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新婚なの! 5-4 (1)

 
「お待たせいたしました。こちらがご注文の品になります」

 豪華なソファーに腰を下ろし、必要以上に引っ付くなのはを引き剥がしたりしていると、直ぐにさっきの店員がやってきた。
目の前のテーブルに差し出されるシックな色の小さなケース。
こういうの、なのはが見てたテレビ番組で見たことある気がする。
若しかして、あのときから考えてたりしてたのか?
顔はテーブルに向けたまま、横目でなのはを盗み見ると、ばっちり視線があった。
慌てて視線を外す。
なのははそれに気付いてたろうけど、その場では黙って店員に顔を向けた。

「中を確認しても良いですか? はい、これ。ヴィータちゃんの指輪だよ」

 黙って頷くのを見てから、ケースを手に取りアタシの前に持ってくる。
それを見るや、店員は一礼をして部屋を後にする。
でもそれはしっかり見てたわけじゃなくて、ただ視界の端に何となく感じていただけ。
もうアタシは、なのはの持つケースに心惹かれていたから。
そして、なのはの手で開かれたケースの中には、シンプルな飾りっ気のない銀色の指輪が入っていた。

「はぇ~。こ、これが指輪……?」
「うん。結婚指輪とかってもう少し装飾が派手なのとからしいんだけど、私はこれに」
「な、なんでだ? い、いや、別に派手なのが良いって訳じゃねーんだけどさ」
「うんとね。初めは仕事上の問題。余り派手で邪魔になるのは好ましくないでしょ?」
「それりゃそうだ。お前にしてはよく気がついたじゃん」
「褒め言葉として聞いとくね。あと、一番の理由は材質なの」
「材質?」
「うん。ちょっと特殊なのでね。細かい加工に向かないんだって」
「ふーん。だったら、それ以外のにすりゃ良かったんじゃん」
「だって。これが良かったんだもん。苦労して手に入れてもらったんだし」
「そんなに特殊なのか。お前のワガママに付き合わされた店員に特にお礼を言っとかなきゃな」
「もう、直ぐそうやって言う」

 なのはが聞いたら気を悪くするかもしれないけどさ。話半分にしか聞いてなかった。
どうしてかって言えば、"あのとき"に言った結婚指輪が目の前にあるせいだ。
今から思えば恥かしいこと言ったと思う。でも、あれはあの時の。勿論今も。正直な気持ちだから。
だから、その指輪があると、目の前にあるとなれば、どうしても気もそぞろになる。

「じゃあ、ヴィータちゃん。指輪、はめても良い?」
「い、今ここでか!? もうちょっとあるんじゃねーの、こういう事ってさ」
「うーん。それも考えたんだけどね。これから行きたいところあるし」
「つけて行くのか? そこに行って家に帰ってからとか、それじゃ駄目なのかよ」
「うん。向こうでつける方が変だと思うから。今ココで。せっかく二人っきりなんだし」
「う~ん」
「家に帰ってするなら早く来なかったよ。そのためにこっちのお店に早く来たんだもん」
「なんだ。ただ早く指輪が欲しかったわけじゃないのか」
「えへへ。実はそうなの。もちろん、こっちがメインなんだけどね。次もビッグイベントだよ」
「……そりゃお前にとって、という注釈が付くんじゃねーだろうな」
「大丈夫だと思う。ヴィータちゃんにとっても」
「しょうがねーな。信用してやる」
「うん。ありがと、ヴィータちゃん」

 可愛い笑顔を見せやがる。
いつの間に、アタシははやて以外の笑顔に勝てなくなってたんだろうな。

「じゃあ、ヴィータちゃん。手、出して」
「お、おう。こっちで良かったんだよな?」
「そう。左手ね。……それじゃ、行くよ」

 ケースをテーブルの上におき、右手でアタシの左手を取る。
その手はさっき繋いでた左手より随分熱かった。触れる指先は汗ばんでもいるようだった。

「な、なんだよ。手、震えてるじゃん。柄にも無く緊張してんのか?」
「何言ってるの。ふ、震えてるのはヴィータちゃんの方だよ」
「バカ言うな。アタシがコレぐらいの事で震えるかっての」

