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2008年2月11日 (月)

六課のバレンタイン 1/4

 
 
 
「なのはさ~ん。一体何をしているんですかぁ?」
「ああ、スバル。おはよう」

 空は澄み渡り、凛とした空気が張り詰める。吐く息の白さにはしゃぐ様な年でもなく、何もかもが億劫になるこの季節。
温まりすぎた身体に湧いた汗を流し、デスクワークを片付けようとしたスバルは、何か雑誌を広げるスターズ隊の隊長を見つけるのでした。
片付ける素振りもなく、首だけ向けて挨拶を返すなのは。
珍しい行動に興味を引かれるのでした。


「ああ、これ? えっとね、お菓子の本だよ」
「わぁ~。美味しそうですね~。今流行のお取り寄せだったりするんですか?」

 表紙を見せてくれる。
そこには食いしん坊のスバルならずとも、涎を垂らしそうになってしまうような色とりどりのお菓子が並んでいます。
そして、表紙には内容を示す文字が幾つか並んでおり、一際目を引く大きさで書かれた文字がありました。
一番の注目記事のようです。
これが目的なのかと尋ねてみれば、恥ずかしそうに頷くなのは。
あっという間に首まで真っ赤にしてしまいます。
まるで年頃の乙女――決してなのはが年頃ではないと言うのでなく――の様な反応に、スバルは興味津々です。

「へぇ~。なのはさんがそんな風になっちゃうなんて~。そんな素敵なものなんですか?」
「え、えへへ。まあ、ね。あ、そんなことは良いから。ちょっと聞いていいかな。これなんてどう思う?」
「あ! あたしもそれが美味しそうだなぁ~って。そうですよね、やっぱり気になっちゃいますよー」
「やっぱりそう思う? じゃあ、こっちはどうかな?」
「あたしはこういうのが好みですけど、それはそれで。なのはさんはどうなんですか?」
「う~ん、やっぱりシンプルなのかなぁ」

 ちゃっかり隣に腰を下ろし、一緒に雑誌を覗き込むスバル。
特集ページを行ったり来たり。
一つの記事にお互いの好みを言い合って、好みが合うだ合わないだと談笑していると、なのはのアンテナがピンと反応を示しました。

「どうしたんですか、なのはさん」
「は、早くしまわなきゃ! えっとえっと!」
「?」

 慌てふためくなのはを不思議に思っていると、聞くまでもなく直ぐにその理由が分かりました。
揺れるサイドポニーの向こう側。
赤い頭の三つ編み娘がこちらに向かって歩いてくるのが見えたからです。

「おい、二人とも。随分と楽しそうだな」
「あ、ヴィータ副隊長。おはようございまーす」
「おはようだ、スバル。ところで何やってたんだ? 退屈なデスクワークにしては楽しそうだったけどよ」
「え、ええっと……あ、あのね! 今日のお昼ご飯の相談をしてたんだよね。ランチはどのセットかな~って。ね、スバル?」
「え!? あ、あの……はい、そうです! あたしご飯食べることばっかりで~。えへへ~」
「……だったら良いんだけどよ。二人揃って遅れるようなことすんなよ。特になのは! お前は曲がりなりにも隊長なんだかんな。それを」
「あーはいはい、分かってますよヴィータちゃん」
「ったく。んじゃな。みんな静かにしてんだから五月蝿くすんなよ、あんま」
「は~い、分かりました。ヴィータ副隊長」
「分かりましたでありま~す」

 どう見ても何かを誤魔化している二人でしたが、ヴィータとしても朝一から説教するのも気がひけます。
背筋をピンと伸ばして敬礼する二人に対し、その大きな青色の瞳で「分かってるだろうな」と一睨み。
分かってるか分かってないのか不安でしたが、溜息を一つ吐いてはその場を後にします。
そのまま微動だにせず気配が消えたのを確認すると、同時に机に突っ伏すのでした。

「ふー。危なかったー。もう少しでバレちゃうところだったね」
「いえ。完全にバレてると思うんですけど」
「え。やっぱりそうかなぁ。う~ん、後でご機嫌取っとかないといけないね」
「それよりも~、なのはさん! さっきの続きが気になるんです!」
「そうだね。ええっと……あ、ここだ。これなんて美味しそうだと思わない?」
「あ~、これですね。あたしもそう思ってたんですよ。それに、先日テレビでも紹介されてるの見ました」
「大人気なんだ。う~ん……じゃあ、こっちはどう? 数も手ごろだし」
「あたしだと三個は必要になっちゃうかもしれないです」
「あははは。スバルはホント食いしん坊さんだね。そっかぁ。でもスバルで三つなら取り合えずこれ一個で良いかもね」
「そうですね、えへへー」

