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新婚なの! 7-6 (2)

「結構歩いたな、今日は」
「隠れられそうな場所が余りありませんもの。見切りが付けやすいですから」
「草なんかの背丈も減ってきたしな。見通しが良いぞ」
「ヴィータなんかは特にそうだろ。俺達なんて今日は初めから見晴らしよかったぞ?」
「……ノーコメントですわ」
「ひっでぇ! さっきは一緒にそう言ってじゃねーか!」
「お前。やっぱアドバルーン決定な」
「オレなんて不味そうなの吊るしたって誰も寄ってこねぇよ~」
「物は試しだ。ホントにお前の言うとおりなら無罪。寄って来て食われたら有罪」
「……有罪って死んでるじゃんか、俺」

 少し前から急速に辺りの景色が変わってきた。
鬱蒼と生い茂って空を隠していた木々も、アタシの頭の上で揺れてた草も今は幾分か小さくなってる。
何だか異世界に(実際そうなんだけど)迷い込んだような雰囲気はすっかり形を潜め、普通のジャングルになっていた。
ただ普通になったとは言え、周囲に満ちる魔力の圧迫感とかむせ返るような暑さは相変わらずで、その辺はどうしようもない。
それだけなら多少なりとも雰囲気は良くなりそうなものだが、そうは問屋が卸さない。
昨日までと違って手掛かりが少なく、一寸先が闇となって焦れる空気はいつにも増していて雰囲気も悪くなる。
差し引きゼロか、少しマイナスってところだ。

「ちょっと休憩しねーか?」
「どうするよ、メンテ」
「一度空気を入れ替えた方が良いですわね」
「よし。あそこの一番の大きいところで休憩だ」

 色々考えたり黙って探したり。ちょっとの愚痴を挟みながら。
流石にダレてきたところでフーガが切り出した。
朝のこともあって疲れには一段と敏感にならなきゃいけない。そろそろ言い出そうかと思ってたところなので手間が省けた。
メンテの同意にアタシが言い終わらない内に、足取り軽く指差した木の袂まで駆けてゆくフーガ。
うーん、もう少し休憩にしなくてもよかった気がしないでもない。

「ふぃ~。しっかしこの息苦しさだけは慣れないなぁ」
「私はこの暑さの方が困りますわ」
「しっかり水分補給しとけよ。あとほれ、腹の足しにしとけ」
「ありがとな、ヴィータ。へへへ」
「腹持ちが良いのですよね、これ。ただ、甘いのだけはどうにかならないかしら」
「疲れると甘いモノ欲しくなるとか言わないか?」
「それと好みは別ですの。どちらかと言うと辛いほうが……」
「ふーん」

 周囲で一番目立つ木の股に三人で座りこみ、二人が喉を潤している間に手の平大のキューブを取り出す。
一口では大きいけど二口では小さいという、諺にでもなりそうな不具合なヤツだ。
食感は焼餅と大き目のガムの間みたいな感じで、やたらモチモチしてて何回も噛まなきゃいけない。
簡単に栄養が摂取出来てある程度の満足感を得るのが目的なはずなのに、なんでこんな不便なんだよ。
ああ、そういえば沢山噛むと頭がよくなるとか満腹感が得られるとか、そういう理由からなんだろうか。
それにしても、三人で黙ってモチモチやってる姿ってのは、傍から見ると滑稽だ。
これが大所帯となれば、二十人ぐらいでモチモチしてんだ。黙々と。
日々の訓練で鍛え上げられた屈強な男達が、並んで黙々とモチモチ……これはどう反応したら良いんだ。

「甘い方がオヤツっぽくて良いのにさ。辛いのなんて……」
「ふーん」
「ヴィータさんはどうですの? このモチモチ」
「これか? うーん。そうだなぁ……味はともかく一口で食べられるようにして欲しい」
「「あ~」」
「そうだろ? 一口じゃ口がモチモチだし、二口に分けるとちょいと足りないし」
「それはあるな。中途半端なヤツだ」
「かさ張りますし、もう少し効率よく出来ないものかしら」
「「「う~ん」」」

 雰囲気はよくなったけど、三人で黙ってモチモチしてたら何となく持ち直した。
メンテが辛いもの好きとか、フーガが意外に甘いモノが好きそうだとか知ることできたし、これで良しとするか。
それに余り一所でのんびりしてると、他のヤツが寄ってくるしな。

