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新婚なの! 8-2 (1)

 頬を撫でる空気はそれほど冷たくないのに、風が強く当たりぐんぐん体温を奪われていく。
そのせいで体感温度は実際の気温より寒く感じる。
しかし、そんな状況でも外着の有難さを噛み締めることはなかった、というより暇がない。
ピッタリとくっ付くなのはの温かさに少し汗ばむぐらいだったから。
目的のスーパーは歩いて十五分かかった。
いつもなら往復二十分ちょっとなのに、アタシの足取りが遅いためにそうなった。
ただ、なのはは一向に構わなかったようで、今日あったこと――主に教導で担当した連中――をあれやこれやと話していた。
中々有望なヤツも多いそうなので、こっちもやる気が沸いてくるのだそうだ。
余りやる気を出すと本隊に入る前に止めてしまいかねないので、程ほどにしとけよと釘を刺しておいた。
ちゃんと聞いているのか不安な態度だったが、仕事に対する姿勢が不真面目なわけではないので、それ以上は黙っていた。
こうやって夜道を歩いていて、なのはがアタシに話しかけてくれる。
どうしようもなく、あの日のフェイトを思い出すのだけど、こればっかりは面に出すわけにはいかない。
そうやって、あれこれ考えているうちに到着。
店内は暖かく上着を脱がなければならないので、仕方なくなのはを引っぺがす。
しかしめげない。手を掴むと意気揚々とアタシを引っ張っていった。

「あんまり残ってないね」
「仕方ねー。夕方の安売り終わったばっかだかんな」
「どうする? 何か足りないものだけ買って帰る?」
「そうだな。流石にここまで何もないとは思わなかったからさ」
「じゃあ、ここで待ってて」
「おい、ちゃんと分かってんだろうな」
「大丈夫、大丈夫だよー」

 スーパーは夕方の熱気が去った後のようで、棚も人もがらんとしていた。
今日はこんな光景ばかり目にしているな、と内心ガッカリする。
こっちの気を知ってか知らずか、なのはは相変わらずご機嫌で、元気よく手を引かれ、店内を一周させられた。
一周したが何処も似たようなもので、出来合いのモノすら粗方片付いた後だった。
やはり筋肉痛は取れておらず、長椅子に座って休むアタシに、なのはは大丈夫だと自信満々に出かけていった。
家に転がり込んでくるまでは一人暮らししていた訳だし、心配なんてすることないんだろうけど。
やっぱ……過保護だと言われるかな――

「牛乳とかパンとか。買ってくるものなんざ分かってるだろ。なにやってんだ」

 一向に帰ってこない。
誰か知り合いにでもあったのか、自信満々で出かけた手前、帰りづらくなったのか……仕方ないヤツだ。
迎えに行こうにも何処にいるか分からないし、この足でウロウロ歩き回るのは辛い。
困っているなら念話かデバイスを通して連絡してくるだろうと、腹を括ってここで待つことにする。
そう決めたが、気になるのは変わらずで忙しなく首を振って辺りを確かめては、腰が浮くのを我慢する。
早く帰って来い、そうでないとアタシが不審者になっちまうだろ。

「早く帰ってきた意味がなくなるだろうが……」
「―――だ~れだっ?」
「…………」
「あ、あれ?」
「おい、誰か知らねーけど。悪ふざけはいい加減にしておけよ」
「ごめんなさい」

 古典的だが、なのはは好きらしい。
以前にも同じ事をされたことがあり、その時は無様にも驚いてしまって笑いのネタにされた。
しかしこちらとて策がないわけじゃない。次されたときは仕返ししてやるんだと意気込んではいたのだけど。
なのはの事を考えてたせいか、驚きすぎて何も出来なかった。
手の平がジットリと汗ばむのを感じて、バレやしないかと心配したけど、なのはも想定外の反応に戸惑っている。
そのお陰で一呼吸おき、平静を装うことができた。

