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新婚なの! 7-5 (3)

「ほら、ヴィータさん。こっち向いて下さいな」
「い、良いったら! 自分で出来るって!」
「そんなこと言ってさっきから髪が全然綺麗になっちゃっていませんですわよ?」
「うわっ!?」
「おほほ。幾らヴィータさんでも魔法を使ったりしなければ、近所の悪ガキとそう変わりませんわ」
「むぐぐぐ……! お前、絶対に後悔させてやる!」

 終始こんな感じで、兎に角メンテのヤツがアタシにくっ付いてきて仕方ない。
「裸の付き合いですのよ」とか何とかいって、ベタベタしやがって。
初めはなんとかやり過ごしてたんだけど、身体を洗い始めたらヌルヌルして抵抗できない。
これは相手も同じだろうと思ったら、後ろに回りこんで胴をガッチリ蟹バサミ。
そのまま座り込まされると肩を押さえつけられて、胴を挟んだ足でアタシの腿を押さえ込む。
こうなると何にも出来ない上に、コイツ上背があるもんだから上から圧し掛かられると重くって。
勝ち誇るメンテに歯軋りしながらも、大人しくせざるを得なかった。

「さて。頭洗いましょうですわね。大人しくなさってくださいな」
「くっ」
「そうそう。髪が長いんですから一人でやるなんてどだい無理な話ですわ」
「い、いつもは一人でやってんだ。今日だけ無理とかあるわけねー」
「あら。旦那様と一緒にお風呂しませんですの? 新婚ホヤホヤならお風呂の合間も惜しいぐらいで御座いませんの?」
「はぁ? 逆だろ。風呂ぐらいゆっくり一人にしてくれって言うんじゃねーのか?」
「……ふぅん。それは旦那様も大変だったりしちゃったりしますでしょうね」
「それはこっちの台詞だ。大体お前のその知識はどっから来てんだ。独身だろ、お前」
「それは早く結婚しろ、というセクハラだったりなかったり?」
「何でそうなるんだよ……分かった。大人しくするから早く済ませてくれ」
「はいはい、隊長殿でございます」

 頭のてっぺんにヌルヌルの液体が落ちてきて、その冷たさに思わず声を上げてしまう。
後頭部に漏れる笑い声が聞こえる。一応でも堪える振りぐらいしてくれよ。
ブツブツと文句でも言っていれば、頭はあっという間に泡だらけになっていく。
どっちかというと、アタシは髪を結ってるし、その大半は身体に隠れているわけだからそんなに汚れてない。
先に洗わなきゃいけないのはメンテなんだけど、もう後の祭り。
こりゃ気の済むようにさせた方が良いや。

「……なぁ、お前さ」
「あらお客さん。どこか痒いところは御座いませんだったり?」
「そういうギャグは世界共通なのか……」
「おほん。一体なんでしょうか」
「あのさ。さっきは助かった。もしお前がいなきゃアタシの腕は今頃……」
「そんなことですの。それならお互い様で御座いましょ?」
「いや、なんて言うか。勝手なルールに付きあわせたって言うのもあるし。
 先に言っておかなきゃいけなかったんだけど、こればっかりは見込みが甘かったせいで……」
「誰も怪我をせずに終わったのですから良いじゃありませんこと? 終わりよければ全てよし、でしちゃったりですわ」
「お前はそれでいいかも知んないけどさ。一応命を預かる隊長としては許されないことだしよ」
「……ふぅ。でしたら明日からはそうすれば宜しいじゃございません?」
「…………悪い」
「ほほほ。それほど気になさるなら貸し一つで手を打ちませんこと?」
「お前に貸しを作るとデカそうだから……ま、いいか」
「成立ですわね。は~あ、今から何をしてもらおうか考えると楽しみで仕方ありませんわ~」
「手加減してくれよ、マジで」

 喋りながらも手を止めることなく、後半は頭皮をマッサージするかのように洗ってくれた。
これが存外に気持ちよくて「頭洗うの上手いな」とか思わず零すと「明日からもお邪魔しましょうか?」なんて言いやがる。
風呂ぐらい一人で入りたいって言ってるだろ、と太ももを抓ってやった。
怯むことなくメンテは洗い続け、丁寧に泡を流してくれる。
次はメンテの番だな。
冷えてしまうから湯船に浸かってて良いとはいうけど、何だかそれも悪く感じて手伝うことにした。
髪は短めだし量的には一人で十分かもしれないが、汚れを見落とさないよう、ここは手伝うべきだと判断した。
汗に土ぼこり、それに加え今日は血が大量に付着していて髪の毛はコテコテに固まってたけど、それほど大変でもなかった。
汚れは「頑固な汚れもこれで一発!」を使えば楽勝。コイツはホントに強力だ。禿げそうなのを疑うほどに。
にゅるにゅると中身をポンプで出して、掌で泡立てて髪に刷り込んでく。
コテコテに固まった髪はほろほろと解れていって、二人でやればあっという間だった。
ここで一番問題なのは臭いだ。生臭いって言うかさ。
一応、鼻のスーッとするような香りがつくけど、それでも完全に臭いは取れない――ような気がする。
今回は特別そうなだけで、普段は任務に出かける隊員達には欠かせないアイテムなんだ、と改めて実感した。

