« 新婚なの! 3-2 | トップページ | 甘く慰めて 前 »

新婚なの! 3-3

「まあ、訓練生の撃ち洩らしだ。別に発注しておかなくても大丈夫だろ」

 上手く担当官を捕まえたアタシは、片づけをしておくって訓練室の鍵を奪い取った。
まだ午前の熱気が立ち込める訓練室には、破壊し損ねた標的が見える。
今日の訓練生は余程出来が悪かったのか、まだそこら辺をウヨウヨ飛んでやがった。
こりゃ担当官が割りにあっさり譲った理由が分かる。
アタシの「ちょっと一暴れしてーんだ」の一言に、やけにあっさり渡したからさ。怪しいと思ったんだ。
そりゃ、ここでアタシがぶっ飛ばしたのを訓練中の分に含めておけば、一応ノルマクリアだからな。
そうでもしなきゃ、上官に呼び出されるかもしんねーし。
……ま、後でこっそり報告しとくか。
訓練生用に調整された標的は、まるで田んぼの真ん中に立ってる案山子みてーだ。
いつもは口やかましく、あーしろだ、こーしろだ文句を言いんだけど、今日みたいに一人のときは関係ない。
兎に角大っぴらに魔力を開放して、目立つのもお構いなしにアイゼンをブン回して、フリーゲン四方八方にぶっ放して。
ド派手に遮蔽物ごと吹っ飛ばすのは気持ちが良い。
やっぱ、ちまちま攻めるよりも、こうやってドカーンと派手にするほ……んぐ、いけねぇ。
いつの間にかなのはの悪い癖が感染っちまってるみたいだ。
そうだ。いっつも注意してる立場のアタシが同じこと言ってどうすんだよ。
気をつけておかねーとポロッと出ちまうかもしんない。

「さってと。汗もかいたことだし昼休みが終わる前にひとっ風呂浴びとくか」

 派手に暴れまわったせいで、汗まみれに埃まみれだ。
午後もデスクワークなんだ、臭いままで部屋に篭って夜まで居るわけにはいかねぇ。
少しだらしなくネクタイを緩め、胸元を開けて浴室へ足を向けた。
 

 

 
「みんな昼飯かぁ……って!? なのは!」
「んー?…………あっ!? ヴィータちゃんだー!」

 しまった。
訓練室で暴れまわってスッキリしたって思ってたのに、まださっきの感覚が残ってたみたいだ。
思わずなのはの顔を見たら、大声で名前を呼んじまった。
お陰で周りから視線を感じるし、何よりなのはがこっちに向かってきてる。
どんどん近づくなのは。それにつれてアタシの胸がドキドキと何かを訴え始めた。
なのはの足、なのはの胸、なのはの指、なのはの……唇。
こういうのを蛇に睨まれた蛙っていうのか?
なんか違う気がするけどよ。
もうアタシは、その場にぴったり足の裏が張り付いて身体がぴくりとも動かない。
なのはから……目が離せないんだ。

「どうしたの、ヴィータちゃん」
「べ、べべべ別に!」
「私のこと呼ぶなんて珍しいね。何か用があったんじゃないの?」
「ち、違うっていうか、その……あってるっていうか。えっと……」
「? どうしたの?」

 不思議そうにアタシの顔を覗き込む。
少し身を屈めた胸元には、何かいくつか書類なんかが抱えられていた。
今まで指ばっか見てて全然気付かなかったや。

「あ、あのよ。それ。どうすんだ」
「それって、これ? うんとね。これから今度の合同訓練の打ち合わせに行くんだよ」
「合同訓練?」
「うん。本局と海の方でね。やっぱり隊員の融通をするのに相手側の勝手が分かってないとやり難いし」
「そ、そっか」
「あ、そうだ。丁度良いところだから言っておくね」
「あにをさ」
「その打ち合わせで今日は遅くなるだろうから。ご飯の準備、しておかなくて良いよ」
「そ、そっか……」

 なんだ、今日は晩飯要らないのか。
ま、いっか。どうせ今日は残業で定時には帰れそうに無いだろうしさ。
これなら夕食はその辺で適当に買ってきて済ませられるし、楽チンだな。
うん、そうだ。そうしよう。
そうだな。うん、そっか。晩飯要らないのか……

「じゃあ、行ってくるね」
「お、おい。待てよ、なのは」
「うん?」
「ちょっとこっち来い」

 せっかく身体を起こしたのに、アタシが呼び止めるものだからまた身を屈める。
これから出かけるって言うんなら、してやらなきゃって言うか、違う。いけないことがある……うん。
ちょうど出かけるってところで会ったんだしな。

「ちょっと顔が赤いよ?」
「そ、そんなこと分かってるよ」
「それにちょっと汗かいてる。熱でもあるんじゃ……」
「た、確かに熱いけどさ。病気とかじゃねーから心配すんな」
「ヴィータちゃん、直ぐそうやって言うから」
「アタシはお前ほど我慢強くねーよ」

