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新婚なの! 7-9 (2)

「ヴィータちゃんは、どうだったの?」
「なにがさ」
「一人で寝てたんでしょ? やっぱり寂しかったりした?」
「……ま、まあ。お前と似たようなもんだ」
「えへへー、そっか。ヴィータちゃんも寂しがり屋さんなんだねー。ほらほら、思う存分くっ付いて良いよ~」
「もうくっ付いてるだろうが! これ以上どうやってくっ付けって言うんだよ!」

 確かに夢に見た。
なのはが気になって起床時間がズレた。
指輪に気を取られて危うく左手が胃袋に収まるところだった。
ご飯を食べてる時に思い出すのは、なのはのことだった。
否定したってしょうがない。事実なんだから。
しっかり向き合わなきゃ。否定したり目を背けたり。そんなの意味がない。少なくとも、なのはのために。
やっぱりこういう状態は早くに抜け出さなきゃいけない。
元々任務中に黙ってしたのは、純粋になのはを想ったというよりは、後ろめたさから来たものだった。
任務に出る前も、変に気を遣って悟られないか気にして。
ダメだ。こんなの良くない。

「あ、あのさ。なのは」
「どうしたの?」
「……じ、実は言わなきゃいけないことがあるんだ」
「何か大切なこと?」
「ああ。すっごく大切なことだ」

 後ろめたくて、気を遣って。
普通に二人でいるならそういう気遣いも必要かもしれない。
だけど、今は違う。
アタシとなのはが結婚したんだからさ。もう一歩違った関係になってんじゃないか?
そんな風に付き合ってもらったって、なのはは嬉しくなんか―――少なくとも、アタシはなのはにそんな風にして欲しくない。
どっちにしろ、アタシの我侭に変わりはないけど。
でも。我侭するなら。それが嫌かどうか、判断してもらわなきゃ。
全部正直に話して、あの日のこと。
フェイトが来た日から、なのはの心にわだかまる気持ちを解いてやらなきゃいけない。
それでアタシが嫌われたって……なぁに、そんときゃフェイトがいるさ。
自分が嫌われるから。それでなのはを傷つけて良い理由になんてなりはしない。

「ふぅん……そうだ。その前に頭洗っちゃお? このままじゃ逆上せちゃうから」
「あ、ちょっ、待てって! うわっ、抱っこすんな!」
「抱っこするの久しぶり~」
「久しぶりっつーか抱っこすんな! つーかさっきからずっと抱っこしてるじゃねーか!」
「あれ、そうだっけ?」

 体勢が悪かった。
後ろから抱きかかえられて、まるでザフィーラとか大き目の犬をダラーンとするみたいにしてから、足を持ち上げられる。
言いたかないが、俗に言うお姫様抱っこって言うやつだ。
両手が塞がったまま湯船から上がるのは危ないから、暴れるわけにもいかず、黙ってそのままでいるしかない。
冷たくないお風呂マットの上に下ろされると、内腿で両脇を固められる。
こういう格好して恥ずかしくないのかね、全く。

「シャンプーハットつける?」
「付けてみろよ。家にはそんなもんねーだろ」
「じゃあ今度買ってくるね。シャンプーハットつけたヴィータちゃん。可愛いだろうなぁ」
「変な想像すんなよ! 大体、アタシは子供じゃねーんだぞ!」
「はいはい。分かってますよ、ヴィータちゃん」

 しっかり目瞑ってれば大丈夫だしよ。お湯かけられんのも怖くないし。
コイツ、シャンプーハット好きか。どんなニッチな趣向なんだよ。ホント子供かフェイトぐらいなもんじゃねーか。
ああ、すっかりペースに乗せられちまった。
こんなじゃ何時まで経っても風呂から出られない。

「あのさ。さっきの話の続きだけど」
「大切なこと? あ、お湯かぶすから目、瞑ってね」
「おおー……っふー。あのな……フェイトが来た日の話なんだけどよ」
「……フェイトちゃん、の?」
「ああ。あんときさ。色々嘘だっていったの。覚えてるか?」
「……うん、覚えてるよ」
「た、確かにさ。その、なのはの料理のこと、色々言ったけどさ。元々の原因がさ、言ってなかったなってよ」
「原因?」
「そう。なんで嘘言ったかって。どうしてあの時――本心でもない事を口にしたかってこと」
「……そういえば、どうしてか聞いてなかったね」

 タオルを取って髪を洗い流し、絡まった部分を解していく。
順番が逆だろ、なんて言うところだけど今は黙っておく。
多分、気もそぞろで順番間違えただけだろうし。
打って変わって声のトーンは下がり、作業も機械的な感じを受ける。
今はポンプでシャンプーを手に取り、手の平でお湯と泡立てているところ。
マッサージというより強い指先に、心地よさを通り越している。
でもそれが、今のなのはの正直な気持ちなんだろう。

