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新婚なの! 7-7 (3)

 ほんの一瞬だけ視界が白に目いっぱい塗りつぶされて、反射的に目を瞑ってしまう。
条件反射みたいなもので実際は眩しいわけではないのだけれど。
次に目を開け、辺りを認識できるようになっていれば見慣れた基地に航行隊の連中を捉えることが出来た。

「お疲れ様でした」
「いつもありがとな。そんで一人見えないようだけど?」
「はい。今後のことについて」
「そっか。これで帰れると良いな」
「ヴィータさん。私達は先に引き上げてますわ」
「うん、分かった」

 転送をしてくれたヤツが一番に出迎えてくれる。
いつもならその後ろに二人は居るのだが、数が合わないことは直ぐに分かった。
聞くまでもない話なんだけど、一応念のために声をかけておいた。
それ以上話を続けるつもりは無かったんだけど、気を利かせてか二人が席を外してくれる。
こうなると、直ぐに後を追うのはカッコつかないかなぁ。
何か話すか。なにを話そう?

「あのさ。お前は今回のことどう思うよ?」
「今回とは、どういう意味で」
「狭く言えば昨日今日の話だ。アタシらの報告は小耳に挟んでるだろ?」
「私が関知するところではありませんので」
「ただアタシらの手伝いと連絡係ってだけか」
「はい」
「……ふぅん。疑ってもしょうがないからさ。んじゃな。もう今日は動かないと思うからゆっくりしてろよ」

 返事は聞かない。やっぱりどいつも同じだ。
ホントは違うかもしれないし、ホントにそうかもしれない。
今日で終いなら良いけどさ。明日も続くなら感じ悪くして支障が出ても困るし。まあそんな程度の低いヤツはいないだろうけど。
背後で控えるそいつに手を振りながら、二人が待つほうへ引き上げる。
さて。昼ご飯の用意でもするとするか。
今日は昨日の残りがあるから何も考えなくて良い、楽チンだ。
カレーとかそういうのも助かってご飯のメニューとしては大変優秀だ。

「あ、そうそう。今日の昼ご飯はどうした? もう済ませちまったか?」
「い、いいえ。まだですが」
「そっか。まだなら一緒にどうかと思ったけどさ。……どうだ?」
「……お構いな、く」
「ふーん。最後ぐらい別に良いと思うんだけどよ」

 やっぱりダメらしい。
量は三人で食べきるには少し無理そうなほど用意しちまったもんだ食べにきてくれると助かるんだけど。
無理強いするつもりもないし、何かあるんだろう。海の人間としては。

「おーい。昼飯どうするよ」
「もう終わったんですの?」
「まあな。朝顔をあわせたばっかだからよ。そんな言うこともなかったんだ」
「そっか。んでさ、昼飯の話か?」
「そう。昨日のカレーは残ってるけど、それで良いよな?」
「俺はカレーで良い。いや、カレーが良い!」
「私も同じく。せっかくヴィータさんが作ってくださったカレーですもの」
「あ、いや。あれレトルトだし……」
「良いから良いから。俺は三度の飯より二日目のカレーが好きなんだ。あー一日目から二日目のカレーが食べれればなー」
「言いたいことは分かりますけど、内容は滅茶苦茶ですわよ」
「無くはないけど、ちょいと気分が違うんだよ、アレ」
「そういうものですの? 初めから二日目のカレーが売っているのならそれで良いじゃございませんこと?」
「こういうのはさ、作ってくれた人に気持ちが伝われば良いんだよ! その人の作ったカレーを食べて、そんで二日目もカレー食ってさ。美味しいよって」
「あなた。さっきは初めから二日目のカレーが食べたいと仰ったじゃござったじゃない」
「こ、細かいことは気にすんなって! なぁ、ヴィータ」
「…………」
「うん? どうしたよ」
「あ、ああ。別に、なんでもねーよ」

 フーガの一言はアタシの胸に重く圧し掛かる。
別に、四六時中なのはのことを考えてるわけじゃないけどさ。
それでも今の言葉、「作ってくれた人に気持ちが伝われば良い」っての。ハッとさせられたっていうか。
今の自分となのはの事みたいだって、頭の中で二つのことが繋がった。
なのははアタシに対してそうしてくれてたのに、アタシはなのはにそれがしてやれたかって。
―――出来てなかった。
普段からちゃんと出来てれば、あの日。なのはをアレだけ悲しませることは無かった。
軽く「また冗談言って」なんて、軽く流せるはずなんだ。
アタシなら、なのはがそんなこと言ったって冗談だと思うさ。
……いや、冗談に違いないって自分に言い聞かせて聞き入れないかも。
だってさ。普段のなのははホント嬉しそうにご飯食べてさ。「美味しいよ、ヴィータちゃん」って。
アタシが夕ご飯なにが良い?って聞くと「ヴィータちゃんの作ってくれるなら何でもー」なんて一番困ること言いやがる。
そんでもさ。その時の表情なんて、アレが冗談だったらミッドアカデミーで主演女優賞貰えるって。
表情だけじゃなくて、なんていうか、付き合いが長けりゃ分かる。
アレは本心で、心の底から溢れてきた言葉だってことが。
そういう事。アタシはなのはにしてやれてたかって。
出来てない。だから、なのはがアタシの一言をホントに信用した。
全部、アタシの不始末が招いたことなんだ。

