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新婚なの! 7-4 (2)

 
「あんま食欲ないと思うけど腹に入れとけよ」
「ヴィータさんとご一緒出来るのですから」
「俺はあんまり関係ないかも」
「……あっそ」

 よく周囲の見渡せて、ガッチリした巨木の袂を選んで腰を下ろす。
大きめというなら選ぶのに苦労しないジャングルだけど、昨日のことがある。
あの巨体なら反応もデカいから、逃げられないような距離まで詰められることはないだろうけど、詰められたら逃げるしかない。
だから、それ以下のヤツへの対応。一撃でぶち抜けなさそうなのが基準だ。
閃光魔法が有効なのは分かってるから、木を盾にして同じ手順で逃げれば良い。
鉄則を作ってしまうと逆に対応し辛くなることもあるけど、不安の緩衝材にはなる。この二人にもさ。
外からの無線とアイゼンに警戒を任せ、昼ご飯をとることにする。
アタシのそういった心配を他所に二人は既に座り込んで、すっかり休憩モードだ。

「隊長の勤めとはいえ、なぁ」
「どうかしたか、ヴィータ」
「なんにも。おい、ゴミはちゃんと持って帰れよ。ここは特に無人世界なんだかんな」
「わーってるって。訓練校時代に耳にタコが出来るほど聞かされたよ」
「あと、その食べカス。あ~あ、汚ぇなぁ、おい」
「ちゃ、ちゃんと分かってるよ! お、落とさないようにしてるよ!」
「ふふふっ、どこの小学生ですの?」
「く、くぅ~! その人を馬鹿にした態度!」
「だったらガキみたいな食い方すんなよ。はぁ、どうして管理局に勤めてまで他人の世話焼かなきゃなんねーんだ……」
「…………なるほど」
「ちぇっ……あっ! そういうお前だって零してるじゃねーか!」
「ほら、ヴィータさん。私も零しちゃいましたの」
「……二人とも。角野郎の腹に納まりたくなかったら黙って飯食え」
「「了解」」

 どうしてアタシの周りにはこういうヤツばっか集まってくるんだ……
その筆頭は―――今頃どうしてるだろ。
弁当作ってやってないし、忙しいとかいって碌なモン食べてないんじゃないだろうな。
アタシの前じゃズボラなくせに、仕事(教導)は人一倍真面目にこなすもんだから嘘つき呼ばわりされる。
一生懸命やるのは良いことだけど、その代わり目を放すと食事とかそういうのが疎かになりがちだ。
睡眠とか食事とか。そういう自己管理まで含めてしっかりやるのが大人だろうに。
一緒に住むようになって気づいたことだけど、今までそうだった分。気になって仕方ない。
身体のことだってあるのによ……

「ヴィータ、さん?」
「う、うわぁっ!? な、なんだよいきなり!」
「いきなりとは。お言葉ですけど随分呼びましたのよ?」
「そうそう。さっきから全然食べてねーし」
「あ、ああ……」
「心配してくれんのは嬉しいけどさ」
「自分を疎かにしてまで。というのは感心できませんわ。部下として」

 確かに二人はすっかりお昼を食べ終え、いつでも動けるように身形を整えていた。
フーガの指差す先、アタシの手の平にはお昼になるはずの固形栄養食が、全く手付かずに残っている。

「……わーってるよ」
「あら、お気に召しませんで?」
「へへへ。ヴィータ隊長」

 大急ぎで口に放り込むと、口がいっぱいになり頬が思い切り膨らんでしまう。
こんなの味わう暇がないなんて思うけど、味わうほど美味くもないし。
味付けの問題じゃなくて味気ない。いかにも「食べにくいので濃い目の味付けしてみました」感がありありとする。
こういうの、なのはに食べさせたくねーんだよなぁ。
はぁ。やっぱ一回連絡とって確認取るべきか……いやいや、そうやって甘やかすから。
でも、やっぱり……

「また、ですわ」
「ま、まにがは」
「何か考え込んで、お口と手が止まりますの」
「ヴィータ。俺た……んぐ。俺さ、頼りにならないけどさ。心配かけてさ、えっと」
「ほら。当の本人がこう言ってることですし」
「ぎぎぎ……人が気を使ってだな」
「……うんぐ。ぷはぁ、ちょ、ちょい待ち」
「はい、お水」

 差し出された水で喉をゆっくりと降りていくのを押し流してやる。
ぐぐっと押し広がるような感覚の次に、一気に開放感が訪れて大きく息を吐く。
ホッとしているアタシを覗き込む二人。
なんだろ、そんな顔に出てたかな。

「まあ、なんつーか、その……お前等が無用な心配しなくていいようにするのがアタシの役目だしさ」
「それは分かってますけど」
「さっきからなに深刻な顔してるんだ?」
「し、深刻……」
「そう。凄く不安そうですの。流石に私も心配になりますわ」
「昨日のでさ。ホントにヤバイってのは分かってるけど、それのせいか?」
「むぐぐ」

 まさか言えるわけない。
お前等のことなんてこれっぽっちも考えないで、なのはの事ばかり考えてたなん――! あ、いや、違うんだ!
そうじゃなくて、その……あれだ。えっと……
くっそー! なのはのせいだ!
アイツがずぼらなのがいけないんだ!

