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新婚なの! 5-1 (2)

 
「起きた? それならね、目玉焼き? それとも違うのにする?」
「んー……目玉焼きで良いや。ふぁあ~」
「分かった。それなら先に顔洗ってきてね~」
「へいへい」

 随分やる気みたいだ。
ついこの間も朝の用意してもらったけど、実を言えばなのはが準備することは殆どない。
毎日アタシが起こしてアタシが準備して……ってこと。
一人暮らしするために、はやての特訓受けたんだけどよ。その成果の殆どはなのはの世話に使われている。
何だかズボラ加減に拍車を掛けちまった気がしないでもないんだけどよ。
まあ、偶にこうやって代わってくれるし、それほど文句もない。
だけどさ。普段やらないのは出来ないからじゃなくて、本当は出来るんだけど~っての。ムカつくなぁ。

「ふぃ~。すっきりした」

 顔を拭きながら鏡に映った自分を見る。
自覚はないけど、すっかり顔色も元通りらしい。うん、そう見える。
たった一日でこれじゃ、アタシも情けないもんだ。これだからさ、からかわれたりするんだな。
濡れない様に前髪を脇に留めてたヘアピンを外し、改めて後ろ一本で髪をまとめる。
これから朝飯だからな。だらだら垂れてくるようじゃ行儀が悪い。
さて。歯でも磨くか。
何度言っても聞かなくて、結局アタシが根負け。一つのコップに突っ込まれた歯ブラシ二本。
赤いのは当然アタシの。髪の毛の色に合わせたんだ。
そしてもう一本。我が物顔で居座ってる青色のがなのはのだ。
何で青色にしたのか聞いても教えてくれない。
人の場所に置かせてやってるんだから、それぐらい教えてくれたって良いのによ。
どうせアイツのことだから大した理由じゃないか、くっだらないんだろうけど。
歯ブラシを水で濡らして、歯をワシワシ磨き始めたところで台所から声が掛かった。

「ヴィータちゃ~ん。もうそろそろ出来るよ~」
「……へ~い」

 偶にしてくれるし、本当は出来るって言ったけどよ。この辺りが甘いんだよな。
アタシならちゃんとなのはのペースとか全部考えて計算して用意するってのに。
大体分かってるんだ。なのはが何をどのくらいのペースでするのか。
転がり込んできてから結構経つしさ。
だから、それを計算に入れて進めるのが身についたって言う―――
あっ! 違う! 毎日毎日一緒にいりゃイヤでも身に付くって話で、別になのはの為を思ってるとかそんなんじゃ……
そ、それに! 二度手間になるのイヤなんだ。それでなくても朝は忙しいんだからよ。
だから仕方なく! そう、仕方なく。
生活の知恵ってヤツで、別になのはの事がどうとか関係ないんだ。
むぐぐぐ。一体誰に対して言い訳してんだ、アタシ。
……歯を磨くのもそこそこに、うがいをして歯磨き終了。
後でもう一片、うがいだけでもしとくかな。

「ヴィータちゃん、グッドタイミングだよ!」
「あー、はいはい。そんで、トーストはどうなってんだ」
「パンはねぇ、あと一寸のはずだよ。だからヴィータちゃん見てて」
「……へーい、っとと」

 トースターを覗き込めば、もう良いコロ加減にキツネ色寸前のパンが二枚並んでいた。
別にこれぐらいで良いやと、蓋を開けてパンを取り出す。
しかし、焼き立てのトーストを乗せる皿がない!

「うわっちちち! さ、皿! なんだよ、なのは! 皿出してないのかよ!」
「え~! え、えっとえっと。これだよ、ヴィータちゃん!」
「どっせ~い!」

 パンをお手玉しながらなのはを呼べば、手元にあった皿を掴んで走ってくる。
タイミングをバッチリ合わせてトーストを放り投げ、見事に皿の上に二枚を着地させた。

「ふ、ふ~。なんだよ、ちゃんと用意しとけっての」
「ごめんなさい、ヴィータちゃん。手、大丈夫?」
「う、うん。思ったより熱くてびっくりしただけ。大丈夫だ」
「今大丈夫だと思っても、後から腫れてくることあるから……」
「しっかし、パンの耳ってどうしてこう熱いんだろうな」
「ほら、ヴィータちゃん。見せてみて?」
「あっ……!」

 アタシの手の心配をしながらテーブルの上に皿を乗せる。
ふーふーと冷ましている手を取って、トーストを摘んだ指をジッと見つめたかと思うと。
アタシの目を見つめながら、おもむろにその指を口に含んだんだ。
呆気に取られるアタシを見据えたまま、柔らかな唇で優しく挟み込み、舌全体でゆっくり指先を舐める。
指を這う舌の感覚もそうだけど、アタシを見つめたままの、その瞳から目が離せなかった。

