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新婚なの! 7-1 (2)

「あ、ヴィータちゃん。お帰りー」
「お、おお。ただいまだ。なのは」
「今日は遅かったね。どうしたの? 連絡も無かったし心配したんだよ?」
「うわわ、そうやって直ぐに抱きつくんじゃねーよ」
「良いじゃない良いじゃない。スキンシップは大切なんだから~」
「しょうがねぇな。んでだ、なのは。ちょっと話があるからついて来い」
「話ってなに?」
「ここじゃ何だ。ちゃんとリビングまで行くぞ」
「は~い」
「だから離れろって」

 帰ってくるなり上がり口で抱きついてくるなのは。
いつもなら、そんななのはを引っぺがして無視するんだけど、今日も黙って抱きつかれることにした。
どうもあの日以来、この引き剥がす手に力を入れるのを躊躇われる。
なのははどう思ってるか知らないけど、毎日のようにベタベタしてくるし、別に構わないってことか。
アタシだって、なのはにベタベタされるのがそんなにイヤってわけじゃない。
たまに、ほんの偶にだけど出かけ先で手を繋いだりするし、その朝の出勤のときとか、その……チューぐらい、するし。
その辺りも含めて、なのはとくっ付いてるのはイヤって訳じゃない。
だけど、それを素直に受け入れるのも何だか恥かしいっていうか、なんていうか。
だから嫌がるように引っぺがしてたんだけど、ホントあの日以来、それが躊躇われて。
でもそれを悟られたくなくて、"いつも通り"に見えるように、口では嫌がって見せてる。

「それでヴィータちゃん。お話って、なに?」
「ああ。えっとな……まずはコレだ」
「……なにこれ?」
「開けて良いぞ」
「若しかしてプレゼントだったりしちゃうのかな~? えへへ~」
「バッカ。この前の今日でそんな金があるわけねーだろ」
「うぅ。ヴィータちゃん、それはちゃんと返すって言ってるのに……」

 テーブルに着くなり早速なのはが催促するもんだから、鞄の中から小さな袋を取り出す。
袋はこの間指輪を買った宝石店のロゴが記されているけど、なのはからは反対側になってたから気付かなかったみたいだ。
上機嫌に袋をガサガサ開けるなのは。……紙袋じゃないからそんな音しないけど。
袋の中からは、包装紙に包まれた細長い箱。
その包装紙も丁寧に外していくと、現れたのは指輪が入っていたのと同じ雰囲気のケース。
流石にこの辺りで気付いたみたいだった。

「これ、なに?」
「まあ良いから開けてみろ。話はソレからだ」
「う、うん……あ、これ。チェーン?」
「指輪を買った宝石店でもらって来た」
「もらって来た? どういうこと? ううん、それよりも何でチェーンなんか」

 ケースの中に入っていたのは、極細のチェーン。
見る限りすごく不安な細さだけど、それはこっちの何か凄い技術でまず千切れたりしないらしい。
そんなのをもらって来たなんて言えば、なのはが疑問に思うのも当然だ。
だから順を追って話すことにした。
こういうとき、大人しく話を聞いてくれりゃ良いんだけど。
目の前のなのはは、何を期待してるのか知らないけど、目をキラキラを輝かせていた。
早とちりは困るんだけどな。

「あのな。それは指輪を首から下げるために使うんだ」
「首から? どういうこと?」
「指から外して首からかける為に使うんだよ」
「どうして? どうして指輪外しちゃうの?」
「どうしてって。それを今から説明―――」
「やっぱり、やっぱり私との結婚―――」

 キラキラと輝かせていた目は夏の夕立の如く、瞬く間に曇り始め、眉は下がり下唇をギュッと噛み締める。
滅多にこんな表情をしない。この間の夜のことがあったからだ。
あの時のことは、アタシの思ってる以上に、深いところまで食い込んでいることが痛いほど分かった。
チェーンの入った箱を握り締める手が震えているところまで来て、アタシはハッとした。

