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新婚なの! 5-3 (1)

 
「ありがとうございました」「した」

 あれから慌ててタクシーに転がり込んだなのは。
アタシはというと、後部座席で運転手を背に抱きついたまま。
なのはが行き先なんかを説明しているときも抱きついたまま。
はっきり言って恥かしすぎて、今更離れる事なんて出来ないもんだから、ずっとくっ付いてるほか無かった。
今更離れたところで一体どういう顔すりゃ良いんだよ。
でも、そんなアタシのことをどう勘違いしたのか、なのははずっと背中を擦ってくれてた。
なのははアタシを落ち着かせようとしたんだろうけど全く逆効果で、落ち着くどころか興奮してしまった。
そんな状態で離れると、この狭い車中で何するか分からなかったら、余計に離れられない。
だから仕方なくずっと抱きついてた。
うん、仕方なかったんだ。

「うぇっへへ~」
「な、なんだよ、その気色悪ぃ笑い方はよ」
「だってぇ、今日は朝からヴィータちゃん分を補給しすぎてるかな~って」
「う、うっさい///! そんなだらしない顔すんならもう補給させてやんねーぞ!」
「わ、分かったヴィータちゃん!」

 言った途端にキリリと凛々しい顔つきにな……いや、それを通り越して殺気立ってる。
い、いかん。これじゃ一騒動起きそうな勢いじゃないか。
コイツはやる事が極端なんだ。
だらしない顔するなとは言ったけど、そこまでやれとは言ってない。
ココは、なんとは早く間違えを直させないと大変なことになる。

「ま、まあ今のは言い過ぎた。例えばの話だよ、例えば。な、そんないつもピリピリしなくたって……」
「そう?(にぱー」
「―――はぁ?」
「ヴィータちゃんならそう言ってくれると思ってた~。もう、こんな顔するの疲れちゃうよ~」
「な、なな何言ってんだ?」
「ヴィータちゃんは優しいよねって話」
「そ、そんなこと言ってないだろ。今のは上手くいったぜ!って顔だったぞ」
「え~、私そんな顔してないったら」
「いいや、してたね。局の総務課を誤魔化せてもアタシの目は誤魔化せないぞ!」
「何で総務課かな。ま、いっか。そうだね。ヴィータちゃんの目は誤魔化せないね」
「ふん、そりゃそうだ。なんたって―――」
「私のこと大好きなんだもんね。やっぱり好きな人のことは一番詳しくいたいもん」
「な、ななな!」
「私のことヴィータちゃんが一番詳しく居てくれて嬉しいな♪」

 目まぐるしく変わるなのはの表情やらに振り回されて、全然頭がついていかない。
どこまでが本当でどこまでが嘘なのか、さっぱり何やら分からなくて、何とか喋ろうにも口がモゴモゴするばかり。
結局最後には、ニコニコ笑うなのはに頭を撫でられて、なんとなしに落ち着いてしまうんだ。
これが悔しくってしょうがない。

「うぅ~」
「ほらほら、怒らないでヴィータちゃん。もうお店の前なんだから」
「お、お前! それを分かっててやったな!」
「まさか。私、そんな器用なこと出来ないよ? いつもは私、鈍いんでしょ?」
「う、むぅ~」
「そんな牛さんみたいに唸ってばかりだと、せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃう」
「んが、むぐぐ」
「えへへ。ヴィータちゃんのお鼻、可愛い~」
「んぐ~……ってい! 人の鼻を摘むな!」
「うふふ。プニプニしてて可愛かったよ? さて。そろそろお店に入ろっか?」
「くぅ~!」

 てんで悪いと思ってないような――いや実際思ってないかもしれない――顔で、さも当然のように手を差し出す。
アタシも一応は悔しがって見せるけど、ホントのところ、言うほど悔しがってはいない。
なのはに付き合ってて、これぐらいで頭に血を上らせたら幾ら頭の血管があっても足りやしない。
こればっかりは、なのはとの付き合いが長くて、且つアタシだけが得ている理論だ。
いや、アリサ辺りは知ってるかもしれない。
逆に付き合いが長くても、はやてとフェイト、すずかは知らないかもしれない。
そりゃそうか。その3人の前で、なのはがそんなふざけた態度取ったこと無いもんな。
いつもアリサが一人でプリプリ怒ってるだけだ。
こんな態度、特にフェイトの前じゃ…………まあ良いや。今は止めとこう。

