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2007年12月31日 (月)

おこた

 
 
 
「行ってきまーす。なのはママ~」
「行ってらっしゃい、ヴィヴィオ。ちゃんとフェイトママの言うこと聞くんだよ?」
「分かってるもーん」
「それじゃなのは」
「うん、気をつけてね。フェイトちゃん」

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2007年12月30日 (日)

新婚なの! 7-14

 
 
「ほら、ヴィータさん。こっち向いて下さいな」
「い、良いったら! 自分で出来るって!」
「そんなこと言ってさっきから髪が全然綺麗になっちゃっていませんですわよ?」
「うわっ!?」
「おほほ。幾らヴィータさんでも魔法を使ったりしなければ、近所の悪ガキとそう変わりませんわ」
「むぐぐぐ……! お前、絶対に後悔させてやる!」

 終始こんな感じで、兎に角メンテのヤツがアタシにくっ付いてきて仕方ない。
「裸の付き合いですのよ」とか何とかいって、ベタベタしやがって。
初めはなんとかやり過ごしてたんだけど、身体を洗い始めたらヌルヌルして抵抗できない。
これは相手も同じだろうと思ったら、後ろに回りこんで胴をガッチリ蟹バサミ。
そのまま座り込まされると肩を押さえつけられて、胴を挟んだ足でアタシの腿を押さえ込む。
こうなると何にも出来ない上に、コイツ上背があるもんだから上から圧し掛かられると重くって。
勝ち誇るメンテに歯軋りしながらも、大人しくせざるを得なかった。

「さて。頭洗いましょうですわね。大人しくなさってくださいな」
「くっ」
「そうそう。髪が長いんですから一人でやるなんてどだい無理な話ですわ」
「い、いつもは一人でやってんだ。今日だけ無理とかあるわけねー」
「あら。旦那様と一緒にお風呂しませんですの? 新婚ホヤホヤならお風呂の合間も惜しいぐらいで御座いませんの?」
「はぁ? 逆だろ。風呂ぐらいゆっくり一人にしてくれって言うんじゃねーのか?」
「……ふぅん。それは旦那様も大変だったりしちゃったりしますでしょうね」
「それはこっちの台詞だ。大体お前のその知識はどっから来てんだ。独身だろ、お前」
「それは早く結婚しろ、というセクハラだったりなかったり?」
「何でそうなるんだよ……分かった。大人しくするから早く済ませてくれ」
「はいはい、隊長殿でございます」

 頭のてっぺんにヌルヌルの液体が落ちてきて、その冷たさに思わず声を上げてしまう。
後頭部に漏れる笑い声が聞こえる。一応でも堪える振りぐらいしてくれよ。
ブツブツと文句でも言っていれば、頭はあっという間に泡だらけになっていく。
どっちかというと、アタシは髪を結ってるし、その大半は身体に隠れているわけだからそんなに汚れてない。
先に洗わなきゃいけないのはメンテなんだけど、もう後の祭り。
こりゃ気の済むようにさせた方が良いや。

「……なぁ、お前さ」
「あらお客さん。どこか痒いところは御座いませんだったり?」
「そういうギャグは世界共通なのか……」
「おほん。一体なんでしょうか」
「あのさ。さっきは助かった。もしお前がいなきゃアタシの腕は今頃……」
「そんなことですの。それならお互い様で御座いましょ?」
「いや、なんて言うか。勝手なルールに付きあわせたって言うのもあるし。
 先に言っておかなきゃいけなかったんだけど、こればっかりは見込みが甘かったせいで……」
「誰も怪我をせずに終わったのですから良いじゃありませんこと? 終わりよければ全てよし、でしちゃったりですわ」
「お前はそれでいいかも知んないけどさ。一応命を預かる隊長としては許されないことだしよ」
「……ふぅ。でしたら明日からはそうすれば宜しいじゃございません?」
「…………悪い」
「ほほほ。それほど気になさるなら貸し一つで手を打ちませんこと?」
「お前に貸しを作るとデカそうだから……ま、いいか」
「成立ですわね。は~あ、今から何をしてもらおうか考えると楽しみで仕方ありませんわ~」
「手加減してくれよ、マジで」

 喋りながらも手を止めることなく、後半は頭皮をマッサージするかのように洗ってくれた。
これが存外に気持ちよくて「頭洗うの上手いな」とか思わず零すと「明日からもお邪魔しましょうか?」なんて言いやがる。
風呂ぐらい一人で入りたいって言ってるだろ、と太ももを抓ってやった。
怯むことなくメンテは洗い続け、丁寧に泡を流してくれる。
次はメンテの番だな。
冷えてしまうから湯船に浸かってて良いとはいうけど、何だかそれも悪く感じて手伝うことにした。
髪は短めだし量的には一人で十分かもしれないが、汚れを見落とさないよう、ここは手伝うべきだと判断した。
汗に土ぼこり、それに加え今日は血が大量に付着していて髪の毛はコテコテに固まってたけど、それほど大変でもなかった。
汚れは「頑固な汚れもこれで一発!」を使えば楽勝。コイツはホントに強力だ。禿げそうなのを疑うほどに。
にゅるにゅると中身をポンプで出して、掌で泡立てて髪に刷り込んでく。
コテコテに固まった髪はほろほろと解れていって、二人でやればあっという間だった。
ここで一番問題なのは臭いだ。生臭いって言うかさ。
一応、鼻のスーッとするような香りがつくけど、それでも完全に臭いは取れない――ような気がする。
今回は特別そうなだけで、普段は任務に出かける隊員達には欠かせないアイテムなんだ、と改めて実感した。

「よし、流すぞ。ちゃんと目、瞑ってろ」
「了解ですわー」

 桶に汲んだお湯で流しながら頭皮までしっかりゴシゴシして、泡の残りのないようにする。
泡切れも抜群で、二回ほど流せば綺麗さっぱり。
こういうところまで進化してるのが素晴らしいじゃないか。
メンテはアタシと違って髪が短いから、余計にそうなってるのかもしれないけどさ。
綺麗になったところで二人一緒に湯船に浸かる。

「うぅ~。毎回思うけどこんなジャングルの中で風呂に入れるってすげー贅沢だ」
「こんな手間のかかること……シャワーで十分すぎるほどですのに」
「良いじゃんか、あっちの好―――依頼主のって意味な」
「他の意味があったりしちゃいますの?」
「別になんもねーです」
「ふぅん。ヴィータさん、大好きなお風呂に入って気が緩みすぎしちゃったりですわよ」
「あ゛ー、疲れた~」
「今日一番のお疲れは私だったりしやがってるんですにー」
「ぎゃわっ! なんで抱きつくんだよー!」
「あ゛ー、安らぎますのー」
「くっそー! なのはと言いお前といい、なんで一々アタシに抱きつきやがるんだーっ!」
「おほほほほ。そういう反応が可愛かったりしちゃったりするからですのー」

 引っぺがそうと湯船の中で暴れると、ざぶざぶと波立ってお湯がこぼれていく。
その様子に勿体無いな、と動きを弱めた瞬間を見逃してはくれなかった。
ガッチリ抱きかかえられて身動きが完全に取れなくなる。
なんだろう。フェイトがバインドに弱いようにアタシは抱きつかれるのに弱くなってるのか……?
まあ冗談はおいといて。
それを誰かに聞けないのが困りものだ。
なのはは論外。はやても違う気がするし、フェイトは……どうだろう? 知らないかもしれない。

「大人しく抱きしめられるのも良いですけど、やはりツンツンなさってる方が魅力的かしら」
「……あんだよ。アタシがいつも機嫌悪いみたいじゃんか」
「そういう意味ではなかったりするのですわ。ところで話は変わったりしちゃいますの」
「なんだよ」
「指輪。二日目にして、どうでしたかしら」
「……あ、ああ。そういやそうだったな」

 引っぺがそうと腕を掴んだままの左手を、湯船から上げてじっくり見てみる。
別に変わったところはない。昼間に見惚れて危うくなった時と同じ。そのままだ。
表から裏から。手のひらを返して眺めていると、背後から手が伸びて手首をガッチリ掴まれた。
 
「な、なにすんだよっ!」
「あれだけ血をべっとり被ったんですもの。細かいところに汚れが溜まっていませんかチェックをば」
「良いよ、そんなの自分でやるからさ。それと、いい加減手、離せってー」
「湯船は狭かったりしちゃってますのよ? こうやってくっ付いていませんと」
「だったら一緒に入らなきゃ良いじゃねーか……まあ、今更言っても遅いけどさ」

 頭の後ろで何やら言ってるのを無視して指輪を外し、どっか汚れが残ってないか調べてみる。
内側に洗いきれてないのがあっただけで、それも指で擦れば直ぐに落ちた。
傷も目で見る限りは見当たらない。どっかにぶつけた訳でもないし、アイゼンは右手で握ってたからな。
改めて眺める指輪は明かりを反射して慎ましやかに輝き、湯船の水面がキラキラとしているのも相まってとても綺麗だった。
不思議だよな。ただの金属か何かを曲げて輪っかにしただけなのにさ。
なんでこんなに目を奪われるんだろう。
あんな襲われてる間際だってのに、あの瞬間は指輪しか目に入ってなかった。

「それは愛する人からの贈り物だからでございましょ?」
「ぶはっ! な、なに言ってんだよ! アタシはなんも言ってねーぞ!」
「目は口ほどにものを言う、だったりなさるんでございましょ? 特にヴィータさんは目が大きくてらっしゃる」
「そういう意味じゃねーよ」
「おほほ。図星でしたのね」
「ふん。もうなんも言わねー」

 綺麗になったのを確認して、元の位置に戻す。
この指輪はここ、アタシの左の薬指が定位置なんだ。
危険な目に遭ったっていうのに、やっぱり首から下げるんじゃなくて薬指なんだって。
その為にはしなくちゃいけないこともあるし、我侭で同僚にリスクを負わせるわけにはいかない。
それでも。それでも出来る限りここに置いておいてやりたい。
……こんなの。他の誰にだって知られたくないけどさ。
特になのはのヤツには。
もしバレたりなんてしたら調子に乗るに決まってる。そんなの勘弁だかんな。
 