「本当に大丈夫ですの? どこか痛いんじゃござったりしません?」
「お前さ、人の心配する前に自分の心配しろって」
「―――あ、ああ。うん、大丈夫。ホント」
「隠し事はなしですわ」
「ヴィータにだって言いたくないことぐらいあるだろ。無理強いすんなって」
「あら。珍しく空気が読めるのですね」
「うっせ。それよりヴィータだろうが」

 二人の顔が目の前にあった、といってもフーガはちょっと遠慮がちで、メンテは遠慮しろって距離だった。
でも、二人とも自分なりに考えた距離だってのは分かる。
二人にそんな事させたアタシがどんな顔してたのかって……あんま想像したくないな。
人前でそんなみっともない顔するなんて、さ。

「大丈夫だ。ちょっとさ、色々考えてただけ」
「……大丈夫だって言うの。信用すっからな」
「私でしたら相談一回、一晩で手を打ちますわ。気安く声をかけてくださいまし」
「……別の意味でかけ辛いなぁ、お前」
「へへへ。信用されてないのな」

 二人なりに心配してくれてる。……メンテはちょっと真意を測りかねるけど。
なんかさ。隊長だって言うのに全然駄目なのな。
こんなじゃさ。いつも口やかましく叱ったりしてるの馬鹿みたいじゃんか。

「ほらほら、火にかけるぐらいは俺がやるからさ。ヴィータ、鍋どこだ?」
「いやらしい」
「なにがだよ。鍋の場所聞いただけだろ」
「昨日見てましたでしょ? 私とヴィータさんの愛の寝所に片付けるところを。それなのに……不潔」
「ふ、不潔とか言うな! それに何か余計な言葉つけたろ!」
「さぁ? 帰ったら良い耳鼻科を紹介して差し上げましょうか?」
「余計なお世話だ! くぅ~。ヴィータ! なんか言ってやってくれ!」
「……まあ、ほどほどにな」

 そんな調子の二人を相手に、いつまでも凹んでるわけにもいかない。
言い合いをしている二人に装備のチェックをしておくように言いつけて、寝所に鍋を取りに行った。
メンテがついて来ようとしたけど少しでも一人になりたかったし、フーガには悪いと思ったけど遠慮した。
鍋にちょいと水を足し、火にかけると、ほどなく湯気が立ち上がり、それに乗ってカレーのカレーたる良い香りが漂ってくる。
具が足りないようだから、ジャガイモとかニンジン、タマネギ、肩ロースなんかを足すかな。
予めルーは多めに作っておいたからさ。
昨日は大きめにきった具材も、今日は小さめ。変わり番こだな。
卓上コンロのもっと小さなヤツだけど、火力は十分。
切った具材を炒めていれば、美味しそうな音に誘われてチェックを終えた二人が寄ってきた。
 
「作り直してるのか?」
「いんや。具はたっぷり目の方が良いだろ? 作り足してるんだ」
「あら、昨日より小さめですのね」
「まあな。今日はお前の番だ」
「うふふ。ヴィータさんがそんなに私のことを想って下さっていたなんて……」
「勘違いスンナよ。ああ、そうだ。あっちの連中も呼んできてくれないか?」
「あっち? 今日も飯は別なんじゃないか?」
「お前仲良いんだろ? アタシが言うと遠慮するかもしんねーかさら。それに、こういう機会は大切にするべきだって思うだろ?」
「う~ん……そうだな。折角仲良くなったんだし勿体無いよな。うん、分かった」
「頼んだぞ」
「おう。あ、そうだ。ちゃんと俺の分も残しておいてくれよっ!」
「……あのなぁ。馬鹿なこと言ってないでさっさと行って来い」

 何度も何度も振り返りながら、航行隊の連中を呼びに行く。
これからみんなで食べるって言ってるのにアタシ等二人で全部食べちまうわけないじゃんか。
それに、これだけの量を食べきれる訳ないだろ。失礼にもほどがあるぞ。

「意地汚いですわね。ま、ヴィータさんのカレーを食べたいという気持ちは痛いほど分かりますけど」
「アタシがどうとか関係ないと思うけどな。純粋にカレーが好きなだけだろ」
「……ぷっ」
「それは何に対してだ?」
「いえ、別に」

 なんだろう、この感覚。
嫌いだから意地悪してるわけじゃないだろ。からかって凹むのを見て楽しんでる風さえ感じる。
程度は違うけど、アタシに対する態度と近いような。
……なんだろな。メンテの他にもアタシに対して同じようなことをする人が二人ぐらい居た気がするぞ……?
いやいや、今は考えるのをよそう。
フライパンの中の具材もいい具合に炒まり、香ばしい香りが鼻をついて思考を引き戻してくれる。
ゆらゆらと良い匂いを漂わせてるカレー鍋に一気に放り込む。
これで蓋して少し煮込めば完成だ。
昨日からの具は荷崩れしないのに、今入れたのは煮えるってんだからさ。
これもミッド脅威の科学力ってところか。五分ぐらい煮込めば、じっくりコトコト煮込んだカレーになる。
ちょっと呼びに行かせるの、早かったかな。

