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新婚なの! 7-4 (4)

「……! おーい、ヴィータ~」
「あん? 呼んだかー? 聞こえねーから念話寄越せー」
「ああ、思わず……えっとだな。足跡見つけたぞ。昨日のと同じだ」
「分かった。今すぐそっちに行く」

 初めてのお手柄で思わず声を上げてしまう気持ちは分かる。
直ぐに念話に切り替え、足跡を見つけたと報告。自分だけでなくデバイスに覚えさせたモノでも確認した上でだろう。
念話を繋げたまま、草を掻き分け、身長の三倍ほどの根に登り、一軒家ほどはありそうな木の幹を回り込もうとしたその時。
起動させておいたアイゼンが警告を発する。
アイゼンを握る右手に力を込め、銀棒をバッグにしまい込んで半分顔を出す。
アイツにもデバイスから警告が出ているはずだ。
高いところから周囲の状況を伺いながら、背の高い草の中にアイツの頭頂部を探す。
やはりあっちも感づいたみたいで、後ずさりしながらキョロキョロと辺りを見渡していた。
気配の近くないことを確認し、そのまま呼び寄せた。

「おい、こっちだ」
「あ、ヴィータ。あのさ、足跡見つけたのは良いんだけどよ」
「いいから。こっち来い。昨日の通りにな……そうだ」
「ふぃ~。念話送った途端に警戒音が鳴ってさ。ビビッタのなんの」
「足跡はどっちに続いてる?」
「あっち。あの物凄い勢いで何かが潜んでそうな」
「……うーん。そんで、足(魔力)跡は確かめたか?」
「ああ、ばっちりな。何だか昨日より弱いんだけどさ。結構遠いのかもな」

 指差す先は、いかにも警戒音の主が潜んでそうな雰囲気を醸し出している。
フーガの方が対象に近いために特定できたのだろう。しかし、それでも何匹ぐらいいるのかは分からない。
外の連中は何やってたんだ。こんな接近されるまで分からないわけないだろう。
一昨日みたいな奴だったらどうするつもりだったんだ。全く。
まあ、そうそうお目にかかれない筈だが……いや、そうでなきゃ困る。

「さて。どうするかな」
「迂回すれば良いんじゃんか」
「あの茂みに足跡が続いている以上、どのみちあの辺りへ近づかないとダメだぞ」
「あ、そっか」
「ふぅ……アタシが突っ込む。こっから見えないって事は相手は小さいはずだ」
「そ、そういう油断って良くないんじゃねーのか」
「正面から喧嘩するわけじゃない。ちゃんと考えてある。良いか、離れずについて来いよ」
「ま、待てって。そりゃ分かったけどさ。お前についていくなんざ無理だよ。空も飛べないんだしさ」
「じゃあアタシが後ろから追いかけてやろうか。それとも―――」
「私が後ろから追いかけますわよ?」
「うわっ!? な、なんだよ。驚かせんなって……」
「ヴィータさん。あそこを突っ切っていくんでございますの?」
「ああ。足跡があそこを通ってるっていうからな。向こうが動くのを待っても良いんだけどよ」
「多分あちら様、こちらを狙っているのじゃございません? 動きませんわよ」
「同感。だから退いてもらうことにした」
「ふぅん。ならそれで宜しいじゃございませんか」
「待てよ。何が居るか分かんねーんだぞ」
「私はヴィータさんを信用してますから関係ありませんことでしてよ」
「信用とかじゃなくてだな。危険かどうかって話だよ!」
「何のために私達がいると思ってますの? フォロー、する気ゼロですわね」
「……ああ。分かった、分かったよ! ヴィータに着いてきゃ良いんだろっ!」
「ふふん。初めからそう仰れば宜しいですのに」
「あ、あのさ。アタシを無視して話し進めんなよ。それに一理あるっつーか……」
「良いじゃありませんこと? 珍しく根性出したのですから」

 涼しい顔したメンテと意気込みは伝わってくるけど涙目になりそうなコイツ。
こうなると言った手前、やんなきゃなんねーか。
フォローしてくれるってのは良いけど、心配なんだよな。
初めから狙いを定めてた場合とかさ。

