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新婚なの! 7-3 (2)

『捕まえましたわ!』
「マジか! よくやった!」
『ですけど、少々問題が……』
「なにかあったのか?」
『ヴィータ、早くこっち来てくれよ!』

 念話が飛ぶ距離で、フーガが直ぐに追いついてることを考えれば、もう姿が見えて良いはず。
念話を繋いだまま走るそんなアタシの考えは正しいんだと、直ぐに証明された。

「お、おい。大丈夫……なわけねーか」
「一応ですけど大丈夫ですわ。私も、このワンコも」
「なぁ、ヴィータ。コイツと会ったときは逃げた方が良いんだよな……?」
「よく覚えてたな。その通りだぞ」

 草を掻き分け、少し開けた場所に出たところ。
倒れて朽ちかけた巨木が横たわる手前にメンテ、その向こうにでっかい角が見える。
メンテは目的の動物をしっかり腕に抱えていた。どうやらバインドで押さえ込んだらしい。
あんな逃げる相手によく出来たもんだ。一体どうやって……いや、今はそんなこと言ってる場合じゃねーや。
向こう側に見える角が大きく迫り出し、これまた大きな足が巨木を踏みしめ上半身がお目見えだ。
ここは少し開けてて明るいっていうのに、コイツが身体を大きく乗り出したせいでそんな陽の光りも遮られてしまった。
お凸から伸びた一本の大きな角に作られた影が、アタシの足元まで伸びてきてる。

「目を離さずにバックしろ。ああ、そうだ」
「どうすんだよ、ヴィータ」
「お前は良い。アタシの後ろに隠れて距離を取ったら、メンテと一緒に逃げろ」
「そりゃありがたいけど。ヴィータは良いのかよ」
「隊長だからな。あと、逃げるときは飛ぶな。言ってなかったけど鳥も凄いのがいるからな」
「了解だ、隊長」

 メンテの動きを追いながらも、角野郎から目を離さず摺り足で距離を詰める。
相手は歯を剥き出しにしながら此方を睨み、割れた地面の底から響いてくるような唸り声を上げてる。
その唸り声はアタシの身体にぶつかって、宛らマッサージ機に座ってるみたいに全身を震わせた。
コイツめ。なんでこんなに敵対心剥き出しなんだよ。
どう考えたってアタシ達なんて食っても腹の足しにならないだろうが。
剥きだした歯の隙間から涎がダラダラと落ちては、巨木の下に水溜りならぬ涎溜まりを作ってる。
あれで首を振ったりすると涎が飛び散って全身ベタベタに濡れるんだ。
臭いんだろうなぁ、ヤダなぁ。

「ヴィータさん。この人、抱えましたわよ」
「よし。先に逃げろ。多分アイツはお前らを狙ってる」
「地面を這うなら高速移動魔法、使って大丈夫でして?」
「外からの干渉が大きいからな。制御に気をつけろ。方向転換効き難いからな、距離を刻め」
「了解でしてよ」
「うぅ……コイツに抱きかかえられるなんて」
「ヴィータさんの命令がなければ、ここに捨て置いても良いんですのよ、私」
「よし。無駄口はこのぐらいにして……いくぞ、アイゼン!」

 幾分か距離を詰めたけど、相変わらず角野郎は後ろの二人をその大きな目玉で捉えてる。
アタシの事は目に入ってないって訳じゃなさそうだけど……危ないな。
これだけの巨体に似つかわしくない俊敏な動きは疑わしく思ってしまうほど。
何か加速魔法でも使ってんじゃなかろうか。
ただ、それも前来たときに見たヤツの話で、これだけ大きなヤツとなると別かもしれないと、考えなくもない。
けれど、バカやってちゃ大きくなれない。つまり、面倒なことになりそうってことだ。
待機状態だったアイゼンを起動させ、左前に構える。
コレがどういう状態か相手も然るもの。目敏く感づいたみたいだ。
うん、それで良い。

「よし行け! 後は任せろ!」

 足元に魔力を溜めるのと同時に角野郎はぐっと身体を屈め、弾けるようにして気配が遠のくと角野郎も後ろ足を弾けさせた。
遅れることなく迎え撃つために地面を蹴り、相手の腕ギリギリに飛び込んだ。
左前に構えたアイゼンを振り上げ、右前足のつま先を思い切り叩く。
弾かれた前足は、右下から飛び上がってくるアタシを一瞬視界から隠す。
視界を塞ぐ前足を退けたときにはもう遅い。
アタシの顔以上にありそうな目玉が更に大きく見開いてる。
驚きなのか威嚇なのか分からないけど、そんなのに構わず鼻っ柱を思い切り横殴りにした。