 
 
 
 
「明日も早いんだ、もう寝ろよ」
「……あら、今日はこっちに来ませんの?」
「今日はって。今日も、だ」
「釣れないですのね。裸で抱き合った仲だというですのに……」
「事情を知らないやつが聞いたら誤解するようなこと言うなよ」
「誤解だなんて……冷たい」

 風呂も上がって夕食も済ませる。
レーションっていっても豪華なもんで、ちょっと手を加えれば普段と遜色ないモノを口にすることが出来る。
そんな普段から口にするものじゃないし、興味もあってちょっとだけテンションもあがる。
あっちの連中とは一緒に食事取らないけど、親睦っていうかそう言うのもし一緒のほうが手間も減って良いのにな。
頭の端でそんなことを考えながら、肘着いて食うなとか一々アタシに構うなとか二人を怒りながら食べてた。
それでも。頭の中の殆どを占めてたのは、目の前のレーションへの興味よりもなのはの事だった。
自分で作れないわけじゃないし、近所で出来合いのモノを買ってきたって良い。
だから心配する要素なんてないんだけど、ない筈なのに心配で仕方ない。
そんな心配なんてしてないって思うのに、それを自覚せざる得なかったのは「ため息が多いですわよ」って言葉だった。
二人を注意した合間でなくて、ぼんやりと箸が止まっているときに決まって吐くのだと言う。
慌てて否定するも、その態度が余計に怪しまれる結果になった。
指摘されると余計に気になる。お陰でせっかくの美味そうなレーションも、味がぼやけて何を食ってたか覚えてないや。

「ふぁ~あ。まだちょっと生臭い気がするな」
「でしたら此方へいらっしゃいな」
「二人で引っ付いたら余計生臭くなるだろ」
「残念」

 寝床は普通。
風呂がアレだけ備え付けみたいなのを用意できるのに、寝床は寝袋の少しガッチリした作りになったやつ。
別に不満があるわけじゃないし、コイツと一緒だと返って寝袋の方が安全いうか……まあ、今日の朝みたいなこともあるけど。
なんであんな事になってたんだろうな。
ちゃんとチャックを閉めて寝なきゃいけないって事なんだろうか。

「そんな頭まで全部入ってしまうと暑苦しくありません?」
「そんなこと言ったってよ。また外に出ちまったら嫌じゃんか」
「……それもそうですわね。新婚ホヤホヤのヴィータさんが他の女を抱いて寝たなんてバレたら」
「むぐぐぐ……!」

 聞くとイメージ悪いけど、嘘を吐いてるわけじゃないのが困りものだ。
前の晩になのはの話をしたりさ、物真似なんて聞いちまったもんだから夢に出てきたりして。
指輪のこととかも気にしてたから、意識はしてなかったんだけど、頭の中はそうなってたんだろうな。
なのはを一緒に寝かせてやるようになってからか、抱きつき癖が酷くなって気がする。
大体はなのはが抱きついてくるんだけど、偶に。ほんの偶にこっちから手を回して抱きついてることもある。
そういう何時もの癖が出ちまったっていうか、それで朝早くに目を覚ましたら目の前にメンテの胸元があったんだ。

「遠慮なさらずとも。私、口が堅いんですのよ?」
「ヤだね。そういう問題じゃねーんです」
「あら残念。人肌の恋しい季節だったりしちゃってますのに」
「そうやって言うヤツは一年中恋しい言うけどな」

 慌てて飛び起きたんだけど、アタシが出来ついてきた時点で目を覚ましてたらしくって。
寝顔と目を覚ましたところと、気がついて驚いたところとか全部見てたんだってよ。
そんなもんだから準備してる間とか、調子乗ってずーっと引っ付こうとするし、朝から一日分疲れた気分だった。
コイツ、前からこんなだっけか? 覚えてねーや。
 
 
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2007年12月28日 (金)

新婚なの! 7-13

 
 転送先では連絡を受けた二人が出迎えてくれて、血塗れのマントを交換してくれた。
足がふら付くようなら大人しくしてなきゃいけないって分かってるんだけど、どうしても落ち着かない。
フーガのヤツはそれっきり連絡をよこして来ないし。余計にそうなる。
引き止める航行隊の連中を無視してジャングルへ引き返そうとしたとき、連絡が入った。
どうやら無事合流できたとのことだった。
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、続く言葉はアタシ達を少しだけガッカリさせた。
メンテがペットの下半身だけを拾ってきたとの事。
インカムの割り込みをしたメンテの報告によれば、大きな動物に襲われたのか上半身がなかったとのことだ。
最低のラインは確保できたが、すっきりとはしない。
これから持って帰るというが、隊長として一応現場を見ておかなきゃいけない。
詳しいことはアタシから報告しなきゃいけないしな。二人には任務のホントのところは秘密なんだし。
広域探査で今のところ危険がなさそうなのを確認してもらい、戻してもらった。

「おい、二人とも。大丈夫か?」
「ええ。この人と一緒にしないでくださいまして」
「……ぐぐ」
「そう言ってやるなって。お前のこと心配してたんだから」
「ふーん」
「べ、別に俺はお前の事なんか気にしてないんだからな! た、ただヴィータがその、えっと……」

 何を焦っているか知らないけど、身振り手振りを加えて必死に弁明をする。
別に否定するこっちゃないのにな。仲間を心配して頑張れるってえらいじゃんか。
まあ、余り引っ張っても可哀想な雰囲気なので本題に入ることにした。

「んで。死体があった場所は?」
「こっちですわ。思ったより近くて驚いてしまいましたわね」
「……ふぅん、確かに。アイツ等ならアタシたちは随分前から見えてたって事か」

 メンテに手招きされて立った場所は、随分と木や草が生い茂っているとはいえ、アタシ達が襲われた場所を見通せる位置にあった。
見える、っていうのは目視できるって意味じゃなくて、ここで生きてる連中なら余裕で探知できる範囲って意味。
……外の連中、見落としてたのか?
それにしちゃお粗末過ぎる……一体なにやってんだ。

「こんなに近くて分からなかったのか」
「それが悔やまれますわ」
「何で分からなかったのか……考える時間は少ないな」
「大きさは一番小さかったですわね」
「子供だったのか? 反応が小さかったのかもしんないぜ」
「う、うーん……どうだろな」

 参考までに二人の意見を聞きながら、足元の様子を確かめる。
ここで獲物に有りついたところでアタシ達に気づき、食事を中断したってところか。
若しかして、一昨日のヤツから話がいってるのか? 前に来たことのあるヤツがいるぞって。
それと関係なく、アタシが騒ぎすぎたせいで敏感になっているか……
どちらにしろ、アタシ等はここで凄く目立つ存在って訳だ。
その目立つ獲物を闇雲に狙ってるわけじゃない。相手は思ってたよりもずっと賢い。
確かに言うとおりだ。相手は確実に殺しにきてる。
それも捕食のためじゃなく、邪魔だから……かもしれない。縄張りは守らなくちゃいけないからな。
こうなってくると―――アタシも腹を括る必要がある。
アタシの勝手な制約に巻き込むわけには行かない。
ホントならそこまで含めた上でしなきゃいけないんだけど……覚悟が足りなかったってことだ。
情けないことに、さ。

「死体があった場所はここだな」
「ええ。血溜りがもう真っ黒にでございましてよ」
「よし。処理して帰るぞ。ちょいと作業するから回り、見張っててくれ」
「「了解」」
「ああ、そうだメンテ。回収袋、持ってるか?」
「ちゃんとこの通り。既にこのなかでしちゃったりですのよ」

 マント羽織ってるせいで回収袋を持っているのを確認できなかった。
死体を回収したと言った時点で聞いておかなきゃいけなかったんだけど……ちと気を抜きすぎだ。
腰のポーチからスプレーやらを取り出して、地面に広がったどす黒い血溜りを処理する。
実験動物だからな。こっちの世界にどういう影響及ぼすかしれないし、血なんかは影響大きいだろ。
まあ実験動物だからしなきゃいけない訳じゃなくて、アタシ達も含めてそうなんだけど。
だからそれはこの二人も分かってて、特に不審がられることはない。
しかし、今回。一番の目的は後から追ってきた連中に成果を残させないためだ。
本体じゃなく、血とかでも十分って事もあるからな。
なんだっけ。遺伝子がどうとかさ。そういうのでも十分らしい。
抜け毛とか、そういうのも回収する必要がありそうだけど、そんな手間かけてちゃ管理局に見つかっちまう。
……逆にここがそいつ等のお膝元っていうなら別だけどさ。
それならアタシたちが自由に出来ないだろうし、それはないだろう。

「結構染み込んでんな。このスプレーで固めて……えっしょ、よっと。よし、終わりっと」
「へぇ~、便利そうだな、それ」
「ああ。揚げ物の後の油固めるヤツみたいな感じだ」
「……? なんだ、それ?」
「うん? あ、いや、えっと。なんでもねーよ」
「ふーん。偶にヴィータって訳分かんないこと言うよな?」
「そうでしたかしら。あなたの理解力が足りないだけだったりなかったりしません?」
「こ、今回のはちげーよ。絶対そんなのないって」
「まあ、今のはアタシが前にいた世界の話だからな。分からなくて当然だ」
「ほれ見ろ」
「ヴィータさんの優しさは人をダメにしますわね」

 そっか。ミッドには固める○ンプルなんてないもんな。
アレって不思議だよな。油が固まっちまったら元に戻ったりしねーんだもん。どういう仕組みなんだろうってさ。
そんな風に、ちょっとだけ日本のことを懐かしく思い出しながら作業を続けた。
薬剤で固まった土を掘り出し、専用の袋に入れて回収完了。
不恰好に地面に穴が開いちまったもんだから、周りからかき集めて何とか見栄えだけでも見れるようにした。
草とかもついでに抜いたから余計に、ぽっかり穴が開いたように見えちまうのは、まあ勘弁しておくれ。