「そのだ。ええっと、なんつーか」
「……」
「むー……ええい! 良いか? 一回しか言わねーからちゃんと聞けよ!」
「な、なんでそんな上からな物言いなのかな……」
「いいから黙って聞けって!」

 洗いやすいよう下げた頭を上げ、風呂場の空気を湯気ごと胸いっぱいに吸い込めば。
咽るのも我慢して、出来るだけ通る声で、後ろに控えるなのはに届くよう、はっきりと。

「―――フェイトばっか構うなのはにイライラしたからなんだ!」
「…………ん?」
「それにフェイトに嫉妬したってのもあった! 余所余所しくした、憎まれ口も叩いた! 顔も見たくなかった!」
「ヴィ、ヴィータ、ちゃん?」
「でもよ、一番の理由はお前なんだ! フェイトのことばっか。話題も、料理も全部! フェイトばっかいうのが気に入らなかったんだ!」
「え、えー!」
「アタシん家に転がり込んできてよ。それからずっと一緒にいるのはアタシじゃんか!
 朝起こして弁当作って、夕ご飯作って風呂に入れてやって、そんでまた朝起こして! それを毎日毎日!
 そんなのによ。フェイトが来た途端、フェイトの話ばっかしてさ。
 偶にしか作らねーもんだから、アタシだって殆ど口にしねーから言いようがないってのによ!
 それをして"フェイトちゃんは私の味付けが好き"とか言いやがった! 一体どういうつもりだってんだよ!」
「え、あの、でも。好きなのは事実だし……」
「それじゃねーよ! なんでアタシの名前を先に言わないんだ! 回数だけならアタシの方がずっと食べてるんだぞ!」
「え、え? そんな、まさか」
「嘘言ったのは確かに悪かったよ。でもよ、フェイトばっか構うお前が悪いんだかんな!」
「わたし、そんな。だって、ヴィータちゃん」
「お前は気が多すぎるんだ! いっつも必要以上にくっ付いて来るくせに、直ぐにフェイトや他のところにフラフラする!」
「あ、えっと、余り見に覚えがないんだけど……」
「最近大人しくなったかと思いきや、フェイトが来た途端にアレだ! それが面白くないっ!」
「…………」
「フェイトフェイト言いやがって! それをどういう気持ちで聞いてたと思ってんだよ、なのは!」

 言い切った。
心臓が口から飛び出そうに胸の中で跳ね回ってる。頭もクラクラする。まるでのぼせたみたいだ。
何か勢いに乗って余計なことを言った気がしないでもないけど、口から飛び出した言葉はもう返ってこない。
喋っているうちに何だか色々思い出して、段々腹が立ってきて、ホントは謝るつもりだったのに、逆に怒ってしまった。
無茶苦茶だ。
当然なのはも謝られるものだろうと踏んでたはずだ。
それなのに怒られるっていうか、怒鳴られたもんだから呆気に取られて黙りこくってしまった。
頭を洗う手も止まってる。
今、なのははどんな顔してんだろ……

「……ねぇ、ヴィータちゃん」
「な、なんだよ」
「それ。本当?」
「……大体本当だ。大体、な」
「ふぅ~ん」

 不味い。この状況は不味い。
アタシが座ってるのは風呂場だ、間違いない。この見慣れた景色は明らかに風呂場だ。
なのに。その筈なのに身体がどんどん冷えていく。
背中を冷や汗が流れ落ちていくのを感じた。
どうしたら良いだろう。
さっきは勢いで言ってしまったが、やはりここは何か一言フォローをした方が……いいや、下手に触っては事態を悪化させかねない。
ここは黙ってやり過ごすべきなんだろうか。
次になのはが口を開くのが怖い。
何だってこんな事になっちまったんだ……

「ヴィータちゃん」
「ど、どうした」
「…………ごめん、ヴィータちゃん」
「―――ん?」
「私、ヴィータちゃんがそんな風に思ってるなんて知らなかった」
「あ、いや、なんつーか。初めて言ったわけだし、その」
「フェイトちゃんと一緒に居たの、ヴィータちゃんがそんなに気にしてたなんて……二人は仲良しさんだって思ってたから」
「それは……間違っちゃいない、と思いたいな」
「ずっと一緒だって。変わってないって思ってたの。私だけだったんだ」
「……いや、アタシが変わっただけで、なのはもフェイトも悪かねーよ。こと今回に関してはさ」
「ありがと、ヴィータちゃん」

 さっきの雰囲気はなんだったんだ。
口を開けば一番に謝ってきやがる。すっかり拍子抜けだ。
待ち構えてた分、緊張が解けたときの反動も大きくて思わずなのはにもたれ掛かってしまった。
後頭部に感じる瑞々しい弾力が余計に身体の力を抜いていく。
ああ、はやての悪い趣味が感染ったのかなぁ……