「よし、流すぞ。ちゃんと目、瞑ってろ」
「了解ですわー」

 桶に汲んだお湯で流しながら頭皮までしっかりゴシゴシして、泡の残りのないようにする。
泡切れも抜群で、二回ほど流せば綺麗さっぱり。
こういうところまで進化してるのが素晴らしいじゃないか。
メンテはアタシと違って髪が短いから、余計にそうなってるのかもしれないけどさ。
綺麗になったところで二人一緒に湯船に浸かる。

「うぅ~。毎回思うけどこんなジャングルの中で風呂に入れるってすげー贅沢だ」
「こんな手間のかかること……シャワーで十分すぎるほどですのに」
「良いじゃんか、あっちの好―――依頼主のって意味な」
「他の意味があったりしちゃいますの?」
「別になんもねーです」
「ふぅん。ヴィータさん、大好きなお風呂に入って気が緩みすぎしちゃったりですわよ」
「あ゛ー、疲れた~」
「今日一番のお疲れは私だったりしやがってるんですにー」
「ぎゃわっ! なんで抱きつくんだよー!」
「あ゛ー、安らぎますのー」
「くっそー! なのはと言いお前といい、なんで一々アタシに抱きつきやがるんだーっ!」
「おほほほほ。そういう反応が可愛かったりしちゃったりするからですのー」

 引っぺがそうと湯船の中で暴れると、ざぶざぶと波立ってお湯がこぼれていく。
その様子に勿体無いな、と動きを弱めた瞬間を見逃してはくれなかった。
ガッチリ抱きかかえられて身動きが完全に取れなくなる。
なんだろう。フェイトがバインドに弱いようにアタシは抱きつかれるのに弱くなってるのか……?
まあ冗談はおいといて。
それを誰かに聞けないのが困りものだ。
なのはは論外。はやても違う気がするし、フェイトは……どうだろう? 知らないかもしれない。

「大人しく抱きしめられるのも良いですけど、やはりツンツンなさってる方が魅力的かしら」
「……あんだよ。アタシがいつも機嫌悪いみたいじゃんか」
「そういう意味ではなかったりするのですわ。ところで話は変わったりしちゃいますの」
「なんだよ」
「指輪。二日目にして、どうでしたかしら」
「……あ、ああ。そういやそうだったな」

 引っぺがそうと腕を掴んだままの左手を、湯船から上げてじっくり見てみる。
別に変わったところはない。昼間に見惚れて危うくなった時と同じ。そのままだ。
表から裏から。手のひらを返して眺めていると、背後から手が伸びて手首をガッチリ掴まれた。
 
「な、なにすんだよっ!」
「あれだけ血をべっとり被ったんですもの。細かいところに汚れが溜まっていませんかチェックをば」
「良いよ、そんなの自分でやるからさ。それと、いい加減手、離せってー」
「湯船は狭かったりしちゃってますのよ? こうやってくっ付いていませんと」
「だったら一緒に入らなきゃ良いじゃねーか……まあ、今更言っても遅いけどさ」

 頭の後ろで何やら言ってるのを無視して指輪を外し、どっか汚れが残ってないか調べてみる。
内側に洗いきれてないのがあっただけで、それも指で擦れば直ぐに落ちた。
傷も目で見る限りは見当たらない。どっかにぶつけた訳でもないし、アイゼンは右手で握ってたからな。
改めて眺める指輪は明かりを反射して慎ましやかに輝き、湯船の水面がキラキラとしているのも相まってとても綺麗だった。
不思議だよな。ただの金属か何かを曲げて輪っかにしただけなのにさ。
なんでこんなに目を奪われるんだろう。
あんな襲われてる間際だってのに、あの瞬間は指輪しか目に入ってなかった。

「それは愛する人からの贈り物だからでございましょ?」
「ぶはっ! な、なに言ってんだよ! アタシはなんも言ってねーぞ!」
「目は口ほどにものを言う、だったりなさるんでございましょ? 特にヴィータさんは目が大きくてらっしゃる」
「そういう意味じゃねーよ」
「おほほ。図星でしたのね」
「ふん。もうなんも言わねー」

