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新婚なの! 2-2 (2)


「おい、なのは! 待てって!」

 痛いぐらいにアタシの手を握るなのはに思わず声を上げる。

「痛い、痛いって!」
「…………」
「ったく。いきなりどうしたって言うんだよ」
「ごめん」
「ああ、痛かったぞ。全く、どういうつもりなんだよ」

 ある程度歩いたところでようやく離してくれる。
昔とは違う、大きくなった手で力いっぱいに握られたアタシの手は、すっかり白くなってしまってた。
まだ握られるみたいにジンジンしてる手を擦りながら、文句を言ってやる。
「おい、話聞いてんのか?」
「うん……ホントごめん」
「……?」

 回り込んで正面から文句を言ってやったんだけど、何やら様子が変だ。
こりゃどこかで落ち着いて話を聞かなきゃいけない雰囲気に感じる。
だが、どっか店に入って~と言うほど余裕もなさそうだ。
仕方なく、力なく垂れ下がったままの手を取って脇の路地へ引っ張り込んだ。

「なあ、どうしたんだよ急に。あの店に用事があったんだろ?」
「……うん」
「それをいきなり帰ろうだなんてさ」
「……ごめん、本当にごめん」
「いや、手を強く握ってたのには怒ってないからさ。な? 理由を言ってみろって」
「……あのね、そうじゃないの。そうじゃないの」

 珍しくハッキリしない。こりゃ落ち込んでるな。
自分に原因があると思ってるときは押し黙るタイプだってのは分かってる。
だけど、何があったっていうんだよ。
別にアタシが見てた限りじゃ何かしたって風には見えなかったし、店員にも問題があるとは思えない。
こういう時は、強引にでも聞き出してやるべきなんだ。
その辺フェイトは上手く出来ないみたいなんだけど、アタシは遠慮がないからな。

「言ってみろよ。お前の悪い癖だぞ」
「……うん。あのね、さっきのお店でのことなんだけど」
「店? なにかあったのか?」
「ヴィータちゃんに悪かったなって。無理矢理連れてきたりして」
「アタシが? どうしたって言うんだよ」
「きっと気を悪くしたって。そうなるんじゃないかって分かってたのに」
「何を分かってたって言うんだ。話が見えてこないぞ」
「店員さんに言われて、ヴィータちゃんが傷ついた……」
「な、なんだ、そんな事か。あのな、あのぐらい慣れっこだっての。気にすんなって」
「ウソばっかり」

 落ち込んで控えめに喋ってたなのはが、はっきりと、腹の底から響くような声で言った。

「な、なにがだよ」
「分かってたよ。言われたとき、ヴィータちゃんの身体が一瞬強張ったの」
「んぐ……」
「繋いだ手から伝わってきた。ヴィータちゃんの堪えようと無意識に力が入ったのが」
「…………」
「迂闊だった。さっき話を聞いたばかりだったのに。お店に入ったときに帰るべきだった。
 いつもの店員さんがいないって分かったときに。なのに浮かれてて、自分のことで頭がいっぱいだった」
「あ、あのさ。なのはが機嫌良いのは分かってたし、その……」
「ヴィータちゃんを放っておいて自分のことばっかりなんて。私、いきなり失敗しちゃった」

 なるほどな。
アタシに気を使えなかったことを悔やんでたってわけか。

「良いじゃんか。たった一回の失敗なんてよ。次で取り返せば良いじゃん」
「で、でも! 次、次って言ってるうちに、その次が来なかったら!?」
「お前さ。そんな失敗することばっかり考えてどうすんだよ。もっと前向きに行こうぜ」
「で、でも……」

 手が真っ白になるぐらい強く握ってるのが、灯りの少ない路地でも分かる。

「なあ、あの店に行って本当は何をするつもりだったんだ?」
「う、ん?」
「あんな楽しげにするぐらいだからさ、何かすっげー楽しいことがあんだろ?」
「う、うん。少なくとも、私としては……」
「まだそれを聞いてないなって。な、それを教えてくれよ」
「……そっか。そうだったね」