「今日は素直に手を繋いでくれるんだ」
「ま、まあな。今日はそういう日だし、偶にはこう言うのも良いだろ。い、嫌なら別にしなくたっていいんだぞ」
「ううん! とっても嬉しいよ!」
「ふ、ふん。なら良いさ」

 なのはに手を牽かれ、店のドアをくぐる。
真っ直ぐ見つめた先のディスプレイの前には、この前とは違った店員がかしこまっていた。
他に店員も客も見当たらない。
その人はアタシ達を確認するや否や、深々と頭を下げ、ゆっくりと上げると素敵な笑顔を向けてくれた。

「こんにちわ。お久しぶりです」
「先日は失礼致しました。まさか急用が入ってしまうだなんて」
「いえ、こちらこそ予定より早くお伺いしてしまって」

 アタシより一歩前に出て店員さんと真面目にやり取りするなのは。
こういうなのはを偶に見ることがあるけど、とても同一人物には見えない。
航空隊の教導で一緒になったり、他に局の仕事をしているところをだったり。
そろそろ入局10年を迎えるベテランっぽいその姿に、びっくりするやら見直すやら。
でも、そう思うのはアタシを含めほんの一部で、いや、下手をしたらアタシだけかもしんない。
その他、殆どの連中は"そういうなのは"を、本当だと思ってるわけだから。
初めのころは、それが腹立たしいかったと言うか、嘘つき呼ばわりされそうな勢いだったのを思い出す。

「それではご注文の品を直ぐにお持ちいたします。こちらでお待ちください」
「はい、分かりました。それじゃヴィータちゃん、行こうか?」
「あ、ああ。分かった」
「なに? 何か考えごとでもしてた?」
「し、してないぞ。なんでさ」
「だって。私の手、ずっと握ったままだったから。お店に入ったら直ぐに離しちゃうのかと思ってた」
「おわあっ!?」

 言われて自分の手を見てみると、アタシの右手はしっかりとなのはの左手を握っていた。
少し自慢げに、誰にするでもないくせにそういう顔をする。
慌てて大げさに手を振り払い、数歩距離を取った。
その際間抜けな声を上げちまったけど、幸い他に店員も客もいなくて、これ以上恥かしい思いをすることはなかった。

「もう、どうして離しちゃうの?」
「あっ……そ、そりゃお前、なんだ」
「なぁに?」
「人前であんま引っ付くもんじゃねーからだ」
「人前で? だったら人前じゃなかったら良いんだ」
「何でそういう発想になるんだ? 否定しない事は必ずしも肯定じゃないだろ」
「でも、肯定しないからって否定にはならないよ」

 これじゃ堂々巡りだ。
確かに「○○をしちゃいけない」とあれば、それ以外はしても良いってことでもある。
けど、それは積極的に肯定することじゃなくてだな、その……
あー、くそ。面倒なヤツだな。アタシは!

「……それで良いよ」
「ん? なにが」
「お前の言う通りで良いって言ってんの!」
「本当? わーい。えへー」
「ちょ、調子に乗ってくっ付くな! そ、それとな、さっき手を離したのはだな」
「離したのは?」
「ただ。ただ、いつもの癖が出ただけで別に他意はない。それだけ」
「じゃあ、今もくっ付いてて良いんだね?」
「ま、まあな///。ほれ、あっちで待ってろって言われてたんじゃなかったのか?」
「うん。じゃあ、あっちに行ってゆっくりベタベタしてよーね~」
「あ、あの店員さんが来たら離れるんだぞ。あんますると禁止だかんな!」
「は~い」
「ホントに分かってんのかよ」

 いつも通りのなのはの反応に、不安を抱えながらも繋ぎなおした手に牽かれて奥の別室へ足を運んだ。
 
 
  


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