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新婚なの! 7-10 (3)

「お風呂気持ちよかったね」
「ああ、やっぱ自分家のが一番ってことだ」

 夕ご飯を食べ終わり、ソファーに腰掛け休憩を取った。
二人とも薄着だったし(特にアタシは)空調は効いてたけど、言われるがまま膝に抱えられた。
風呂場と同じような格好だけど、普段しないような格好に妙にドキドキとした。
悟られやしまいかと心配になったけど、後頭部に伝わる鼓動はアタシと同じかそれ以上。
何だかんだ言いながら、なのはも結構なもんじゃないかと思えば心も軽くなり、目を閉じてゆったり身体を任せることにした。

「向こうではどうしてたの? 陸のことはあんまり詳しくないから」
「良い装備があってさ。ジャングルの中とは思えないほどの風呂だったぞ」
「ふーん……で。そのお風呂、一人で入ってたんだよね?」
「どうしてそんなこと聞くのさ」
「だって。髪の毛の感じが違ったんだもん」

 倒れちまったせいで、もう一回入りなおした風呂。
しっかり湯舟に浸かって身体を温めなおし、十分にしたところで頭を洗ってもらう。
アタシ達二人とも長いしさ。二人ではいる時は交代にしないと洗ってる方の身体が冷えちまう。
分かっていても、なのはは洗いたかったらしくアタシも首が痛いのも手伝って今日ばかりは大人しく従った。
自身も長くしているためか、洗う手は慣れたもので順序良くこなしていく。
そのとき、フェイトとも一緒に風呂に入って髪を洗ってやっていたという話が頭を過ぎった。
こういうところ。なのははマメだな、と思いながらも、大人の姿でシャンプーハットをつけているフェイトを想像しては笑いを噛み殺した。

「使ってるシャンプーとか違うからじゃねーか?」
「そういう感じじゃなくて……なんだか他人の臭いを感じる」
「臭い? あんなの標準装備でみんな同じ臭いだろうに。違うか?」

 タオルで髪をまとめ、なのはが洗い終わるのを待つ。
教導が終わった後に風呂に入ったらしいので、さっと汗を流すだけ。
それも殆ど気持ち程度で、そんなだったら一緒に入らなくても良かったじゃん、余計な汗をかくだけだろうに。との言葉は飲み込んだ。
元々アタシ一人で入ってりゃ首も痛くならなかったのに、と思わないこともないけど過ぎたことは仕方ない。
洗ったばかりでフワフワする頭に、湯船に軽くなる身体。だるいさの抜けない手足に立ち込める湯気。
浴室の雰囲気に、なんだか考えるのが面倒に感じられてきて、思考の定まらない頭でボンヤリなのはを眺めていた。

「―――あ、そういや」
「なに?」
「その臭いってのは分かんねーけど、何日目だったかな。一緒だったヤツに洗ってもらったな」
「……へー」
「ソイツもお前みたいに強引なヤツでさ。言い出したら聞かないんだ。それで」
「……ふーん」
「そういう事を言いたいのか? いや、最後の日は一人で入ったし……おい、どうしたよ」
「……べっつにー、なの」
「???」

 風呂場であったことを思い出していると身体が浮き上がるような感じがした。
何のことかと思って目を開けてみれば、なのはの後姿。
ついで冷蔵庫を開ける音。なのはがペットボトルを手に戻ってきた。
当てるだけで見事に水分を奪っていくバスタオルで頭を纏めたまま、未だに湯舟に浸かっているようにフワフワする感覚に身を任せた。

「なあ、こっち向けったら。どうしたんだよ」
「さぁ。しーらない」
「知らないことないだろ。おい、普段は言われても引っ付いてくるくせによ」
「普段はあっち行けっていうくせに」
「あ、あぅ……」

 熱さも抜け、その間になのはは明日の予定を確認したりと珍しく仕事をしていた。
明日は雨でも降るんじゃねーの、とからかって見せれば、雨天訓練もしなきゃいけないねー、などとマジで返しやがる。
嫌味の通じないヤツだ、と思いながら教導官の顔つきになっている凛々しい横顔を眺めていた。

