「お疲れ様、なのは」
午後の訓練を終え、汗も流してさっぱり。
なのははキャロとエリオの訓練を担当した上に、今日の訓練の書類作りなんかで遅れて帰ってきた。
自動扉が音も少なく開いて顔を出したなのはを、にっこり微笑んで出迎えた。
疲れた様子も見せず、なのはもニッコリと微笑み返してくれる。
上着を脱ぎながらこっちに歩いてくるなのはから、上着を預かってソファーへ座るよう勧める。
「フェイトちゃんこそ。高速機動の訓練、大変だったでしょ?」
「前ほどじゃないよ。あの子たちもずっと強くなってるんだから。それほど調節しなくて良いんだもん」
「それもそうだね」
「うん。それに、あれだけの事件を戦い抜いたんだから」
「JS事件……六課にあの子たち来てから随分経っちゃったんだね」
なのはが腰掛けて休む間に上着をハンガーに掛け、なのはの元へ戻る。
今日の私はティアナとスバルを相手に高速機動の訓練をした。
以前は少しスピードを上げるだけでついて来れなくなっていた二人も、今は見違えるほど強くなった。
装甲の薄い私だとその内落とされちゃうかも、それも全くありえない話ではなくなっている。
感慨深げななのはの言葉に、それだけの時間が経ったのだと改めて実感を深めた。
六課の試験運用期間は一年。
それだけの時間が経ったということは……
「でも、時間がそれだけ経ったってことは……六課解散の時も近づいてるってこと、だよね」
「うん。もう、こうしてフェイトちゃんと一緒に居られるのも少しだけ」
「……なのは」
「フェイトちゃん……やっとフェイトちゃんと気持を通じ合わせられたのに、離れ離れになるのは寂しいよ」
「私だって。でも」
隣に座るなのはが、その蒼色の瞳に悲しげな色を宿す。
ソファーについた手にそっと自分の手を重ねてくれる。
この温かさとは裏腹に、なのはの心は温かさを奪われていってしまっているのだろうか。
離れ離れになるのは寂しいよ、その言葉を更に強調するように重ねた手に力が篭る。
私も身体をなのはに向けて左手を上から重ねる。肯定の意味を込めて。
だけど、それは仕方がない、予め分かってたこと。
本心じゃなくても「でも」という否定の言葉が出てしまう。
「そんな。そんな物分りの良いフェイトちゃん、ヤダな」
「……残りの時間。ずっと一緒にいよう? ここ数日頑張ったから余裕あるんだ。朝からずっと一緒にいられるよ?」
「本当?」
「うん。それに離れ離れになったって、なのはの気持ち。私のここに繋がってるから」
「フェイトちゃん……うん。私も。フェイトちゃんと気持ち、繋がってる」
拗ねたようななのは。
勿論無理だっていうことは分かってる。それでもなのはは我慢できない。気持ちをしまい込んでしまわない。
そんななのはに私も応える。
計算していたわけではなくて偶然なのだけど、なのはから逃げていた数日。仕事漬けだった。
そのお陰で随分と余裕が出来た。当分は六課から動かなくても良い。
朝も昼も、なのはと一緒にあの子達に訓練をつけてあげられる。
朝ごはんもお昼も晩ご飯も一緒に出来る。
"一緒にいられる"って言葉、それだけじゃない。
なのはと通じ合わせた心。離れていたって大丈夫。
前みたいになのはが見えなくて、なのはから私が見えなくて不安になることもない。
この胸に宿った温かさ。そこになのはを感じる。
なのはも、私と同じ場所に私を感じてくれる。
「なのは……」
「フェイトちゃん……大好きだよ、フェイトちゃん」
不意に抱き寄せられる。
でも驚きはしない。何となくだけど、なのはがそうするって分かったから。
もしなのはがしなかったら、私がしてたから。同じことを考えてたんだ、二人で。
お昼と違って、なのはが力いっぱい抱きしめてくれる。
そのまま押される格好で、ソファーに倒れこむ。
身体を抱きしめる腕の力に、圧し掛かる体重になのはの存在を強く感じる。
同じように私を感じてほしくて、なのはの背中に腕を回す。
