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新婚なの! 4-1 (1)

 その日は遅くに帰ってきたせいで、なのはと特に何を話すわけでもなく床に着いた。
その日と言っても日付は変わってたわけで、数時間も寝ないうちにまた起きて出勤の準備だ。
今日もデスクワークが主で良かったや。こんな調子じゃマトモに身体が動かねーもん。
 
 
 
 
 
「……タちゃん、起きて。ヴィータちゃん」
「う、うぅん……なんだぁ?」
「もう朝だよ」
「―――あ、朝ぁっ!?」
「うん、もう朝だよ。いつもより少し早いけどね」
「な、なんだよ。驚かせんなって……」

 短時間でもぐっすり眠る、そんでしっかり疲れをとる。直ぐに目を覚ます。
アタシらはずっとこうしてきたし、まあ、元が人間じゃないって言えばそれまでなんだけどよ。
それが身についてたはずなのに、それなのに、今日のアタシは聞きなれたなのはの声に引き戻されるまで目が覚めなかった。
何でだろうな……?
恨めしく目覚まし時計を見つめれば、なのはの言う通りいつもより早い時間だ。
あと30分もすると、ベッドから降りてなのはを起こしに行く時間になる。
これなら起きれなくても言い訳立つか。
普段やかましく寝坊なのを怒ってるなのはに対してさ。

「あれじゃない? 昨日のヴィータちゃん、随分興奮してたのかも」
「アタシが? なんでさ。つーかさ、何がアレなんだよ」
「私が起こさないと起きれなかった理由。そうだって、顔に書いてあるよ」
「あのさ、いつもより早いんだ。起きれなくて当然だ。そんで? 昨日のアタシが何だって?」
「さぁ? ヴィータちゃんに分かんない事が私に分かるわけないじゃない」
「……そりゃそうか」
「個人的に思い当たる節がないわけじゃないけどね。ほらほら起きて」
「んだよ。その気になる言い方は。ほれ、言ってみろって」

 珍しくエプロン姿のなのはが、アタシをベッドから起こそうと布団を乱暴に捲っては、抱きかかえて起こそうとする。
別に大人しく従う事なんかないし、一々ベタベタするなって何時もなら追い払うんだけど。
まだ頭がぼんやりするし、なのはの含むところが気になってそれどころじゃなかった。
自分がどんな顔して見上げているか知らないけど、なのはは満足そうな顔。
あんまいい顔してねーんだろうな。
にんまり口元を緩めて、こう続けた。

「怒らないって約束してくれるなら言う」
「そりゃ怒らせるって予告してるようなもんじゃねーか。ふ、ふぁ~あ……まあ良いや」
「えへへー。あのね、自惚れかな~って思わないこともないんだけどね」
「……う、うぅ~ん。あふっ……むにゃ」
「昨日、ヴィータちゃんがキスしてくれの。ドキドキしちゃって私は眠れなかったかなぁって」
「――はぁ!?」
「だから。私がしたキスでヴィータちゃんも興奮してたんじゃないかな?って」
「ば、ばばばばバカ言え! 朝から何ふざけたこと言ってんだ!」
「ほら~、やっぱり怒った」
「うっせ! 朝からそんな冗談聞かされりゃ誰だって怒るっての!」
「きゃー、ヴィータちゃんこわ~い」

 手元にあったのは掴んだままの目覚まし時計だったから、さすがにこれをぶつけるわけにも行かない。
かと言って枕を持ち直す時間はなくて、その間に戦技教導官は軽い身のこなしで、さっさと部屋から出て行ってしまった。

「……はぁ、朝から汗かいちまった」

 さっきまでのハッキリしない頭は何処へやら。
すっかりテンションの上がってしまった身体を起こして、ベッドから降りた。
 
 
 
 

「ヴィータちゃん、遅かったね」
「お前が汗かかすようなこと言うからだろ。シャワー浴びてきたんだ」
「ふーん。言ってくれれば私も一緒に浴びたのに」
「なに言ってんだ、この忙しいときに」
「じゃあ明日からも早起きして一緒に浴びる?」
「そ、そういう問題じゃねー」
「あ、赤くなってる~。なに想像したの? ヴィータちゃん」
「な、なんにもしてねーです! ちっとは黙って用意しろよ。早く起きた意味がなくなるだろ?」
「もう朝ごはんは出来てますよーだ。えへへー」

 頭を乾かしながら戻ってくると、さっそく要らぬことを言うなのは。
こうやって朝一からアタシをからかって何が面白いんだ、全く。
そんで文句の一つでも言ってやれば、しっかり朝ごはんは準備出来てると言いやがる。
ちゃっかり抜かりが無いんだな、なのはは。
このしっかり加減を、もう少し別のところで発揮して欲しいもんだ。