「よし、終わったぞ」
「んじゃ帰ろうぜ。まだ早いけどさ。二人でそんな荷物抱えてウロウロ出来ないだろ?」
「そんなに言うのでしたら、あなたが持ってくだされば宜しいのでなくて? 勿論、二人分」
「や、やだよ! こんなところで両手塞がるなんて自殺行為じゃんか!」
「……ですらか申し上げたのですわ(ボソッ」
「ひぃ~ん。ヴィータ~」
「あー、はいはい」

 ポーチに土の入った袋を仕舞っていると、また二人が何やら毎度の言い合いをしている。
毎度毎度同じ展開で、最後は決まってフーガが泣き言を言う。
よく飽きないよな、メンテはさ。
昨日、あんま苛めるなよって言ったばっかなのに……はぁ、仕方ない。

「今日は帰るぞ。荷物を持って帰って貰わないとな」
「そうそう。ヴィータも帰ろうって言ってるぜ?」
「あなた。やけに帰りたがりますわね」
「か、勘違いスンナよ。ヴィータのことだよ、今は。それに。お前だって何時までもその格好じゃいられねーだろ」
「……それもそうですわね」

 フーガに指摘され、血塗れのマントをパタパタと叩いたり身体を捻っては、改めて汚れを確認している。
マントはまだしも、あれだけ髪と顔が血塗れになって気持ち悪くねーのかな。
流石のメンテはも指摘は事実だし、言い負けたとかそういうのは関係ないって事か。
中々気が利くようになってる、せっかくの好意だ。今日は早めに引き上げて明日の準備を万端にするとしよう。
もう一回転送してもらって、回収した死体と土、メンテとフーガのマントも一緒に持って帰ってもらった。
アタシが予備の一個を使ってしまっている。もう二つはないらしい。
なんだよ、最低三つは用意しとけっての。準備が悪い奴らだな――などと悪態をつくことはしない。
そのお陰で待機が決定したのだし、怪我の功名いうのは変だけど、それで良しとした。
装備を変えても身体が血塗れのままじゃ意味がない。
次は身体を綺麗にしなきゃな。
フーガのヤツはアタシを抱いてただけでそれほど汚れてないので、風呂は後で良いそうだ。
そういう訳でアタシら二人が先に風呂を頂くことになったわけだけど。

 

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2007年12月26日 (水)

クリスマス イブ 後

 
 
 記事を3つに分割しました。
 

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2007年12月25日 (火)

クリスマス イブ 中

 
 
 昨日の続きです。
では、続きからどうぞ。
 

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2007年12月24日 (月)

クリスマス イブ 前

 
「メリー、クリスマス……」

 コルク栓を抜き、景気のいい音と共にシャンパンが溢れ出す。
シャンパングラスがロマンチックな音色を奏で、傾けたグラスからシャンパンが喉を濡らす。
部屋はクリスマスに相応しい、厳かで密やかなイルミネーションが彩り―――

「……はぁ。最悪」
「なんでよ~。このアタシが一緒に盛り上げてるのにぃ~」
「あなたがいるからでしょ」
「酷い……」

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2007年12月23日 (日)

新婚なの! 7-12

 
 赤。真っ赤な何かが飛び散って、視界を埋め尽くす。
赤く、赤く。視界も思考も全て染めて。胸に何か衝撃が走り、その何かと一緒に地面を転がる。
痛くない、痛みはない。でも、一体何が起きてるのか全く分からない。
回らない頭で現状を把握できないでいると、何かによって抱き起こされた。

「おい、ヴィータ! なにボサッとしてやがるんだ!」
「あ、ああ……?」

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2007年12月22日 (土)

新婚なの! 7-11

 
「……! おーい、ヴィータ~」
「あん? 呼んだかー? 聞こえねーから念話寄越せー」
「ああ、思わず……えっとだな。足跡見つけたぞ。昨日のと同じだ」
「分かった。今すぐそっちに行く」

 初めてのお手柄で思わず声を上げてしまう気持ちは分かる。
直ぐに念話に切り替え、足跡を見つけたと報告。自分だけでなくデバイスに覚えさせたモノでも確認した上でだろう。
念話を繋げたまま、草を掻き分け、身長の三倍ほどの根に登り、一軒家ほどはありそうな木の幹を回り込もうとしたその時。
起動させておいたアイゼンが警告を発する。
アイゼンを握る右手に力を込め、銀棒をバッグにしまい込んで半分顔を出す。
アイツにもデバイスから警告が出ているはずだ。
高いところから周囲の状況を伺いながら、背の高い草の中にアイツの頭頂部を探す。
やはりあっちも感づいたみたいで、後ずさりしながらキョロキョロと辺りを見渡していた。
気配の近くないことを確認し、そのまま呼び寄せた。

「おい、こっちだ」
「あ、ヴィータ。あのさ、足跡見つけたのは良いんだけどよ」
「いいから。こっち来い。昨日の通りにな……そうだ」
「ふぃ~。念話送った途端に警戒音が鳴ってさ。ビビッタのなんの」
「足跡はどっちに続いてる?」
「あっち。あの物凄い勢いで何かが潜んでそうな」
「……うーん。そんで、足(魔力)跡は確かめたか?」
「ああ、ばっちりな。何だか昨日より弱いんだけどさ。結構遠いのかもな」

 指差す先は、いかにも警戒音の主が潜んでそうな雰囲気を醸し出している。
フーガの方が対象に近いために特定できたのだろう。しかし、それでも何匹ぐらいいるのかは分からない。
外の連中は何やってたんだ。こんな接近されるまで分からないわけないだろう。
一昨日みたいな奴だったらどうするつもりだったんだ。全く。
まあ、そうそうお目にかかれない筈だが……いや、そうでなきゃ困る。

「さて。どうするかな」
「迂回すれば良いんじゃんか」
「あの茂みに足跡が続いている以上、どのみちあの辺りへ近づかないとダメだぞ」
「あ、そっか」
「ふぅ……アタシが突っ込む。こっから見えないって事は相手は小さいはずだ」
「そ、そういう油断って良くないんじゃねーのか」
「正面から喧嘩するわけじゃない。ちゃんと考えてある。良いか、離れずについて来いよ」
「ま、待てって。そりゃ分かったけどさ。お前についていくなんざ無理だよ。空も飛べないんだしさ」
「じゃあアタシが後ろから追いかけてやろうか。それとも―――」
「私が後ろから追いかけますわよ?」
「うわっ!? な、なんだよ。驚かせんなって……」
「ヴィータさん。あそこを突っ切っていくんでございますの?」
「ああ。足跡があそこを通ってるっていうからな。向こうが動くのを待っても良いんだけどよ」
「多分あちら様、こちらを狙っているのじゃございません? 動きませんわよ」
「同感。だから退いてもらうことにした」
「ふぅん。ならそれで宜しいじゃございませんか」
「待てよ。何が居るか分かんねーんだぞ」
「私はヴィータさんを信用してますから関係ありませんことでしてよ」
「信用とかじゃなくてだな。危険かどうかって話だよ!」
「何のために私達がいると思ってますの? フォロー、する気ゼロですわね」
「……ああ。分かった、分かったよ! ヴィータに着いてきゃ良いんだろっ!」
「ふふん。初めからそう仰れば宜しいですのに」
「あ、あのさ。アタシを無視して話し進めんなよ。それに一理あるっつーか……」
「良いじゃありませんこと? 珍しく根性出したのですから」

 涼しい顔したメンテと意気込みは伝わってくるけど涙目になりそうなコイツ。
こうなると言った手前、やんなきゃなんねーか。
フォローしてくれるってのは良いけど、心配なんだよな。
初めから狙いを定めてた場合とかさ。

「仕方ない。ちゃんと退いてくれよ……それ!」

 左手を振って鉄球を四つ生成し、アイゼンで続けざまに叩いて茂みの向こうに放り込む。
もし直撃しても大怪我にならないように威力を調節して。炙り出すか退いてくれればいいんだから。
赤色の軌跡を描いて飛んでいく鉄球。
草や木の葉を散らしながら進み、茂みに飛び込むか飛び込まないかのところで何かが飛び出してきた。
直ぐに草の中へ隠れてしまうが問題ない。
黄色い身体に黒の斑点。地球にもいる豹によく似た格好だったのはバッチリ確認できた。

「よし、アレなら問題ない。行くぞ!」
「マジかよ。結構強そうじゃなかったか?」
「グズグズ言うと蹴飛ばしますわよ」
「お前が蹴飛ばしたら死ぬだろうが!」

 相手も今の攻撃の威力が分かったのか、徐々に距離をとっていくのが分かる。
気配でそれを確認しながら木の陰から飛び降り、草むらを突っ切っていく。
飛び降りる前に後ろで何か揉めてた気がしたけど、そんなピッタリくっつかれても困るし。
最悪メンテがアタシの位置さえ掴めれば追いつける。
とにかく先行して危険を蹴散らしてくしかねーや。
昨日と違ってこの辺は地面が硬く、足跡もしっかりしなくて判別しにくい。
仕事をしない連中を無線で呼び出してもはっきりした返事をしない。
面倒なことにならなきゃ良いがと思う。四日目ともなれば相手も動いてくるはず。
近くにいるかも、というチャンスを無駄にするつもりはない。
少しだけ姿勢を低く保ったまま、背の高い草の合間を進んでいくと、アイゼンがまた警告を発した。
その時ふと鼻を突く嫌な臭い。
勘違いかと思って確かめてみるけど、もう感じ取れなかった。
本当に勘違いであってほしいと思いながら、足跡を見据えたまま近くの木に身を隠す。

「ちゃんとついて来てるな」
「ああ。こっちだ。ど、どうしたんだよ。ヴィータ」
「ちょっと詰めてくださいな。私だけ隠れませんでしてよ」
「ちょ、バカ。あんま押すなって! ヴィータが出ちまうだろうが」
「ならあなたが出たらどうですの?」
「ヴィ~タ~」
「いい年した男が泣くな。情けない」

