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新婚なの! 7-8 (3)

「久しぶりだ……っていうほどでもない、かな」

 身体半分ぐらいありそうなバッグを肩にかけ、ひょこひょこ歩きながら家路を急ぐ。
道中、頭の中を大部分を占めていたのはなのはのこと――主に指輪のことなんだけどさ。
別にいつも通りにしてれば良いじゃないか、とは思うんだけど。
帰りがけに余計なこと言われたもんだから、意識しちまってしょうがない。
任務中は余計なこと考えちゃダメだって、頭の端へ追いやろうという抑制があったけど、そうでなくなった途端。なのはの顔が浮かんできやがる。
夢に見たり、ちょくちょく思い出すことがあったりはしたけどさ。
すっかり気が抜けた証拠なのか。首から提げた指輪が気になってしょうがない。
薬指に収まっているモノとは思えないほどの重さと存在感。思わず首が下がってしまうんじゃないかと思うほどに。
くそ。やっぱりあの後姿は満足から来るモンだったんだ。
休暇、今からでも取り消してやりたいぐらいだ。

「こんなところで突っ立ってたってしょうがねーや。アタシが帰ってきてることは分かってんだからさ」

 独り言が増える。
どのくらいこの玄関ドアの前でぼーっとしてるか。下手すると変質者扱いだな。
なるようになれ。家に帰らないわけにはいかない。取りあえず部屋に入るとするか。
深呼吸一つ。ドアノブに手をかけた。

「たでーまー……って。あ、そっか」

 玄関を開けると上がり口の明かりは灯るが、その向こう。廊下の奥とその向こうのリビングは真っ暗だ。
それもそうか。夕飯の時間前だったら、なのははまだ仕事中だ。家に居るはずがない。
それなのに部屋の前で延々どうしようかと思考を巡らせていたなんて……恥ずかしいにも程がある。
強く玄関ドアを閉め、靴を揃えることもなくリビングに駆け込み、バッグを放り投げてそのままソファーに飛び込んだ。
ソファーは跳ね、床にバタンと大きな音を立てる。
防音とかしっかりしてて良かった。
なってなかったら下の階の人に迷惑かけるところだった。

「うひー。疲れたー」

 ちょうどソファーの端に重ねてあるクッションを抱きかかえて顔を埋める。
久しぶりに寝転ぶソファーと抱きなれたクッションの感触を確かめていると、ふとあることに気づいた。
鼻腔をくすぐるこの匂い。これ、誰の、何の匂いなんだろうなって。
そんなの考えるまでもない。この家には二人しか住んでないんだから。当然残りのもう一人ってことになる。
微かに香る甘い香り。よくアタシの服にも付いてて勘違いされる香水の香り。
フェイトも使ってるらしい、もうすっかり馴染みになってしまった、これ。

「~~~~。……はぁ」

 深呼吸して、胸いっぱいに匂いを満たす。
脳裏に浮かんでくるのは毎朝の光景。視界を埋めているのはなのはの寝巻きの色。
顔を埋め、目を瞑っているとそういう毎朝の光景がはっきりと浮かんで、時間さえ錯覚するよう。
抱きしめてるクッションの感触すら違うものに思えてきた。
そのまま横に身体を起こし、胸に抱きこむようにする。
明かりがなく、日も暮れかけた窓際からの日差しは少なく、部屋の奥の方はすっかり暗くなっていた。
そんな薄暗い部屋をぐるっと見渡せば、アタシが出かけた時のまま、殆ど変化のないように見える。
本人には言えないけど、ホント言うと結構散らかってるんじゃないかと思ってた。
日本に居た頃、なのはの部屋に何度か遊びに行ったけど、ちゃんと整理整頓されてたし掃除が出来ないとか、そういう訳じゃないだろうけど。
なんとなしに、そういうイメージが強くてさ。
何でだろう。いつの間になのはに対するイメージが固まったんだろう。

「ふーん。この部屋ってさ、こんな匂いだったんだなぁ」

 家ってのはさ、住んでる人間には分からないけど外から来た人には分かる臭いってのがあるじゃん。
そういうの。この部屋はさ、元々アタシしか住んでなかったから疑問にも思わなかったけど。
今、はやてが来たら"アタシの家"の臭いってのがあるんだろうか。
以前の一人暮らししてた時とは違う。アタシとなのは。二人の生活臭が。
足をブラブラ、ソファーを軋ませクッションをギューっとしていると、俄然家に帰ってきたって実感が沸いてきた。

「……あ~あ。つっかれたな~」

 今度は仰向けに寝転ぶ。
久しぶりに眺める天井は、外から僅かに差し込む日差しに紫とも青とも言えない色に染められていた。
部屋全体の空気、この時間にしては温かいけどそれでもヒンヤリしているのには変わりない。
なのはが帰ってくる前に空調でも点けといてやるかな。

「さて。そうなると夕ご飯、か。どうすっかな」

 ご飯といえば、思い出すのもなのはの顔。
ぼんやりと天井を眺めていれば、何故かそこに顔が見えるような気さえしてくる。
こりゃ重症かも。
メンテの言うとおり、そんなに作ってやりたいのかなぁ……

「久しぶりだからアタシが作ってもいいけど……やっぱなのはに作らせようかな」
「ええー。私は久しぶりにヴィータちゃんの手料理が食べたいなー」
「ああ、やっぱそう―――んっ!?」
「おっかえりなさい、ヴィータちゃん♪」
「うわっ! ちょ、お前! いつ帰ってきてたんだよ!」
「何時って。ヴィータちゃんが帰ってくる十分前ぐらいだよ」
「ど、どうして今日に限って、んなに早いんだよ!」
「今日は偶然ミッドの地上で仕事だったんだ。そしたら本局の方からヴィータちゃんが帰ってきたって連絡が」

 寝転んだまま夕飯に考えを巡らせば、何処からともなく聞きなれた懐かしい声が。
一瞬視界の端が暗くなり、遮ったモノの正体は逆光なのも手伝って分からない。
ついでその影から発せられた言葉。これで完全に分かった、嫌でも分かる。
思わず飛び上がるけれど、背もたれと反対方向だったせいで頭から床に落ちてしまう。
後頭部が痛いのも忘れ、その声の正体――ニヤケ面の高町なのは――に対して疑問を投げかける。
焦っているアタシとは裏腹に、にっこり余裕満面で質問に答えた。
どういうことだ。それに"偶然"地上に居ただ?
あと、アタシが帰ってきたから身内に連絡するシステムなんてあったかよ。知らねーぞ、そんなの。

「ダレからそんな連絡あったんだよ」
「航空隊からだったかな? ちゃんと、ほら」
「……あ~、本当だな。こんな便利なのか不便なのか分からないサービスだな」
「だからね。急いで帰ってきたんだよ?」
「ああ、乗り越えてくるな! み、見えてるぞ!」
「うん? 良いの良いの。だって夫婦なんだし」
「いやいや、そういう恥じらいってのがだな……ああ~、んぎゅ!」
「んふー! お帰りなさい、ヴィータちゃ~ん」
「お、おい! こら! 離せって!」
「やだよー。一週間ぶりのヴィータちゃん分なんだも~ん!」
「あ、あぁ……そうだったな」

 ソファーの背を乗り越え飛び込んできたなのはに押しつぶされながら、遠慮がちに、そっと背中に手を回した。


 


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