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新婚なの! 2-2 (1)

「もう、そんな拗ねないでよヴィータちゃん」
「そ、それはお前だろ。アタシにすんじゃないって。なんだよ、分かりやすく口を尖らせちゃってさ」
「べ、べっつに。拗ねてなんてないもん」
「あのさ、二人っきりとかなら良いけどさ。こんなところでむくれるなって」
「だってぇ」
「だってじゃない」

 一頻り喚いたところで、人の目が気になってそそくさと庁舎前を後にした。
最初はアタシがなのはを引っ張ってたのに、途中から走るなのはに追い越され、最後にはアタシが引っ張られちまった。
なんてこったい。
二つほど路地の向こうへ走ったところで足を緩め、人通りの少なくなったところで足を止めた。
全力疾走というほども走っていないから、息切れをすることもない。普段の訓練様々ってやつだな。
そうやって一息ついたところで飛び出したのが、冒頭のなのはの言葉ってわけ。
全く。失礼極まりないぜ。
なんでアタシが拗ねたりしなきゃいけねーんだっての。
別になのはに引っ張られた事なんて気にしてないんだからな。
歩幅が大きいんだから、走ってるうちに追い抜かれるのなんて織り込み済みだっての……ふん。

「んで。どっか行きたいところあんだろ?」
「あ、うん。そうそう、忘れるところだった」
「しっかりしてくれよ。アタシはどうするか知らないんだからな」
「大丈夫、任せておいて!」
「どうだか……」

 泣いたカラスがもう笑ったならぬ、拗ねたなのはがもう笑うってところだ。
こういう様子ってさ。局で訓練受けてたりしてるだけの連中は知らないんだろうなって思うと堪らない。
仕事してる最中は勿論、戦ってるときなんて魔王の名前に相応しい格好だもんな。
そんな風に魔王なんて呼ばれてるヤツが、直ぐに拗ねたり笑ったり、どっちが子供か分かりやしない態度を取るって知らねーだん。
そうそう、入局当初は白い悪魔だったんだけどさ、程なく魔王に昇格したんだ。
まあ、本当に心の底からビビって魔王呼ばわりしてるヤツはいないけど。親しみを込めてこっそりそう呼んでる。
もし耳に入ったときは……それこそ魔王降臨かもしんない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「なぁ、マダなのか?」
「もう直ぐだよ」

 あれから割りに歩いた気がする。
ただその間あんまり喋らなかった。別に話す事もないしな。
何分かに一回、「なぁ、まだか?」「まだ。もう少し~」なんて痺れを切らした子どもと親みたいなやり取りを繰り返すだけ。
あんましつこく聞くと怒るかと思ったけど、何回聞いても機嫌よく答えてくれる。
その内に、楽しみにしてる様子にアタシも引っ張られてというか。
だから、その後は黙ってついて行くことにした。
それでも、退屈しないように何か話してた気がしたんだけど、えっと……なんだったかな。
う~ん……思い出せないってことは大したことは喋ってないんだろうな。うん。
毎日顔を突き合わせてるからな。特別なにか喋ることなんて無いんだ。
そんなこんなで黙って手を引かれるまま、人ごみの中を歩いていく。
すっかり日も暮れて、辺りは街灯と店のウィンドウから漏れる明かりと、道を行きかう車のライトが照らしていた。
明るさ加減で言うと、こっちも日本も余り変わらないのな。
こっちの世界ならさ。なんか凄い技術でもっと明るくたって良いのによ。
だから、こっちの世界でも夜道が危ないのは同じで、女子どもには危険なんだ。
……まて。アタシは大丈夫だぞ? なりが小さいだけで、大人なんだからさ。
け、けけ……結婚もしたしよ。

「ヴィータちゃん、あのお店だよ」
「う、ん?」
「どうしたの、ボーっとしちゃって。考えごと?」
「べっつに。あんま退屈だからボーっとしてただけだよ」
「えー。私といて退屈だなんてちょっとショック」
「お前と一緒にいると退屈するか命が縮まるかのどっちかだけだろ?」
「失っ礼だなぁ、ヴィータちゃんは」
「おい、着いたぞ。この店だろ?」
「あ、もう! 話逸らさないでー」

 またなのはのヤツはむくれたけど、一々構ってやらない。
そういうのは、もう通り越したんだ。もうとっくにさ。
たま~に、アタシの機嫌が良いと構ってもらえる。
だから、それはなのはも分かってて、一応そういう態度を取っておくってだけ。
それに今日のなのはは普段の機嫌が良いときと比べて一段と機嫌がいい。
ちょっとした事じゃホントに怒ったりしない雰囲気だ。

