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新婚なの! 7-7 (2)

「昨日のじゃ足りないってのか?」
「死体すら見つかってねーんだ。仕方ないだろ」
「一匹だけ、というわけにはいきませんの?」
「後でごねられても困るしな。きっちりやっといた方が良い」
「……うーん。それもそうか」
「ここまでして手当てが減るのも嫌ですし」
「そう思って我慢してくれ」

 朝ご飯を済ませ、いつも通りに転送してもらう。
目的地は足跡の途切れた場所。範囲ギリギリだから送ってもらった後にちょっと歩かなきゃいけない。
そんでも以前のことを思えばこの辺りは危険も少なそうだし、暑苦しさと圧迫感も少ない。自然と気持ちと足取りも軽くなる。
幾分か作業に集中できる。だからと言って警戒を怠るわけにはいかない。
昨日のでこっちを警戒して、他のヤツも近づいてこないと助かるんだけど。
そんな上手くはいかねーか?

「さっきから何が鳴いてるんだろーな。鳥かな」
「鳥っぽいけど……気になるか?」
「まーな。一昨日まではさ、なんの種類か分かんなかったしよ。ちょいと興味湧いたっていうかさ」
「遮蔽物も比べて少ないし、反響しないのかもな」
「あっちはやたら様々な動物が騒いで、さながら街の喧騒となってましたものね」
「ふーん。なるほどなー」

 初めはやたら滑稽だった光景も、一週間もすれば然程気にしなくなるってんだから慣れってのは恐ろしい。
特に今いる場所は木の大きさも足元に生える草の高さも、"ジャングル"という言葉でイメージできる範疇に収まっている。
ギャワギャワと不細工そうな鳥の鳴き声や、猿っぽい何かの遠吠え。
しかし、これはなんつーか……日差しが強い気がする。

「足跡見つかんねーなー」
「運動場の土みたいに固いのですわ」
「腰には気をつけろよー」

 昨日最後に立っていた場所に戻り、三人で銀棒をフリフリ、昨日の道を辿りながら反応を探る。
中腰というか膝を着いて棒を振っている姿ってのは間抜けすぎる。
こんなの他の奴等には見せられない。
若しこの場を他所のヤツに見られでもすれば、残念だがジャングルの肥やしになってもらうしかない。

「うふふふ」
「う、うわっ!? あ、あんだよ。驚かせんな……」
「ほらほら、お構いなく。お続けくださいな。私は黙ってこのままヴィータさんの可愛らしいお尻を録画してますから」
「…………」
「マントで見えないくせに? おほほ。私ぐらいになりますとそれぐらいは何の障害にもなりませんの。ご心配ならずとも」
「……心配してねーし」
「あら。それは」
「それにだな。続けるったって、そんな後ろから見られてたら気になってしょうがないじゃん」
「そんな事ぐらいで気が散るようではまだまだだね、ですわ」
「……なんでお前にそんなこと言われなきゃいけねーんだよ。ほれ、あっちいけ」
「うぅん。ツレないんですのね」
「気持ち悪い声出すなよ……はぁ、疲れる」

 ジッと集中してると誰も居ないはずのそこから、薄気味悪い笑い声がする。
確かに気配をいくらか感じにくい場所ではあるし集中してたとは言え、全く感じないなんて。
アタシと同じように膝を着いているメンテ。手にはちゃんと持ってるけどさ。仕事してる雰囲気は無い。
付き合いきれない。
草を踏みしめマントと擦れる、シャカシャカと軽い音とともに引っ込んでいく。
アイツ、今までも仕事してたのか疑問だな……

「おい、そっちはどうだ」
「駄目だ。やっぱり離れるにつれて薄くなってくって」
「そっか。そっちは……離れたばっかりか」
「いいえ。ちゃんと調べてからそちらに伺いましたもの」
「そんで?」
「結論を申しますと、そちらの方と同じですわ」
「駄目だな。こりゃ」

 やっぱり離れるにつれて反応が薄くなる。と言うことは、そこから何処かへ移動してはいないってことだ。
自分達みたいなのが転送で、ひょいっと別の場所へ一っ飛びというのは別として。
それならそれで別の反応が残るわけだし。
となるとあの場で誰か、昨日みたいなヤツに食べられちまった……というのが妥当な線か。
それにしちゃ血痕すら見つからないってのが不自然だけど。

「――そっから先は流石にアタシ等の仕事じゃないな」
「ん? 何かいったか、ヴィータ」
「なんも。よし、んじゃ今日はもう帰るとするか」
「もう? まだ昼飯も食ってねーじゃんか。そんなんで良いのかよ」
「せっかくやる気出してるところ悪いな。けどよ」
「あなたもこれ以上探したって無駄だと思いますでしょ? 正直に白状なさいな」
「そ、そりゃ思うけどさ。俺から言い出すのもなんつーかその……」
「空気読みなさいな。そういうキャラじゃございませんことですのよ?」
「悪いな。アタシはお前が一番始めに言い出すと思ってた」
「……ちぇ。なんだいなんだい、ヴィータまで! 良いよ、それならそれで良いですよーだ! へーん!」
「可愛くない」
「ええ、全く」