 手に込められた力が弱まり、小さく何度も深呼吸をする。
気持ちを落ち着けるのにはそれが一番だ。ゆっくりすると良い。待っててやるからさ。

「落ち着いたか?」
「うん。えっと、あのね。今日は指輪を買いに行くつもりだったんだ」
「指輪? 指輪なんて買ってどうすんだよ」
「どうするって……ヴィータちゃん。結婚指輪だよ」
「結婚指輪? えーっと、なんだそれ」

 びっくりと目を見開く。
なんだよ、そんな驚くような事なのかよ。あにさ、その結婚指輪ってさ。

「結婚したら二人でつけるんだよ? こうやって、左の薬指に」
「へー、左の薬指につける指輪ってそういう意味があったのか」
「そうだよ。だから、それを買いに来たの」
「ふーん、そう言うモンなのか」
「うん。それで実は三ヶ月ぐらい前から通ってて、デザインとか相談に乗ってもらってたの」
「三ヶ月も? っていうことは、お前。そんなに前から結婚する気だったのか?」
「ううん、結婚自体はもっと前から。ただ、実際に決意したのはそのちょっと前ぐらいかな」
「う、う~ん」
「それで今日まで内緒にしててヴィータちゃんをビックリさせるつもりだったんだけど……」

 全然気付かなかった。
一ヶ月も前から考えてたのか。そんな事してる風に見えなかったぞ。
ほぼ毎日一緒に居たっていうのにな。まだまだ分からない事だらけだぜ。

「そうだったんだ……そっか。うん、分かった」
「分かったって、何が?」
「お前がどんだけ楽しみにしてたかって事」
「う、うん。でも、そのせいでヴィータちゃんに……」
「だからそんな気にすんなって」
「でも! さっきはヴィータちゃんが姉妹みたいに、違う風に見られるのがイヤだって」
「まあ、そうは言ったけどさ。それなら尚更指輪が必要じゃん」
「えっ?」
「そ、その、結婚したら着けるんだろ? だったら、それが分かるように買わなきゃいけないじゃんか」
「ヴィータちゃん……」
「なのはがどんだけ楽しみにしてたか。それを無駄にするわけにもさ、いけねーし」
「わ、私の為に……?」
「あ……! ち、ちげーよ! こ、これは勘違いされないために、その、そうだ! アタシ自身のためなんだ!」
「えへへ、ヴィータちゃん」
「か、勘違いすんなって言ってんだろ! 別にお前のためなんかじゃねーって!」
「ヴィータちゃん!」
「うわっ、わわわ!?」

 しまった。
相手が楽しげなことを考えてるときは、乗ってやろうって。
でもこれは、アタシだけの、胸の内にだけおいておく事で、なのはなんかにバレないようにしてたのに。
思わず口に出して言っちまった。
くそっ。なんだよ、今まで時化た顔してたくせによ。
え、ええいっ! 離せって! 抱きつくな!

「……うぅん」
「ば、ばか! いくら人通りの少ない路地だって、こんなところで抱きつくなって!」
「…………ありがと、ヴィータちゃん」
「だ、だから勘違いすんなって。別にお前のためにやってんじゃないんだからな……」
「……うん、分かってる」
「ふんだ。アタシが勝手にすることなのに礼なんて言ってよ」
「私だって勝手にお礼言ってるだけなんだから……気にしなくて良いよ」
「そんな鼻詰まらせた声で言っても説得力ないっての……」
「そだね……」

「なんだかあのお店、行きづらくなっちゃったな」
「そうか? 別にアタシは気にしないぞ。それに、あそこで相談に乗ってもらってたんだろ?」
「それはそうなんだけど」
「同じデザインの、他の店にあるのか? ないんだったらあそこで買わなきゃな」
「デザインって、え?」
「もう決めてるんだろ? そんぐらい分かるって」
「でも、ヴィータちゃんは見てないんでしょ? だったら……」
「三ヶ月も悩んでたなのはを信じてやる」
「い、良いの?」
「まあな。それに、アタシそういうのあんま分かんねーしさ」
「うん……」
「良いか。もう二度と言わないからな。もう聞いたりするんじゃねーぞ」
「分かってる、ヴィータちゃん……」
「そんでさ」
「うん?」
「いい加減降ろしてくんねーかな。恥かしくて堪んない……///」
「だーめ。家に帰るまでこのままなんだからね」

 結局タクシーを拾うまでこの格好のまま。
全く。酷い新婚一日目だ。
 
 
 
 

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