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新婚なの! 7-2 (2)

「あっちぃ~」
「文句言うな。一等良い装備回してもらってんだぞ」
「構うだけ無駄でしてよ。この人根性ありませんですもの」

 フェイトからメールを受け取って三日。
アタシは同僚のうちから暇そうな二人を引き連れて、咽るように暑い熱帯雨林の中。
気の天辺が見えないほどの高さにまで育った木々が、大きく葉を広げているせいで空の青を見ることは殆ど出来ない。
木だけじゃなく、他の植物も全部大きいせいで、自分たちが小さくなったような錯覚さえ覚える。
それなのに、どうしてか暗くはない。
空からは太陽の光なんて降ってきてないというのに。
そんな鬱蒼と木々が生い茂る中。ココに居るのは三人だけ。
ちゃんと熱帯雨林の開けた場所にはフェイトの元から派遣された要員が五人控えてはいるんだけど。

「なぁ、ヴィータ。なんで俺たちこんなとこにいるんだ?」
「お前な。出発前に資料に目を通しとけって言っただろ。マジで死ぬぞ」
「死ぬって……お前、俺たちをそんな危険なところに連れてきたのかよっ!?」
「私は目を通した上で同行してますわよ? ねぇ、ヴィータさん」
「……頼りになるのはお前だけだよ。はぁ」
「あら。そんな頼られてしまうだなんて……どうしましょう///」
「タダでさえ暑いんだ。あんまテンション上げさせないでくれ……」

 熱気にウンザリしてるアタシ達が羽織っているフードつきのマント。
見た目は陸士仕様なんだけど、実は次元航行隊の簡易フィールド装置を積んだマントの偽装もの。
バリアジャケット、アタシなんかは騎士甲冑って言うけどさ。それの簡易版で自分の魔力消費の必要ないやつだ。
魔力の発生装置か何か積んでるから魔力が要らないんだってさ。
そのお陰で、弱い攻撃や外気の変化。例えばこの熱帯雨林だと湿気とか熱気を防いでくれる。……ある程度だけど。
それをしてもココは暑い。
本当ならこのマントを羽織ってれば大体のところは大丈夫なんだけど、ココは別。
バリアジャケットの上に更に羽織ってなきゃ、周囲の魔力に中てられてぶっ倒れてるところだ。
だから、最初に文句言うなって言ったけど、ちょいと酷だとは思ってる。

「ヴィータさん。資料には目を通しましたりしたけれど、どうして私たちがペット捜しを?」
「どっかのエライさんが内密に処理して欲しいんだと」
「そんなのソイツが個人的に人を雇ってやらせりゃ良いじゃねーか」
「……普通の人間なら死ぬぞ。ココ」
「それはそうですけれど、フリーで腕の立つ魔導師もいるでございましょ?」
「まったくだ。俺たちは便利屋じゃねーんだぞ」

 実際は、フェイトの追ってた事件の研究所の連中が逃がした実験動物の保護なんだ。
どうせ後で仲間が回収する予定だったんだろう。
でも逃げた世界が悪かった。直ぐには手を出せないところなんだ、ここは。
だからアタシ達が先んじて回収することになった。
ホントのことは、フェイトの元から来てる連中が知ってるだけで、この二人は知らない。
喋っても良いかって聞いたんだけど、なるべく知られて欲しくないって言うからさ。
騙してるのは気分悪いし、相手だって知ったら良い気はしない。
だけど、ここはフェイトの言い分を取ることにした。
何かしら言えない事情があるんだろうし。こればっかりは仕方ない。

「さてね。そんなの本人に聞いてくれよ。アタシが知るわけないじゃん」
「……ふぅん。世間的に危ない橋を渡るのはゴメンでございましてよ。私」
「その時はアタシが泥を被るから安心しろ」
「そういうのって嫌なセリフですわね」
「……なぁ。早く捜しに行こうぜ? 手当てが良いったって、長居は無用だ」
「ん。悪かった。そんじゃ出発だな」

 マントの内側、腰につけたバッグから捜索に必要な装備を取り出す。
何やらこれを使わないと上手く捜し出せないって話だけどな……至って真面目な顔してたし。

「なんですの、それ?」
「ただの銀色の棒切れにしか見えねーな」
「……ああ。アタシにもそうにしか見えねー。錯覚じゃなさそうだ」
「仕様書を見てみますと、登録した魔力に反応する新感覚素材のようでございますよう」
「ただの新素材だけじゃダメなのか」
「最近管理局から民間へ技術開放が行われたりしたりしたんですけど、加工の難しさから中々普及しないのですわ」
「(無視したな)そっか。マトモに動くならそれで良いけどな」