 その後暫く二人で突き合わせて雑誌を読んでいたのですが、昼前にヴィータの雷が落ちることになるのでした。
 
 
 
 
 
「ふぅ~。ただいまぁ」
「お帰んなさい、ティア」

 髪を下ろし、ラフな格好で部屋の扉を開けるティアナ。
スバルは手前の引き出しに慌てて雑誌を放り込むと、疲れきった様子のパートナーを迎え入れます。
扉を閉めるなり抱きつくティアナからは、お風呂上りの良い香りがしました。

「ちょ、ちょっと。せっかくお風呂入ってきたんだから抱きつかないでよね」
「えぇ~。お風呂上りだから抱きつくのに~」
「そう言って。アンタはいっつも抱きついてくるでしょ? ほら、あっち行った行った」
「もう。ティアのケチ~」
「ケチで結構よ」

 グイッと押しやっては、二段ベッドの下に身体を放り出す。
幾ら疲れているとはいえ、大の字になって寝転ぶ姿は年頃の女の子とは思えない、なんて。
思ってはいるものの、口に出すと怒られるので黙っているスバル。
それも訓練校時代からの付き合いです。
こんな姿を見せてくれるのは自分だけなんだ、と思えば逆に愛らしくなってくるから不思議です。
椅子を軋ませては、ニヤニヤとティアナの寝姿を眺めるのでした。

「……なに見てんのよ」
「べっつに。ただティアの寝っ転がる姿を見てるだけ~。気にしないで続けて続けて」
「……そう言われると寝づらいわね」
「ああ~。起きないで良いからぁ。ほらほら寝ててよ、ね?」
「こ、こら! ベッドに入ってくるなって言ってるでしょ!? 早く出て行きなさいよー!」
「うぅ~ん。ティア~、今日は一段とケチー」
「うっさい!」

 抱きつくのも拒否され、ベッドからも追い出されてしまったスバル。
幼い子が欲しい物を眺めるように、指を咥えてティアナを見つめます。
ちょっと邪険に扱いすぎたかしら、と心配になるティアナでしたが、ここで甘やかしてはいけないと頑として無視します。
甘えるスバルと無視するティアナ。
二人の我慢比べは数分続きました。

「……そう言えばスバル」
「な、なにかな!」
「あたしが部屋に帰ってきたとき、なにか見てなかった? 慌てて隠したように見えたけど」
「う、ううん! なにも。何も隠してないったら!」
「怪しいわね。そのオーバーなリアクションが」
「え、ええっと! そ、そうだ! お夜食取ってくるね! ティアも食べるでしょ? うん、そうだ! じゃあ行ってきまーす」
「あ、ちょっと待ちなさ……ああ、行っちゃった」

 焦り、怪しさ満点のスバルは返事も聞かず、部屋を飛び出して行ってしまいます。
一人残されたティアナ。
引っ付くなと言ったくせに、いざこの部屋で一人になると何とも寂しさが立ち込め、部屋の温度すら下がった気がします。
空調が効いているのですからあり得ないのに。
移動の距離とスバルの注文量を考えれば当分は帰ってきません。
視界の端に映る、スバルの机。そして、その引き出し。
腕の疼きを覚えるのでした。

「………………」

 ベッドの端に頬杖を突き、ジィッと見つめる机。
何をしていたのだろう。自分に隠れてしなければならないこと……もう引き出しから目が離せません。

「…………ダメね。人の引き出しを勝手に漁るだなんて」

 興味が無いといえば嘘になります。しかし、これは人としてやってはいけないこと。
例え訓練校時代から一緒の仲であっても、それは変わりません。
疼く胸と腕を押さえ、スバルが帰ってくるまで暫く横になって身体を休めようと机に背を向けるのでした。

「……それにしても」

 溜息が一つ。零れます。

「こんな時間からあんなに食べて太らないってのは、羨ましいわよねぇ」

 壁に向かって、誰に聞かせるでもなく。まさに独り言を呟くティアナでした。
 
 
 
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