 綺麗になったのを確認して、元の位置に戻す。
この指輪はここ、アタシの左の薬指が定位置なんだ。
危険な目に遭ったっていうのに、やっぱり首から下げるんじゃなくて薬指なんだって。
その為にはしなくちゃいけないこともあるし、我侭で同僚にリスクを負わせるわけにはいかない。
それでも。それでも出来る限りここに置いておいてやりたい。
……こんなの。他の誰にだって知られたくないけどさ。
特になのはのヤツには。
もしバレたりなんてしたら調子に乗るに決まってる。そんなの勘弁だかんな。
 
 
 
 
 
「明日も早いんだ、もう寝ろよ」
「……あら、今日はこっちに来ませんの?」
「今日はって。今日も、だ」
「釣れないですのね。裸で抱き合った仲だというですのに……」
「事情を知らないやつが聞いたら誤解するようなこと言うなよ」
「誤解だなんて……冷たい」

 風呂も上がって夕食も済ませる。
レーションっていっても豪華なもんで、ちょっと手を加えれば普段と遜色ないモノを口にすることが出来る。
そんな普段から口にするものじゃないし、興味もあってちょっとだけテンションもあがる。
あっちの連中とは一緒に食事取らないけど、親睦っていうかそう言うのもし一緒のほうが手間も減って良いのにな。
頭の端でそんなことを考えながら、肘着いて食うなとか一々アタシに構うなとか二人を怒りながら食べてた。
それでも。頭の中の殆どを占めてたのは、目の前のレーションへの興味よりもなのはの事だった。
自分で作れないわけじゃないし、近所で出来合いのモノを買ってきたって良い。
だから心配する要素なんてないんだけど、ない筈なのに心配で仕方ない。
そんな心配なんてしてないって思うのに、それを自覚せざる得なかったのは「ため息が多いですわよ」って言葉だった。
二人を注意した合間でなくて、ぼんやりと箸が止まっているときに決まって吐くのだと言う。
慌てて否定するも、その態度が余計に怪しまれる結果になった。
指摘されると余計に気になる。お陰でせっかくの美味そうなレーションも、味がぼやけて何を食ってたか覚えてないや。

「ふぁ~あ。まだちょっと生臭い気がするな」
「でしたら此方へいらっしゃいな」
「二人で引っ付いたら余計生臭くなるだろ」
「残念」

 寝床は普通。
風呂がアレだけ備え付けみたいなのを用意できるのに、寝床は寝袋の少しガッチリした作りになったやつ。
別に不満があるわけじゃないし、コイツと一緒だと返って寝袋の方が安全いうか……まあ、今日の朝みたいなこともあるけど。
なんであんな事になってたんだろうな。
ちゃんとチャックを閉めて寝なきゃいけないって事なんだろうか。

「そんな頭まで全部入ってしまうと暑苦しくありません?」
「そんなこと言ったってよ。また外に出ちまったら嫌じゃんか」
「……それもそうですわね。新婚ホヤホヤのヴィータさんが他の女を抱いて寝たなんてバレたら」
「むぐぐぐ……!」

 聞くとイメージ悪いけど、嘘を吐いてるわけじゃないのが困りものだ。
前の晩になのはの話をしたりさ、物真似なんて聞いちまったもんだから夢に出てきたりして。
指輪のこととかも気にしてたから、意識はしてなかったんだけど、頭の中はそうなってたんだろうな。
なのはを一緒に寝かせてやるようになってからか、抱きつき癖が酷くなって気がする。
大体はなのはが抱きついてくるんだけど、偶に。ほんの偶にこっちから手を回して抱きついてることもある。
そういう何時もの癖が出ちまったっていうか、それで朝早くに目を覚ましたら目の前にメンテの胸元があったんだ。

「遠慮なさらずとも。私、口が堅いんですのよ?」
「ヤだね。そういう問題じゃねーんです」
「あら残念。人肌の恋しい季節だったりしちゃってますのに」
「そうやって言うヤツは一年中恋しい言うけどな」

 慌てて飛び起きたんだけど、アタシが出来ついてきた時点で目を覚ましてたらしくって。
寝顔と目を覚ましたところと、気がついて驚いたところとか全部見てたんだってよ。
そんなもんだから準備してる間とか、調子乗ってずーっと引っ付こうとするし、朝から一日分疲れた気分だった。
コイツ、前からこんなだっけか? 覚えてねーや。


 


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