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新婚なの! 7-9 (1)

「ヴィータちゃんとのお風呂、久しぶりだね」
「ひ、久しぶりっつーか。……まあ、そんなもんか」
「ほらほら、もっとこっち来てよ~」
「いいって! そんな引っ付かなくてもよ!」
「そんなこと言ったって湯船に二人で浸かるためには仕方ないんだもん」
「だったら交代で入ればいいだろ。無理やり入ってきたのはお前なんだかんな。出て行くのはお前なんだぞ」
「良いの良いの~」
「何が良いの~、だ。ったく。仕方ないヤツだな」
「えへへ~」

 しばらくアタシ分を補給したなのはは、お風呂の準備が出来ていると言ってきた。
お湯を入れている音がちょっとでも聞こえていれば、こいつが帰ってきてるのに気付けたのにさ。
防音が万全なのも考え物だ。
なのはだから良いようなモノの、これが他人だったらと思うと……普段はその恩恵に与っている身ながら勝手なものだと思うけど。
制服を脱ぎ、脱衣所に向かうと同じようにして制服を脱ぎながら後ろにぴったりくっ付いてくるなのは。
制服だったモンだから着替えるのかと黙っていれば、頭越しに下着を籠へ放り込む。
一糸纏わぬその姿。完全に風呂に入る体勢だった。
もう一度服を着ろと言っても聞かず、一緒に風呂に入るのだと駄々をこねる。
ここで押し問答をしてもしょうがない。
我侭、と言っては可哀想だけどこうなると梃子でも動かない。なのはを諦めさせることは無理だ。
最後の抵抗としてため息を吐いてはみたけれど全く効果はなく、今に至っている。

「もっともたれてくれれば良いのに」
「重くないのか?」
「ヴィータちゃんぐらいなら全然。それにお湯でちょっと浮くし」
「ふ、ふーん。そんなに浮くもんかね」
「で、どうかな? 気持ち良い?」
「?! べ、別に!」
「んもー。ほらほら、どう?」
「押し付けるなって! 抱きしめるな!」
「えへへー。照れない照れない。夫婦のスキンシップだよ~。はーい、もっと~」

 狭い湯船で(二人はいれば当然だ)足を伸ばすために、なのはに抱っこされている。
足を伸ばすのなら、二人の身長差もあって向き合う形でも無理ではなかろうけど、そんなの恥ずかしくて御免だ。
仕方なく抱っこされてやってると言うのに、アタシが観念したとでも思っているのか胸を押し付けてくる。
酷いヤツだ。アタシの身体に凹凸が少ないのを分かった上で誇示するかのようにしやがる。
世の中にはそういうのがステータスだと思っているヤツがいるらしいが、本人にとっちゃ余り歓迎すべきことではない。
……まあ、この形で凹凸激しかったらそれはそれで嫌だけど。
ああ、もう。覗き込んでくるのも邪魔臭い。余計にくっ付くだろうが。

「あのさ。はやてはそういうの好きかもしんないけど、アタシは別にどうだって良いんだからさ」
「はいはーい」
「ホントに分かってんのかよ……」

 ぽよぽよとお湯に浮く胸を肩から首の付け根辺りにかけて感じながら、満更でもない気分で手足を伸ばす。
せっかく一人でゆったり風呂に入れるはずだったのに、なんてのはグッと腹の底に飲み込んで。
テンションの高めななのはが鼻歌交じりなのを邪魔するのも気が引けたから。
やっぱこういうの、早めに何とかしなくちゃいけないって思うんだけどさ……

