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新婚なの! 7-5 (1)

 赤。真っ赤な何かが飛び散って、視界を埋め尽くす。
赤く、赤く。視界も思考も全て染めて。胸に何か衝撃が走り、その何かと一緒に地面を転がる。
痛くない、痛みはない。でも、一体何が起きてるのか全く分からない。
回らない頭で現状を把握できないでいると、何かによって抱き起こされた。

「おい、ヴィータ! なにボサッとしてやがるんだ!」
「あ、ああ……?」

 この声は分かる。背中にいるのはフーガだ。
アタシを右手でしっかりと抱きとめながら、肩越しにデバイスを突き出している。
そのデバイスの先へ視線をやれば、アタシを守るように射撃魔法のスフィアが幾つか設置されていた。
更にその向こう、さっきまで自分が立っていた場所。
赤だ。同じ赤にまみれた――メンテが立っていた。
特に赤く濡れた右手には角野郎の大きな頭がぶら下って、口や首からはお酒みたいに綺麗な赤が滴っている。
滴った血で出来た血溜りはどんどん広がり、その中にメンテと左前足だけが付いた身体の断面が転がっている。
その横には胴体の上、首辺りからバッサリと分かれた赤い断面が転がり、そこからも大量に溢れ出し血溜りを作っていた。
二つの血溜りが広がり、一つになる。
その中に立つメンテ。ここからじゃ表情が見えない。
普段から表情には出さないヤツだが、その背中からは近寄りがたい空気をヒシヒシと感じた。
まるで別人みたいな、その背中から。

「……もう大丈夫みたいだな。おい、ヴィータ。いつまで抱きかかえてんだよ、そんなもん」
「う、ん? なにを、だ?」
「これだよ。ほれっ! しっかしデカイ頭だな、これ」

 抱きかかえていた手で、胸元に乗っかっていた何かを掴んで放り投げる。
かなり重かったのか、放り投げるといってもそれほど遠くにはいかず、直ぐそこへ鈍い音を立てて落ちる。
その落ちた何かは、スチールウールの塊――頭から右前足の繋がったモノ――だった。
胸とだらりと開いた口から、同じように真っ赤な血が溢れ出していた。
形からして、メンテの横に転がってるのがコイツの半分ということだろうか。

「ヴィータ。大丈夫か? どっか怪我してないか?」
「た、多分」
「そんなら良いんだけどよ。あ~あ、バリアジャケットぐちゃぐちゃになっちまったか」
「ホ、ホント……だな」

 元から赤かったバリアジャケットは、余計に赤くなってた。
ただ、早くも乾き始めたのか端からどす黒く変色し、どの辺りが血で染まったものなのかを分かり易くしている。
はやてから貰った騎士甲冑。それをこんなにしやがって。
早くどうにかしないと、乾いてこびり付いたらどうしようもねーや。
再構築すれば問題ないとはいえ、気分の問題であり、主から賜った甲冑が血に塗れるというのは面白いものではない。
後ろから覗き込むようにしては心配してくれるフーガが顔を上げ、声を上げた。

「おい。ヴィータもこんな状態だ。一旦基地に帰ろうぜ?」
「―――」
「返事しろって! お前だけ置いてくぞ!」
「―――構いませんでしてよ。この先は私一人で行きますですから」
「なっ! ば、バカ言うんじゃねーよ!」

 頭の上で怒鳴ると、ゆっくりとアタシを地面に下ろしてメンテへ歩み寄る。
いつもグタグタしているフーガが珍しく怒ってる。
相当機嫌が悪いようで、一方的にメンテを捲くし立てる。しかし当の本人はどこ吹く風とでも言いたげに態度を変えない。
こちらに背を向け、二人を拒絶しているのか、とすら感じたまま。
これはアタシも一言言っておかないといけない。
起動させたままのアイゼンを杖代わりに立ち上がると、覚束ない足取りで二人の下に向かった。

「お前だって血まみれだろ! 一旦戻るのが筋だ!」
「別に怪我したわけじゃありませんですの。あなたはヴィータさんを連れて戻れば宜しいでございましょ?」
「こんなところ一人じゃ危ねーって言ってんの!」
「そうかしら。このぐらいなら別に問題ありはしませんですことよ」
「また昨日みたいなのが出てきたらどうすん―――あ、どうしたヴィータ」
「あ、あのさ。あの、その……」

 雰囲気が悪い。
この二人の雰囲気が良い状況ってあんま想像できないけど、これは明らかに悪い。
元はといえば自分が原因なんだし、と思って口を挟んだけれど次の句が出てこない。
具合悪くて視線をそらすと、メンテがまだ掴んでいる角野郎の頭と目があった。
アタシを捉えたまま見開かれた目は今だ力を失っていないように感じられ、今にも襲い掛かってきそうだ。
思わず後ずさりする。
視線を外しても、もう一つ横に転がった胴体が目に入り、どこを見ていいのか分からなくなってきた。

「ところでヴィータさん。お怪我はありませんですの?」
「あ、ああ。まあな。お前が助けてくれたんだろ? えっと、ありがとな」
「そう、ですの。でしたら問題ありませんでございましてよ。それじゃ」
「あっ。ま、待てって!」

