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新婚なの! 3-1

 結局、指輪はまた今度という事になったけど、アタシたち二人のスケジュールは中々合いそうにない。
ソレを知ったなのはは、何とかするという。
その方法が事務に殴り込むか、同僚にRHを突きつけてでも休みを取りそうな勢いだったので、宥めるのが大変だった。
何とかアタシが休暇を合わせる事にしたんだけど、そのお陰で二、三日ほど忙しくなりそうだ。
まあ、なのはが毎日そわそわしてるのは見てて可愛いっちゃ可愛いけど、周りのいい迷惑だし、仕方ない。
 
「おい、起きろ。朝だぞ。今日は早いんじゃなかったのか?」
「う、う~ん……もう、朝ぁ?」
「そうだ。朝食の準備に取り掛かるからな。さっさと起きて顔洗って来い」
「は、はーい。ふぁ~あ」

 ベッドの上で眠気眼を擦りながら、大きな欠伸と共に思い切り伸びをする。
日本に居たときは毎日早起きしてたって聞いてたのに、その割には寝起きが悪い気がする。
それでも他の連中に比べれば1時間ほど早起きなんだけどな。
朝一番。誰もいない訓練室の、静かな湖面を思わせるシンと澄んだ空気が好きなんだそうだ。
そこで自分なりの基礎訓練をしてから、仕事に出かける。
今はそれなりに地位も上がったんだし、もう少しゆっくりすりゃ良いのにってアタシなんかは思うんだけどさ。
フェイトやシグナムと同じで自分を高めるための鍛錬が好きなんだろ。
鍛錬好きは構わないけど、これだけ強くなって、お前さ。
誰が敵になるって言うんだ。後は別次元からやってくる侵略植物宇宙人ぐらいしかいないぜ?
同じ部署にいるアタシにしてみれば、楽で良いんだけどさ。
…………守ってやるよ、なんて言ってたの。あれが何かウソのように思えてくる。

「ヴィータちゃ~ん」
「制服は出してある。クリーニングから返ってきたままだからなー」
「はーい」

 洗面所からアタシを呼ぶなのは。
アタシの家に入り浸るようになってから随分経つからな。何を聞きたいのかは大体分かる。
そして何をどのくらいの時間でこなすのかも。
起きてから、洗面台に立って歯を磨いたりしてこっちに戻ってくるタイミングとか。
だから、それを見越して朝食の準備に取り掛かる。
今日は昨日の残り物がないし、早出するから弁当はなしだ。
フライパンを振ったりトースターを見たり、タイミングを見計らいながら進める。
普段はそこまでしないんだけど、今日は早く出かけなきゃいけないからな。
そういう時だけ、普段の経験を生かすわけだ。
……ん。そろそろ戻ってくるぞ。

「ふー、さっぱりした。あ、制服これだね。ありがと、ヴィータちゃん♪」
「礼を言うのは良いけどさ。今日は早い事分かってたんだから昨日のうちに用意しとけっての」
「はーい」

 ピッチリとパックされた包みを外し、パリッとしたシャツに袖を通す。
着替えをするなのはを横目に、テーブルに皿を並べ、フライパンの目玉焼きを乗せ、トースターからパンを取り出す。
コーヒーをカップに注いだところでタイミングばっちり。なのはがテーブルについた。

「今日も美味しそう~! いっただきまーす」
「はい、どうぞ。昨日は醤油だったから今日はソースか?」
「う、ん(もぐもぐ)うん。ソースとって」
「はいよ。パンには何か塗るか?」
「う~ん……今日はマーガリンだけで良いかな」
「そか。じゃ、アタシは苺ジャム塗ろうかなっと」
「ふぅ~ん」

 ビンから苺ジャムをベタベタと塗りたくる。
アタシは目一杯塗るのが好きなんだ。
しかも、このジャムは既製品じゃねぇ。桃子さん直伝のアタシお手製だ。
この家になのはが出入りし始めた頃に持ってきててさ。どこかでアタシが苺ジャム好きなのを耳に入れてたらしい。
どういうつもりかと思ったけど、それが余りに美味いもんで、あっという間に空にしちまった。
なのはに新しいのを強請るのも何だか負けた気がして悔しいから、桃子さんに頼んで教えてもらったんだ。
自分で美味しい苺ジャムを作れるようになってご機嫌だったし、まあ、良いかなって。
だけどよ、これには続きがあってさ。
実のところなのははアタシの行動を見越してたらしいんだ。
こっちに来ると、中々桃子さんのジャムも口に出来ないからな。
そんでアタシに作らせるように仕向けて、自分もちゃっかりそれに預かろうって訳だったらしい。
ちぇっ。要らないことには頭が回るんだからよ。

「やっぱり私もジャム塗る」
「なんだよ。いっつもそうだな、お前は。ったく、ほれ」
「えへへー。私もたっぷり塗っちゃおうっと」
「お前塗りすぎ。残り少ないんだからもっと大切にしろって」
「え~。たっぷり塗らないと美味しくないんだもん。それに」
「それに?」
「なくなったら、またヴィータちゃんが作ってくれるんでしょ?」
「うぅ……///」

 ベタベタと塗りながら、ちょっと惚けた笑顔をアタシに向けてくる。
こういうのに弱いって分かっててやってるんだろう事は分かってるんだ。
いつの間にこんな風になっちまったんだ、アタシ。
別によ、なのはの顔なんて見飽きてるんだし。こんな、誰にでも微笑みかけてるような女たらしによ。
そういうのはさ。フェイトにだけ……してりゃ良いんだよ。
そう。フェイトにだけ、さ。