「ふんだ、良いもん。ヴィータちゃんなんか」

 何が良いのかしんないけど、結局はアタシの手を牽いて店の中へ入って行こうとする。
そういや、この店ってなんの店なんだ?
外観はシックだけど、ウィンドウから覗ける店内の様子は随分と豪華そうだ。
何ともいえない空気の抜けるような音と共に扉が自動的に開き、なのはに続いてアタシも店内に足を踏み入れた。

「こんばんわー」
「あ、いらっしゃいませー」
「あの~、何時もの……えっと、こう、髪がこれぐらいの人は?」
「髪がこのぐらい……ああ、彼女でしたら今日は早引けしました。何かご予約でも?」
「いえ、そういう訳では」
「でしたら私がご案内させて頂きますが」
「うぅ~ん……今日は見るだけにしておきます」

 店の中に入って分かった。
ここは所謂ジュエリーショップってところだ。
少しディスプレイが高いところにあるもんだから、もう少し近寄ってみないと分からないけど雰囲気的にそうだ。
しっかし、なのはのヤツ。ここにどういった用があるんだろうな。

「ほらほら、ヴィータちゃん。こっち」
「あ、ああ。そんな引っ張んなって」

 アタシの疑問なんて知ってか知らないでか、ご機嫌ななのははアタシをディスプレイへ引っ張っていく。
まあ、アタシも自分の予想を確かめるために様子が気になってたから、別に気にしないけどさ。
そうやって牽かれるままついていくと、少し高めのディスプレイに届く。
少し覗き込むように首を伸ばしてみれば、何処からか分からない光源に照らされてキラキラ輝くモノが目に入ってきた。
やっぱりそうだ。ここはジュエリーショップってやつだな。
ケースの中に並んでいるモノをよーく右から左に眺めていくと、指輪ばかりが目に入る。
他の商品は別のケースに並んでいるんだろうか。まさか指輪専門店ってこともないだろうし。
隣にいるなのはの事なんてすっかり忘れた風に視線を巡らせていれば、案の定。詰まらなそうな声を出す。

「ねぇねぇ。私の話聞いてる?」
「う、うん? 聞いてる、聞いてるぞ」
「ウソばっかり。じゃあ、今私が良いな~って言ったの。どれ?」
「んぐぐ……え~っとよ。こっちからだと位置が違ってよく分かんないんから困ってたんだ」
「ふんだ、ウソばっかり。良いですよ。じゃあね、ヴィータちゃん。ここにある指輪なんだけどね――」

 アタシの下手な言い訳に口だけ怒った風ななのは。
それでも何か楽しいのか、口ほど気にしてないのが繋いだ指を通して伝わってくる。
ご機嫌ななのはにほっと胸を撫で下ろすやら、アタシも楽しみになってくるやら考えていると頭の上から声が降ってきた。

「何をお探しですか?」
「――え?」
「若しかしたら、そちらのお連れさまに? 服装から入局お祝いか何かとお見受けしますが」
「い、いえ。違うんです」
「随分とお若くして入局されているようで、お姉さまとしても鼻が高いのでは?」
「!?」

 ケースを挟んで向こう側の店員。
よく訓練された営業スマイル。少し上体を乗り出しアタシを覗き込むようにこちらを見ている。
ああ、完全に「歳の離れた親戚か何かにプレゼントされる小さい子」を見る目だ。
そして視線を上げれば「年の離れた親戚の子にプレゼントしてあげるお姉さん」を見る目になる。
別に気にしちゃいない。この位のことなんざは。
局の中でもアタシのこと知らなきゃ、「あ、また子どもが入局してきたのか」って思うのが普通だろうし。
そういうのには慣れっこなんだ。
任務で出かけた先での事とかさ、入局して10年近くも経てばイヤでもそうなってくる。
それに、なのはと結婚したって事なんて見た目には分かんないんだしよ。
……庁舎で愚痴った後じゃ説得力の欠片もないけどさ。
そうさ、気にしてなんざいないんだ。

「あ、あのさ。なのは」
「――済みません。今日は帰ります」
「こちらなど流行色で――って、え?」
「今日は様子を見に来ただけですから。また来ます」
「は、はぁ。それでしたら」
「行こう、ヴィータちゃん。冷やかしが何時までも居座ってたら悪いよ」
「お、おい。ちょっと待てって」

 声のトーンは変わってない。
けど、明らかに機嫌が悪くなってるのが分かる。
それはきっと、アタシやフェイト、はやてとかぐらいにしか分からないぐらいの変化。
でも、それは……

「ありがとうございましたー。またのお越しをお待ち……」

 扉が開くのも待ちきれないといった感じで店の外に出ようとするなのは。
今までに無くアタシの手を強く握って引っ張るので、理由を聞くより黙ってついて行くほか無い。
後ろでは呆気に取られながらも、キチンと挨拶する店員の声が聞こえる。
でもそれは、なのはの耳には入ってないんだろうなと思いながら店を後にした。
 
 
 
 

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