「ったく。何してたんだ」
「ちゃんと買い物してきたよ? ほら」
「こんだけ買うのに時間かかるわけねーだろ。ん?」
「えーっと。えへへ」
「笑って誤魔化すな」
「うぅ、ごめんなさい。ただ、ちょっと久しぶりで」
「一緒に買い物行くのがか?」
「うん。だからつい、やりたくなっちゃって」
「そんでぐるっと後ろに回りこんだってわけか」

 黙って頷く。
小さく溜息をつくと、背中を向けて腰を降ろし買い物袋は軽い音を立てた。互い違いになる格好だ。
空いた手が行き場のなさそうに、サイドに垂らした髪を弄り始める。
落ち込んではいないようだけど、ご機嫌を取るためのきっかけを探してるのか。
チラチラと盗み見る態度が少し可愛らしい。いつもこのぐらいしおらしいと、な。

「ほれ、行くぞ」
「あ、うん。……あの、これ」
「言ってなかったか? 今日は筋肉痛でよ」
「う、うん」
「だから。さっきみたいに」
「う、うん?」
「ひ、引っ張ってけって言ってんだ、よ……」
「う、うん!」

 よっこいしょと、わざわざ声に出して腰を上げ無言で手を差し出す。
背中を向ける形になってるのだ。立ち上がるのを助けるための手でないことは分かる。
意図の掴めず戸惑うなのはに理由を説明するのは、詰まらない駄洒落を言ってそれを解説する如き気恥ずかしさに通じる。
そっぽを向いて。それでも手は引っ込めない。
その手を痛いほど力強く掴み、来た時よりも早く引っ張っていく。
筋肉痛で足が思うように動かないってのに想像を及ばして欲しいところだったが、黙ってついていく。
自動ドアまで来たところでピタリと足を止め、横並びになると手を放した。

「どうした?」
「遅くなっちゃったもんね」
「あ、ああ。お前がいらんことしてたからな」
「寒そう……だーかーら! えい!」
「むぎゅ!」

 放した手を肩へ回し、勢いよく抱き寄せる。
普段より力の入らない足はされるがままに寄り、抱きつかざるを得ない。
そう。抱きつかざるを得ないのだ。別にそこまでしてやる必要はない。甘やかしはよくない、から。

「さっきも暖かかったでしょ?」
「べ、別に。なんのための上着だと思ってんだ」
「照れない照れない。じゃあ、こうしよ?」
「な、なんでポケットに突っ込ませんだ」
「だって、手が冷たかったんだもん」

 肩に回した手を戻し自分のポケットに一緒に入れる。
よくこうしてるカップルなんか見かけるが、自分達でしたことはない。
恥ずかしくて出来るかよ、というのは表向きの理由で、本当のところは。身長が合わないからだ。
なんとも不恰好でやってられない。
笑われるかもしんねーけど、アタシなりに気にしてるんだ。

「だ、だから別に」
「私が寒かったの。ね? そしたらヴィータちゃん。私が冷たいなって」
「……ふ、ふーん」
「だから。私の手。暖めてくれる?」
「……ならよ。荷物持ってる手はどうなんだよ」
「こっち? うん、冷たいよ」
「そ、そっちはどうすんのさ。こっちはよ、左手はこれで良いとして」
「じゃあこうする!」

 ポケットから抜き出し手を放すと、後ろを通って反対側へ。
左手を掴んで右側のポケットへ捻じ込んだ。ひんやりを通り越した手に思わず背筋がゾクゾクしてしまう。

「冷たい手しやがって」
「ヴィータちゃんが暖めてくれれば直ぐに良くなるよ」
「ふ、ふん。勝手にしろ」

 帰りは二十分かかった。これは筋肉痛のせいなんだ。
時折、街頭の下を通っては視線を前に向きなおし感づかれないように気をつける。
何故にミッドは市街地でも街頭が割りに少なく、そのお陰で夜道は暗い。
ただそれも月明かりのない日。普段は緑色の月明かりが街を照らし、街頭の明かりは添え物程度。
今日は月明かりが弱い。夜道は数少ない街灯が頼りだ。
今日はその少ない街灯にさえ文句を垂れることなく、周りをぐるぐると回って犬のようななのはに黙って付き合うことにしてやった。


 


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