「か、勘違いするなよ? お、お前はいっつも早とちりなんだからな」
「何が……何が勘違いなの?」
「順を追って話するって言ってるだろ。あのさ、一昨日から航空隊の教導に出てるのは知ってるよな?」
「う、うん。私もその話は聞いてる」
「ほれ。まずはその涙拭け。ハンカチ貸してやるから」
「う、うん。…………そ、それで?」
「そこでさ。アタシの射撃精度とか色々悪くなってたんだと。アタシは全然気付かなかったんだけどさ」
「それが、指輪とどんな関係が?」
「それをこれから説明する。あのさ、なんていうか……指輪を気にして、アイゼンをしっかり握れてないんじゃねーかって」
「指輪が邪魔だから? だから外しちゃうって言うの?」
「違う。落ち着けって」
「でも、他に……あ、若しかして傷ついちゃう、とか? でも、その指輪は……」
「分かってる。傷がついちまう様な柔な素材じゃないって事は店員さんにも改めて説明してもらった。でもさ」
「でも……?」

 幾分キモチを持ち直したみたいだけど、まだその瞳は不安に彩られていた。
アタシの一言一言に大きく反応する。
次にどんな言葉が飛び出してくるのか。若しかして悲しい事じゃないのか……そんな感じ。
ある程度自分を抑えて、ちゃんと推測出来てるのに、自信が持てず、窺うように言葉を発する。
早くなのはを安心させる為に結論から言っても好かったけど、それは躊躇われた。
何も悪いことを言うんじゃない。
寧ろ逆のことなのに、いや、だからこそアタシの口はモゴモゴと言いよどむように進まない。
だから、順序だてて話しながら心の準備をすることにした。
こんな時まで自分の事ばっかりで、なのはを心配させてまで何してるんだって。
ホント、情けなくって仕方ない。

「無意識の内に庇っちまうんだから仕方ない。それぐらい、その……た、たたた」
「多多太?」
「―――大切なもんだからさ。なのはに貰った、大切な指輪だから。だから……」
「だから!?」
「手袋してるとか、傷つかない素材だって言われたって駄目だと思うんだ」
「だから、それを解決するためにチェーンを?」
「うん。こんなことさ、人に言いたくはなかったけどよ。ちゃんと説明したら薦めてくれた」
「ふ、ふーん。そうなんだ」
「それにさ。デバイスを握ってる限り、何があるか分からないし、それならって」
「……そっか」

 アタシの説明を珍しく黙って聞いてたなのは。
段々と自分の危惧していた内容と違うと分かって安心したようだった。
しかし。アタシもそんななのはを見て安心したのも束の間。みるみる機嫌が悪くなっていく。
一体何がいけなかったのか見当もつかない。
テーブルで向かい合って、不機嫌ななのはとどうして良いか分からないアタシ。
ただ、まだ話は全部終わってなかったし、様子を窺いながら続けた。

「そういう訳で、アタシは首からかけることにする。だから指からは外しちまうけど……」
「むぅ~~」
「な、なんだよ。なに怒ってんのさ……」
「分かんないかな」
「……分かんねー。悪ぃけど」
「あのね。どうしてそれを私に相談してくれなかったの? どうして先に他の人に相談しちゃうの?」
「……いや、それは」
「駄目。言い訳なんて許さない」
「……わりぃ」
「今の話聞いて、どのくらい私が心配したか、不安に思ったか。分かる?」
「……」
「私、そんなに頼りにならないかな。そんなに……駄目かな」
「…………」

 正直なところ、なのはに言うのが堪らなく照れくさくって。
いや、そう言い表すのが近いってだけで、自分でも整理のつかないキモチが渦巻いてる。
実際のところ。先に家に帰るか黙って宝石店に行くかは散々悩んだ。
そんで、その時のアタシの結論は、家に帰ったら正直に相談できないってこと。
でもこれは、なのはを信用してないんじゃなくて、自分自身が信用できないってことなんだ。
なのはを前にしたらきっと言えなくなる。そんな気がしたから。
あの日以来。こういう事は、なんだか変に機嫌を取っているようにすら思えるから。
普段の照れ隠しと言うか、そういう感情より嫌な自分の考えの方が上回っている気がして仕方ないから。
でも、こんな時に変に意地張ったって仕方ない。
正直に言うんだ。言わなくちゃいけない。だってよ、アタシ達はさ……