「仕方ない。ちゃんと退いてくれよ……それ!」

 左手を振って鉄球を四つ生成し、アイゼンで続けざまに叩いて茂みの向こうに放り込む。
もし直撃しても大怪我にならないように威力を調節して。炙り出すか退いてくれればいいんだから。
赤色の軌跡を描いて飛んでいく鉄球。
草や木の葉を散らしながら進み、茂みに飛び込むか飛び込まないかのところで何かが飛び出してきた。
直ぐに草の中へ隠れてしまうが問題ない。
黄色い身体に黒の斑点。地球にもいる豹によく似た格好だったのはバッチリ確認できた。

「よし、アレなら問題ない。行くぞ!」
「マジかよ。結構強そうじゃなかったか?」
「グズグズ言うと蹴飛ばしますわよ」
「お前が蹴飛ばしたら死ぬだろうが!」

 相手も今の攻撃の威力が分かったのか、徐々に距離をとっていくのが分かる。
気配でそれを確認しながら木の陰から飛び降り、草むらを突っ切っていく。
飛び降りる前に後ろで何か揉めてた気がしたけど、そんなピッタリくっつかれても困るし。
最悪メンテがアタシの位置さえ掴めれば追いつける。
とにかく先行して危険を蹴散らしてくしかねーや。
昨日と違ってこの辺は地面が硬く、足跡もしっかりしなくて判別しにくい。
仕事をしない連中を無線で呼び出してもはっきりした返事をしない。
面倒なことにならなきゃ良いがと思う。四日目ともなれば相手も動いてくるはず。
近くにいるかも、というチャンスを無駄にするつもりはない。
少しだけ姿勢を低く保ったまま、背の高い草の合間を進んでいくと、アイゼンがまた警告を発した。
その時ふと鼻を突く嫌な臭い。
勘違いかと思って確かめてみるけど、もう感じ取れなかった。
本当に勘違いであってほしいと思いながら、足跡を見据えたまま近くの木に身を隠す。

「ちゃんとついて来てるな」
「ああ。こっちだ。ど、どうしたんだよ。ヴィータ」
「ちょっと詰めてくださいな。私だけ隠れませんでしてよ」
「ちょ、バカ。あんま押すなって! ヴィータが出ちまうだろうが」
「ならあなたが出たらどうですの?」
「ヴィ~タ~」
「いい年した男が泣くな。情けない」

 出遅れた割には後ろの二人の到着は早く、物陰から様子を伺おうとしていた時には追いついた。
後ろで押し合い圧し合いしてるけど、それを無視して覗き込めば、ざわりとした気配と共に空気が動き、同じ臭いが鼻を突く。
やっぱりだ。
慣れてるとはいえ、何度嗅いだところで好きになる臭いじゃない。
随分昔のこととか、あの時のこととか……とにかく嫌な思い出しか浮かんでこないし。
任務のために嫌な記憶を頭の端へ追いやると、改めて周囲の気配に神経を張り巡らした。

「……死体でも、か」
「どうした、ヴィータ。行かなくていいのか?」
「お前はどうだ? この臭い」
「う~ん……どうだろ。獣臭いとかか?」
「―――血の臭い、でしちゃったりよ」
「!? じゃ、じゃあ、さっきの黄色い奴が!」
「違うな。それに釣られて寄って来てたんだけど、獲物を漁ってる奴が自分より強いんでヘタってアタシたちに変えたんだな」
「へへっ。そりゃ運がなかったな」
「ええ。アナタみたいだったりな動物でしたのね」
「……ふん。俺には元々こっちは向いてねーんだよ」
「腐るな。ちゃんとやれてるじゃねーか。ホントに駄目ならとっくに首だ」
「うぅ~、ヴィータ。一生お前についてくよ。ぐすっ」

 こっからじゃ見えない。だけどアイゼンが間違うわけないし、血の臭いはどんどん強くなる。
押しやったはずの記憶がむくむくと自己主張を始め、何故だか左手が重くなる。
気を紛らわすために、銀棒を取り出して反応を確かめれば、まだ弱い。
これは距離がまだ離れているからか、それとも……。
前者なら良いけど、何故だか悪い予感しかしねーや。
血の臭いの正体があのペットかどうかなんて確かめてもないのにさ。

「多分、この向こうにいるのは一昨日と同じ種類の奴だ」
「一昨日……この辺りにあんな巨体を隠せそうなモノはありませんですことよ」
「同じ種類だって言ってるだろ。一昨日とは同じ個体じゃないってことですよー、へへーん」
「そういうこった」
「あら。間違えちゃったりしちゃったみたい」
「……全然凹んだりしないのな、お前」
「はぁ、なにやってんだ」