 出遅れた割には後ろの二人の到着は早く、物陰から様子を伺おうとしていた時には追いついた。
後ろで押し合い圧し合いしてるけど、それを無視して覗き込めば、ざわりとした気配と共に空気が動き、同じ臭いが鼻を突く。
やっぱりだ。
慣れてるとはいえ、何度嗅いだところで好きになる臭いじゃない。
随分昔のこととか、あの時のこととか……とにかく嫌な思い出しか浮かんでこないし。
任務のために嫌な記憶を頭の端へ追いやると、改めて周囲の気配に神経を張り巡らした。

「……死体でも、か」
「どうした、ヴィータ。行かなくていいのか?」
「お前はどうだ? この臭い」
「う~ん……どうだろ。獣臭いとかか?」
「―――血の臭い、でしちゃったりよ」
「!? じゃ、じゃあ、さっきの黄色い奴が!」
「違うな。それに釣られて寄って来てたんだけど、獲物を漁ってる奴が自分より強いんでヘタってアタシたちに変えたんだな」
「へへっ。そりゃ運がなかったな」
「ええ。アナタみたいだったりな動物でしたのね」
「……ふん。俺には元々こっちは向いてねーんだよ」
「腐るな。ちゃんとやれてるじゃねーか。ホントに駄目ならとっくに首だ」
「うぅ~、ヴィータ。一生お前についてくよ。ぐすっ」

 こっからじゃ見えない。だけどアイゼンが間違うわけないし、血の臭いはどんどん強くなる。
押しやったはずの記憶がむくむくと自己主張を始め、何故だか左手が重くなる。
気を紛らわすために、銀棒を取り出して反応を確かめれば、まだ弱い。
これは距離がまだ離れているからか、それとも……。
前者なら良いけど、何故だか悪い予感しかしねーや。
血の臭いの正体があのペットかどうかなんて確かめてもないのにさ。

「多分、この向こうにいるのは一昨日と同じ種類の奴だ」
「一昨日……この辺りにあんな巨体を隠せそうなモノはありませんですことよ」
「同じ種類だって言ってるだろ。一昨日とは同じ個体じゃないってことですよー、へへーん」
「そういうこった」
「あら。間違えちゃったりしちゃったみたい」
「……全然凹んだりしないのな、お前」
「はぁ、なにやってんだ」

 一昨日みたいなのは特別おっきくなったに違いない。そうじゃなきゃ困る。
あんなのがゴロゴロいて堪るかよ。倒すならかなり真剣にやらなくちゃいけないレベルだ。
それに、アレだけ大きくなるにはそれなりに長生きしてるわけだ。
そう簡単に気配を悟られたりしているようじゃ、普段の食事すら侭ならない。
身を隠すのが上手く、強い。
もし、あれが特別な強さじゃなくて、その存在をアタシが知らないだけだったら……撤退だな、こりゃ。

「よし。さっきみたいにアタシが様子を―――なんだ!? 上か!」
「う、うぅわああっ!?」

 一歩木の陰から出た瞬間。足元の影が濃くなり、頭上から圧迫感が降ってくる。
見上げる、アイゼンの警告がわずかに遅れてた。
捕らえた影の主は件の角野郎。スチールウール毛の塊。
フーガの奴を思い切り突き飛ばしながら自分も飛び退く。
ひっくり返って背中から落ちるフーガに、手足に小さく魔方陣を展開して飛び退くメンテ。
アタシたちが着地するよりも早く、降ってきた角野郎がその巨体を地面にめり込ませていた。
こっちを見てない。
初めからフーガ一点に狙いを絞ってやがったのか。
アタシ狙いじゃねーのかよ……面倒だな!

「シールド張れ! 踏ん張るんじゃないぞ!」

 アタシが着地するかしないか。角野郎が身体を縮こませたかと思うと大きく爆ぜるように四肢を伸ばし飛び掛る。
アタシの声がちゃんと聞こえたのか、ひっくり返りながらもシールドを展開する。
体勢を整える間もなく、角野郎の爪はフーガのシールドをがっちりと捕らえた。
反発で再び吹っ飛ばされるフーガ。
仕方ないがこれで良い。
相手の魔力と体重が大きいもんだから、弾くはずのシールドで踏ん張らないとこっちが吹っ飛ぶ。
下手をすればシールドを突き破られる恐れもあったが、狙い通りにそれを利用して間合いを強引に作ることが出来た。
こういう戦法。初めて見たのはなのはがやって――くそっ、肝心な時になのはの話かよっ!

「おい! よそ見してるとタンコブ出来るぞ! 口閉じろ!」

 効果は望めないだろうけど、気を惹けやしないかと大声出し、地面を蹴る。
今度は向こうが着地前で体勢を整えられてない。チャンスだ。
地面に着いたところで振り向く間も与えない。右片手を思い切り伸ばし、首根元近くを思い切り叩いてやった。
鈍い音がする。
ずっしり生えそろった歯をむき出しにして、思わず震え上がる様な不気味な声を出しながら角野郎は地面に伏せた。

「今度はちゃんと気絶してくれ―――」
「ヴィータさん! 後ろですわよ!」
「なっ!?」

 振り下ろして、倒れた角野郎の上に降りたところでメンテの声が飛んだ。
慌てて上体を捻り、シールドを張るために左手を前に出す。
伸ばした左手の向こうには、今足元で寝転んでる角野郎より大きいのが二匹。こっちに飛び掛ってきてる。
大きな口を大きく開け、真っ赤な口内が今まさにアタシを捉えようとしている。
その赤が。血の様に赤い――正に血の色の――赤が。
少しずつ大きくなっていた嫌な記憶を一気に押し広げた。
シールドを張らなきゃいけないと伸ばした手の先。
角野郎の赤と小さく光る何か。
視線が移る。その小さく光る何かに吸い寄せられる。指輪だ―――なのはに貰った指輪。
左手の薬指に収まった指輪が、どこからか差し込む光を反射したのか、小さく光っていた。
久しぶりに見た、意識した、薬指に収まって小さく光る指輪を。
その光景に目も意識も奪われて、シールドを張るタイミングを完全に逃した。
一番近くの、血に濡れたような真っ赤な口が近づいてくる。
改めて見ると、こいつらの歯ってすげぇギザギザしてんのな。
噛まれたら終わりだ。アタシの腕ぐらいだと一噛みで千切れちまうなぁ。
せっかくの、なのはから貰った指輪。こいつ等の腹の中に納まっちまうのか……

「ヴィータっ! 何ぼうっとしてるっ!」

 聞き慣れない口調に、声が、アタシの意識をぐっと引き戻す。けれど間に合わない。
シールドが展開するために腕を伸ばしきるよりも早く、角野郎の口がアタシを捉え―――目の前は真っ赤に染まった。
 
 

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2007年12月21日 (金)

新婚なの! 7-10

 
 四日目の朝。
レーションで食事を済ませ、決まった手順でジャングルの中へ転送してもらい、昨日、最後にいた地点から再開をする。
三人で範囲の絞込みをかければいくらか効率が良くなる。
無線が届き、直ぐに合流できる範囲から徐々に狭め、絞っていく。
どこから届いているのか分からない、鬱蒼とした感を醸し出している光の中、銀棒がボンヤリと光る。
登録された魔力の持ち主、若しくはその通った後(時間が経つと臭いのように薄れていく)に近づけば強くなる、という仕組み。
そうやって三方向から寄っていき、かち合った場所で目を皿のようにして足跡を探す。
闇雲に足跡を探すよりはマシだと思うが……

「ヴィータさん」
「どうした。分からないことは先に聞いとけって言ったはずだぞ」
「こちらへ来てから、随分早起きみたいですけど?」
「……隊長だからな。色々準備とかあるんだよ」
「そうでしょうかしら。そのような事も含めての設定がなされているはずですが」
「う、むぅ」

 散開の合図にメンテだけ動かない。
何か言いたいのかと待っていれば、案の定口を開き、つまらないことを言う。
早起きしてしまっているのは本当だ。昨日と同じで、なのはのことが気になってさ。
ちゃんと起きてるだろうか。朝ごはんは食べてるだろうか。遅刻しないで出勤できてるだろうか……そんな感じに。
こっちとミッドの時間はずれているから、起きた頃にはすっかりその時間は過ぎているのだけど。
しかも、二日連続。寝しなにメンテが余計な話をするのも原因だ、と思う。
なのはに、フェイトのこと。
ちゃんとケジメをつけないまま出てきちまったのも手伝って、余計頭にこびり付いて離れない。

「体調が気になりますわ。タダでさえ最後まで起きていらっしゃるのですもの」
「だ、大丈夫だ。ちゃんと管理できてるよ……」
「ならば宜しいのですけど」
「……もう良いだろ。ほれ、早く行け」
「うふふふ。もう少し長く寝てくださいましね」
「……?」
「こちらの都合ですから」

 訳の分からぬことをいう。
心配しているのかと思いきや、自分の都合だと言い出したり。
任務に集中させたいなら、なのはの事とか余計な口出ししたりすんじゃねーよ、と言いたい。
お陰で意識しないようにしてるのに、左手の薬指がムズムズしてくる。
協力すると言いながら、その実邪魔してるだけねーか。
 
 
 
 
 
「ヴィータさん。ビンゴですわよ」
「マジか。でかしたぞ」
「ちぇっ。またお前かよ……」
「良いじゃねーか別に。手当ての額に影響するとでも思ってるのか?」
「そういう意味じゃなくてさ(ブツブツ」
「ほれ、行くぞ。グタグタしてる暇なんてないんだからな」

 一人離れていたメンテが足跡を見つけたようだ。
これで今日中に二匹目を確保できるよう願うばかりだ。そうなりゃ後一匹だ。
早くなの……いや、こんな暑苦しいところにお去らばできる。
キビキビ動いて合流する。グタグタしていると、徐々にやる気を削がれていく。この暑さにな。
アタシの身長より、頭一つぐらい背の高い木の根や草なんかを避けながら、草の合間からひょっこり頭を出すメンテに合流した。

「どっちの足跡だ?」
「こっちですわよ。ですからちょっと手間ですわね」
「ヴィータ。有効範囲ってどのくらいだ?」
「そうだな……結構広いぞ」
「昨日は結局足跡で見つけたからな」
「無線あるけどあんま離れるなよ。直ぐに集まれる範囲だ」