「~~♪ ―――あっ」
「どうしたよ」
「今回は何処に行ってたの? そういえば聞いてなかったと思って」
「あ、ああ。そういやそうだな。ええっと……138観測指定世界だったかな」
「知らないなぁ。ねぇ、どんなとこ?」
「無人世界だかんな。基本なんにもねーよ。ジャングルが殆どで、行ったわけじゃねーけど砂漠がちょっとあるらしい」
「ふーん。暑かったの?」
「かなりな。日本の夏みたいに蒸し暑くって大変だったぞ」
「蒸し暑かったの。日差しが強くてジカッと暑かったんじゃないの?」
「うん? そうだな……最後の二日はそうだったかな。んで、どうしてそんなこと聞くのさ」
「随分日焼けしてるなーって。ジャケット羽織ってなかったの?」
「羽織ってたけどさ。なんでかな、う~ん」

 なのはには詳しく説明しない。ただちょっと出張だって。
今ぐらいなら喋っても問題ないだろうと思う。もし調べたところで誰もが手にする情報と同じものしか手に入らないだろうし。
"無限書庫の偉いさん"が協力したところで、航行隊の任務までは分かりゃしない。
しっかし、いきなり何を聞いてくるのかと思ったら日焼けだって。
暑いかったの?って、それがジャングルだからと言ったからそう聞いたわけじゃなさそうなのは、雰囲気で分かったけれど。
しかしさ。どの辺が日焼けしてんだろうな。
騎士甲冑にマント羽織って、頭にはフードついてたし……うーん。

「んっふふ~。どこが日焼けしてるか分かんないみたいだね、ヴィータちゃん」
「あ、ああ。でさ、何でそんな楽しそうなんだよ。日焼けぐらいで……」
「それはね~……じゃ~ん、これみてー!」

 話の見えないアタシの、だらんと膝に乗せていた腕を取り湯船から持ち上げるなのは。
左腕が高らかに持ち上げられるけど、一体どういうこった。
右手じゃなくて、左手って……
日焼けするなら右手じゃねーか? アイゼン振るうために右手だけはマントから出してたしさ。
さっぱり話が見えてこないぞ、なのは。

「まだ分かんないみたいだね、ヴィータちゃん」
「左腕だろ? なんで右腕じゃなくて左なのさ。どっちかっつーと、右手じゃ……」
「右腕もしてるかもしれないけど。問題は腕じゃなくてー……左手なの」
「左手?」

 なのはは楽しくて仕方ないらしく、会話の端々で込み上げる笑い――声を上げるのでなく、ニヤケ笑いの類――を堪えるのが辛そうなぐらいだ。
アタシが日焼けしたのがそんなに楽しいのか。
しかも、掴まれた左腕を見たところで、なのはの言わんとすることを汲み取ることは出来なかった。
流石はやてのくれた騎士甲冑に航行隊の装備ってところか。ジャングルの強い日差しぐらいなんてことないぜ。

「ブー。残念でした。時間切れなの」
「何時からカウント取ってたんだよ。制限時間とか聞いてねーぞ。……もう良い、さっさと正解言えよ」
「聞きたい? 正解気になるかなー」
「……」
「あっ、言います、それじゃ言うね? は~い、ここー。ほら、分かる?」
「どれどれ…………あ、あーーーーっ!?」

 顔を見てなくても分かる。
頭の上では破顔一笑のなのはが待ち切れないとばかりに、左手を持って近づけてきた。
お腹を抱いていた右手で指差すそこは―――左手の薬指だった。
確かに、確かに其処には日焼けの跡があった。
毎日見てたものだから自分が焼けてることに気がつかない。
"そこだけ日焼けしてない一本の線"があった。
これでもはやてに褒められるぐらい肌が白いんだ。元々が白いものだから、少しばかり日焼けしたぐらいじゃ変化に気付かなかったんだ。
その衝撃に驚き、浴室に響き渡る自分の声。
エコーなんてものじゃない。ここが風呂だっていうのを恨んだぐらいだ。

「ねぇ、どうして? どうしてここだけ白くなってるの?」
「あ、ああ……その、えっと、それは……」
「教えて欲しいな。どうしてここだけ日焼けしてないのか。ね?」
「あ、あぅ……」

