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新婚なの! 7-10 (1)

 目を覚ますと一番に飛び込んできたのは、相変わらずの緑色した天井。
またジャングルでの糞暑い一日が始まるのかと、起き抜けのぼんやり頭で考えた。
あの一週間のことを考えると寝袋から出る気なんて全く起きない。
それでも何とか起きようと、のっそり寝袋の中で動き始めるけど、気だるさの抜けない身体は言うことを聞かず、頭すら上がらない。
困った。
装備の点検に打ち合わせ、朝食も作らなきゃいけないってのに、このままじゃメンテやフーガに迷惑かけちまう。
もう一度気合を入れて頭ぐらいは起こそうとするけど、結果変わらず。
力の入らない首は頭を支えることなく、そのまま枕の上へ。
すると、やけに枕が気持ち良いことに気がついた。
任務に持ち込んだ枕なんてこんなに気持ち良いものだったか? もうちょい硬かったと思ったけど……
じゃあ自分で持ち込んだモンか? 
確かめるように頭を動かしてみるけど、後頭部に伝わるその感触は普段使ってるモノとも違う。
なんだろ? 柔らかい……違う。ふかふか……違う。
知ってる感触なんだけど……覚えがあるような無いような。合ってるようで違うような。
ダメだ。こんなこと考えてる暇があったら起きなきゃいけねー。
だけど、気持ちいいなぁ。
起きたくねーなぁ……
 
 
 
 
 
「……ちゃん」
「う、うーん……」
「ヴィータちゃん。大丈夫? ヴィータちゃ~ん」
「あ、あぐ……な、なのは、か?」
「そうだよ。私だよ」
「なんで……なんでここになのはが居るんだ?」
「なんでって。だって、ここはヴィータちゃんの家で、私も住んでるから、えっと」
「家? アタシの……うん?」
「寝ぼけてるの? もう任務から帰ってきてるんだよ?」
「帰ってきて、る?」

 寝ぼけ眼に映る栗色の髪に蒼い瞳。
視線を泳がしてみれば、見慣れたテーブルに見慣れた白い天井。
もう少し広く見渡して見ようにも、首が痛くてそれ以上動かない。
仕方なく視線を戻せば、アタシを覗き込む蒼い瞳にドキリとさせられる。
―――なんだ、なのはじゃないか。

「どうしたの? 何だかうなされてたみたいだけど」
「なんだったかな。夢……見てた気がするけど覚えてねーや」
「そういうものだよね、夢って」

 僅かに火照りの残る手で凸にかかった髪をかき上げてくれる。
ご機嫌にアタシを見下ろすなのはに、逃げようとするけど身体は思うように動かない。
その時の足の状態。さっきみたテーブルや、なのはの後ろに見える天井から、やっとのことで今の体勢を把握することが出来た。
なのはがソファーに座って、膝枕してもらってんだ。
つーことはアレだ。
いつの間にか風呂から上がってんだな、アタシ。

「もう大丈夫? 一応治療魔法は使ってみたんだけど」
「いや、まだ痛ぇ。首とか横向かねぇもん」
「困ったなぁ。病院行ったほうが良いかな?」
「湿布して一晩寝りゃ治るだろ。それでも治らなきゃ……イテテ。シャマルんとこでも行くよ。明日休みだしさ」
「ああ、まだ起きちゃダメだよ。ほら、フラフラするでしょ?」
「むむっ。頭もそうだけど身体が重いや」
「だったらこっちおいで~。えへへ」
「っな! だか……まあ良いや」
「あれ、どうしたの? いつもなら"やめろー抱きつくなー"とか言うのに」
「……むー」
「なんで? なんでかな? 教えて欲しいなぁ~」
「べ、別に良いじゃねーか。アタシがいつなにをしようと……さ」
「だーめ。そうやって内緒にするの禁止!」