 メンテの言ったのは銀棒のほう。つまり足(魔力)跡ってわけだ。
昨日は言葉どおり足跡で見つけたから、こっちでの探し方は初めか。
反応する範囲の広い狭いは、対象の魔力の大きさが影響する。
でかけりゃ遠くまで届くし、弱けりゃ近くまで行かないと分からない。
範囲が広いから、まず反応で探って、それから痕跡なんかを探して絞っていく。
だけど、結局はそれを使わずじまいだったんだけどさ。

「う~ん、なんだかアベコベだな」
「どうした、ヴィータ」
「何だか上手くいかないってこと」
「珍しいな。お前が文句言うなんてさ」
「ふん。ほれ、手休めてないで動け」

 ただ、反応があったってことは本体が近い。若しくはさっきまでこの辺りに居たってことだ。
アタシらに反応がなくメンテにあったと言うことは、今はもう移動しちまってるんだろう。反対側にな。
早く絞り込んでいかないといけないな。
二人は中腰になりながら、アタシは周囲を警戒しながら範囲を絞り込むために銀棒を揺らす。
最後には足跡やら実体のある痕跡が決め手になるとはいえ、まだその時じゃない。

「こんだけ草が生い茂ってると、邪魔でしょうがねーや」
「魔法で草刈でもしたらどうですの?」
「俺はそんな器用な真似は出来ないの。大体射撃魔法でどうしろって言うんだ」
「……航空隊の名が聞いて呆れますわね」
「うっせ。空を飛ぶのが仕事なんだ。草刈なんて習わなかったろ」
「邪魔だとは思うけど、不要に刈ったりするなよ」
「いいよな。ヴィータは地面が近くてよ」
「お前は遠くが見渡せて良いじゃねーか。何か? ギガントに括り付けられて鳥の餌にでもなってみるか」
「鳥葬は勘弁してください。ヴィータ隊長」

 コイツが面倒に思うのも分かる。
背が高いからな。いくらアタシが警戒してると言っても気になるだろうし。
それで首を上げたり下げたり、草が邪魔で億劫にもなるだろう。
そういやメンテはどうやってるんだろうな。
こっからじゃ見えないけど、屈んだまんまでやってそうだ。
……っと。アタシが警戒怠っちゃヤバいな。
アイゼンにも周囲の探索任せよう。いざって時に間に合わないってのは勘弁だ。
―――そう。この辺りはまだ大きなヤツを含め、しっかり分かってないことが多い。

「分かってない、ってのは気持ち悪い、な」

 左手に銀棒、右手にアイゼン。
両手で握るような事態に遭遇しなければ――それ自体が危機が迫ってない証拠だけど――おっさんに指摘された弱みを見せずに済む。
一旦意識し始めると、どうしようもなく存在感をアピールする。
それらを振り払うように周囲に意識を飛ばし、自分の仕事に専念した。
 
 
 

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2007年12月20日 (木)

新婚なの! 7-9

 
「あんま食欲ないと思うけど腹に入れとけよ」
「ヴィータさんとご一緒出来るのですから」
「俺はあんまり関係ないかも」
「……あっそ」

 よく周囲の見渡せて、ガッチリした巨木の袂を選んで腰を下ろす。
大きめというなら選ぶのに苦労しないジャングルだけど、昨日のことがある。
あの巨体なら反応もデカいから、逃げられないような距離まで詰められることはないだろうけど、詰められたら逃げるしかない。
だから、それ以下のヤツへの対応。一撃でぶち抜けなさそうなのが基準だ。
閃光魔法が有効なのは分かってるから、木を盾にして同じ手順で逃げれば良い。
鉄則を作ってしまうと逆に対応し辛くなることもあるけど、不安の緩衝材にはなる。この二人にもさ。
外からの無線とアイゼンに警戒を任せ、昼ご飯をとることにする。
アタシのそういった心配を他所に二人は既に座り込んで、すっかり休憩モードだ。

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 12月31日「コミックマーケット73」にて、当ブログでもリンクを貼らしていただいている平成旅人浪漫譚さんが販売される本の告知です。

 その名も「八神ヴィータの突貫! 隣の晩御飯ッ!!」です。

 あたしはヴィータ
 世間では永遠のはっしゃいと言われているゲートボールの逸材だ
 管理局の白い悪魔でもブン殴ってみせらぁ
 でも飯抜きだけは勘弁な

 この文章から始まる、ヴィータが不思議なしゃもじを持って色々な家の晩御飯を食べに行く、ホノボノマッタリハートフルコメディー(ブログ記事から抜粋)です!
大幅な加筆・修正を行っているということですので、ブログで既に読まれた方も満足できるかも!?な内容。
ヴィータを中心とした、不思議しゃもじに導かれて起きるお話の数々。
是非、お手にとってご覧になってください。
 

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2007年12月19日 (水)

新婚なの! 7-8

 
「……おはよう」
「おう、ヴィータ……って、どうしたんだその顔」
「ああ、ちょっとな」
「ふーん。そんで、なにやらゲッソリしたヴィータに比べ、お前の艶々した顔はなんなんだ」
「おほほほ。あなたなんかに説明する義理はありませんことよ」
「ぎぎぎ……」

 一晩明け。また今日も一日が始まる。昨日と変わらず今日も暑くなることを予感させる朝。
太陽が上がりきってしまう前に行動を開始しないといけない。動くのが嫌になっちまうからな。
二人に装備品のチェックを指示して、航行隊の連中のところへ行く。
昨日バッチリ打ち合わせしたら今更言うことないんだけどさ。一応挨拶だけな。
向こうも向こうで全員起床済み、せっせと用意をしていた。

「おはようさん。今日も宜しくな」
「おはようございます。ヴィータ隊長。こちらこそ。元々はこちらの仕事なのですから」
「その分バックアップ、きっちり頼むぞ。そんで、昨日の話なんだけどよ」
「はい、なんでしょう」
「どうだった。持って帰って」
「ええ、ホッとしてましたよ。これで随分捜査が進むはずだと」
「そんでさ、その持って帰った動物。どうなんだ? これから」
「私は関知しないことですので」
「……ふーん、あっそ」
「……」
「でさ。話は変わるけどよ。朝飯はどうしてんだ? アタシ等はこれからだけどよ。良かったら一緒に」
「いえ、既に済ませております。それに交代制ですので」
「そっか。んじゃな、行ってくる」
「お気をつけて」

 踵を返し、顔も見ずに手だけ振っておく。
普通にしゃべってた癖に、持って帰った奴のことを聞いたときだけ事務的に答えやがった。
馬鹿だなーって。そんなことすりゃ答えたくないこと聞かれたんだなってバレちゃうじゃんか。
まさか、それを見越して裏の裏を斯いたってわけでもないだろうし。
持ち帰った動物がどういう扱いになるのか。予想できたことだけど、改めて意識すると何とも面白くない。
アタシは文句言える立場じゃない。だからせめて担当者の良心に期待するしかない。

「にしても。あっちは飯一緒に食わないのか。二度手間だろうに」

 わざわざ別に食事を取ることもないと思うんだけどさ。
みんな一緒にってのは。時間合わせたりしなきゃいけない分、不便だってことだろうか。
任務のこういうとこ。効率が前に出て、なんとも味気なくなる。
そういうのってさ。空気が張り詰めてる分、余裕なくなるんだよな。
今回は空と海で違うってのがあるせいだろうけど、そういう面倒なの無視して気兼ねなく仲良くすりゃ良いのに……
何の足しにもならない愚痴を言いながら、二人のところに戻り、昨日見つけた付近へ転送してもらった。
 
 
 
 
 
「ふぅ。しっかしこの森ってのはどっから光が来てるんだ?」
「さあな。聞いてみたけどよく分かんないってさ」
「魔力がかなりの高濃度で漂っていますから、その影響ではございませんの?」
「何をどうやったら魔力でジャングルん中が明るくなるんだ」
「……はぁ」
「んだよ。その呆れたって顔は!」
「暑いんだからそう怒るなって。アタシだって意味分かんないのは一緒なんだからよ」
「うぅ。ヴィータの優しさが身に沁みるぜ」

 昨日ペットを捕獲した辺りに転送してもらって探索開始。
基本似たような行動を取るだろうし、出来るなら昨日の続きで探しにいければ良かったんだけどさ。
トラブルがあったし……というのは黙っておく。
見た目には分かんないけど気にしてたら可哀想だし。若ししてなかったら……してなきゃ減俸ものだ。
まずは昨日ペットを発見した木の袂に到着。
三人で念話の届く範囲でまず手分けして付近を探る。
保護した動物を持って帰った奴に、例の唯の銀色の棒にしか見えないのを二人分持ってきてもらった。
初めからそんな直ぐに見つかるとは思ってなかったけど、流石に向こうも動き出してるだろ。
なるべく相手には回収されたくない。出来れば全部、こっちで押さえたいらしい。
危険だから役割分担をしっかりした方が良いんだけどさ。
一人は周囲の警戒し、残りの三人で探す。しまったな、ホント。あと一人連れてくるべきだった。
いつ緊急の任務が入るか分からないし、アタシの勝手で連れ出しても大丈夫そうなのが、この二人だけってのが……
ここは一つ、アタシが頑張るしかない。

「こっちはないぜ、ヴィータ」
「右に同じですわ」
「そっか。一緒にいてくりゃ楽なのによ」
「躾がなってねーなぁ、こいつ」
「あなたに言われるのは心外でしてよ、きっと」
「お、親を馬鹿にすんな!」

 外に出たことないヤツなんだから、怖くてジッとしているかと思いきや。
昨日のは必死になってた故の例外だと思ってたけど、どうやら認識を改めなきゃいけない。
そもそも普通のペットじゃなくて、何かしらの実験動物ってことだからな。
フェイトがその辺、口外できないこともあっただろうし。
そういうことも参酌して、アタシにはちゃんと資料が渡ってきてると思いたい。