 確かにアタシの左手は震えていた。
でも、それは言ったとおりなのはの震えが伝わってきてるせいで、自分のじゃないと思ってる。
なのに、なのははこれはアタシだって言う。
なら、やっぱりこれは自分の手が震えてるのか?
柄にもなく緊張してんのはアタシかよ。

「そ、それじゃ……いくよ?」
「お、おう。良いぞ」

 空いた右手でケースから銀色の輝く指輪を取り出す。
その指輪を持つ指先は、明らかに震えていた。
なんだ。なのはだって震えてたんじゃねーか。アタシだけじゃなかったんだ。
へ、へへ。なんだよ、脅かしやがってさ。

「な、なのはだっ……」
「―――」
「い、いや。なんでもねぇ」

 いつもの調子でなのはに一言言うつもりだったんだけど、その表情に思わずお腹の底に引っ込んだ。
顔が真っ青だったんだ。口を固く噤み、額に脂汗をかいてたから。
緊張の度合いがアタシとは比べ物にならない。
なのは。そんなに今日のこと楽しみにしてたのか、って。
それが現実になって、感情が振り切れて逆に緊張し始めてるんだろうと思う。
それをはやしたりしちゃいけない。
ここは、どれだけなのはが楽しみにしてたか、それを大切にしなきゃいけない。

「ヴィ、ヴィータちゃん……」

 恐る恐る指輪が近づき、薬指の爪に一度当たる。
震えていて、上手く合わないみたいだ。驚いたように、一旦指輪を引っ込めるなのは。
でもそれで何か言ったりしない。若しかして本当にアタシの手だって震えているかもしれないから。
もう一度近づく。
アタシの手を掴んでいる右手は、はっきりと分かるほど汗ばんでいた。

「ご、ごめんね。中々上手くいかなくて」
「気にすんなって。こういうことぐらい、ゆっくりやった方が雰囲気出るじゃんか」
「そ、そだね。うん、ありがとう」
「深呼吸しろ。アタシも指輪も逃げたりしないんだからよ」

 アタシの言葉に、一度ゆっくりと深呼吸する。
そんな時でも、手と指輪を離したりしない。全然落ち着いてねーぞ。
それでもしないよりはマシだったのか、震えも少し引き、顔色も良くなったように見えた。

「それじゃ、もう一度……行くね」

 黙って頷く。
先ほどよりスムーズに薬指まで届く。差し出された指にそっと入っていく指輪。
それでも震えは完全にないわけじゃなく、コツコツと辺りながら第一間接を通り過ぎ、第二間接に差し掛かる。
そして―――

「ヴィータちゃん。ど、どうかな?」
「あ、あぁ……」

 奥まで入った指輪。薬指に収まったそれは、驚くほどピッタリと密着した。
世の中、色々身に付けるものはあるけど、これほどピッタリしっかりくっ付くモノといや騎士甲冑ぐらいだ。
あれは、はやてが考えて魔力で作るものだからピッタリで当然というか、そういう風に作るもんだけど。
この指輪はそれと同じぐらいに、しっくり来てる。
疾風のくれた騎士甲冑以外に、これほどしっくり来るものがあるのかって驚くばかりだ。
そんな感嘆に浸っていると、なのはの手が静かに離れていった。
右手が離れたことでアタシの左手は自由になって、ごく自然に、そう意識したわけじゃないのに、指輪のはまった手を近づける。
ジッと近づけてみたり、斜めにしてみたり、手の平の方から見てみたり。
手を色々な角度に変えて、とにかく指輪だけをジッと見つめた。

Vattach_36

 
 
本日のイラストは楽描き格納戸のカプセル超獣さんにいただきました。
 
 
 


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