「…………んっ。これぐらいで良いかな?」
「あ、あぁ。そうだな」
「えっへへへ///」
「な、なんだよ。気色わりぃな」
「だって。なんだか新婚さんみたいなんだもん♪」
「な、なぁっ! ば、ばば……」
「なんだかやっと雰囲気出てきたみたい~って。ヴィータちゃんもそう思うでしょ?」

 指から離れていく唇と、その隙間に僅かに覗く舌。
やけに艶かしいと思った瞬間、何時ものハニカミ笑いを見せてくれる。
くるくると表情の変わるなのはに、アタシは何とか言葉を返すのが精一杯。
指をそっと握る手から嬉しさが伝わってくるようだった。

「ふ、雰囲気とか、別に前とやってること変わんねーじゃんか」
「そう~? 前はそんなに指、素直に舐めさせてくれなかったよ?」
「き、今日はたまたま――つーかなのは! フライパンはどうなってんだよ!?」
「フライパ……あ、あーっ!」

 気恥ずかしさから視線を逸らし、なのはの肩越しに見えた調理台。
そこには調理台にかけられたままのフライパンの柄だった。
そろそろ出来るとアタシを呼んだんだ。しかも、グッドタイミングとも言ってた気がする。
相当ヤバいんじゃねーか? いや、もう駄目だろ。
慌てて調理台に戻るなのは。
料理が出来ないで有名なシャマルですら、すでに偶にしかする事のなくなったようなミス……かもしれない。
きっと落ち込んでるだろ。
料理を偶にしかしないからだ、なんて事は言わない。
元々ここはアタシの家なんだし、なのはの分まで作ってやるって決めたのは自分だから。
一緒に暮らしていく上で、やっぱりこういう相手の厚意を無駄にするような事はしちゃいけないんだ。

「なぁ、なのは。偶にはさ、そういうミスもあるって」
「……」
「べ、別にさ。タマゴなくたって良いし。ほら、早くパン食べようぜ」
「……あ、あのね」
「な? ほら、そんなに落ち込むなって。せっかくの休みなんだしよ」
「あのね、ヴィータちゃん」
「な、なんだよ」
「実は、えっと―――」

 なのはが言いよどんだ理由は簡単だった。
こっちの世界の調理台は賢くて、放りっ放しで焦げ付くとか、まず起きないんだよな。
フライパンを覗き込んだときにそれは直ぐ分かったんだけどよ。
珍しくというか、なんて言うか、その……アタシが心配するもんだから。
それで「ホントは大丈夫だったよー」って言い辛くなったんだとよ。
ふ、ふん。柄にもないことするなってことだ。
でもさ。そんななのはの様子。なんで気付かなかったんだろうな。
ホッとしてるのだったら分かりそうなもんなのに。
顔は洗ったけど、まだ寝ぼけてるのか?

「もう、だから謝ってるじゃない~」
「別に怒ってねーです」
「それが怒ってるって言うのに……」
「……」

 テーブルの向かいでトーストの端をかじりながらイジイジとするなのは。
流石にトーストに塗られたジャムの量も控えめだ。
ちょっとこれは意地悪しすぎたかも知れない。そう思ってアタシも言い出すきっかけを考えてるんだけど中々上手く行かない。
別にここまで落ち込ませるつもりはなかったんだ。
ただちょっとお灸を据えてやる位のつもりで、その。怒った振りをしただけなんだけど……失敗だ。

「なぁ、なのは」
「な、なぁに!?」
「き、今日行く店よ。開店何時からだって?」
「え、えっとね! 朝十時からだよ!」
「十時からか……まだ時間あるな」
「ど、どうしたの?」

 アタシの言葉を待ちわびたように、ぱぁっと表情が明るくなる。
そして、何か含んだように言えば、上目遣いで心配そうにアタシの様子を窺う。
大分堪えてるみたいだ。
こりゃ早く言ってやんねーとな。

「あ、あのさ。いっつも朝は忙しいじゃんか」
「そ、そだね。バタバタしてて落ち着かないもんね」
「だからさ。その……今日ぐらいはゆっくりしても良いんじゃねーのって」
「……!」
「だ、大体、お前がさっさと起きて準備すりゃ毎朝アタシが忙しくする事ないんだからな!」
「う、うん!」
「だからしっかり反省しろよって事で、別にお前と一緒にゆっくりしたいとか、その……」
「分かってる。分かってるよヴィータちゃん」
「ホントだかんな! たまにはゆっくりしたいって、お前が急かすからそう言うだけだかんな!」
「うんうん。分かってますよ~。えへへ」
「へん。どうだか……」

 ゆっくりしろって言ったのに、食欲が戻ったのかパクパクとトーストを口に運ぶなのは。
ちょっと言うのが早かったかなと思いながら、アタシもトーストに噛り付いた。
なのはの返事に機嫌悪そうに答えるアタシの頭の中は、"家に一人でいてもしょうがないし"。なんて思ってたこと。
つい先日のことなのに、すっかり頭から抜け落ちてた。
 
 
 


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