に浮かぶのはアイツの顔ばかり。

「なんだよ、なのはのヤツ…………早く帰ってこいっての」
「―――ただいま、ヴィータちゃんッ♪」
「………………はっ?」

 意識したわけじゃない。
散々悩んだり一人文句を言ったりした末に、思わず口から漏れた一言だった。
そんな独り言に返ってくる返事。
返ってくるはずのないその言葉に、アタシの頭は真っ白になって、身体を起こす事すら出来なかった。

「だから。ただいま、ヴィータちゃ~ん♪」
「い、いいいいい何時帰ってきたんだよ!?」
「何時って。今だよ」
「い、今ってお前。今日は……!」

 慌てて身体を起こし、上着の端末を探す。あれ、どこだ?見つからないぞ?
内ポケットやらをゴソゴソとしているアタシを見て、何を探しているのか分かったんだろう。
少し不思議そうな顔をしたなのはがにっこり答えてくれた。

「時間? それならね、今は十一時だよ」
「十一時? マジかよ、それじゃアタシ……」

 まさか。帰ってきてから一時間以上寝てたのか? いつ? そんなの全然気付かなかった。
待て。それよりも、なのはが帰ってきてることが変じゃないか? おかしくないか?

「いや、あのさ。今日は荷物も取りに帰って来れないほど忙しいんじゃないかって」
「ううん。帰れそうだって連絡したでしょ?」
「いや、なんつーか……」
「見てないの? もう。ヴィータちゃんはいつでも見てくれるって」
「あ、ああ、えっと……それは悪かった。でも、どこやったかな。端末」

 気まずい。ついこの間メールは見てるって言ったばかりだったから。
話を逸らす意味もあって端末を探す事にする。
そういえば今日は一回も使ってなかった気がするな。
どっかで落としたか? うーん、それなら連絡とかあっても良さそうなもんだし、どうしたもんか。

「ないの? それなら呼び出してあげるから。それで場所を確かめられない?」
「う、うん。頼む」

 胸元にしまったレイジングハートが光り、点滅を繰り返す。
便利だな、レイジングハートは。あんまりお前が優秀だからご主人がズボラになるんだぞ。
そのズボラのせいでどれだけアタシが苦労してると思ってるんだ。
いや、レイジングハートが悪いんじゃないよな。そうだぞ、なのは。自覚しろ。

「……あっ、鳴ってる」
「ホントだ。近くだぞ。え~っと…………あそこだ」

 音を頼りに辺りをキョロキョロすれば、端末の発する点滅はテーブルの椅子の足元からだった。
腰をあげて取りに行く。
何でこんなとこに落ちてるんだろうな……?

「良かったね。家の中で。それで連絡届いてる?」
「ちょっと待てって。え~っと……うん、届いてる。悪かったな、なのは」
「それ知らないって事は、朝に落としたの? 送ったのは八時ごろだったから」
「そうみたいだな。アタシが帰ってきたのは九時半頃だし」

 ちょっとバツの悪さから、さっさとしまい込んで椅子に座った。
ソファーに戻っても良かったんだけど、そこにはなのはと、その着替えが並んでて何か居心地が悪かったから。
居場所のなさそうに床に届かない脚をぶらぶらさせる。
なのはが帰ってくるなり恥かしい事言っちまうし、連絡は見てないし、何だか調子でない。

「ねぇ、ヴィータちゃん。お腹すいた」
「……お腹空いただ? なんだよ、こんな遅いのに食べてこなかったのか?」
「うん。だって」
「……だって、なんだよ」
「あのね。せっかく帰れるんだから、ヴィータちゃんが食べ、んじゃなかった」
「ん、なんだって?」
「ヴィータちゃんの作ったご飯が食べたかったから」
「あ、あっそ///」
「でも、こんな遅くなるんだったら食べて来れば良かったかな? えへへ」
「……あ、あー、そうだな。こんな遅くからじゃな」
「うん。やっぱりね、うん。言ってみただけだから、気にしないで」
「……ばーか。誰が作ってやらないなんて言ったよ」
「――え? 作ってくれるの!?」
「ま、まあな。アタシもまだだしよ。あ、勘違いするなよ。お前の為に作るんじゃないからな」
「うんうん。分かってる、ヴィータちゃん」
「アタシのついでだってこと、忘れるなよ。いいな?」
「えへへー。ヴィータちゃんが帰って来いっていうから帰ってきて正解だったみたい~」
「ば、ばばばばかっ! うっせ! そんなこと言ってると作ってやんねーぞ!」
「うんもー、連れないんだからぁ。ヴィータちゃんは。でも、うふっ」
「な、なんだよ気色悪い」
「さっきの。バッチリ録音できた?」
『Of course.』
「レ、レイジングハート!? お、お前までなに言ってんだ! 消せ! 今すぐ消せ!」
「駄目駄目。レイジングハートは私の言う事しか聞かないもん。残念でした~」
「あ、あー! やっぱり駄目だ! お前の分、作ってやんねー!」
「え~! ヴィータちゃんの意地悪ぅ」
「五月蝿い五月蝿い! バカバカ、バカ!」
『なのはのヤツ…………早く帰ってこいっての』
「ぎゃー! それを再生するなー!」
「これがイヤならヴィータちゃん。大人しく私のご飯を用意するなの」
「ぐ、ぐぐぐ……」

 初めからそのつもりだったから、別にイヤでもないんだからさ。なのはの分も用意してやった。
やっぱり作るなら一人分より二人分。やっぱり食べるなら一人より二人。
久しぶりにいつも通りの賑やかさ――には少し寂しいけど――を取り戻した食卓。
合間にテーブルの下で足を突っつかれたり、おかず取られたりして"いつも通り"の夕ご飯。
向かい合って食べる夕ご飯は久しぶりに"美味しかった"。
 
 
 
 

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