ゆっくりと瞳を閉じれば、なのはの体温と髪から漂う香りが私を包み込んでくれた。
「フェイトちゃ~ん♪(ベタベタ」
「えへへ、なのは♪(イチャイチャ」
「…………あー」
一夜明けて翌日。
朝食を食べ終え、部屋に戻るところ。
昨日の午後の訓練は随分頑張らせちゃったから、今日は少し遅めの開始。
なのはにベッタリ抱きつかれながら歩いていると、後ろから聞きなれた声がします。
振り返ってみると、そこには昨日よりは顔色がちょっと良くなった気がするはやてがいました。
「あ、はやてちゃん。おはよう~」
「おはよう、はやて」
「……おはようさん。昨日の午後は普通やったみたいやね」
「うん。はやてちゃんに言われた通り、ちゃんと。ね、フェイトちゃん」
「そうだね。なのは」
はやてに心配掛けないよう、ちゃんとしてたのを見ててくれたみたい。
肩が触れ合う距離に、視界いっぱいに映ったなのはが私に同意を求める。
勿論、そうだねって答える私。
この年になって人の言いつけを守ったぐらいで何を得意げに、なんて思わないこともないけど。
それでもニコニコとするなのはを見れば、疑問なんてどこか遠くへ飛んでいってしまう。
そんな私たちにはやては、相変わらず表情が優れない。
どうしたのかな。まだ何か問題でも……
「はぁ……ホント仲エエね、二人とも」
「そう見えちゃうかな? えへへ、何だか照れちゃうね///」
「う、うん。そんなつもり全然ないんだけど」
「("全然"、ねぇ。自覚ないって怖いわ、あ~あ)」
「どうしたの、はやてちゃん」
「えっと、まだ直さなきゃいけないところがあるなら教えて。あの子達にも悪いから」
「はぁ……せやね。あんまイチャイチャせんよーに。風紀が乱れたらアカンしね」
「は~い、はやてちゃん」
「ま、それも六課におる間だけや。今すぐはないと思うけど、二人が結婚式挙げるときは私等もちゃんと呼んでな(嫌味」
「け、結婚式ぃ!?」
きっとまだ直さなきゃいけないところがあるんだろうって思ったのに。
今一表情の優れないはやての口からは、予想だにしなかった言葉が飛び出てきたのでした。
な、なんでまた、けけ、結婚式だなんて。
どうしてかな。急にそんな、私、結婚だなんて考えたこともなかったよ。
身体中を駆け巡る血液は、まるで沸騰したみたいに熱くなって物凄い速さで駆け巡っていく。
ガクガクと震える膝で何とか姿勢を保ち、同じように震える身体でなのはを見る。
すると、なのはは相変わらずニッコリ涼しい顔で、はやてに続いて予想だにしない言葉を口にします。
「そうだね。六課が解散しちゃったらフェイトちゃんと結婚しちゃうのも良いかなぁ。ね? フェイトちゃん♪」
「あ、あわわわわわ! わ、私が、な、なのはと、け、けけけ結婚……!」
「……(全然嫌味通じてへんし)」
「フェイトちゃんはお嫁さんだから……フェイト・高町・ハラオウン? それともフェイト・テスタロッサ・高町?」
「お、およおよお嫁さんだなんててて……! ―――きゅ~(バタンッ!」
「フェ、フェイトちゃんっ!?」
結婚って言葉だけで倒れてしまいそうな私に、追い討ちをかけるように"お嫁さん"だなんて。
脳裏にフラッシュバックするように現れる、ウェディングドレスを着た私とタキシードで決めたなのは。
ああ、そんな。格好良すぎるよなのは。素敵だよなのは……
手を引かれて抱き上げられる私。若しかしてこれは、所謂お姫様抱っこ!?
女の子のロマン、お姫様抱っこ。でも、よく思い出してみると一度してもらったことあるんだ。
ああ、そっか。あの時から私はなのはの事が好きだったんだ…………
薄れゆく意識の中で、なのはが必死に呼びかけてくれてるような気がする。
なのは。もう私は駄目みたい―――ガクッ
「あ~。頭から煙吹いてるわ。こりゃ結婚するにしても当分先になりそうやね」
―――おしまい。
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