 違うや。そんなことを言いたいんじゃない。

「何か言いたいことがあるんじゃない?」
「う、うぅ……」
「……お昼もまだだし、帰ってから聞くね?」
「ま、待てって!」

 慌てて引き止める。
空いた右手を引き寄せて、殆ど力を込めなくてもなのはは止まってくれた。

「なぁに?」
「あ、あのさ。これは不公平だからだ。アタシばっかりじゃ損だし」
「なんのこと?」
「朝から全然仕事進まねーし、今日から忙しくなるって言うのにさ。お陰で残業決定だ」
「話が見えないんだけど」
「そ、そもそもお前が二人で休み取ろうなんて言わなきゃ忙しくならなかったんだ」
「それはヴィータちゃんが合わせてくれるって」
「と、とにかく! お前のせいで朝からアタシは大変なんだ。起こさないと起きねーしよ!」
「ご、ごめん」
「忙しくなった原因はお前なのに、アタシばっか割り食って不公平だ」
「朝のは感謝してる、私の時間に合わせてくれたの。でも、その後のことは知らないよ」
「しらばっくれんな。自分が出かけに何したのか忘れたのかよ。忘れたなんて言わせないぞ」
「え、え~っと」
「そのお陰なんだ。そわそわしてムズムズして、その事ばっか気になって。お前の事ばっかり、頭に浮かんでくる……」
「ヴィータちゃん……」
「だからだ。これはその仕返しだ。アタシばっか割り食ってちゃ不公平だからだ」
「???」
「別にしたくてする訳じゃねーぞ。仕返しなんだからな! 勘違いするなよ!」
「だ、だから何を……」
「いいから屈め!」
「え、あっ、ちょ……っ!?」

 一頻り言い訳は済んだ。
分かってるんだ。本音じゃない、全部じゃないけど。
確かに仕返しはしてやりたい。なのはのせいで今日のアタシは何だか自分じゃないみたいなんだ。
こんだけアタシが半日そわそわして。仕事も手につかない。調子狂う。
だから、今日の午後からは、なのはの番だ。
一日そわそわしてムズムズして。何だか自分じゃないみたいで周りから茶化されりゃ良いんだ。
Vattach_32

「ヴィ、ヴィータ、ちゃん///?」
「…………っん。ほれ、早く行け///」

 ゆっくりと唇が離れる。
鼻に慣れた微かな香水の匂いに、鼻先を撫でた髪の香り。
唇に残る頬の感触に、腕や指とは違う初めて感じる身体の温かさ。
次いでネクタイにかけた指の力を緩めて、少しずつ伸ばした踵を下ろし、顔を離していく。
はやて以外だとリインにしかした事無かったけど、みんなこんな風に柔らかいものなのか?
離したばかりだって言うのに、また引き寄せたくなる。
「早く行け」なんて言ったくせに、離れたくなくて、最後まで指を緩めて踵を地面に着けることが出来ない。

「あ、あの、えっと///」
「だから早く行けって言ってるだろ。遅れんぞ///」

 顔が見れない。いいや、見てられない。
何とか指を離そうと、意識しないように下を向いてるっていうのに。
これ以上、なのはの顔見てたら離れられなくなりそうだから。
これ以上、なのはが近くにいたら離したくなくなりそうだから。
だから早く行けって言ってるのに。
なんでアタシの目の前からなのはの足が見えなくならねーんだよ。
くそっ。こんな風になるなんて予想外だ……

「ヴィータちゃんっ!」
「お、おおいっ!?」
「ねぇ、今のは行ってらっしゃいのキス? そうでしょ、そうなんでしょ?」
「ば、ばかっ///! そんなこと大声で言うんじゃねーよ!」
「やっぱりそうなんだ。そうなんだ~」
「離せ、離せって! ここがどこだか分かってんのか!?」
「そんな事いってぇ。だったらこんな所でチューしたヴィータちゃんはどうなのぉ?」
「うぐ、うぐぐ……!」
「えっへへへへ。うっれしいな~。ヴィータちゃんがチューしてくれたー」
「バカ! 離せ! 降ろせ!」
「それじゃあ、はい。行ってきまーす(チュッ」
「あっ」
「えへへ。行ってらっしゃいして貰ったから、行ってきますのチューだよ///」
「~~~~~っ///!!!」
「じゃあね~、ヴィータちゃ~ん」

 手を振って、何度も振り返りながら出かけて行くなのはを、また右頬を押さえながらボーっと見送ったりした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…………はぁ、なんてこった」

 アタシだけじゃ不公平だって、下手な言い訳までしたのに。
そりゃちょっとはさ、なのはにもドキドキさせてやろうって言うか、同じ気持ちを味合わせてやろうって思ったけど。
今度はチューされただけじゃなくて、した感覚まで身体にしっかり残ってやがる。
しかも、ロビーなんかでしたせいで、昼休み真っ盛りの。
随分大勢見てたみたいで、午後からは部署中の連中に質問攻めに遭うし。
そのせいで、午後は完全に仕事どころじゃなくなっちまってさ。
深夜になのはが帰って、家にいないアタシを迎えに来るまで残業になっちまった。
全く。とんでもない新婚二日目だ。

「私はそんな事なかったかな~?」
「うっせー///」
 
 
 
 新婚なの!4-1 へ。

 

本日のイラストは楽描き格納戸のカプセル超獣さんにいただきました。
 
 
 

|

« 新婚なの! 3-2 | トップページ | 甘く慰めて 前 »

新婚なの!」カテゴリの記事

コメント

なのはがすごく可愛くて悶えましたw
それにしてもこのヴィータ…最初よりもだんだんなのはに惹かれて来ているような気がします。
ほっぺたで真っ赤になるとは。なんて愛らしい!

これからも頑張ってください!応援してます。

投稿: 西野加奈 | 2007年10月16日 (火) 07時48分

 コメントありがとうございます。

>それにしてもこのヴィータ…最初よりもだんだんなのはに惹かれて来ているような気がします。

 ヴィータの今後の動向にご注目ください!? どんどんデレていくのかもしれませんね。

投稿: aya | 2007年10月16日 (火) 23時17分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 新婚なの! 3-2 | トップページ | 甘く慰めて 前 »