「一回戻ってみるか」
「戻るって、基地にか?」
「そこまで戻ってどうする。見つけた場所から逆に辿ってみるってことだよ」
「昨日みつけた子が一番動いていて、他の子は動いていないと?」
「可能性のはなし」
「わーった」
「ちゃんと返事しろよ、アタシ以外にはな」

 あの穴には一匹分の足跡しかなかった。
同じように他の二匹も動いていると思ったけど、それが例外って可能性もあるからな。
三匹集まれば、一匹ぐらい違ったことをするヤツが出てきたりするもんだ。
……いつの間にかその一人に影響されてか、つまらない事に才能を発揮するのもいるけどさ。
つまらない事を考えている内に、二人が到着した。
昨日来た道を辿ろうと歩き出した頃には、頭上のお天道様がそろそろ天辺に到達しようとしていた。
 
 
 
 
 
「収穫なしですわね」
「来た道から離れるに従って反応なくなってくもんな」
「う~ん。やっぱダメか」
「広域探査はここじゃ精度悪いっつったて、幾らなんでも悪すぎだろ」
「まあそう言ってやるなって。メンテ、昨日逃げる時。やっぱ制御利きづらかったか?」
「ええ、そうですわね」
「コイツにしては小回り効いてなかった感じだったぞ」
「あなたという荷物が余分でしたから。私の能力不足ではありません」
「に、荷物……!」
「うん、分かった。そんじゃ、一旦休憩な」

 来た道を戻ってはみたものの収穫はなし。
やはり三匹とも同じように移動したと考えるのが妥当だということに。
徒労に終わったとなれば疲労感が増す。しかも、このジャングルでの行動で気づいたことがある。
一つ一つのものが大きいために移動した感がない。
同じような風景ばかり――アタシは特に視線が低いせいかもしれないが――で、同じところをぐるぐる回ってるような錯覚を覚える。
それが余計に神経を疲れさせる。ちゃんと移動してるのか、全然移動できてないな、と。
こういう時は、小まめに休憩を挟んだ方が気持ちの切り替えが出来て良いだろうという判断。
時間的にもちょうどお昼ご飯だったというのも手伝っていた。
 
 
 
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2007年12月16日 (日)

予行練習 後

 
 
 
「シグナム? もう直ぐ出来るからね」
「……今は何を作ってるんだ?」
「付け合せのサラダに入れるゆで卵を作ってるの」

 髪を乾かし終え大雑把に三つ編みに纏めると、先ほどと同じ手順で廊下を通りダイニングへ。
そこには姿がなく、視線を巡らせば台所に後姿を確認できる。
なにを呆けている。鍋の様子を見に行くと言って席を立ったのではないか。
テーブルに寄りかかり、その細くそれでいてしなやかな後姿に視線を奪われていれば、気配を感じ取ったのか声をかけられた。
気取られぬよう、出来るだけ平静を装えばガス台に向き直ってしまう。
バレなかったことに胸を撫で下ろし、そろそろと近づいてみる。

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2007年12月15日 (土)

予行練習 前

 
 
 
「主。ただいま帰りまし」
「お、お帰りなさい。シグナム」
「―――た。ん?」

 夏の香りはすっかり身を潜め、夕暮れの足取りは日に日に軽やかになっていく。
秋の夕暮れは釣瓶落とし、というのだそうだが、よく言ったものだと思う。
昼間の陽気にあわせた服装に、黄昏時の風の冷たさは意外に強く、思わず首をすくめ家路に着く。
通いなれた道を歩き、見慣れた角を曲がれば我が家が見えてくる。
庭先にこぼれるリビングの光に、誰かが帰宅していることを見取りながら玄関を開ける。
見慣れぬブーツが一足。
誰のものなのか、主に確かめるより先に帰宅の挨拶をすれば、そこで意外な声が返ってくる。
 
 
 何故。目の前にエプロンをつけたテスタロッサがいるのだろう。

 
「え、えっと。ご飯にする? それともお風呂?」

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2007年12月14日 (金)

新婚なの! 7-7

 
  
「ヴィータさん。大丈夫でしたの!?」
「ああ、まあな。思ったより強くてちょっと驚いたけどさ」
「ヴィータがそんなこと言うなんてよ……よく死ななかったな、俺」
「別にそれでも良かったですのに……(ボソッ」
「うぅ……やだよー帰りてーよー」
「ここで帰ったら手当てなしだぞ。だからもうちっと我慢しろ」
「ふぇ~い。くそっ、コイツめ。いきなり噛み付きやがって」
「キューン」
「叩くな。今は大人しくしてるだろうが。よし、一旦基地に帰るぞ」
「もうですの?」
「こいつも怪我してるし。よく見てみりゃ結構な傷だ。保護したペットも預けてこないとな。それに」
「それに、まだなにかあんのか?」
「ちょっと暴れすぎた。森がざわついてるからな。下手に刺激しないほうがいい」
「それもそうですわね。一匹は確保したのですし、最悪これで満足してもらうしかありませんですわね」
「……最悪な。今はそうじゃない。おい、聞いてたか?」
『はい。ヴィータ隊長。準備が整うまでもう少しお待ちください』
「よし。出来次第、引き上げるぞ」

 

 

「お疲れ様ですわ。ヴィータさん」
「おう。お疲れさん。今日は悪かったな」

 今日は結局引き上げっぱなし。もう一度ジャングルに入ることはなかった。
保護したペットをもって次元航行隊の奴が一人帰っちまってさ。バックアップに不備が出るからダメだってよ。
そんなら予めもう一人遣しとけってんだ。
まあ、アタシもカートリッジこそ使わなかったけれど、結構疲れたしさ。
今日のところは好しとして、午後から休みをとることにした。
みんなで食料を調達したり、今後の作戦を練ったり。
食料と言っても食べられるものは少ないらしく、ここだけで腰を据えて活動できるほどは集められない。
あんまり遠くへも行けないし。
だから、軽食やら毎回のご飯に彩を添える程度。直ぐに終わってしまう。
作戦を練るのも、事前にフェイトから渡されてたのがあるし、それほど頭をつき合わせてすることもない。
今日のことがあったしさ。それの確認ぐらい。
全てが予定より早く終わってしまったせいで、夕ご飯は早めにとることになってしまった。
今日もアタシ達と航行隊の連中は別。
一緒の方が手間も省けて良いと思うんだけどさ。

「別に捨て置いても良かったのですけどね。あれでも一応同僚ですから」
「あんま苛めんなよ。アタシ達三人でやってんだからさ」
「肝に銘じておきますわ。それで」
「どうした」
「今日も指輪、付けてませんのね。まだ胸に?」
「な、なんだよ。またその話か……」
「あら。いけません?」
「べ、べべ別に指輪をどうしてようとアタシの勝手だろ。ちゃ、ちゃんとなのはと相談して、その……」
「せっかくの結婚指輪。よく了承してくださいましたわね」
「う、むぅ……」

 昨日と同じ。
緑色の月明かりが照らす中、僅かに緑を反射する河を眺めながら体育座りしてるとメンテの奴が話しかけてきた。
真面目に仕事の話かと思いきや、早々に切り上げるてまた指輪の話。
しかも何だかアタシとなのはのやり取りを知ってるみたいな口ぶりだ。
"了承してくれた" そう言われて思い出すなのはの顔。
指輪をはめてくれた時、はめてやった時。アタシが指から外すって言ったとき……
そりゃよ。アタシだって初めてのときみたいに笑っていさせてーよ。嬉しい顔させてーよ。
そんでもさ。任務に支障が出るようじゃ……ああっ、くそ!

「どうしましたの? 思わず旦那様の顔でも思い出してまして?」
「……なのはが旦那でアタシが嫁ってのは決定事項かよ。まあ良いや。あのさ」
「お願い事でしたら何なりと」
「今の任務が終わったらさ。ちょっと付き合ってくんねーか」
「あら。まさかヴィータさんから不倫のお誘いがあるだなんて……どうしましょう」
「違う! 最後まで聞けって。あのさ、指輪付けたままで大丈夫なように訓練するから、それに」
「……そうですの。でしたら早速明日からでも良くなくて?」
「明日って。こんな任務中に出来るわけねーだろ」
「私のことならご安心を。それに今回の任務ぐらい、私一人でもこなして見せますわよ」
「どっからその自信が出てくるか知らねーけど、バカも休み休み言え」

 メンテは一人で調子の良いことを言う。
確かに人をランクだけでは計れない。コイツはAランクだ。ギリギリって話だけどさ。
そりゃこのジャングルを通り過ぎたりするぐらいなら大丈夫かもしれない。要領良いし。
でも今回は探しものをしにきてるんだ。
しかも相手はジッとしてない動物。そう易々と見つかるわけない。
それだけならまだしも、今日みたいに危険なレベルに達するヤツだってうじゃうじゃしてるんだ。
そんな任務に一人で放り出せるかっての。
アタシが一緒にいなきゃ――なんて偉そうなこと言えないけど――危なくてしょうがない。
要領が良いとか以前の問題だ。

「残念。せっかくヴィータさんが指輪をつけて旦那様を驚かせる~という計画を……」
「驚かせる?」
「うふふ。そうでございましてよ」
「ど、どんな計画さ」
「あら、食いつきが良いですわね。簡潔に申し上げれば」
「う、うん」
「指輪を外して出かけたお嫁さん。それが、任務から帰ってくるとその指にはキラリと輝く結婚指輪が……」
「う、ん」
「旅先で何があったのか、どうしたのかしら」
「ふ、ふむ」
「モジモジするお嫁様を見て考え至ります。きっと私がいなくて寂しかったなの。ああーヴィータちゃん可愛いなの~。でしてよ」
「う、むぅ」
「抱き合う二人。お前を喜ばそうと頑張ったんだ。うん、私嬉しいなの。潤んだ瞳と瞳。重なり合う身体と唇」
「う、ん?」
「さすれば奥手な旦那様と奥様も今夜は……という具合だったりしちゃいますことよ」
「は、はぁ」