 白く、焼けていないところを人差し指でなぞりながら。ゆっくりと、耳元で囁くように。
でも、その裏には嬉しくて飛び上がりたいのを押さえて、それでも抑えきれない感情の一部が漏れ出しているかのが伝わってくる。
普段ならとっくに抱きしめたり大はしゃぎしてるところだろうと思う。
抑えて。ギリギリまで自分を抑えている。
飽くまでもアタシの口から聞きたいんだろう。そうでなきゃ意味がない。
そんななのはに、アタシはドギマギとするばかり。
まさか、ほんの僅かな日焼け跡からバレるなんて夢にも思ってなかったから。
もっと後。ちゃんと慣れてから言うはずだった。
それなのに、このタイミングで。
そりゃいつまでもこの状態じゃなくて、"慣れるまで"って条件付だった。
勿論、なのはだってそれは直ぐじゃないことぐらいは承知してたはず。
なのに、こんな直ぐ。出張中にアタシが慣れるためにさ、こっそりしてたなんてよ。
内緒にするために、わざわざこっそり外したっていうのにさ。

「教えて……くれないの?」
「あ、えっと……その。いやな、誤魔化したってしょうがないのは分かってるんだけどさ」
「うん。うん」
「その……お前の想像通りだ。間違ってない」
「何がどう間違ってないのか。ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないよ」
「むぐぐ! ……あのさ」
「うん」
「お前にさ。―――なのはに悲しい顔ってさ。させたくないんだ」
「うん」
「だからって、えっと。こういうの、このタイミングでやっちゃダメだって。そういうのは分かってる」
「そう、だね」
「隊長としての責任あるからさ。支障がでるようなこと、ダメだって。個人的な理由で周囲を巻き込むような真似は厳禁だって。でも」
「でも?」
「一人が協力してくれるって言うからさ」
「……ふぅん」
「その……どのくらい向こうにいなきゃいけないか分からなかったし。その、なるだけ早く―――元に戻したかった」
「元に戻すって?」
「指にさ。ちゃんと、あるべき場所に。この、薬指にさ。なのはと結婚したって証拠」
「うん」
「だってさ。いつも婚姻届のコピーを持ち歩くわけにもいかないだろ?」
「そうだね。私はそうしたいぐらいだし、そうしても構わないよ?」
「ばーか。まあ、お前が結婚したっての。未だに信用しないヤツも居るし気持ちが分からんでもねーけど」
「そういう意味じゃないんだけどな。それにしてもあれ、どうしてかな。私が結婚したってそんなに不思議なこと?」
「そりゃお前が気づかないだけだよ。どうして信用されないか……理由は自分で考えろ」
「酷いなぁ、ヴィータちゃん。教えてくれたっていいのに。ぐすっ」
「鼻水垂らすなよ。ああ、話が逸れた。だからさ、アタシがなのはの、その……嫁だっての。その証拠じゃんか」
「あ、お嫁さんだって認めてくれたんだ。えへへー」
「う、うっせ! でさ、ちゃんとそういうの。対等だって言うことはアタシだって表明したい。してたいんだ」
「そんなこと、言ってたよね」
「だから出来るだけ早くにしたかったし。でもさ、今はそれよりも大きな理由があんの」
「一番?」

 左腕は掴まれたまま、行き場のない右手。ジッとしていると落ち着かない。
タオルで纏めた髪が解れ、サイドに垂れ下がった先を弄っては、居心地に悪さを減らそうとする。
初めは仕方ないって思ってたけど、今はこの体勢で助かってる。
こんなの真正面からじゃ言えない。自分の顔を見つめられながら、なのはの顔を見つめながらなんて絶対に無理だ。
なのはが気を変えて振り向かせない限り、顔を見ずに、見られずに話すことが出来る。
耳をくすぐるなのはの吐息に、背中に伝わる鼓動が余計に早くなる。
でもこれはなのはだけじゃない。
きっとアタシも同じだ。
それでも変化を悟られないよう、何とか平静を保ちながら話を続けた。

