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新婚なの! 6-1 (3)

 
「あっ、ヴィータちゃん。あのね」
「どうしたよ、呼びつけてさ」
「直ぐに来てくれるなんて珍しいね。いっつもそうじゃないのに」
「うっせ。文句言うなら戻るぞ。それに、いっつも言うほどやってないだろ」
「待って待って。あのね、あっちのお鍋の様子を見て欲しいんだけど」
「鍋の様子か……ああ、良いぞ。そのぐらいならな」
「やった。手伝ってくれないって言うから駄目かと思っちゃった」
「あ、う……んで。鍋の様子を見たら良いんだな?」
「うん、お任せね」

 ガス台には中くらいの鍋が火にかかっていた。
脇から踏み台を持ち出して鍋の中を覗き見ると、何か嗅いだことのない匂いがした。
カツオとかワカメとか……うーん、見た目は普通っぽいけど……何だこれ。

「中身、気になっちゃう?」
「あ、ああ。まあな、見たことない料理だし。お前、こんなの作れたのか?」
「ううん。実際作るのは初めてだよ。でも大丈夫だから」
「いや、意味分かんねー。なんで初めてなのに自信あんだよ」
「えっとね、ほら。リンディさんのレシピがばっちりあるからだよ」
「ふーん、リンディさんのレシピね。また紙のメモか」

 なのはがエプロンのポケットから取り出した一切れの紙には、丁寧な文字が並んでいた。
そして、その文字の丁寧さ同様に書いてある内容は素晴らしかった。
……「適当」の文字が多すぎる。
些細な調味料からメインの材料まで、全部。
コレは一体どう解釈して良いものやら。

「きっと私好みにして良いっていうことだと思うよ」
「……ま、まあそういう解釈しかないだろうな」
「大丈夫。フェイトちゃんもヴィータちゃんも私の味付け好きでしょ?」
「……別に」
「そうだった? いつも美味しいよって言ってくれるのに」

 なんでだ。なんでそこでフェイトの名前が先に出てくんだよ。
最近ずっと一緒にいるのはアタシだろうが。アタシの方がよくお前の料理の感想言ってるだろ。

「いつも? いつも言うほど作ってないだろ。嘘言うな、嘘を」
「嘘じゃないもん。私が作るときはちゃんと"美味しいぞ"って言ってくれてるもん」
「……そ、そりゃお前が言うまでしつこく迫るからで。べ、別に本心から――」
「言ってくれてなかったの?」
「う、うぅ……」

 そうじゃない、そうじゃないんだ。
いくらしつこく言われたからって、こいつにウソなんか言ってもしょうがない。
ちゃんと言っておかないと、直さないまま作り続けるからさ。
だから……嘘なんて言ってない。ホントに美味いときにしか「美味い」って言わない。
違うんだ、違うんだ。なのは。

「……そっか。じゃあ、今度からもう少し練習するね」
「あ、ああ。アタシは厳しいからな。覚悟しろよ」
「うん。……えへへ。やっぱりはやてちゃんには敵わないね」
「……まあな」

 包丁がまな板を叩く音がゆっくりになる。
やっぱ落ち込んでるよな。アタシが嘘言ってたって分かってさ。
なんでさ。なんで正直に言えないんだ。
なのはが作ってくれるときってさ。良いことがあったときとかさ。まあ、気が向いただけって時もあるけどよ。
それに流石桃子さんの娘だけあってさ。美味いんだ、嘘じゃないんだ。
だから嘘じゃないって……今までのアタシは嘘ついてたって事になっちまった。
ホント、なんでこんな事になっちまったんだよ。

「……ねぇ、ヴィータちゃん」
「ど、どうしたよ。なにか手伝って欲しいことでもあるのか?」
「ううん。そうじゃなくて。実はさっき戸棚を見たらね」
「戸棚……なんかあったか?」
「実はパンにカビが生えてたの。だから」
「明日の朝食分がないのか」
「うん。どうしようかなって、今思い出したの」
「ふぅん……」

 全くこっちを向かない。
アタシの機嫌が悪いとでも思ったのか、様子を窺うように話しかけてくる。
事実機嫌は良くない。
自分のいい加減さに勝手に嫌気が差して悪くなってるだけで、なのはは何にも悪くないんだ。
だから、そういう態度を取らせてしまった事が嫌でしょうがない。
少しだけ機嫌よく振舞ったつもりだけど、返って不自然になっちまった。

「おい。準備に後どのくらいかかる」
「準備……ご飯がどのくらいで食べられるかってこと? それなら後20分ぐらい、かな?」
「20分か。わかった、ちょっと出かけてくる」
「い、今から? 疲れてるんでしょ?」
「でもよ。飯食っちまったら出かけるの嫌だしよ。朝はちゃんと食べなきゃ駄目だ」
「それなら、この間買ってきたゼリーのヤツでも」
「あれは急いでるときだけ。良いから、お前はそのまま準備を続けてろ」
「あ、ヴィータちゃん!」

 20分なら近くの深夜営業やってるスーパーを往復出来そうな時間だ。
ホントはなのはの言う通りにしても良かったんだけど、今は少し時間が欲しかった。
ほとぼりが冷めるほどの時間は取れないけど、兎に角離れたい。
今のままじゃ、余計になのはを落ち込ませたりするだけだ。
踏み台から飛び降り、呼び止めるなのはの声を無視して家を飛び出した。
 
 
 


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