 両手に持った二本の銀色棒を前に突き出して、左右にユラユラと振ってみる。
反応はない。ということはこの辺には居ないってことだ。
……本当に大丈夫なのかよ。

「こんな方法でこのジャングル中捜す気かっ!? しかも俺たち三人で!」
「外に広域探査を行ってくれる人がいましてよ」
「そういう事。それと。その喋り方止めたらどうだ? 面倒だろ」
「……おほん。そういう事でしたら普通にいきましてよ? ヴィータさん」
「(あんま変わってない気するけど。黙っとくか)あのな、大丈夫だ。ある程度の生態は掴んでる」
「それにしたって雲を掴むような話だな……」
「室内飼いだし夜行性だ。足跡さえ見つけりゃ直ぐだってよ」
「足(魔力)跡ってことですの?」
「それの近くに行きゃこいつが勝手に反応すんだ」

 ユラユラと振りながら大きな木の根元に沿って歩き出す。
日の昇っている間は、こういう根元なんかに隠れて夜を待つらしい。
しかも室内飼い。元々の行動力もない生き物らしいし……って、らしいばっかだな。
それとは関係なく、ここではそうやって何時でも身を隠せるようしとくのが定石。
それは何でかというとだな……

「おい。ちょっとこっち来い」
「あら。そんな日の高いうちから。でも、別に構いませんこと――」
「俺のこと忘れないでくれ。んでヴィータ。なんだ」
「頭下げろ。ほれ、あっちだ。あそこのデッカイ角生やしたの」
「結構大きいですわね。それがどうか?」
「アイツ、滅茶苦茶強いんだ。倒せないこともないけど、ここでの無駄な魔力の消費は避けたい」
「そんなに強いのか? そりゃ確かにあの角と牙は凄そうだけどよ」
「疑うんならやって見ろ。家族にはちゃんと勇敢な最後だったって言っといてやるからさ」
「……済みませんでした」

 ここの野生動物は強い。下手な武装局員よりも強いやつがウロウロしてる。
それの原因は、どういう理由かしらないけど、この星の地下に埋まってる魔力を帯びた岩盤だ。
コイツが常に発している魔力に生まれた頃から中てられてるせいで、やたら耐性のある種類ばかりが残ってる。
中には、魔力を放出したり爪なんかに帯びさせて攻撃に使うヤツも居る。そうして効率よく他のヤツを狩るわけだ。
だから、そういうヤツは数は少ないけど強い。その上に身体も結構大きい。
今、数十メートル先の木の陰に見え隠れする、お凸に大きな一本角を生やしたヤツなんかが代表格だ。

「詳しいのですね。そういう事に興味があって?」
「一応責任者だからな。事前に調べておいた。そんだけ」
「お前ってまめだな。そういうとこ」
「……もう少し黙ってろ。襲われたら逃げなきゃいないからな」
「管理外世界、しかも無人世界。それなのによく手に入りましたわね、資料が」

 本当のところは違うんだ。
今の時代に出てきたとき。はやての為に闇の……蒐集してたときに来た事があったんだ。
途中から野生動物を相手にしてたからさ。リンカーコアの大きめで人のいない世界に行く必要があったから。
そんときに覚えたんだ。直に相手してよ。
詳しい事は後でシャマルに調べてもらったんだ。

「無限書庫に知り合いがいるんだよ」
「あら、そうでしたの。そこら中の有名人とお知り合いですのね」
「ヴィータも充分有名人だけどな。ちびっ子教官としてさ」
「……お前。手当て10%減な」
「横ぼっ(ゴツン! 痛ってー」
「黙ってろって…………よし。上手くやり過ごしたな。捜索再開だ」
「了解ですわ。ヴィータ隊長さん」
「くぅ~。ホントに殴るなんて」

 辺りを警戒しながらゆっくりと頭を上げる。
一応外の連中とは無線で繋がってるから、そっちでも安全を確認してもらった。
念話も遠くに飛ばせないし、広域探査も余り使い物になんないで気休め程度。
地面に気をつけ、足跡を見逃さないように。
また銀色の棒をユラユラと揺らしながら、アタシ達は件のペットを探しを再開した。

 

 

<<ヴィータ隊長。そろそろ陽が落ちます>>
「ああ。こっちはもう全然陽が届いてねぇ。そろそろ本格的に森が動き出す頃だ」
<<こちらの誘導に従ってください。そこから転送します>>
「頼んだ」