「どうだ!」

 これだけ大きな身体でも、鼻っ柱を思い切り殴られりゃ多少は怯む。
交差するアタシと角野郎。
アタシは相手の肩を蹴って背中に飛び降り、角野郎は失速していった。
方向転換し後頭部を睨んだところで、地面に落ちた巨体は地響きと共に辺りの木々を大きく揺らした。
攻撃の手を緩めない。
背中を蹴って頭を飛び越え、左つま先を狙って思い切り振り下ろす。
灰色でスチールウールの束子を思わせる硬い毛で覆われた、アタシの二倍以上ありそうな分厚い手が地面にめり込む。
そのまま地面に降りたアタシは、素早く初めに対峙したときよりも距離を取った。

「アイツ等、もう追いつかれない程度の距離まで逃げたか……?」

 そこらで一番大きな、ビルのように太い木の陰に隠れて様子を窺う。
まだ目を回しているだろうというアタシの予想に反して、既に頭をグッともたげていた。
ザフィーラが身体を洗った後みたいに身体を震わせると、その大きな足でしっかりと地面を踏みしめた。
しかし直ぐに顎を下げる。やはり効いていたのかと思いきや、全身を硬直させ杭を打ち込むように踏ん張る。
しまった。
そう思った瞬間には、ずっしりと並んだ歯を見せつけるように思い切り吼える。
その咆哮は、まるで何かが爆発したみたいに凄まじい衝撃波となって襲い掛かってくる。
ビルほどの太さをもつこの巨木すら突き抜けてくる衝撃に、思わず身を屈めて踏ん張った。
この大きさじゃなかったらアタシごと吹き飛ばされてそうだった。

「くっそ。マント羽織ってなきゃこれだけで戦闘不―――くっ!」

 衝撃が収まるか収まらないかの最中、アイゼンが警告を放つ。
相手が地面を蹴り、さっき殴った大きな左足が、今まさに身を隠してる巨木を捕らえようとしている。
慌てて後ろ向きに飛び退いた瞬間。今まで自分がいたところごと、巨木はばっくりと抉り取られた。
幾らなんでも出鱈目すぎる。
身体も手も大きい。その先についてる爪も同様に。身体に見合った足の太さから力だって強いことは分かる。
それにしたって、手の先っぽを殴られた直後の腕であんな巨木をぶち抜くなんて……

「くそっ。これじゃアタシが逃げられねーじゃんかっ!」

 着地と同時にアイゼンを構える。
相当の勢いで突っ込んできたんだろう。巨体は草や小さめの木をなぎ倒しながら横滑りさせる。
木をぶち抜いた破片の中から既にアタシを捉えていたのか、その大きな目玉と頭はこちらを向いている。
次の一手を選択する余地はなかった。
横滑りしながらも首を下げ、ぐっと溜め込む素振りを見せる。
もう一度吼えてアタシを行動不能にするつもりだ。
今からじゃアレだけの咆哮をしのげそうな巨木を探し出し、身を隠すのは間に合わない。
魔力で衝撃弾を生成しアイゼンを振り下ろす。
同時か、ほんの僅かに遅れて角野郎は先ほど同様にに大きく口を開ける。
双方から放たれた衝撃波が、ほんの十、いや数メートル先でぶつかり合う。
さっきなんかと比べ物にならないほどの衝撃が周囲を覆いつくし、小さめの木は特撮のセットみたいに吹き飛んでいく。

「よし! これなら封じれるだろ!」

 こっちも衝撃波を作って打ち消す。
それもあったけど、この魔法使うときは自分を守る為のフィールドを同時に張る。
万が一相手に負けたとしても、相殺>フィールド>マント>バリアジャケットの四段構えで守りは硬く出来る。
その上、閃光で目晦ましだ。
こればっかりは身体が頑丈とか関係ないからな。
昼間っからうろつき回るコイツには、他の夜行性のヤツより効果薄いかもしんねーけど、それを補って余りある威力だ。
さて。こんなこと考えてる暇があったら一も二もなく退散だ。
赤い光りに満たされた中で、眩しさに顔を背けてる角野郎を横目に足早にその場を後にした。


 


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