「んじゃ、頂きます」
「はい。どうぞ召し上がれ」
「んぐんぐ……なぁ、ジャムとってくれ」
「あ、はいはい。はい、どうぞ」
「ん、ありがと。……な、なんだよ。こっちをジッと見て」
「私もジャム、塗っていい?」
「あんだよ、いつもは聞いたりしないくせに。ほれ、勝手に塗れ」
「やっぱり朝はこれを塗らないと始まらないって感じがするな~って」
「言ってろ。あ、またそうやってたくさん塗る」
「えへへー」
「ったく。珍しく聞いてきたかと思えばこれだ。むぐむぐ……」
「ほらほら。怒ってたらせっかくのジャムが台無しだよ」
「張本人がよく言う。桃子さん直伝のジャムはそんな事ぐらいじゃ不味くなったりしねーですよ」
「そうだね。ヴィータちゃんが作ってくれたジャムだもんね」
「……ふ、ふん///」
「あ~、照れてる照れてる」

 こういう時はこれ以上構ったりしないのが得策だ。
なのはのヤツは、アタシをからかって楽しんでるんだからな。
そんな事は分かってるんだけどよ、アタシも割と反応しちまうもんだから。反省が足りない。
向かいでニコニコしながら、たっぷりジャムのトーストをかじってるなのはが恨めしい。
ふん、そんなに面白いかよ。アタシの顔が。
ぐぐぐ。こうやって怒ってると本当にジャムが不味くなりそうじゃないか。

「あ、そうだ。ヴィータちゃん」
「な……んぐ。なんだよ」
「さっきの続きなんだけどね」
「さっきって、いつのさっきだ」
「起きたときの。あのね。そう言えば昨日の午後。打ち合わせの内容とか全然頭に入らなかったなぁ~って」
「お前、ちゃんと仕事しろっての。ヒラじゃねーんだから」
「だって。ヴィータちゃんのチューしてくれた左頬が気になって気になってしょうがなかったんだもん」
「ま、またその話かよ///」
「だって。朝はしてくれなかったのに、お昼に会って。しかもあんな所でしてくれるんだから///」
「あ、あれは、その///」
「しかもネクタイ掴んで、ちょっと強引に。もうドキドキしちゃって大変だったんだよ?」
「ざ、ざまーみろ」

 トーストをかじりながら、だらけ切った表情で語る。
ほころばせるなんて通り過ぎて、目尻は下がってる情けない顔。今担当してる生徒連中に見せてやりたいぜ。
まあ随分だったらしいし、取り合えずはアタシの思惑通りに行ったらしい。
自分ばっかり仕事が進まないのは不公平だかんな。なのはにも同じ目に遭わせてやらないと。
そうさ。計画通りなんだ……うん、そうだ。
ちと、失敗したような気がしないでもないけどさ。

「上の空だったりしてたせいで、どうしたんですか?なんて心配されちゃったりして」
「ふーん (なんか待遇違うな、アタシと)」
「やっぱり顔に出ちゃってたのかな? 何だか良いことがあったみたいですねー、なんて聞いてくる人もいて。にへへ」
「ふ、ふー……って! お前、若しかして言いふらしたりしてねーだろうな!」
「んー? どうだったかなぁ?」
「あ、ぐぐぐぐ……///!」
「別にね? 人目の多い昼休みのロビーでヴィータちゃんにネクタイ捉まれて半ば強引にキスされたなんて言ってないよ?」
「お、お前! それは言ったって言ってるようなもんじゃねーか! しかもちょっと脚色してあるじゃねーか!」
「でもウソは言ってないよね。それから熱い抱擁を交わしたとも言ってないよ」
「ぎ、ぎぎぎ……! し、しかも今のはお前からしたんであって、アタシはしてねーぞ!」
「んっふふふふ♪ その辺は受け取り方次第だよね~」
「あ~! 今日からどういう顔して出勤すりゃ良いんだよぉ……」

 よく目の前が真っ暗になったとか言うけど、今まさにその状態だ。
くそ~、朝日眩しい早朝に目の前が真っ暗なんてどういう冗談だよ~。

「あ、そうだ。昨日、同じ部署の人には何か言われなかったの?」
「……そういや何も言われなかったな。相変わらずボヤッとしてるな~とは言われたけどさ」
「ふぅ~ん。ヴィータちゃんの同僚は分かってるじゃない」
「何をさ。お前みたいに人をからかっちゃいけないって事をか?」
「違うよー。しっかり状況を固めてから取り掛かるべきだって、定石を」
「しっかり固める?」
「うん。安易に噂に飛びつくんじゃなくて。しっかり聞き込みして標的の逃げ場を無くすの」
「……なのは。お前さ、悪い意味ではやてに似てきてねーか?」
「さぁ? でも類は友を呼ぶって言うし、そういう面もあるかもしれないね」
「止めてくれよ。それじゃまるではやてが魔王の仲間みたいじゃないか。はやては優しいんだ」
「その言い方だと私が優しくないみたいじゃない~」
「少なくともアタシにはな」
「むぅ~」
「ほれ。無駄話してると折角の早起きが無駄になるぞ」
「ふんだ。意地悪なヴィータちゃん」