「……」
「……」
「……なぁ、なに怒ってんだよ」
「別に。怒ってないなの」
「その言い方は怒ってるだろ。なんだ、言えよ」
「……分かんないかな、ヴィータちゃん」
「分かんないから聞いてんだろ」
「そういう言い方、ヤだな」
「わりぃ」
「……ふう。あのね、ヴィータちゃん。誰かと一緒にお風呂、入ったんでしょ?」
「初めからそう言ってなかったか? 無理やりだって。……も、もちろん女だかんな! 勘違いすんなよ!」
「そんなの問題じゃないよ!」
「へっ?」
「どーして他の人とお風呂入っちゃうのー! 私とは全然入ってくれないくせにー!」
「むぎゅっ!」

 眺めていたのに気づいたのか、はたまた有能な相棒が告げ口したのか。
にっこり笑うなのはにソファーからすくい上げられた。
びっくり驚いている間に、しっかりとお姫様抱っこされ寝室に連れてかれる。
もう仕事は良いのかと、やっとのことで切り出せば無言で時計を指差す。
針の短針は日付変更間近と言うところまで来ている。
珍しく全てが早く済んだんだ。偶には早く寝ようということか。
アタシも酷く疲れてたし、起きてたところですることはない。
特に抵抗などもせずに、そのままベッドまで運んでもらうことにした。

「ひどいよー! そんな他の人とはお風呂するんだもんー!」
「そ、そういうことか。いや、それはなんつーか、その……悪かった」
「むー! そんなだけじゃ許してあげないんだから!」
「そ、そんなこと言ったってよ。こっちにも……いや、とにかく悪い」

 ベッドに放り投げられ覆いかぶさってくるなり、わーわーと文句を言う。
そういえばメンテと一緒に風呂入ったんだよな。そのことを気にしてたのか。紛らわしい聞き方するものだから分からなかったぞ。
聞けばそれが原因となって、なのはは不機嫌に。
普段なにかと理由をつけては拒んできたけれど、こんなにへそを曲げてしまうなんて。
ここは謝っておいた方がいい。
なのはにしてみれば大問題なんだろう。こりゃ不味ったな。
しっかしメンテのヤツめ……もう絶対に一緒しねーぞ。

「もー! ヴィータちゃんのバカ!」
「ああ、悪かったよ。ホント、迂闊だった」

 まだアタシを抱きしめる腕の力を緩めようとしない。
顔を動かすと胸が当たるからジッとしてどうしたものかと考えていると、そもそもどうして一緒に風呂に入ったのか思い出した。
あの日は血塗れになっちまって、それでだったんだよな。
今にしてみれば腰抜かしたんだろうか。
その後も調子悪くて、さしたる抵抗もないまま一緒した気がする。
うぅむ。説明すれば納得してくれそうだけど、そんな危なかったって言いたかない。
指輪のためにそういう目に遭ってたって聞きゃ、また要らぬ心配かけちまうだろうし、それに……
やっぱここは嵐が過ぎ去るのをジッと待った方がいい。

「うぅん……簡単には許してあげないんだからね」
「……分かってる」
「分かってるんだったら、そういうことしないの」
「……分かってる」
「もう。……ヴィータちゃんの、バカ」
「……ああ。そうだな」

 普段バカバカ言ってるのに、まさか自分が言われる立場になるとはさ。
そんでも。悪い気はしない。
なのはにこんなにも心配かけたり泣かせたり不安にしたり。
ホント、そうだなって。自覚せざるをえないんだ。

「もう。今日はこのまま寝ちゃうんだからね。…………休み、ヴィータちゃん」
「ああ、お休みだ。なのは」

 どのくらい。久しぶりというか、何年もしてないかのような錯覚さえ覚える。
はやてにするよりも、こっちの方がしっくりきちまう日がくるかもしれない。
その時は……まあ、はやては特別だ、特別。比べたり、そういうことするような事じゃない。
なのははなのは。はやてははやて。全く別なんだ。
それに、どっちにしろアタシは悪い気がしない。
こうやって。
背中に回す手の、何ともいえない抱き心地に。


 


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