 踵を返し右手に持った頭を放り投げる。
投げられた頭は横に転がった胴体より向こうへ落ち、ゆっくりと倒れる様は、そこに命がないことを示していた。
頭に目を奪われているうちに、さっさと行ってしまうのを思わず呼び止める。
足を止め、律儀に振り返るメンテは全身血まみれだった。
左前から血飛沫を浴びたみたいで特に左側が酷く、マントのみならず中のジャケットまでべっとりと赤に染まっていた。
顔も酷い。顔だけじゃなく髪の毛まで。
血に濡れ、ベッタリと顔に張り付いたサイドの髪と顔。
反対側は綺麗なもので、その対比のために全くの別人のような印象を抱かせた。
いつもの軽い感じが全くしない。思わず背中が寒くなるほどに。
表情のせいだけではない。
その瞳。特に左側の、血と張り付いた髪に隠された瞳の奥に、なんの生気すら感じさせない。
背筋の凍るような冷たさは、これが原因なんだろうか。

「なにか?」
「あ、あのさ。コイツの言うとおりだ。前にも言ったろう? 一人で探し回るのは危険だって」
「そうでしたかしら。やけに警戒されていましたけど大したことありませんでしたわよ?」
「な、なに言ってやがる! 今回のは偶々だろうが!」
「黙ってて。そもそもヴィータさんでしたらあのぐらい何てこと御座いませんでなくて? 何を躊躇してらっしゃりますの?」
「躊躇? アタシが何を躊躇してるって言うんだよ」
「初めから殺しにかかれば宜しいのに、と言っておりますのよ」
「なっ、な!」
「そうでございましょ? 今日もどうして気絶など。頭を潰せば宜しいですのに」
「…………ぐ」

 その通りだ。
一昨日だって今日だって。初めから相手を殺す気でやれば問題ないのかもしれない。
でもそれじゃ駄目なんだ。
アタシは今までたくさんの血を吸って生きてきた。
はやてを助ける時だって、命こそ盗らなかったモノのたくさん人も動物を傷つけてきた。
だから、これからはそういう事は止めようって。
管理局に入った時から、それは変えていこうって。
それに、ここは監視指定されている無人世界だ。
無闇に動物を殺しちゃいけない。初めに注意してあるんだ。

「手を抜いてるわけじゃない。余計な労力の消費を避けたいだけだ」
「気絶などという回りくどい方法が楽だと? いいえ、何も構わず殺せば済むことですのよ」
「そんなの、アタシの勝ってだろうが」
「相手は命を獲りに来てるのですよ?」
「だ、だからってこっちが殺していい理由になんのかよ」
「ええ、十分ですわね」
「なっ!?」
「命を獲り、獲られる。お互いそういう事は不文律とでも言うべきものじゃ御座いませんこと?」
「そんなのはお前の考えだろうが。注意事項、忘れたわけじゃねーだろ!」
「勿論。ですから"無闇に"。それと、ヴィータさんの考えこそ勝手じゃありませんで?」
「アタシ等は勝手に相手の縄張りに入り込んでんだ! そういうところで勝ってして良いはずがないだろ?」
「ですから私は襲い掛かってきたモノには容赦しませんの。安っぽいですけど、ココではそれがルールではなくて?」
「ぐ、くっ……」
「……ふぅ。何も言うことはありませんですわ。さ、ヴィータさんを連れて帰ってくださいまし」
「お、おいおい。本気で言ってんのかよ。ちょ、ちょっと待てった―――」

 何も言えないでいるアタシに呆れたように背を向けて、高速移動魔法を使ってあっという間に視界から消えてしまう。
たぶん、足跡を追っていったんだろう。
何がどうあっても一人にしちゃいけない。そう思うから追いかけなきゃいけないのに。
足は全く言うことを聞かず、アイゼンを杖代わりにしなきゃ立ってられないほどだった。

「……なぁ、ヴィータ。一旦帰ろうぜ?」
「で、でもよ。メンテはどうすんだよ」
「あ、あいつは……俺が迎えに行く。ああは言ってるけど一人なんて危ないしさ」
「そんなのお前だって危ないじゃんか。それなら今すぐ追いかけるぞ」
「駄目だ。今のヴィータ、足がフラフラじゃねーか」
「お、おおっと……うぅ」
「それ見たことか。そんなじゃ何も出来やしねーって」

 立っているのがやっとの状態で背中を強めに押されれば、よろめいて二、三歩動き、へたり込んでしまった。
確かに言うとおり、フラフラどころか立ってもいられない。
どこもダメージ受けていない筈なのに……
こりゃ、下手について行ったところで足手まといになるだけだ……情けない。

「今から転送魔法で戻してくれるってさ。アイツの足は速いけど目的地は一緒だ。直ぐに追いつく」
「……済まないな、こんなことで足手まといになったりして」
「良いってことよ。いつも迷惑かけてる俺からしたらさ」
「……その代わり、危ないと思ったら直ぐに逃げろ。助けに行く」
「分かってるよ。俺がそんな根性ないって知ってるだろ?」
「一匹は確保したんだ。最悪それで引き上げたって文句は言わせやしねーよ」
「へへへっ。頼りになる隊長さんだぜ」

 血塗れのアタシを抱いてたせいで、自分までマントがぐちゃぐちゃになってる。
それを全く気にする様子も見せず、何時もの様子でへらへらと笑いながら、肩を軽く叩いてくれる。励ますかのように。
そうは言うが危険なことには変わりない。
どうにかして連れ戻さないと、と思ったところで足元に魔方陣が展開し白い光を発する。
こうなるとキャンセルも難しい。
ここは一旦帰り、どうにかして身体を整えてとんぼ返りしなくちゃいけない。
頭の中でシミュレーションをし終わろうかというところで、目の前は完全に光に包まれた。


 


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