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新婚なの! 7-1 (1)


「良いか? お前らはまだ空を飛び始めたばかりのヒヨッコだ。
 親の後ろを歩いているか飛んでいるかの違いだけで、あんま変わんねー。
 だから横着するな。基本を守れ。教官の言うことをよく聞くこと。それと、仲間を守れ。それだけだ」
「「はいっ!」」
「よーし。これで今日の訓練はお終い! しっかり身体休めておけよ。明日からもっと厳しく行くからな!」

 新人たちが敬礼、回れ右をして訓練場から引き上げていく。
幾分か高い台座に登っての挨拶だってのに、アタシの頭はそんなに高い位置にない。
だから威厳というか威圧感がほぼゼロなんだけど、今までの経験から言って二、三度訓練をすれば後からついてくる、はず。
今はアタシの言葉に素直に返事を返してくれるところまで来た。
キビキビと引き上げていく新人どもの後姿を眺め、一息ついたところで台座から飛び降りた。

「よう、ヴィータ。お疲れさん」
「ああ、オッサン。今日も順調に終わったぜ」
「オ、オッサン……お前なぁ、いくら知った仲とはいえ、もう少し言葉の使いようってもんが」
「だったらアタシを便利屋みたいに都合よく呼ぶんじゃねーよ」
「それは謝っただろう? お前しか頼めるヤツがいないって」
「さぁね」
「今の時期が大切なんだ、分かるだろ? それが出来る優秀な教官は数が少ないだ」
「……ふん/// おだてたって駄目だぞ」
「満更でもないくせによく言うぜ。さて、呼び止めたのは一つ話があってな」
「ん? もう頼みごとは聞かねーぞ」
「そうじゃねーよ。ま、立ち話もなんだ。頼みごとのついでに何か奢ってやるよ」
「おう。じゃあ、汗流してくるぜ」

 空士部隊のおっちゃんと落ち合う約束をして、足取り軽くシャワールームに向かった。


 


「さて。話というのがだな」
「その前に注文して良いか? お腹ぺこぺこでさ」
「ああ、構わないぞ。好きなモン頼んでくれ」
「よーし。ウェイトレスさーん。ああ、こっちこっち」
「お待たせいたしました。ご注文は?」
「ジャンボパフェ一つ」
「お、おい! あ、ああ私ですか? …………コーヒー一つ」
「はい。畏まりました」

 注文を受け取ったウェイトレスのお姉さんは軽く頭を下げ、奥へ引っ込んでいく。
へへへ、ここのパフェは割と美味いんだ。
まあ、値段もそこそこするしよ。これぐらい美味くなきゃ困るけどさ。
そんな訳で誰かが奢ってくれるときか、給料日前に大分余裕のあるときだけ食べに来るジャンボパフェ。
ちょっと久しぶりだ。

「おい、給料日は一緒なんだぞ? ちょっとは手加減してくれよ、分かってるだろ?」
「好きなモン頼んで良いって言ったじゃん。それに、頼みごとのお礼代わりだ」
「……ちゃっかりしてるぜ」

 ミッド地上本部内に設けられたカフェテリアみたいなモンのテラスで、おっちゃんと落ち合った。
今日は朝から天気もよく、空戦日和だったお陰で朝からずっと空を飛んでた。
こういう日の午後は地面に足をつけてのんびりするに限る。
空調の効いてる屋内も良いけどさ。
せっかくの良い天気、お天道様の下で風にゆらゆら揺れながら食べるのが良い。
そういう訳で、テラスへ出てジャンボパフェを注文したってわけ。
へへ。早く来ないかな。
思わず足をブラブラさせながらお姉さんが消えていった方へ視線をやったところで、おっちゃんが切り出した。

「さて。頼んだモンが来るまでだが……一つ気になったことがあってな」
「なんだよ。今日の訓練でか?」
「ああ。おっと、勘違いするなよ。内容じゃない。お前のことについてだ」
「……ふ~ん。そんで?」

 さっきまでと雰囲気が少し変わる。
渋い顔だ。でも、それほど深刻じゃなさそう。
だから、少し口を湿らすためにお姉さんが持ってきてくれたコップに口をつけ、続きを待つ。

「お前、結婚したんだろ?」
「―――ブフッ! い、一体なんだよ!」
「何もないだろう。その左手の薬指に嵌ってるもん。それを見りゃな」
「な、なんだよ。そんなことならわざわざ呼び出さなくってもさ」