「違う。そうじゃないんだ」
「じゃあ、どう違うか説明してくれる?」
「……あのさ。自分が信用できないって。分かるか?」
「分かんない」
「指輪のさ。今回のことを話そうと考えてるうちに、なのはに正直に言うのがなんつーか、その……」
「照れくさかった?」
「な……っ! ば、あ……いや、そうかな。ううん、そうだ」
「ヴィータちゃん、分かりやすいもんね」
「……お前に言われるとなんか腹立つな。まあ、良いや。そんでさ」
「失礼なこと言われた気がするけど。うん、それで?」
「チェーンにする理由。……それがさ。言うのが、は、ははは……恥かしかったんだよ!」
「~~~!」
「そんな無意識のうちにしてるなんてお前に知られたくなかった! そ、それに」
「それに?」
「結婚したって言うの分かるように指輪してんだぞ! そ、それを外しちまうのも、そりゃ……迷ったんだからな!」
「そんなに迷ったのに、大切なことなのに私に相談せずに勝手に決めちゃったってこと?」
「…………ああ、そうだよ。まさかアタシもそこまで意識してるなんて思ってなかったんだよ!」
「~~~~~っ」

 アタシの話が終わったところで、プルプルと身体を振るわせるなのは。
目も何だかうるうるしてるし、口にぎゅっと力を込めて何かに耐えているような素振り。
顔も少し赤いようなきがする。
なんだ? 一体どうしちまったって言うんだよ。
さっきの態度からして怒ってるのか、やっぱ。いや、それにしては様子がおかしい。
流石に心配になってきたんで、声をかけてみるか……?

「ど、どうしたよ、なのは」
「か、かかかかかか……」
「どっか痒いのか? それとも入れ歯でも外れたのか!?」
「可愛いっ! ヴィータちゃん可愛いっ!」
「は、はぁっ!?」
「ううんもおおおおおうううぅ!」
「ぎ、ぎゃっ!」

 心配するアタシを余所に、なのはは全く予想外の言葉を口にしやがった。
何がカワイイだ!? アタシが一生懸命真剣に話してるって時にお前はどうして!
椅子から立ち上がるや否や、それを認識した頃には既に腕がアタシをガッチリ捉え、頬をぐいぐい摺り寄せる。
その勢いでアタシは椅子ごと吹っ飛び、フローリングの床で背中をしこたま打った。
なのはに抱かれたまま床に倒れるアタシ。
……まあ、普通に言うなら押し倒されたって状況だな。
そんな状況に、なのははアタシを抱きしめる手に痛いほど力を込めていた。

「おい、おい! イテーって! 離せよ!」
「ヤダよ! そんな勝手なことしちゃうヴィータちゃんなんか離してあげないんだから!」
「あ、あのさ。それは悪かったって謝るよ。こういうのは大切な事だって言うのはさ、その……」
「駄目。分かってたって実行しなかったら相手には分かんないもん」
「……そ、そりゃそうだけど」
「でも。ヴィータちゃんがそれだけ大切に想ってくれてるって分かって。私、ちょっと安心した」
「ちょっとにしちゃ、えらく表現がオーバーだな」
「良いの! ちょっとぐらい大げさな方がしっかり伝わるから!」

 今は頬擦りするの止めたけど、その代わり顔が見えなくなってた。
相変わらずエライ力でアタシを抱きしめるもんだから、いい加減息苦しい。
そんでも、なのはの味わった苦しさに比べりゃ大したことない、か。
一昨昨日の夜みたいに、鼻をすする音も聞こえないし、涙声でもない。
もう喋ってないから大丈夫なのか、そうじゃないのか分からない。

「アタシはさ。なのはみたいに鈍感じゃないから、そんなしなくたって分かるよ」
「…………バカ。私は鈍感じゃないもん」
「そうだな。さっきもアタシの本音。直ぐに分かったもんな」
「そうだよ。ヴィータちゃんのこと……はやてちゃんの次ぐらいには……分かりたいんだから」
「そっか。一緒に住んで、結構経つもんな」

 最後は黙って頷いてた。
いつもの軽いノリなんかと思ってたけど、アタシの思い違いみたいだ。
やっぱあの日のこと気にしてんだな。
前なら……仮定の話したりするのはバカらしいけどさ。
指輪のことだって、ちょっと反応が大きかった。見込みが甘かったっていや、それまでだけどよ。
それに、はやての名前なんて出したりして。
冗談っぽくいう事はあっても、こんな風に他人と比べたりなんてしないヤツだったのに。
アタシの言葉に不安定になって、自分を計る物差しを他人に求めてる。
今アタシに抱きついてるのは、なのはであってアタシの知らないなのはみたいだ。
なのはをこんな風にしちまうなんて。改めて自分のしたことのバカらしさを確認する羽目になった。
 
 
 
 
 
 フローリングの冷たい床に二人して倒れてるけど、アタシの腕はなのはを抱きしめぬまま、だらんと放り出されていた。


 


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