「苺の季節じゃねーんだ。なくなったらどこか遠くの世界に探しに行かなきゃいけねーだろ」
「あ、そっか……」
「それにな、やっぱ日本で採れるのが一番なんだ。だから自重しろ」
「は~い。分かりました~」

 まだ塗り足り無そうな顔をしながらも、スプーンを元に戻して蓋を閉める。
ホントはまだ2ビン残ってるんだけどさ。教えちまうと有り難味がなくなるし、これで良いんだ。
目の前にあるとまた手が伸びるだろ。ネコを追うより皿を引けって言うじゃないか。
まさにその通りだ。
なのはを一々注意するよりそれを隠しちゃえば良い。
これも一緒に暮すようになって身に付けた知恵ってヤツだ。
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「そんなのんびり食ってて良いのか?」
「んあ、ふぅん。どうかな、ちょっと厳しいかも」
「全然っそんな風に聞こえねぇんだけどな。仕方ねぇ。ほら、ジッとしてろ」
「ふぁーい」

 残り3分の1ほどになったパンの端を咥え、だらしなく返事をする。
ある程度は手を入れてあるけど、毛先とか寝癖とか櫛を入れなきゃいけないところがある。
教官として新人どもの前に立ったりするんだ。身だしなみはしっかりと整えておかないとな。
しっかし、髪が長いんだからさ。寝るときはもちっと纏めてだな。
毎朝毎朝繰り返して面倒に思わないのかね。

「なあ、この髪。邪魔に思ったりしねーの?」
「え、ふぁみ……んぐ。髪の毛が? ううん、思ったことないかなー」
「ふぅん、そか。ああ、だから動くなって」
「だって、そうしないとコーヒー飲めないんだもん」
「へいへい、もう直ぐ出来るから、それまでは大人しくしてろ」
「はーい」

 動くな、なんて言ったけど、コーヒー飲むのなんて分かってたからな。
言うだけ言って、ちゃんとそのようにしてから大丈夫。
最後にくくって……よし、出来上がりだ。

「出来たぞ」
「うん、ありがとう。ヴィータちゃん」
「鏡見るか?」
「ううん、ヴィータちゃんの仕事はいつも完璧だから」
「あ、あっそ///」
「さってと。ごちそうさまでした」
「ああ、お粗末さまでした」

 最後にぐいっと一口コーヒーを流し込み、席を立つ。
荷物を取りに一端部屋へ戻るから、その内にテーブルを片付けておく。
朝飯作るのは別にイヤじゃねーんだけどさ。この後片付けが面倒で面白くない。
やっぱ二人分になったからには、いい加減食器洗い機の一つでも導入するなかぁ。

「ヴィータちゃん。行ってくるね」
「ああ、忘れもんねーか?」
「うん。大丈夫だと思う」
「アタシも忙しいんだから、忘れもんあっても届けにいけねーぞ」

 流し台に向かったまま、振り返りもせず返事をする。
朝の忙しいときに、一々構ってられないっていうか……あっ、今日は違うんだった。

「ねぇねぇ、ヴィータちゃん。ちょっと来てー」
「ああ、なんだ。何か忘れたのか?」
「良いから、来て来てー」
「なんだよ。ったく、しょうがねぇなー」

 エプロンで手を拭きながら踏み台から降りる。
こっちでは日本より規格に融通が利くけど、それでもアタシみたいに小さいと流石に不便だ。
これは、一人暮らしするときに、はやてが買ってくれたヤツなんだ。えへへ。
スリッパをパタパタ言わせながら玄関へ向かうと、なのはがそこで待っていた。
鞄は手に持ってる。
なんだ? 忘れもんじゃねーのか?

「えへへー、ヴィータちゃん」
「なんだよ。そんなゆっくりしてて良いのか?」
「うん、だから。忘れモノ」
「ん? 何を忘れたんだ。取ってくるから早く言えよ」
「忘れてるのは私じゃなくてヴィータちゃん」
「はぁ? 何言ってんだ」
「だからぁ、ほら。これ」
「???」

 少し屈んで、自分の頬っぺたをつんつん触ってる。
なんだ? アタシのほっぺたに何か着いてるって言いたいのか?

「なんだよ。何にも着いてねーぞ。ほら、早く行けよ」
「んもー。ヴィータちゃんったら鈍いんだから。これ、"行ってらっしゃいのチュー"は?」
「はぁっ!? な、何言ってんだお前は!」
「だってぇ。新婚さんなんだよ? ほら、だから行ってらっしゃいのチューして」
「い、イヤだって! そんな事しねーぞ、アタシは!」
「ええー。せっかくの新婚さんなのに、行ってらっしゃいのチューがないなんてぇ」
「し、知らねーよ。そんなの! ば、バカ言ってねーで早く行けって!」
「もう。しょうがないなぁ……ほら、ヴィータちゃん♪」
「う、わわ!?」
「(ンチュゥ)……んぁ。えへへー」
「あ、あわわわわ///」
「今のは行ってきますのチューなの。じゃあね、ヴィータちゃん。行ってきまーす」

 扉が閉まり、なのはの姿が消える。
アタシは何時までも玄関の上がり口で、バカみたいに口を開けたままボーっとしてた。
  
  

 
 本日のイラストは楽描き格納戸のカプセル超獣さんにいただきました。
 
 

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