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新婚なの! 7-6 (1)

「おはようさん。昨日はよく眠れたか?」
「ああ、ぐっすりだ。ここ五日で一番動いたからな」
「そりゃ良かった。騒動があった日は興奮して眠れなかったりするからな」
「騒動?」
「怖い目に遭ったりさ、そういうの」
「怖い目?…………あ、ああー! そういや昨日は結構焦ったな。ヴィータが喰われそうになった辺りでよ」
「わ、悪かったよ」

 こんなこと言ってるけど、それで眠れなかったりしたのは自分自身だったのだけど。
興奮して寝付けなかったわけじゃない。その辺り慣れっこというか、このぐらい危ない橋は何度か渡ってるというか。
だから大丈夫だと思ったんだけど、ただ、夢見が最悪だった。
あの角野郎の大きな口にあのまま喰いつかれて、なのはの指輪がなくなっちまうって夢。
夜中に三回、真っ暗な寝袋の中で目を覚ました。一応ちょっとだけ出口は開けてたんだけど真夜中だったからさ。
悲鳴を上げたり飛び起きたりというのはなかった。
右腕だけじゃなく全身がなくなったような感覚。
それよりも大きかったのは、なのはとの指輪がなくなってしまったということ。
感じたことのない喪失感に背筋が凍りそうで、悲鳴を上げるとかそういうのを通り越してた。
慌ててその所在を確認する。
せっかく風呂にゆっくり浸かったのにさ。寝汗がびっしょりで汗臭くてしょうがない。
こっそり寝所を抜け出して残り湯で身体を拭きにいったの、バレなかったかな。

「ああ、違う違う。ま、なんつーか、その……マジで心配しただけだからさ」
「……そっか。あのさ、まだ言ってなかったけどよ。昨日は助かった。ありがとな」

 夢を見るまで、自分がそんな状態になってるなんて想像もしなかった。
それが夢なのか現実なのか、区別すら出来ないほどで、それが余計に恐怖を増幅させた。
昼間、腰が抜けてたって時点で自分が思ってたよりショックを受けてたって考えを及ばせておくべきだった。
二人はアタシほどじゃないにしろ、何かしら影響があるんじゃないかって心配したけどさ。取り越し苦労みたいで良かったや。

「へ、へへへ。人から感謝されるってのは悪い気がしないね。ヴィータだと特にそう感じるぜ」
「ふーん、そんなもんか」
「いっつも世話になってるからな。逆って今までなかったしよ」

 照れくさそうに笑うその顔はフーガを子供っぽく感じさせた。
よく残業を手伝ってやると、遅れたことに悪びれもなく礼を言う姿に呆れこそすれ、腹が立つことはない。
それは今みたいな子供臭さを感じさせる表情が原因なんだろうか。
外見が子供そのまんまのアタシが言うのも変だけど。
うーん、得な性分だよなぁ。
その逆にメンテはどうだろう。要領は良いから無駄には増やさず上手く立ち回るタイプだろうけど。

「だったらアタシの手間を増やさないよう頑張ってくれよ」
「へ、へーい」
「よし。朝ご飯食べて今日の準備と行くか」
「了解、ヴィータ隊長」

 アタシを気遣ってか、朝の用意はメンテがしてくれてる。
食事の時が一番元気なフーガをつれて、準備を終えてるだろうメンテのところへ向かった。

「あー、美味かった」
「そうですわね。私達本局のモノより良いの使ってません?」
「陸の連中って良いもん食ってんだなー」
「そりゃお前、各世界の治安を下支えしてるのは陸の連中なんだからな。食いモンは大切だ」
「海は扱う事件が大きい代わりに影響も大きく、その為にどうしても腰が重くなりがちでござったりですわ」
「……なぁ、空の俺達って中途半端?」
「本局勤めだとそう思うかもな。ただ、各本部の航空隊はエリート部隊だぞ?」
「首都航空隊は特に、ですわね? ヴィータさん」
「まあな」
「ふーん。空が飛べるからってエリートってのは変な感じだな」
「自覚あっちゃったりするんですのね」
「そういう意味じゃねーよ……ぐすっ」
「数が少ないからな。コントロールも難しいし自然とそういう雰囲気になるんじゃねーか?」
「適性、というのが最大の壁ですわ」