 この辺りは地下からの魔力の影響も小さい。
地盤もそこそこで違ったりしてるんだろう。そういう地質図、と言っていいのか知らないけど、あれば助かるな。
それに合わせるかのように植物を始め、動物も小さいことを考えるとだ。
ここの生き物って、魔力を糧に大きくなるようになってたりするのか?
体内に溜め込んで使うヤツだって居るぐらいだ。そうやって栄養にしてるヤツがいたって不思議じゃない。
それなら獲物がそれほど獲れなくてもだ。身体はどんどん大きくなるのかもしれない。
例えば、あの角野郎とか。
そして植物。
大きいものだと街の高層ビルほどに感じられる程に育っている。
それらがお日様を遮っていた上であの暑さ。
それら木々が普通だモンだから、この辺りは日差しがキツイ。
辺りに満ちる魔力による圧迫感が少なくなっても、その焼けるような日差しのお陰で差し引き無くなってる。
寧ろジカッとしたこの暑さは嫌だな。アタシは。

「よし。全員いるな」
「点呼取るまでもありませんわね。三人しかおらんですから」
「大体一人は遅れるやつがいるんだよな、こういうのって」
「「お前だろ(なのでしょ?)?」」
「……ヴィータのことは信じてたのによ~」
「いや、実際そんな遅刻したのみたことないけど、まあ」
「よく聞く知人の話というのは、大概が自分の話だったりしちゃうものですし」
「違う! 言いがかりだ! 俺は無罪だ!」
「あーあー、分かってるよ。だからこれからも遅刻すんなよ」
「へ、へ~い……」
「よし。転送範囲まで戻るぞ」

 すっかり肩を落としたフーガを他所にご機嫌そうに見えるメンテ。
腰より下の辺りまでに伸びた草も、スカートの中に入ってくると邪魔だけど、柔らかいしかぶれないから少しはマシ。
風も少しあって時折空気が動いては、マントをそよそよと撫ぜていく。
それで涼しくなるかといえば、空気自体が熱いわけで、気休め程度にもならない。
寧ろ熱い空気が露出した頬に当たり、焚き火の近くに居るようで堪らない。
ただ、鬱蒼とした雰囲気も薄れ、動物達の鳴き声が騒がしくないだけ、視覚や聴覚の与える暑さは少ない。
……とまあ、そんな風にでも思わなきゃやってられない。
でもさ。向こう側も一旦連絡取ってくれるって言ったし、上手く行きゃ帰れるかも―――

「うん? どうしたヴィータ」
「……あのさ。その辺の草。テキトウに踏んでみてくれよ」
「草を? あ、ああ。……こうで良いのか?」
「ふんふん。もうちょい、足踏みだ」
「なんだよヴィータ~。俺なんか悪いことしたかー?」
「この人。普段もこうして怒られてばかりなのしょうね。身体に染み付いてますですわ」
「素直だってだけだと思うぞ? ……よし、もう良い」

 また来た道を戻っていく途中。
ふと気になることがあって足を止めた。多分、最後の位置が気になったんだと思う。
最後に居ただろうと思われる場所から少し、草の凹んだ場所があった気がした。
その辺りでご馳走してたヤツの踏みしめた後かもしれないし、ちょっと再現してもらった。

「なあ、何させたんだよ」
「ああ。この辺りの草は柔らかくて、ちょっと踏んだくらいじゃ曲がらないんじゃないかって」
「そうですわね。かなり踏みつけませんと」
「つーことは……あの辺に座ってたってことにならないか?」
「なるほど」
「ここでご馳走なさってたんでないのでわ?」
「そう、だな?」

 凹んだ場所。そこに誰かが長居したかもしれない。
狩りをして持ち運び、あの辺りでゆっくりと頂いた。それをアタシ達が見落としてた、と。
それ自体を示す物証はない。それならもっと血が付いてるとか、分かんないけど何かあるだろ。
ただ、そういう状況も想像し得る。
状況証拠になり得るか心もとないレベルだけど……まあ納得してもらえれば有難い。
駄目だと言われりゃもう一回探すけどさ。

「お、連絡来たぞ」
<<ヴィータ隊長。準備が整いました。これから転送に入ります>>
「うん、頼んだ」

 最後の最後まで気が抜けない。
転送してもらう時、送ってもらうのと戻してもらう瞬間はどちらも同じぐらい危険だ。
こういう無防備な瞬間を狙って相手が攻撃してくるってのは、フィクションの世界でもセオリーだ。
三人で背中合わせになり、それぞれの方向に気を配る。
幸いここいらは草やらの背丈も低くて、それなりの動物が身を隠しづらくなっている。
だからと言って襲ってこないわけでもないからさ。

「ちょい遅めの昼ご飯だな」
「駄目だったらもう一回戻るかもしんないけど」
「ぬか喜びにならないと良いですわね」
「何で喜んでるのが俺だけってことになってんだよ」
「どっちにしろ昼ご飯食べてからだ。どっちにしろ今日はゆっくり出来るぞ」

 足元に現れた魔法陣の放つ眩い光。
段々と強まっていき、視界を埋め尽くしていった。


 


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