「あら、帰ってきましたわよ?」
「もうか? そんなに離れてるわけじゃないけどさ。早かったな」
「走ってません? ねぇ、走ってません?」
「二度言うな。アタシにも走ってるように見えるから安心しろ」

 走ってる。航行隊の連中を先頭に、フーガが出遅れてる。
あっちとこっちじゃ、それほど離れてないんだし走る必要なんて無いだろ。一体どんな誘いかたしたんだ。
しかしあの勢いじゃこっちに突っ込んで鍋ごとふっ飛ばすフラグだ。
そんな古いギャグ漫画みたいな展開はゴメンだ、正直言って。
仕方なく鍋から離れ、遮るように仁王立ちをした。

「ストーップ! そんなに走ったら埃が立つだろうが!」
「「「「は、はいっ!」」」」
「もう少し止まるのが遅かったら、アイゼンの頑固な汚れになってたところだったぞ。これはお玉だけどよ。熱いぞ」
「あら。そうしたら良かったですのに。因みにレードルとも言うらしいですわね」
「そんな事しないけどさ、愛機が汚れるの嫌だし。例えだよ、例え」
「ふ、ふー。コイツ等いきなり走り出すんだからよ」
「なんだ、一体どういう誘い方したんだよ」
「普通だよ、ふつー」
「普通でそんなことなるわけねーだろ」
「たださ、"ヴィータ隊長が食べさせてくれるぞー。お手製のカレーを"って言っただけだ」

 アタシの前で整列している隊員を他所に問い質してみても、別段おかしなことを言っているようには感じない。
なのに、一体なにを勘違いして走ってきたんだ?
カレーが早いもの順でなくなるのが嫌だった? まさか。そんな食い意地の張ったヤツなんてそういないだろ。
そんなアタシの横で、メンテはさも楽しげといった雰囲気でこっちを見ていた。
どうせ聞いたって碌なこと言わないだろうけど、喋りたそうだし一応聞いてみた。

「お前なら分かるのか?」
「ええ。分かると言うかそれぐらいしか考え付きませんけど、とても頭の悪い想像ですので気分を悪くなさりませんよう」
「分かったから早くしろ」
「おほん。それでは……問題は"ヴィータさんが"、ですわ」
「アタシが? どうしたって」
「"ヴィータさんの"でしたら問題ありませんけど、"が"ですから」
「はぁ。全然わかんね」

 大人しく話を聞いてる横でよく訓練された隊員たちは、何かバツの悪そうな顔をしている。
更にその横で、視線を泳がせそわそわと落ち着きの無いフーガ。
頭にクエスチョンマークを浮かべるアタシ。
その三者を見て、楽しそうなメンテ。
粗方楽しみ終わったのか、咳払い一つ。メンテは結論を口にした。

「ヴィータさんが、"あーん"して食べさせてくれるって意味にも聞こえたり聞こえなかったりということですわ」
「―――はぁ?」
「この誘い文句に反応した彼等に対して言うべき事は一つ……このロリコンどもめ!」
「ふ、ふーん」
「ななな、なんだって! お前等そんなのだったのかよ!」
「なんでお前の方がビックリしてるんだよ」
「だ、だってさ! コイツらとは趣味が合うなって話してたんだぜ? それなのに、なんで……」
「いやいや、ショックを受けるのはアタシだろ」
「なんだよ。やっぱちびっ子上司が良いのかよ。憧れなのかよ……」

 訳が分からん。
絵に描いたように落ち込んでいるフーガの横で、整列した隊員たちは額と鼻の頭に大粒の汗を蓄えていた。
具合が悪いのだろう。
それでも逃げ出さないのは鍛えられた不屈の精神の賜物か。……こんな事で発揮しても浮かばれないな、不屈の精神。
ふぅむ。やはりメンテの言う通り図星……ってことになるのか。
なんだ、そんなことぐらい。アタシはとっくに慣れっこだぜ?
……別に慣れたくもないけどさ。
ただ、社会的に不味いだろうなぁ。
これはフェイトも……知るわけないか。知ってたら遣さないだろうし。
うん。告げ口みたいになるから止めておこう。
有能で犯罪犯さなきゃ別に良いだろ……と思う。
そうとでも思わないと気分が悪い。

「んなことどーでも良いよ。ほれ、お前等も突っ立ってないでそこに座れ」
「「「「は、はい!」」」」
「あら、優しいですのね」
「怒るようなことじゃないだろ? あとそこ。何時までも凹んでんじゃねーよ」
「……ふぇ~い」

 ホッと胸を撫で下ろす隊員たちに凹んだままのフーガを席に着かせ、鍋の様子を見に行った。


 


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