 朝食も終わり、後片付けをしながら談笑してるとこ。
フーガは片付け手伝いをさせると、余計に散らかすタイプなのでこういう朝の時間ないときとかは大人しく座らせておく。
順調に片付いていき、今日もお日様が完全に頭を出し切ってしまう前に出発できそうだ。
しっかし、毎度思うことなんだけどよ。フーガのヤツってあんなに食って大丈夫なのかよ。
普通、あんな食った後に動いたらお腹痛くするか吐き気がしたりして、まともに動けなくなりそうなのにさ。
それに引き換え、メンテは今日もあんま食べなかったな。
普段……は、あんま知らないし、前昼飯を一緒にしたときは、ランチセット普通に平らげてた気がする。
若しかして暑いからいつも通りに食べてると気持ち悪くなるし、既にバテてゲンナリしてるのかもな。
フーガは頑丈だから別として、早く切り上げないと身体壊しちまうかもしれない。

「さて。あと一匹だ。気合入れていくぞ」
「了解」
「了ー解」

 

 
 
「ヴィータ。今日はかなり動いてないか?」
「ああ、どうやら昨日までの地区に反応ないらしい」
「確か水辺は避けて移動するのでしたわよね」
「そうだ。この河の反対側には行けない。すると」
「もっと北って事になるのか? 南じゃなくて」
「南側はもっと色んな奴らがウロウロしてるからさ。あんな弱っちぃのじゃ」
「昨日の時点でアレですもの。生きているとすれば……ですわね」
「ふーん、そっか。危ないんだから動かなきゃ良いのによ」

 正直、そうあってほしいもんだけど世の中上手く出来てるモンで、こっちの思い通りに相手は動きやしない。
しかも、報告はないけど"向こうさん"も動いてるはずだ。
フェイトから話が来て、ここに来るまでに最低三日費やしてるわけだからな。少なく見積もっても昨日の時点で一週間以上経ってる。
いくらここが手を出しにくい場所でも……いや、待てよ。
やっぱりな。昨日も思ったけどさ。初めからここがソイツ等のお膝元だとしたら?
大体、ミスってこんなところへ逃がすなんざあり得ない。
何かしら無い限り、さ。
その話がアタシに来ないってことは、この予測が間違ってるのか、フェイトですら把握してないか。
……前者だろうな。
馬鹿げてる。余計なことを考えるのは止めよう。
昨日みたいな迷惑かけるわけにはいかないからな。

「この辺から少しずつ環境も変わるようですわね。幾らか風も感じられちゃったり」
「気持ち植物の背も低く感じるぞ」
「それは本当に気持ちですわね」
「……ふん。そうやって思ってた方が精神衛生上良いんだ、良いんだ……」
「(結構気にするタイプだよなぁ。図太そうなのに) もうちょい行けばそうなる」
「この鬱蒼とした圧迫感が余計暑く感じさせるんだよなー、ホント」
「そこは同感ですわね」

 まだ植物やらの種類が目に見えて変わってない。ジャングル全体でいっても変わらないだろうし。
細かく見ていけばちょっとずつ変わってるんだろうけどな。
気を付けなきゃいけないのは、ペットが隠れられそうな場所がなくなりつつあるってことだ。
隠れられる場所がなくなれば、そこから動かなくなるか、若しくは隠れられなくて他のやつの腹の中に納まるか、だ。
死んだ証拠でも出てこりゃ任務終わるんだけど、そうでなければ見落としたということになる。
全く闇雲に探しているわけじゃないから、一個でもあれば辿っていけるんだけど……

「資料にさ、植物の背が低くなるに連れ、動物の類も小さくなってくって書いてあった覚えがあるぞ」
「少しはマシになりそうですわね」
「まだ空飛んじゃ駄目か? 稼げないしよ」
「どうだろな。まだ止めといた方が良いだろ。目立つし」
「ヴィータさん。一つお聞きして宜しいかしら」
「良いぞ」
「一番外まで行ったとして、転送魔法の範囲はいかほど?」
「ギリギリだ。あっちが動いてくれることになってるからさ。その分ちょっとだけ外にいける」
「初めはDフィールド以降は予定になかったもんな」
「そゆこと。ただ、無線が効かない可能性は頭に入れておけ。パニくるなよ」
「大丈夫でしちゃったりですわ」
「まあな。ヴィータと通信繋がる間はよ、心配ないぜ」
「……責任重大だな、アタシは」
「頼りでしたりするのですわ、ヴィータ隊長」
「ああ。それと手当ての方もな」
「任せとけ」