 知らぬ振りをして、こそこそと左手をテーブルの下に隠す。
おっちゃんの顔を見れば茶化してるんじゃないってのは分かるんけど、そんでも居心地が悪いっていうか、背中がムズムズする。
一度意識した左手は、居場所が無くて後ろに回したらフラフラとしてみたり。
結局、膝の上に何とか落ち着かせた。
それでも何だか落ち着かなくて、握ったり広げたり。そっぽを向きながらもう一度コップに口をつけた。

「この三日間、射撃精度が悪くなってたぞ。それに打点も少しずれてたしな」
「そ、そうだったか?」
「なんだ。気付いてなかったのか? そりゃ言っておいて正解だな」
「あ、ああ。全然だ」
「そんで、本題はここからだ。原因は見る限りデバイスをしっかり握れてないからだな」
「アイゼンを? まさか、そんなことある訳ねー」
「本人はそのつもりでも、実際攻撃を受けた側としちゃ、そういう結論を出さざるを得ない」
「うぅ……」
「直ぐに精度の悪い原因は分かったが、更にその原因を探るのに時間がかかった」
「そんで考えたのが、どういう結論なんだよ」
「どうやら指輪を気にしてしっかり握れてねえんじゃないかってな。ジャケットを解いたときにピンと来た」
「ゆ、指輪を気にしてぇ? そ、それはねーよ」
「いくら手袋してるとは言え、やっぱ指輪が傷ついたり違和感か? 無意識のうちに庇ってんだな」
「か、庇う……う~ん」
「そりゃ大切なモンだからな。気持ちは分かる。だがよ、それで支障が出るようじゃ駄目だ」
「……アタシは全然そんな気ないんだけどよ。まあ、客観的に見りゃそうなるってこと、か?」
「ああ。それぐらいしか思いつかんな」
「……はぁ。新人たちに悪いことしちまったな」
「多分気付いてないだろう。まだそこまで見抜ける力はないはずだ」
「バーカ。そうやって見くびるのは相手にも伝わるんだぞ? 相手が新人だろうと、ちゃんと全力で見せてやんなきゃいけねー」
「と、言うのが旦那さんのモットーってわけか。いや、旦那って言い方も変だが」
「だ、旦那っ!? バカ言うんじゃねー! こりゃアタシの信条だ!」
「ははははっ! そりゃ悪かった。なんだか言い様が似てたモンでな。済まん済まん」
「ちぇ。言ってくれるぜ。こんな事ならもう一品頼んどくんだった」
「そ、それは勘弁してくれ!」
「冗談だよ、冗談。そんでも困ったな。意識してない分、改めるのは難しそうだ」

 話がひと段落したところで腕組みをしてみる。
ちょっと意識して左手が上になって人から見えないように。
やっぱり動きに間が出来る。今は意識的に指輪のことを考えたんだけどさ。
こういう感じで僅かな間が普段の訓練で出てたんだな。こんな調子でやってたんじゃ緩慢に見えちまうな。
これは困ったぞ。

「そこでだ。その指輪を買った店で何か聞いてみたらどうだ? 良いアイデアを貸してくれるかもしれんぞ?」
「買った店かぁ。ちょっとな~」
「なんだ、何か問題でもあるのか?」
「いや、なんつーか……色々」

 まさかここで金が無いなんて言えるわけない。
そもそも今回の訓練だって引き受けるつもりは余りなかった。
事情を聞けば結局のところ同じだったろうとは思うけどさ。そんなに積極性はなかったと思う。
今はお金欲しいし。そんで面には出さずに、割と快く引き受けた。
一連の訓練に付き合えば、少しだけど手当てとかさ、まとまったお金が出来るし。
使っちまった貯金を少しでも取り戻さないとさ。
歯切れ悪く答えられなかったのを誤魔化すために、コップを傾け、中の氷を放り込みガリガリと噛み砕いた。

「でも、このままって訳にもいかねーし。明日までに何か考えとく」
「おう。頼むぜ」

 考えとくといった手前、何とかしなきゃいけないけど、何も思い浮かびそうにない。
同じ部署のアイツ等三人組に相談すんのも心配だし、やっぱあの宝石店の店員さんかなぁ。
ああ、余分な出費は避けたいところなのによー。

「それにしても遅いな。ジャンボパフェ」
「そりゃあの大きさだ。時間がかかって当然だろ? それなら俺のコーヒーだ」
「一緒に頼んだからな。簡単だから後回しにされたんじゃねーの?」
「ったく。もうお前に奢るのはこれで最後だからな」


 


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