「うふふ。ヴィータさんの百面相。面白いですわね」
「お前さ。趣味悪いよな」
「ヴィータさんが趣味悪いですって!? これは減俸ものですわね」
「そういう意味じゃねーよ!」
「おほん。それは置いておくとして、この分ならもう少し休憩できそうですわ」
「それは良いけどさ、あんま休憩してる場合じゃねーんじゃねーの?」
「さぁ? ヴィータさん以外。興味ありませんから」
「……あっそ」

 その日は結局、なんの収穫もないまま終わってしまった。
 
 
 
 
 
「今日もお疲れ様でしたわ、ヴィータさん」
「お前もな」

 今日で三日。相変わらずの緑色した月明かりの中、ぼんやり河の煌きを眺めているとメンテがやってきた。
風呂上りで肌が僅かに上気してピンク色になり、サイドの髪が頬にいく筋かピタリと張り付いていた。
断りもなく隣に腰を下ろすと空気が動き、ふわりと良い香りが漂ってきた。
これは支給品というか寝所とセットになってるものだから、フーガも航行隊も同じなんだけど、少し違う気がする。
なんでだろうな。
普段の生活でだって、同じ香水やらを使ってるヤツなんてごまんといるのにさ。

「あら。この香り、好きだったりしちゃいますの?」
「う、ん? なんの話だ?」
「いえ。何となく、こちらに興味ありげな顔でしちゃったりですので」
「べ、別に。みんな同じの使ってんだ。そんなことねーよ」
「ふぅん」
「なんだよ、その顔は」
「ほほほ。そのですね、使う人によってイメージとか違っちゃったりしません? 例えば……香水とか」
「イメージ、ね。まあ似合う似合わないってのはあるな」
「好きな人の、好きな香りをつけてみるとか。好きな人と同じ香りにしてみるとか……そういうことです」
「……さあね」
「同じものを使ってるはずなのに、なぜかその人からでないと違っちゃったり同じでなかったり」
「今のは繰り返しになってるぞ」
「……あら。ではお先に失礼いたしますわ」
「だな。湯冷めしないよう暖かくしろよ」
「ヴィータさんが同衾してくだされば問題ありませんことよ?」
「はぁ。またそういう事を」

 腰を上げると、おほほ、と笑いながら寝所へ引っ込んでいく。
全く。一々ちょっかいかけて来やがって。と文句を言いながら、気配が完全に消えた辺りでまた視線を河へ戻す。
相変わらず静かに流れる河。濁って見えないせいか、その中に生き物の気配を感じ取ることが出来ない。
何も住んでないのか、それともジャングル宜しく魔力の影響で遮られているのか。
そんな静かな河を眺めてる。

「同じ香水、か」

 そういう事例に心当たりがないわけじゃない。
でも、それはメンテのいうように違うイメージがするかと言うと、そうでもない気がする。
まあさ。あの二人は似てはいないけどずっと一緒にいるんだし、無二の親友だろ? そういうことかも。
二人ともアタシには近くてさ。そういう事が少ないのかもしれない。

「なのは。ちゃんと夕ご飯も食べただろうな。コンビニとかで済ませてねーだろうな」

 冷凍庫には一応パウチに詰めた残りモノとかある。
それか帰りに外で済ませるという方法もあるし、最近は少ないけど同僚とかとの付き合いもあるだろう。
それほど心配することじゃない。そうだ、大丈夫だ。

「……まあ、最後の手段がある」

 海に一回出てしまうと中々帰ってこられないこともある。
特に執務官が一つの事件を追ったりすれば、幾つかの次元を渡り歩くこともざらだ。
泣き言を言えば文字通り飛んでくるぐらい心配するだろうけど、もう良い年した大人だ。流石にそれはない……と思う。
だけど、アタシがいないと分かれば―――

「止めた。こんなの。約束が、違う」

 好きな香水の香りを思い出してたせいか、久しぶりのフェイトのことまで思い出される。
なのはの好きな香りをつけちゃったりしてさ。ああやって笑ってはいたけれど、やっぱり……寂しいじゃんか。
それに引き換えアタシはよ。なのはを泣かせたりして……

「……風呂でも入って、さっさと寝よ」

 一日ぶりの後ろめたさが、じわじわと胸の内に広がっていくのを感じながら、その場を後にした。


 


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