 二人を引き連れて、お日様が天辺を目指して上っていく中を歩き始めた。
 
「日差し強くないか?」
「うーん。そんな気がしないでもないけど……メンテ、どうだ?」
「そうですわね。昨日までよりは、というところまでだったりしちゃいますでしょうか」
「やっぱ気のせいじゃねーんだ。ほら、あの辺とか空見えてるんじゃね?」
「上ばっか見てないで下見ろ、下」
「首に重り下げますか?」
「へいへい。分かってますよー」

 大きな木の真っ暗で中の見えない穴や、ちょっとした岩場の影、倒れた木の下。
例の銀棒に反応があったりした周辺を重点的に、隠れることが出来そうな雰囲気の場所で棒をフラフラと振って探しながら歩く。
同時に足跡がないかも確認したりするんだけど。
それが見つからない。なんてこった。
ここいらは昨日までのところと違ってきていて、割りに地面が乾燥しているせいで足跡が残りづらい。
その上、ここを歩いているのはペットだけじゃない。他の奴の足跡だらけで余計に判別つかなくなってる。
だから、結局手当たり次第の一歩手前みたいな捜し方をする羽目にあってる。

「やっぱこういうのは専門家に任せるべきなんじゃないか?」
「今更ぼやくなって」
「ったくー。こんな危ないジャングルん中、動き回るんじゃねーよー」
「怖くて固まってしまうタイプではなかったのですわね。あなたはどうなんですの?」
「……あー。反論したいところだけど、オレは動かないタイプだ」
「ペットがあなたでしたら手間も省けたろうですのに。残念ですわ」
「意味分かんねーこと言ってんじゃないぞー」
「了解、ですの」

 確かに。こんな中、いくらなんでも動き回れるわけがない。
柴犬ぐらいの大きさだぞ? しかも外に出たことなんてないヤツが無事でいられるなんて。
やっぱり既に食われちまった後なんじゃないか? 昨日今日の間で。
広域探査で引っかからないのは、その範囲を出たんじゃなくて、もう死んでるだけ。
流石に一週間も経ってりゃそうなったって変じゃない。
寧ろ昨日のヤツが無事だったのが不思議なぐらいだ。
と、文句を言ってみても、足(魔力)跡がチラチラとある限り追わざるを得ないんだけど。

「探査に引っかからないのは反応が小さいからですの?」
「どうだろうな。唯でさえ地盤に邪魔されてる上に、相手は小さなペットだからな」
「昨日までどうして上手くいってたんだ?」
「精度が落ちてんるんだろうよ。自分達から離れれば離れるほどさ」

 だから昨日までは何とか絞り込むことが出来たんだろうけど、今日はこっちの辺り。なんて。
チラチラと残る足跡が恨めしい。どうしてもっとこう、はっきりしないんだ。

「この子は他の子と気性が違って行動派だったということでは?」
「知らないところに行っちまったせいで、パニくって訳も分からずってことか」
「追ってる足跡が昨日今日のじゃないってことだな」
「その上に探査範囲の外、そうでなくても範囲ギリギリでしたら見つかりっこありませんわ」
「なるほどな。じゃああいつ等がもっとこっちに来てくれりゃ良いじゃんか」
「……言い分は分かる」
「基地を守るのが仕事ですから仕方ありませんもの」

 メンテはよく分かってるな。アタシの台詞の半分以上は喋ってる気がするぞ。
航行隊の連中がそうしてくれりゃ助かるが、このジャングル中で基地を構えるのは大変なことだ。
何時どんな奴が襲ってくるか分かんないしな。
その中で相手を退けなきゃいけない。殺したりすると血の臭いなんかで集まってきたりするかもな。
……最低一人は探査・連絡要員として、残り四人。
その内一人はたまに連絡したり備品取りに行くために戻ったりするし、実質三人で守ってるわけか。
そんなに充実してるなら、もう一人アタシ等と一緒に動けるヤツを遣してくれりゃ楽だったのに……無理か。
航行隊でもそれだけの手練をフェイトの一存で動かせないだろうし。
まあ、今更文句言ったところで始まらないし、余り大所帯になるのも避けたかったんだろう。


 


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