 残り少なくなったトーストをガブガブと口の中に放り込んでいく。
勿体無い食べ方しやがって。明日からジャム使わせてやんねーぞ。
トーストの耳を最後に放り込み、モグモグと顎を動かしながらコーヒーで流し込む。
エプロン着けてるくせに、朝ごはんの後片付けをする様子もなく自室へ引っ込んでいった。
扉の向こうからバタバタと物音がするけど、クローゼットを開けている様子は無い。
物音が止み扉が開くと、エプロンを外して教導官の青い制服を羽織ったなのはが出てきた。

「ヴィータちゃんに言われた通り、ちゃんと昨日の内に用意しておいたんだ」
「そんなの当たり前だ。威張ることじゃねーよ」
「もう、褒めてくれたって良いじゃない~」
「んなこと言って。なのは、ハンカチとチリ紙。ちゃんと持ったか。ハンカチは新しいのに換えたか?」
「え? あ、えっと……あはは」
「そんな事だろうと思ったよ。あのな、もうちっと乙女の恥じらいというかだな」
「はいはい、分かってます」
「そこで待ってろ。今取ってきてやるから」
「はーい」

 珍しく早起きして、朝の準備をしたかと思えばこの様だ。
たぶん、部屋から持ってきた鞄もチェックすれば忘れ物の一つや二つ。余裕で出てくるぞ。
食べかけの朝食そのままに、席から立って部屋に戻る。
どうせアイロンも掛けてないんだろうし、しょうがない。アタシのを持たせてやるか。
その間に念話を飛ばして、鞄の中身をチェックするように言っておく。
あの様子だと、多分昨日帰ってきたままだ。
ただでさえデスクワークがいい加減なんだ。これ以上テキトウしてどうすんだ。

「今日はアタシのを持ってけ」
「うん、ありがとう。ヴィータちゃん」
「そんで。鞄の中身は大丈夫だったのか?」
「ううん。ヴィータちゃんの言う通りだったよ。今部署から資料送ってもらってるとこ」
「……まあ、忘れなかったのを良しとするか。ほれ、もう時間だろ」
「そだね。じゃあ、行ってきまーす」
「ん。行ってらっしゃいだ……って、どうしたんだ。早く行けよ」
「あ、そうだ。ほらほらヴィータちゃん。何か忘れてないかな~?」
「忘れ物の心配はお前だろ。アタシはまだ出かけないんだから」

 さあ準備完了と言ったところで、何やらモジモジし始めるなのは。
なんだよ、面倒なヤツだな。まだ少し余裕あるけど、ギリギリに出かけるのは良くない。

「もう、鈍いんだから。ほらぁ……これ///」
「……バーカ///」

 迫り出すように前屈みになってアタシに顔を向けたかと思うと、頬を指差すなのは。
昨日の今日で、またしろって言うのかよ。

「え~。今日も帰り遅くなるんだから~」
「駄目だ。上の空だったんだろ? 周りに迷惑かけるからな。駄目だ!」
「今日は迷惑かけないから、しっかり仕事するから。ね?」
「う、う~ん……」

 昨日の寂しそうな顔が、ロビーでの嬉しそうな顔が。そしてあの時の唇の感触がジワジワと身体中に広がっていく。
掴んだ手に、背伸びした踵に、触れた鼻先に、なのはの触れた頬に。
やべぇ、どうしよう。
ああ! そんな顔近づけんなって! 余計に変な気分になるだろうが! こら、肩を掴むなー!

「んぎぎぎ! 駄目だ、絶対に! お前は良くてもアタシが駄目になる!」
「え~、そんなぁ。今日は帰ってこられないかもしれないし、気になって仕事にならないよ~。ヴィータちゃ~ん」
「さっきと言ってることが違うじゃねーか! どっちなんだよ!」
「だったら、それ! これは新婚さんに必須の行事なの!」
「そんな話聞いたことねーぞ! アタシがあんまモノ知らねーと思ってテキトウ言うんじゃねー!」
「むむむー、こうなったら!」
「うわっ、止めろ! 顔を近づけるなって!」
「だって、実力行使だもん。こうなったらチューだけして行くの~」
「んぎぎぎぎ……!」
「(チュゥ)~~~っん。えへへー/// それじゃ行ってきまーす」
「あ! あぁ……行ってらっしゃ……」
1187189730022

 今日は玄関口じゃなくてリビングの、朝食の残るテーブルの横で。
昨日みたいに触れるだけのようなチューじゃなくて。ガッチリ顔を固定した跡の残りそうなチューだった。
それでも何とか。昨日みたいに惚けずに、行ってらっしゃいだけ言うことが出来た。
 
 
 
―――つづく。
 
 
 
本日のイラストは楽描き格納戸のカプセル超獣さんにいただきました。
 
 
 

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