 一昨日みたいなのは特別おっきくなったに違いない。そうじゃなきゃ困る。
あんなのがゴロゴロいて堪るかよ。倒すならかなり真剣にやらなくちゃいけないレベルだ。
それに、アレだけ大きくなるにはそれなりに長生きしてるわけだ。
そう簡単に気配を悟られたりしているようじゃ、普段の食事すら侭ならない。
身を隠すのが上手く、強い。
もし、あれが特別な強さじゃなくて、その存在をアタシが知らないだけだったら……撤退だな、こりゃ。

「よし。さっきみたいにアタシが様子を―――なんだ!? 上か!」
「う、うぅわああっ!?」

 一歩木の陰から出た瞬間。足元の影が濃くなり、頭上から圧迫感が降ってくる。
見上げる、アイゼンの警告がわずかに遅れてた。
捕らえた影の主は件の角野郎。スチールウール毛の塊。
フーガの奴を思い切り突き飛ばしながら自分も飛び退く。
ひっくり返って背中から落ちるフーガに、手足に小さく魔方陣を展開して飛び退くメンテ。
アタシたちが着地するよりも早く、降ってきた角野郎がその巨体を地面にめり込ませていた。
こっちを見てない。
初めからフーガ一点に狙いを絞ってやがったのか。
アタシ狙いじゃねーのかよ……面倒だな!

「シールド張れ! 踏ん張るんじゃないぞ!」

 アタシが着地するかしないか。角野郎が身体を縮こませたかと思うと大きく爆ぜるように四肢を伸ばし飛び掛る。
アタシの声がちゃんと聞こえたのか、ひっくり返りながらもシールドを展開する。
体勢を整える間もなく、角野郎の爪はフーガのシールドをがっちりと捕らえた。
反発で再び吹っ飛ばされるフーガ。
仕方ないがこれで良い。
相手の魔力と体重が大きいもんだから、弾くはずのシールドで踏ん張らないとこっちが吹っ飛ぶ。
下手をすればシールドを突き破られる恐れもあったが、狙い通りにそれを利用して間合いを強引に作ることが出来た。
こういう戦法。初めて見たのはなのはがやって――くそっ、肝心な時になのはの話かよっ!

「おい! よそ見してるとタンコブ出来るぞ! 口閉じろ!」

 効果は望めないだろうけど、気を惹けやしないかと大声出し、地面を蹴る。
今度は向こうが着地前で体勢を整えられてない。チャンスだ。
地面に着いたところで振り向く間も与えない。右片手を思い切り伸ばし、首根元近くを思い切り叩いてやった。
鈍い音がする。
ずっしり生えそろった歯をむき出しにして、思わず震え上がる様な不気味な声を出しながら角野郎は地面に伏せた。

「今度はちゃんと気絶してくれ―――」
「ヴィータさん! 後ろですわよ!」
「なっ!?」

 振り下ろして、倒れた角野郎の上に降りたところでメンテの声が飛んだ。
慌てて上体を捻り、シールドを張るために左手を前に出す。
伸ばした左手の向こうには、今足元で寝転んでる角野郎より大きいのが二匹。こっちに飛び掛ってきてる。
大きな口を大きく開け、真っ赤な口内が今まさにアタシを捉えようとしている。
その赤が。血の様に赤い――正に血の色の――赤が。
少しずつ大きくなっていた嫌な記憶を一気に押し広げた。
シールドを張らなきゃいけないと伸ばした手の先。
角野郎の赤と小さく光る何か。
視線が移る。その小さく光る何かに吸い寄せられる。指輪だ―――なのはに貰った指輪。
左手の薬指に収まった指輪が、どこからか差し込む光を反射したのか、小さく光っていた。
久しぶりに見た、意識した、薬指に収まって小さく光る指輪を。
その光景に目も意識も奪われて、シールドを張るタイミングを完全に逃した。
一番近くの、血に濡れたような真っ赤な口が近づいてくる。
改めて見ると、こいつらの歯ってすげぇギザギザしてんのな。
噛まれたら終わりだ。アタシの腕ぐらいだと一噛みで千切れちまうなぁ。
せっかくの、なのはから貰った指輪。こいつ等の腹の中に納まっちまうのか……

「ヴィータっ! 何ぼうっとしてるっ!」

 聞き慣れない口調に、声が、アタシの意識をぐっと引き戻す。けれど間に合わない。
シールドが展開するために腕を伸ばしきるよりも早く、角野郎の口がアタシを捉え―――目の前は真っ赤に染まった。


 


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