「一番大きな理由で、一番初めに言ったこと」
「えっと。なんだっけ?」
「……お、お前に寂しい顔させたくないっての!」
「……」
「あの日さ。アタシが指輪を外すって言った日のお前の顔。忘れられない」
「そんなに変な顔してた?」
「茶化すな。だから、自分のためじゃない。前はどっちかと言うと自分のためっての大きかった。でも、今は違うんだ」
「ホント?」
「ああ、ホントだ。指輪を初めてはめてくれた日のこと。あの時のお前の緊張した顔を思い出すと今でも笑える」
「ひっどーい」
「へん。この緊張とかと縁遠いヤツがしたってこと。それだけの事、無下にしたくない」
「これでも割と緊張するタイプなんだよ?」
「どれだけ心待ちにしてたか。抱きしめる腕に、どれだけ嬉しかったか伝わってきた。それを……全部無駄に、なかった事に出来ない」
「……」
「だから成るべくに早く。もう一度、指にはめて……」
「はめて?」
「……お、お前の! なのはの喜ぶ顔が見たかったんだよ!」
「~~~!」

 掴む手に、今以上に力が篭る。
右手で思い切り抱きしめられた。背中で形の良い胸が歪んでいるのが分かる。
それでも構わずなのははアタシを抱き寄せ、掴んだ左手に力を込める。
嫌じゃない。いつもと、さっきとも違うこの腕を、嫌がったりなんかしない。

「まさか、こんな風に日焼けしてるなんて全然気づかなかった。マント羽織ってるから大丈夫だって思ったのに……油断した」
「私もどうしたのかなって。ホントいうと自信なかったの」
「ちぇ。それじゃ無視決め込みゃ良かったよ。はぁ……もっとちゃんとしてから。しっかり出来るようになってから言うつもりだったのによ」
「じゃあ、まだ無理なの?」
「一回迷惑かけちまったし……それからは両手でアイゼン握ることなんてなかったし」
「そっか。残念」

 後頭部に寄せられる顔。タオル越しに熱い吐息が髪を撫でる。
頭が蒸れてウズウズするけど、今の胸に留まる気持ちに比べたら感じないも同然。
背中に当たる胸の感触、距離は、変わらなかった。

「それにこのタイミングでバレるなんて最悪だ……」
「どうして? ちゃんと出来なかったから?」
「それもある。あるけど」
「けど、なぁに?」
「……ま、まさかこんな任務中にまでそんなことで頭悩ませてるなんてさ。バレたくねーじゃん……」
「……! そ、そうだよね!」
「はぁ? そうだよって、どういうことだよ」
「そっか。任務中まで私のこと考えててくれたんだ! ねぇ、寂しかった? 夢に見たりした?」
「ば、ばか! そんなことあるわけねーだろ! 自惚れんな!」
「だってだって。私はヴィータちゃんのこと考えてたら寂しかったし、寝る瞬間まで考えてたせいかな。夢に見たよ?」
「あ、ああ……あっそ」
「朝起きた時にね? 抱きしめてるのがヴィータちゃんじゃなくて枕なの。一人で使うベッドは広くて、すっごく寂しいの」
「……そうか」
「えへへー。そういうことー」

 そういうのが精一杯。
図星だったし、なのはが一人のときにどんな気持ちだったのか。その一端を聞かされれば何も言葉が出てこない。
いくら任務で家を空けたとはいえ、出かけ前に不安にさせるような事をしなければ、少しでもその気持ちを軽く出来たはずなんだ。
アタシが悪い。
何も言えないじゃないか。
いつもと同じ、変わらないなのはに安心して、何も言わなくても良い、言う必要がなくなったって。
そんなの独りよがりで、アタシに言わないだけでホントはどう思っているのか。
言葉にしたのは、それのホンの一部だけなんじゃないか。
上手い言葉が思いつかなくて、何か伝えたいんだけど、それが喉の奥で引っかかってるみたいだった。


 


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