 何を言い出すかと思いきや、さっきの話の続きらしい。
しかも一人でニヤニヤしながら。
そんでニヤニヤしてたかと思ったら、芝居がかった立ち振る舞いで一人芝居を始める。なのはの真似までしやがって。
しっかし似てるんだ、なのはの真似が。
仕草から声色まで。しかも"~なの"だって。アハハハ、他人が言うと変でやんの。
でもさ。それでその晩がどうなるって?
今日の朝とかさ。偶によく分かんないこというな、コイツ。

「……そっか。やっぱ喜ぶかな」
「ええ。それは勿論。もう離してくれませんでしてよ。一晩中」
「まあ、それはいつも通……いや、なんでもねぇ」
「どうします? 明日から挑戦するか、それとも帰ってからになさるか。私はどちらでも問題ありませんですわ」

 負い目があるわけじゃない。そう、思いたい。
でも、あの日のことは小さな棘となって喉奥に引っかかってる。
あんな悲しげな顔。もうさせたくない。自分のせいで人が泣いたりするのは嫌だ。
だからと言ってこういう判断はよくない。嫁として、隊長として。
変に相手を意識して、喜ばせようだなんて言うのは駄目なんだ。
普段の"相手が楽しんでくれるように"って何か考えるのとは違う。
なのはが内緒で指輪用意したり写真撮りに行ったりしてた、純粋に二人で楽しもうってのと。
だから、やっぱりこういう判断は正しくないんだろうって思うのにさ……
どうしても、なのはの顔が脳裏にチラついて仕方ないんだ。

「……ちょっと面倒かける」
「あら♪ その気になっていただけました?」
「まあな。でもよ、このことは絶対に内緒だぞ。絶対だかんな」
「ええ。それはもう心得ておりましてございます」
「……ちぇ。なんだかウソ臭いな、お前」
「誠心誠意、尽くさせていただきますわよ。ヴィータ隊長」
 
 
 
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2007年12月13日 (木)

新婚なの! 7-6

 
 
『捕まえましたわ!』
「マジか! よくやった!」
『ですけど、少々問題が……』
「なにかあったのか?」
『ヴィータ、早くこっち来てくれよ!』

 念話が飛ぶ距離で、フーガが直ぐに追いついてることを考えれば、もう姿が見えて良いはず。
念話を繋いだまま走るそんなアタシの考えは正しいんだと、直ぐに証明された。

「お、おい。大丈夫……なわけねーか」
「一応ですけど大丈夫ですわ。私も、このワンコも」
「なぁ、ヴィータ。コイツと会ったときは逃げた方が良いんだよな……?」
「よく覚えてたな。その通りだぞ」

 草を掻き分け、少し開けた場所に出たところ。
倒れて朽ちかけた巨木が横たわる手前にメンテ、その向こうにでっかい角が見える。
メンテは目的の動物をしっかり腕に抱えていた。どうやらバインドで押さえ込んだらしい。
あんな逃げる相手によく出来たもんだ。一体どうやって……いや、今はそんなこと言ってる場合じゃねーや。
向こう側に見える角が大きく迫り出し、これまた大きな足が巨木を踏みしめ上半身がお目見えだ。
ここは少し開けてて明るいっていうのに、コイツが身体を大きく乗り出したせいでそんな陽の光りも遮られてしまった。
お凸から伸びた一本の大きな角に作られた影が、アタシの足元まで伸びてきてる。

「目を離さずにバックしろ。ああ、そうだ」
「どうすんだよ、ヴィータ」
「お前は良い。アタシの後ろに隠れて距離を取ったら、メンテと一緒に逃げろ」
「そりゃありがたいけど。ヴィータは良いのかよ」
「隊長だからな。あと、逃げるときは飛ぶな。言ってなかったけど鳥も凄いのがいるからな」
「了解だ、隊長」

 メンテの動きを追いながらも、角野郎から目を離さず摺り足で距離を詰める。
相手は歯を剥き出しにしながら此方を睨み、割れた地面の底から響いてくるような唸り声を上げてる。
その唸り声はアタシの身体にぶつかって、宛らマッサージ機に座ってるみたいに全身を震わせた。
コイツめ。なんでこんなに敵対心剥き出しなんだよ。
どう考えたってアタシ達なんて食っても腹の足しにならないだろうが。
剥きだした歯の隙間から涎がダラダラと落ちては、巨木の下に水溜りならぬ涎溜まりを作ってる。
あれで首を振ったりすると涎が飛び散って全身ベタベタに濡れるんだ。
臭いんだろうなぁ、ヤダなぁ。

「ヴィータさん。この人、抱えましたわよ」
「よし。先に逃げろ。多分アイツはお前らを狙ってる」
「地面を這うなら高速移動魔法、使って大丈夫でして?」
「外からの干渉が大きいからな。制御に気をつけろ。方向転換効き難いからな、距離を刻め」
「了解でしてよ」
「うぅ……コイツに抱きかかえられるなんて」
「ヴィータさんの命令がなければ、ここに捨て置いても良いんですのよ、私」
「よし。無駄口はこのぐらいにして……いくぞ、アイゼン!」

 幾分か距離を詰めたけど、相変わらず角野郎は後ろの二人をその大きな目玉で捉えてる。
アタシの事は目に入ってないって訳じゃなさそうだけど……危ないな。
これだけの巨体に似つかわしくない俊敏な動きは疑わしく思ってしまうほど。
何か加速魔法でも使ってんじゃなかろうか。
ただ、それも前来たときに見たヤツの話で、これだけ大きなヤツとなると別かもしれないと、考えなくもない。
けれど、バカやってちゃ大きくなれない。つまり、面倒なことになりそうってことだ。
待機状態だったアイゼンを起動させ、左前に構える。
コレがどういう状態か相手も然るもの。目敏く感づいたみたいだ。
うん、それで良い。

「よし行け! 後は任せろ!」

 足元に魔力を溜めるのと同時に角野郎はぐっと身体を屈め、弾けるようにして気配が遠のくと角野郎も後ろ足を弾けさせた。
遅れることなく迎え撃つために地面を蹴り、相手の腕ギリギリに飛び込んだ。
左前に構えたアイゼンを振り上げ、右前足のつま先を思い切り叩く。
弾かれた前足は、右下から飛び上がってくるアタシを一瞬視界から隠す。
視界を塞ぐ前足を退けたときにはもう遅い。
アタシの顔以上にありそうな目玉が更に大きく見開いてる。
驚きなのか威嚇なのか分からないけど、そんなのに構わず鼻っ柱を思い切り横殴りにした。

「どうだ!」

 これだけ大きな身体でも、鼻っ柱を思い切り殴られりゃ多少は怯む。
交差するアタシと角野郎。
アタシは相手の肩を蹴って背中に飛び降り、角野郎は失速していった。
方向転換し後頭部を睨んだところで、地面に落ちた巨体は地響きと共に辺りの木々を大きく揺らした。
攻撃の手を緩めない。
背中を蹴って頭を飛び越え、左つま先を狙って思い切り振り下ろす。
灰色でスチールウールの束子を思わせる硬い毛で覆われた、アタシの二倍以上ありそうな分厚い手が地面にめり込む。
そのまま地面に降りたアタシは、素早く初めに対峙したときよりも距離を取った。

「アイツ等、もう追いつかれない程度の距離まで逃げたか……?」

 そこらで一番大きな、ビルのように太い木の陰に隠れて様子を窺う。
まだ目を回しているだろうというアタシの予想に反して、既に頭をグッともたげていた。
ザフィーラが身体を洗った後みたいに身体を震わせると、その大きな足でしっかりと地面を踏みしめた。
しかし直ぐに顎を下げる。やはり効いていたのかと思いきや、全身を硬直させ杭を打ち込むように踏ん張る。
しまった。
そう思った瞬間には、ずっしりと並んだ歯を見せつけるように思い切り吼える。
その咆哮は、まるで何かが爆発したみたいに凄まじい衝撃波となって襲い掛かってくる。
ビルほどの太さをもつこの巨木すら突き抜けてくる衝撃に、思わず身を屈めて踏ん張った。
この大きさじゃなかったらアタシごと吹き飛ばされてそうだった。

「くっそ。マント羽織ってなきゃこれだけで戦闘不―――くっ!」

 衝撃が収まるか収まらないかの最中、アイゼンが警告を放つ。
相手が地面を蹴り、さっき殴った大きな左足が、今まさに身を隠してる巨木を捕らえようとしている。
慌てて後ろ向きに飛び退いた瞬間。今まで自分がいたところごと、巨木はばっくりと抉り取られた。
幾らなんでも出鱈目すぎる。
身体も手も大きい。その先についてる爪も同様に。身体に見合った足の太さから力だって強いことは分かる。
それにしたって、手の先っぽを殴られた直後の腕であんな巨木をぶち抜くなんて……

「くそっ。これじゃアタシが逃げられねーじゃんかっ!」

 着地と同時にアイゼンを構える。
相当の勢いで突っ込んできたんだろう。巨体は草や小さめの木をなぎ倒しながら横滑りさせる。
木をぶち抜いた破片の中から既にアタシを捉えていたのか、その大きな目玉と頭はこちらを向いている。
次の一手を選択する余地はなかった。
横滑りしながらも首を下げ、ぐっと溜め込む素振りを見せる。
もう一度吼えてアタシを行動不能にするつもりだ。
今からじゃアレだけの咆哮をしのげそうな巨木を探し出し、身を隠すのは間に合わない。
魔力で衝撃弾を生成しアイゼンを振り下ろす。
同時か、ほんの僅かに遅れて角野郎は先ほど同様にに大きく口を開ける。
双方から放たれた衝撃波が、ほんの十、いや数メートル先でぶつかり合う。
さっきなんかと比べ物にならないほどの衝撃が周囲を覆いつくし、小さめの木は特撮のセットみたいに吹き飛んでいく。

「よし! これなら封じれるだろ!」

 こっちも衝撃波を作って打ち消す。
それもあったけど、この魔法使うときは自分を守る為のフィールドを同時に張る。
万が一相手に負けたとしても、相殺>フィールド>マント>バリアジャケットの四段構えで守りは硬く出来る。
その上、閃光で目晦ましだ。
こればっかりは身体が頑丈とか関係ないからな。
昼間っからうろつき回るコイツには、他の夜行性のヤツより効果薄いかもしんねーけど、それを補って余りある威力だ。
さて。こんなこと考えてる暇があったら一も二もなく退散だ。
赤い光りに満たされた中で、眩しさに顔を背けてる角野郎を横目に足早にその場を後にした。
 