「―――と言うか、もう来てるんだよな」
「なにがさ、ヴィータ」
「動物。角野郎や昨日の斑点じゃないけど、まあ肉食のヤツが」
「は、早く言ってくれよ!……って、俺のデバイスも警告出てたわ」
「肉食多いですわね、ここ。さてと、そんなのんびりしてて宜しいですの?」
「向こうも様子見てる最中みたいだし、どうすっか考えてたところ」
「考えてくれたのには従うからさ、もうちょい穏便に言ってくんないか?」
「一応口の中のものがなくなるの待ってたんだ。悪かった」
「ヴィータさんの心遣いを無下にするだなんて……(チラッ」
「ち、ちち違うよな? そうじゃないよなヴィータ?」
「なんで動物が近づいてるって時より動揺してんだよ……」
「確実に傷付きましたわね」
「あ、あぁ~……(ガクッ」
「頭抱え込んじまったじゃねーか。あんまイジメんなって」
「程ほどにしておきますわ。おほほ」

 近づいてきたのは五匹。アタシ等の背後を取る形で三匹、前に二匹で散開してこっちの様子を窺ってる。
大きさはアイゼンが合わせたデータによると、昨日の豹のヤツより小さ目らしい。
身体が小さいってことは、この辺りで食べるもんも小さいんだろう。
するとだ。あの角野郎の大きさを維持できるほどこのジャングルに食いモンになる動物ががいるってことになるけど……どうだ?
周りが全て大きいせいでどうにも感覚が狂ってる。
外から客観的に判断して貰わねーと……ま、今考えても仕方ない。
今は兎に角ペットを保護して早く帰ることだけ考えれば良い。
流石に六日目ともなると、家の状況というか、その……なのはが気になるんだ。
ここ二日は特に寝不足な気がする。
朝飯とか夕飯とか、寝る時間とか。染み付いた習慣ってのは恐ろしいモノで、その時間になるとどうしても、さ。
このままの生活を続けると、またメンテに抱きつきそうで怖いし。

「そんで。どうすんだ、ヴィータ」
「正面突破でいい。さっきまでの反応見るにあっちに続いてるだろ?」
「そうですわね。左、十時の方向ですわ」
「アタシが後詰めする。お前等は先に行け」
「良いのかよ、それで。危なくないのか?」
「ちゃんと逃げる用の魔法もある。目晦ましのな。それに、先に飛び出して相手を誘い出す」
「それって。俺が囮?」
「大丈夫。貰ったデータによればバリアジャケットで十分防げる」
「……信じるぞ、ヴィータ」
「ビビるなって。そんじゃ頼むぞ、二人とも」
「「了解」」

 ポーチからそれ用のカートリッジを手に取り、目で合図を送る。
ゴクリとフーガの喉仏が動き、一呼吸あってから思い切り地面を蹴る。メンテがそれに続いた。
地面を滑るように駆けて行く――というか半分飛んでるようなもんか。
メンテは接近戦のベルカ式宜しく、高速移動魔法で後を追っている。
二人が飛び出したことで前方に控えていたのが動くのを感じた。側面を狙う気だ。
そうは問屋が卸さない。更にアタシがそいつらの横っ面を狙う。
ジャングルのヤツらは魔力の大きい小さいに敏感だ。アタシの強さってのは伝わってるはず。
狙ってた中から割と弱いのが動き出したのを見て、意気揚々と動くのが分かる。
ただ、アタシの気配を探りながらなので一瞬出遅れた。
後ろに控えていた三匹。側面を狙って動きを止めたところで挟み撃ちにするつもりだったのかな。
ぐるっと回って、右手後方からせり上がってきてる。
アタシは後続に割り込むようにして移動を開始した。
それでも諦めると思ったけど、後続に足の速いヤツが居たみたいで、ぐいぐいと差を縮めている。
まあ二人を安全に逃がすために迫られた方が良いんだけどさ。別に焦ったりしない。
速度を調節しながら、左手に握ったカートリッジに魔力を込め――あ、あれ?

『どうしたよヴィータ。逃げれてないじゃないか』
「あ、ああ。ちょいとミスった」
『!? い、今すぐ戻る!』
「それには及ばない。そのまま二人で追いかけろ」
『そ、そんでもさ!』
「良いから。それと通信と念話。両方を合図と同時に十秒だけ切れ」
『本当に良いですの?』
「大丈夫だ。いくぞ、一、二の……今だ!」

 左手に魔力を集め魔力弾を生成し、プツリと通信と念話が切れたことを確認する。
これは光と少しの音のこけおどし。これで十分だ。
落とした速度のために、徐々に距離を詰められつつある。
なるべく集まった時に使いたいけど……この辺りが適当かな。

「ちょっとビックリするけど勘弁な。……それ!」

 後方に魔力弾を放り投げる。
小さく赤色の光を放つそれに気を惹かれたかどうかは分からない。見ててくれると有難いけど。
放り投げられた魔力弾は光を放ちながら、宙を漂う。
周りから集まりつつあるところで、アタシは目を瞑った。
周囲が真っ赤な光に埋め尽くされ、それと共に破裂音が弱い衝撃となって襲い掛かる。
アイゼンゲホイルの弱い奴。ホントならカートリッジを破裂させてするつもりだったんだけど。
そのままアイゼンの誘導に従って、二人を追いかけた。


 


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