 今日一日の探索は成果ゼロ。一匹も捕獲出来なかった。
それっぽい形跡なんかを見つけることは出来たけど、目標の発見には至らなかった。
外からの広域探索では、それほど移動している形跡もないようだし、習性から見てもそれは当たりだろうと思う。
陽が暮れてしまえば余計に視認性が悪くなる上に、昼間は身を潜めていたような奴らが動き出す。
そんなんじゃ身を守るのに精一杯で、ペットなんて探してる場合じゃない。
アタシ一人なら別だけどさ。隊長としての責任もある。
今日のところは一旦打ち切って、明日朝一番から捜索を再開することにした。

「寝所の準備と夜間の見張りはしてくれるようでしてよ?」
「アタシ達が動けなきゃどうしようもないからな」
「隣、良かったり致します?」
「良いぞ、別に。なんか用か? もし今日のことで疑問があるなら今のうちにな」
「本当に宜しくて?」
「……なにさ」
「今回の任務。本当に"お偉い方からのお願い"ですの?」
「アタシはそう聞いてる」
「……そう、ですの。仲間を、ましてヴィータさんを疑うなんてしたくありませんものね」
「アタシも出来ればな」
「ふふふ……。ところでヴィータさん。結婚指輪はどうしましたですの? 数日前からお見受けしませんですけど」
「ゆ、指輪か? あ、ああ。えっとだな。今、よいしょ。首から下げてんだ」

 言われて胸元から取り出した、チェーンに通した指輪。
日本に居るときの何倍もある、ミッド地上より大きな月の光りを反射して静かなきらめきを放ってる。
取り出したばかりで、ユラユラと揺れる指輪を二人で少しの間、黙って見つめた後、顔を寄せて呟いた。

「……綺麗ですわね。まるでヴィータさんの愛みたいに」
「ぶっ!? な、なんだそれ」
「せっかく綺麗な指輪ですのに首から下げるだなんて勿体無くありませんこと?」
「い、いやさ。それかどうかは別として、指に嵌めないのは、その……」

 あのとき。なのはは何とか納得してくれたけど、やっぱり見える場所に指輪がないのは寂しがってた。
アタシだってそういう顔はさせたくないし、出来るだけ指に嵌めといてやりたいけどさ。
そういう事と仕事は別だ。悪影響を及ぼすようじゃ教官失格だしよ。
それなら指輪を嵌めててもちゃんと出来るよう特訓すべきなんだろうけどさ。
今は時間がない。

「私はどちらでも構いませんけどね」
「ん?」
「明日も早いですし、先に失礼させていただきますわ」
「分かった。アタシも直ぐに寝る。明かりは点けといてくれ」
「んふふ。ヴィータさんと初めての夜だ何て、緊張しちゃったりしちゃいますわ♪」
「……そういう他人が聞いたら誤解するようなこと言わないでくれよ」
「私は良いのですけど。あら? 根性なしがコッチに来ますわ。なるべく早くあしらって私のところへ入らして下さいませね」
「わーったよ。んじゃな。お休みだ」

 ゆっくりと立ち上がってはお尻を払い、バリアジャケットの裾を揺らしテントへ引き上げていく。
本当のところは、部署でアタシの次ぐらいに腕が立つし、賢いヤツだから連れて来たけどな。
今一掴みどころのないヤツだ。いつも真剣なようで嘘っぽい感じがする。
信頼できるんだけど……まあ、それを裏切ってるアタシが何を言うんだってところだ。
さて。アホの相手をして寝るとするか。

「おい、ヴィータ! 聞いてくれよ!」
「なんだ。どうして自分だけ別のテントなんだって話は却下だ」
「話が早いぜ。どうして俺があっちのテントなんだよ!」
「そりゃお前。女二人と一緒に寝るつもりかよ。一人は未婚なんだぜ?」
「間違ってもあんな女に手を出すかよ! それに、俺だって胸の大きい娘が好みなんだ! ヴィータだってねぇよ!」
「……アイゼン。今の発言、録音バッチリだな?」
『Naturlich』
「…………ごめんなさいヴィータ隊長。今日は大人しく寝ます」
「肩身が狭いだろうけど一人で寝るより安全だ。じゃな、明日も早いぞ」
「へ~い……」

 こっちへ来た勢いはどこへやら。肩を落としてトボトボ帰っていく。
向こうは見知らぬ次元航行隊(見た目は陸士だけど)の連中ばっかりだし可哀相だとは思うけど。悪い、我慢してくれ。
コイツは本当に暇してたから、半ば数合わせ的に連れてきたんだし、帰ったら何か奢ってやるとするかな。

「……さて。明日も早いしな」

 身体を起こし、手で払ってからテントに戻る。
他の星たちが目に入らないほどの月明かりに照らされて、周囲は不思議な緑色に染まっている。
昼の咽るような暑さが嘘のみたいな静けさ。
生い茂った草木の向こうに猛獣達の静かな気配を感じながら眠りについた。


 


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