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2007年12月11日 (火)

新婚なの! 7-5

 
「あ~あ。今日も一日あのジャングルの中か」
「おはよう、ヴィータさん。昨日はよく眠れまして?」
「……まあな。お前があんまくっ付いてこなきゃもっと快適に寝れたよ」
「あら。人肌恋しいと思って抱きついて差し上げましたのに」
「どうしてそういう考えに至るんだ!」
「新婚さんなら乾く暇もないほどでしょうし、少しでも慰めになればと」
「??? 何の話してんだ?」
「……おほん。それでは今日も頑張って探しに行きまっしょい」

 日の出よりいくらか早く目を覚ます。
ミッド地上とは違ってかなり日差しがキツイせいで、あっという間に気温が上がってくからな。早くに準備を始めないといけない。
寝所のテントは性能良いから、少しぐらいの気温の変化なんて物ともしないんだけど、その後のスケジュールに響いてくる。
とは言っても、実際は予定よりも早く目が覚めちまって……理由は絶対に言わないけどさ。
なのはのヤツがちゃんと起きて準備して出勤出来てるか心配で、寝てるところじゃなかったから。
かと言って確認の連絡入れるのも調子付かせるだけだし、でも放っておくのも……なんて考えてる内に時間が過ぎていって。
ウトウトして、そろそろ寝るかなぁって言ってたら夜が明けちまった雰囲気。
仕方ないからそのまま起きて準備したって訳だ。

「今日はどの辺へ?」
「待て。まずあっちの連中と打ち合わせしてくるから。その間にアイツの面倒頼む」
「そういう趣味はないのですけど。ヴィータさんのお願いとあっては仕方ありませんわね」
「お前ももういっぺん、装備の確認しとけよ~」
 
 
 
 
 
「はぁ。アイツ、凹んでんだろうなぁ。いい歳した大人を慰めるなんざ……」
「おう、ヴィータ! ちゃんと起きれたみたいだな!」
「……はぁ。ウゼェ」
「人の顔見るなり失礼だな! まあ良い。昨日は語り明かして良い友を得たんだからな。気にしないぜ」
「あっそう。昨日の泣きっ面。帰ったら部署のみんなで見るから」
「お、お前マジで録画してたのかよ!」
「ウソは言わない。ほれ、あっちに言ってろ。アタシはこれから打ち合わせだ」
「へ~い……アイツと二人っきりなんて嫌だよぉ。ヴィータ、早く帰ってきておくれよ~」
「(なんでそんなに毛嫌いするんだ?)」

 ガッカリと肩を落として横をすり抜けていく。
正直他人を慰めたりするなんて得意じゃない。
かと言ってあんな調子じゃ危なっかしいしよ……しょうがない。早めに切り上げて戻ってやるとするか。
直ぐそこに見える次元航行隊の連中が使ってる寝所に向かった。

「ヴィータ隊長、おはようございます」
「ああ、おはよう。早速今日の話だけどな。初めの打ち合わせどおりで変更ないか?」
「はい。今日もAフィールドを中心にBフィールドまでお願いします」
「Cは……そうか。この川だもんな」

 アタシ達の横を流れる大きな河。
テレビで見たアマゾン川とかそんな雰囲気だ。すげー広い。しかも茶色い。
ジャングルの中の動物の大きさを見るに、この中を泳いでるヤツ等も相当大きかったりするのかな。
前来たときは、水の中なんて効率悪くて無視してたから調べてないんだよ。
う~ん。茶色く濁って全然見えねーや。
流れもゆったりしてるけど、深かったりして危ないんだろうなあ。

「昨日よりも遠出になりますから気をつけてください。一番端まで行きますと通信も届きにくくなります」
「そこらまで行ってない事を祈るだけだな。まあ、二日かそこらで移動できる距離じゃねーけど」
「死体でも構いませんので。回収するのが目的ですから」
「……あのさ。一個聞いていいか?」
「私で答えられる範囲であれば」
「今回の任務。本当に"ペット探し"なんだろうな」
「はい。私はそう聞いています」
「……ん。手間取らせたな。そんじゃ今日も頼む。外からのサポートがなけりゃ動けないからさ」
「お任せください。ハラオウン執務官から仰せつかっておりますから」

 すっかり今日の準備を終えようとしている次元航行隊の連中。
ただ、それを知ってる人間にしか分からない。外見上、アタシ達は同じ陸士部隊仕様になってる。
装備は中身の仕様が違って、外見はそれほど変わらない。
だから、このフィールド発生装置を積んだマントを羽織ってても、知らないヤツが見たら陸の人間だと思うだろうな。
問題はそこだ。
改めて問い質したのは、なんでそんな面倒なことしなきゃいけないかってこと。
偽装だろ、これ。任務の本当のところはアタシにすら知らされているか分からない。
そこまで隠さなきゃいけないのは……まあ、それだけ重大な事件なんだろうってことだけか。
手の内を見せないっていうか、機械的な感じすんな。
なにか隠してるように思えて仕方ない。

「ヴィータさん。これもそうでなくて?」
「どれどれ。……お、こりゃビンゴだな。割と新しいぞ」
「ヴィータ。こっちも反応出てるぞ。結構近いんじゃないか?」
「(普通は反応を見てから足跡探すんだけどな)よし。周りの警戒は任せろ。お前らは下向いて探せ」
「了解ですわ」「了解だ」
「その前に。アタシに貸せ。下向いてちゃ使えないだろ」
「分かったよ、ほれ」

 朝一番から出かけたお陰で、昨日よりは足取りが軽い。
早くしないとグングン気温が上昇するからな。昨日で一回体験してるとはいえ、そう慣れるもんじゃない。
そんな中で見つけた痕跡。
夜は明けてまだ少し。しかも足跡は新しい。
これなら今日中に少なくとも一匹は回収できるかもしれない。
それは二人も分かってる。俄然やる気が出てきたようだ。

「早く捕まえませんと、こんなジャングルじゃ死んじゃいますものね」
「気に食わないがペットに罪はないからな」
「そういうこった。帰ったらもう少し手当て寄越すよう談判してやるよ」
「マジか! 流石話の分かる隊長様は違うぜ」

 やる気になってる二人には悪いとしか言えない。
元々を言えば"死体で良いから先を越されるな"だからさ。
今から死体だったときのフォローを考えておかないとな。口ごもると悟らそうで怖いし。
それともう一つ、考えておかないといけない言い訳は「どうしてこんなところに逃げ出したか?」だ。
何でか知らないけど、今のところ全く気にする素振りを見せない。
気にしてないならアタシとしては助かるけど、メンテは分かってて黙ってる可能性がありそうだ。
アタシの前で下向いてるコイツは……結構真面目だしな、こう見えても。
探すことに一生懸命で、そっちまで考えが及んでないのかも。
腐っても航空隊だし、アホじゃ勤まんねーもんな。

「あら? ……ヴィータさん。この穴、怪しいとは思いません?」
「ん、どれどれ。う~ん、足跡も繋がってるな。よし、アタシが潜ってみてくる。外の守り、頼むぞ」
「了解です」
「いや、それは良いけどよ。この木の股。随分深いぞ?」
「うーむ。でもよ、虎穴にいらずんば虎児を得ずっていうしな。行ってくる」
「コケツニ……? まあ、気をつけてな」

 ポーチからペンライトの強力なヤツを取り出し、身を屈めて穴に入る。
前方と足元を交互に照らしながら慎重に足を進める。
相手は普通の犬ぐらいの大きさらしい。なんだっけ、柴犬ぐらいとか思ってた覚えがある。
それならアタシ一人でも捕まえられそうだ。
どうやって捕まえようか、あれこれ考えていると、前を照らした光りが何かに反射した。

「この星で人工物はありえないだろうし……ビンゴかな」

 今反射した様に見えたのは目だろうか。
それなら、アタシが穴に入ってきたのを知って警戒してるってところだな。
大人しく寝てりゃさ、まだ眠たいだろうに。その辺はやっぱ動物の本能ってところか。
ライトを口に咥え、両手を自由にしたところでニジニジと近寄ると―――

「この辺りのはず……ん? うわっ!? んぎゅっ!」

 一瞬。あるはずの場所に光りを反射するものが無くて、疑問に思ったのが失敗だった。
どうやらその一瞬で飛び掛ってたみたいだ。
それに考えが及んだ時には既に前足でアタシの肩を押して上に乗っかってきてた。
驚いて咥えてたライトは落とすし、去り際に後ろ足で顔を踏まれて間抜けな声を出しちまうし。
違う、そんなことを言ってる場合じゃねー!
この距離なら念話が届くはずだ。身体を起こしながらライトを探し、外の二人に念話を飛ばした。
光を発している辺りを乱暴に掴んで走り出す。
中腰になってるせいでそれ程速さは出ないけど、表の二人が捕まえてることを信じて足を緩めない。
外の景色が見え始めたけど、そこに人影は無い。
どうしたんだ? 捕まえたから……いや、それなら念話で知らせが入ってるはずだ。

『ごめんなさい、ヴィータさん。逃がしてしまいましたわ!』
『何だよコイツ! いきなり噛み付きやがって!』
「動物なんだから噛み付くぐらいするだろ! アタシに構わず行け!」
『了解ですわ!』

 ちぇっ。室内飼いで大人しいっつーけど、しっかりしてるじゃないか。
ライトをポーチにしまいながら外へ飛び出すと、右前方にフーガの後姿を確認できた。
少しぬかるむ地面を蹴って背丈ほどもある草を掻き分け走る。
この辺りに生えてる草は、背丈もある上にかなり硬くてかき分けるのも一苦労だ。
こうなると背の低い動物の方が圧倒的に有利だ。
かき分けた瞬間に見える後頭部を追いかけていくと、メンテから念話が飛んできた。

 

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2007年12月 8日 (土)

新婚なの!