「はぁ。私、ヴィータちゃんのこと全然知らなかったんだね」
「そういうもんだろ、普通」
「だって。これだけ一緒にいるのに。ダメだね、私」
「いや、そうならアタシとしては成功だ」
「成功? どういう、意味?」
「そのだな。普段はあーだこーだ言いながら文句言ってんのにさ。ホントはそう思ってたなんてバレてたら、ってこと」
「う、ん?」
「くっ付くなとか言ってんのに、お前が他のヤツとくっ付くのが面白くないなんて思ってるの。バレたら形無しじゃんか」
「……」
「だからお前は知らなくて正解なの。当たり前なんだから落ち込む必要なんて、ない」
「……」

 なんだ。今度は黙りこくっちまって。
雰囲気が読み取れない。別の意味で怖いぞ、なのは。
喋れよ。黙ってないで。

「なぁ、どうしたよ。なの――ぐげぇ」
「んっふふー。ヴィ・ータ・ちゃ~ん?」
「く、くぎが、お、をい」
「知らなかったなぁ、私。ヴィータちゃんがそんなに嫉妬深かったな・ん・てっ」
「だ、だのじ、げぇ――『お、おい! 首を元に戻せ!』」
「そっかそっか。普段はそっけなく振舞ってても、そのひらぺったい胸の内には嫉妬の炎が渦巻いてたんだね」
『随分な解釈だな。そんなんじゃねーぞ。あと、ひらぺったいとか言うな』
「あ~、心配して損しちゃった。ホントに嫌われたかと思ってたんだよ~?」
『全っ然、そんな風に聞こえねーけどな! んだよ、その余裕たっぷりの顔は!』

 いきなり凸に手を当て、無理やり顎を上を向かされる。顎と首が一直線になっちまった。
アタシだから良かったものの、こんなの普通の人間じゃ病院送りだぞ。
そんな無理やり向かされたアタシが見たのは、底意地悪そうな笑顔で口の端を思い切り持ち上げたなのはだった。
ダメだ。これは不味い。さっきとは別の意味で。
何かすげー悪いことを企んでる時の顔だ。こういう顔、はやてが何度かしてるの見たことある。
やっぱこの二人は同類なんだ、類友なんだ。
同情するぜ、フェイト。

「ううん。そんなことないよ? ただ、ヴィータちゃんが私をそんなに好きなんだって分かって嬉しいな~って」
『うぐ、うぐぐ!』
「今まで少し物足りないなぁとか不満に思わなかった訳じゃないけどね。ふふ~ん、なるほどな~」
『……あんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ』
「じゃあ言うね? ちゃんと聞いてよ?」
『いっつも聞いてやってるだろ。ほれ、首もそろそろ限界だ。早く言え』
「ヴィータちゃん…………大好きだよ。私も、ヴィータちゃんのこと。大好きだから」
『…………』

 ころころ表情を変えるもんだから、頭が全然ついてかない。
だけど、そのどれもが本音で、嘘じゃなくて。アタシみたいに取り繕うとか誤魔化すとか、そういうのがない。
だから。最後の言葉。
目の端に涙を少しためて、下唇を噛んで。ホッと緩めたその表情に。
口に出して言わなくたって。アタシは全部分かってる。分かってるんだ、なのは。

「不公平だよ。きっとヴィータちゃんは私のこと、分かってるんでしょ?」
『まあな。桃子さんや……フェイトには敵わねーけどさ』
「なのに、私はヴィータちゃんのこと全然知らなかったし、分かんなかったんだもん」
『それは言ったろ? 分からないようにしてたんだから仕方ないって』
「違うもん。そうやって"分からない様にしてたことに気づかなかった"事が悔しいんだもん」
『……なるほどな』
「気を遣ってくれてたの、悔しい。嬉しいけど、悔しい。そうやってヴィータちゃんにさせてた自分が」
『勝手にしたことだ、気に病むなって』
「でも!」
『そう思うなら、さ。次から気をつければいいじゃん。明日もさ、明後日もずっと。……一緒にいるんだからよ』
「だって。前に愛想尽かせるなよって」
『割と我慢強いのがアタシの自慢なんだ。それに気を遣ったのはアタシの失敗で……なのはは悪くない』
「ヴィータ、ちゃん……」
『だからさ。……いい加減、首。元に……戻して、ぐれ』
「ヴィ、ヴィータちゃん!?」

 ここらでしっかり言わなきゃいけないと思って頑張ったけど、もう限界だ。
なのはが名前を呼んでくれたところを最後に、アタシに意識は途切れた。


 


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コメント

ほのぼのだったりシリアスだったりで展開がどきどきですね^^;

投稿: 時祭 | 2008年1月26日 (土) 13時33分

こんばんは。

 どきどきの展開!
チグハグな印象になっていないか心配だったのですが、そのように言っていただけて嬉しいです。

投稿: あや | 2008年1月29日 (火) 00時21分

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