 痛いままの首を抱えて身体を起こそうとするけれど、なのはの言う通り、頭が左右にグラグラ揺れるような感覚に視線も定まらない。
身体が重いと誤魔化しはしたけれど通用するわけもなく、風呂場よろしく抱き寄せられてしまった。
違うのは、後ろからじゃなくて正面向いてってこと。
洗うはずだったシャツ一枚を羽織っただけ、風呂程でないにしろダイレクトに感触が伝わってくる。
いつの間にか育った豊かな膨らみに、顔を埋めると入浴剤の匂いに混じって香水の匂いも感じる。
風呂に入って体温が高いせいか、いつもよりはっきりと。アタシが倒れたせいで身体も洗わず出てきちまったみたいだ。
わき腹に添えられた手の温もりに、久しぶりななのはの匂い。そして耳でなく、頭に直接響く鼓動。
こういうの良くないんだよな。
だってよ。いつもこうされてさ、クラクラして思考が纏まらなくなって何も出来なくなって、なのはの言う通りになっちまう。
そういうの、知られたくない。
もう口に出しちまった手前、なのはでも予想はついてるんだろうけどさ。
こんな風に、なのはに対して参ってるってバレたらさ……形無しだし、その……負けた気がする。
一回負けたら二度と勝てない気がするし、なんだかプライドっていうか、そういうの。

「プ、プライバシーとかあんの。最低限のことは内緒だ」
「えー。だったら喋る気になるまで離して上げない! ずーっとこのままだからね!」
「そ、そんなこと言ったってよ。アタシだって言いたかないことぐらいある」
「む~……―――あっ」
「ん?」
「良いよ、別に。喋ってくれなくて。その方が都合いいかも」
「なに言ってんだ、急に」
「喋ってくれるまで離さないから、ヴィータちゃんが話してくれるまでずっと抱きついてられるってことだもん」
「げっ! な、なにを言ってやがる! 勝手に決めんな! お前ルールなんて知らねーぞ!」
「そう決めたから。どうする? 話す気になった?」
「ギギギ……」

 なんてこった。
言わなきゃ抱きしめられたまま。それが嫌ならバラさなきゃいけない。
どうする、どうするよ……

「さあ、どうするのかなー?」
「…………」
「私はどっちでも良いよ。えへへー」
「分かった。悩んでても仕方ないしな」
「中々迅速な判断ですね、ヴィータ隊長殿。で、どうなさるおつもりなの?」
「……言わない」
「だ~―――へっ?」
「言わない。言わないったら言わない。だからお前は……なのはは好きにしたら良い」
「……ふ~ん。だったら好きにしちゃうねー♪」

 頭のクラクラは収まらない。
何故か手足も鉛みたいに重くって気だるくて動かす気にすらならない。
それだったら動かなくて良い。
なのはも満足するだろうし、アタシも負けたついでだ。
今日はこのまま抱きつかせてやることにする。
なのはがそうしたいって言うんだ。
別にアタシはなのはなんて別に、どうでも良いって言うか、そんな、抱きついたりしたくないし。
だからこれは、なのはがしたいからそうしてるだけで、アタシがしたいわけじゃないんだ。
そういうことにする。
そう思うことにした!

「嬉しいけど抵抗がないのもちょっぴり寂しいかなぁ~」
「んだよ。だったら暴れてやろうか?」
「出来るならどうぞ。その代わりもっとくっついちゃうもんね~」
「んぎゅ。やってもねーのに力入れんじゃねーよ!」
「そうそう。やっぱり抱きしめ概があるなー、ヴィータちゃんは」
「……ふん。うっせーよ、なのは」

 胸に顔を埋めてるから、勿論なのはの顔は見えない。
逆になのはからもアタシの顔は見えない……はずだ。
だから、顔が熱くて汗ばんでるのも、耳が冬の日に耳当てしないで散歩に出たみたいにチカチカしてるのも分からないはず。
心臓が、それこそ口から飛び出そうなほどドキドキしてきたのも分からないはず……だと思いたい。

「アンテナ。へにょへにょだね」

 口調から想像するしかないが、思うに腹の立つだろうことは容易に分かる。
なのはは同じようにアタシの顔を想像しているんだろうか。
絶対にお前の思ってるような顔してんじゃねーぞ、って言葉を飲み込んで。
さっきより少しだけ、ホントに少しだけ強く。背中に手を回してみた。
数日前のような後ろめたさから、なのはを抱きつかせた訳じゃない。
だから、と自分に対して言い訳を繰り返して。


 


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