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新婚なの! 7-10 (2)

「ごめんねー。私もここ二日ぐらい忙しくて」
「まあそんなこったろうと思ってたからよ。意外にしっかりしてて驚いたぞ」
「意外に?」
「出来るとやるは別だかんな。お前は出来るくせに、ちっともやらないからよ。そういう意味で意外だっていったの」
「そ、それはヴィータちゃんのお仕事取っちゃ悪いかなぁ~って」
「ふざけんな。お前の分、アタシの仕事は増えてんだぞ。取られて良いから自分の分は自分で片付けろよ」
「ああ~ん、そんな意地悪言わないで~」
「ったく。洗濯は全自動なんだからよ。アタシがいない時でもちゃんとしろっての。一人暮らししてた時はどうしてたんだ?」
「えへへー。は~い」

 とっぷりと日も暮れて、窓の外はすっかり夜の風景。
事前に空調を点けておいたのが功を奏したのか、風呂上りのまま碌に身体を拭かなかったのに寒気はしない。
ただ、着替えを急ぐ必要が無いものだから、なのはは本当にアタシを放そうとしない。
なのははワイシャツ一枚のままで、そういえば寒くないアタシは一体どういう格好してんだと、今更ながらに考えた。
薄目を開けて見てみれば、抱きついて二人の間にバスタオルが一枚。申し訳程度に挟まっているだけ。背中は丸出しだ。
こればっかりは見過ごせない。
背中に回していた手で脇をこそぐれば、不屈のエースも流石に放さずにはいられない。
身を捩ったところで重力に任せて脱出。
ゴロリと転がり、鈍い音を立てて床とキスする羽目になったけど気にしない。バスタオルがついてこないけど気に……しない。
そうやって脱出したまでは良かったけれど、直ぐに元の木阿弥。
クレーンゲームのヌイグルミの如く持ち上げられるけれど、そこで神の助けか。
なのはの腹が夕食の時間を告げる。腹時計だな。
はっきりと聞こえるそれは、なのはを恥ずかしがらせ「ヴィ、ヴィータちゃんもお腹空いたよねー」と言わせた。
バスタオルをかけてもらい、ソファーに大人しく座らされる。
死で笑いを堪えている内に、夕飯の準備はあっという間に整った。

「昨日、冷凍食品の五割引があってホント助かっちゃった」
「んなこと言って今日で食べちまったら意味ねーじゃん」
「うぅ。私としてはヴィータちゃんが帰ってくるまでの繋ぎでしかなかったから、その」
「……まあ、アタシも帰ってきたらさ。そのつもりだったし」
「本当!? わーい、ヴィータちゃ~ん」
「こ、こら! 飯食ってるときは大人しくしろって何べんも言ってるだろ!」
「だって~。やっぱり私のこと想ってくれてたんだーって」
「むぐぐ……!」
「楽しみに待ってるねー」
「ちぇっ。帰ってきてまで人の世話なんて。どうして周りにはこういう奴ばっか集まってくんのかなぁ」
「人徳だよ、ヴィータちゃん♪」
「一回辞書引いて来い、なのは」

 任務に続いて出来合いの既製品を食べてる。
家に帰ったらこういうのから抜け出そうと思ってたのにさ。この身体のダルさは何ともならない。
なのはも楽しみに待ってたろうし、アタシも久しぶりに、その……なのはの顔見たかったしさ。
仕方ないか。
今日のところはこれで済ませて、明日。朝からなのはに飯を作ってやろう。
いや、その前に買い物行かなきゃな。なのはの口ぶりからすると何にもないみたいだ。
一緒に買い物、か。これも久しぶりだ。
下手を打たないように気をつけなきゃいけないな。

「なぁ、なのは」
「うん? どうかしたの」
「この冷凍食品、そんなに美味いか?」
「う~ん……美味しいと思うけど。ヴィータちゃんは好きじゃない?」
「いや、そういう意味じゃなくてだな。そんなに美味いかって言うか、その」
「ふふーん、そういう意味」
「一人だけ納得するのって気持ち悪ぃな。おい、ちゃんと言えって」

 いつもは向かい正面にテーブルに着くけど、今日はおかずも少ないから並んで食べることにした。
真ん中に置いた、おかずを載せた皿に同時に箸を突っ込んだり、何かと距離が近いせいで気も漫ろ。
そしたら案の定抱きついてくるし、横をチラチラ盗み見るようにしてる内に皿は片付いていく。

「それはねー。ヴィータちゃんと一緒に食べられるからだよー」
「ぶっ! バ、バカ言ってんじゃねー!」
「バカって言わないで。あのね、一緒に食べてくれる人。一人で食べるより二人。二人より三人」
「…………」
「益してや、それが好きな人なら何倍も美味しくなるの。ヴィータちゃんはどう?」
「むむむ……」

 突拍子もないこと言いやがって。
思わず噴出してしまってバカなんて言っちまったけど、なのはの言葉に思い当たる節があった。
それは、アタシ達がこの時代に出てくる前のはやてのことだ。
病院と家、たまの図書館が全てのはやて。
家族の居なかったはやては、アタシ達との食事を凄く楽しみにしてた。
本人に聞いたわけじゃないし、状況から察しただけでアタシ達の勘違いって可能性も多分にある。
だけど、管理局に入ってからも食事を同じくすることに重きを置いたのは確か。
一人より二人。二人より三人。
これは、実感を伴って学んだことだった。

「一人で食べるご飯は……美味しくないもん」
「……ああ、そうだな。全くだ」
「そう思うでしょ! だから、今日のご飯は昨日までの二倍も三倍も十倍も美味しいんだもーん!」
「だ、だから! 抱きつくなって言うだろ!」
「えー。さっきは好きにして良いって言ったのに~」
「そ、そんなに言うなら明日からまた元の位置だかんな!」
「!? は、はーい。自重しまーす」
「ふぅ。全く、どうしようもないヤツだな」
「えへへー」
「コイツ、一回ぐらい注意されて凹んで見せろよ……」
「えー、だって。大人しくすれば明日からも隣に座っていいってことでしょ?」
「? そんなこと言ってねーぞ、おい」
「ふふーん。レイジングハート、お願い」

 得意げな表情に指揮者がタクトをそうするように人差し指を振るえば、どこからかレイジングハートが飛んでくる。
相変わらず優秀なデバイスだ。そのお陰か、なのははどんどんなまかわになってる。
そんで、その被害を一番に被ってるのはアタシだ。
一回膝をつき合わせて話し合う必要がありそうだな。
アタシがどういう気持ちで見ているかも知らず、左手の平に音もなく降り立てば、二,三光ってなのはと打ち合わせ。
一体全体何をしようと言うのか。今の場面でレイジングハートになにさせるつもりなんだ。
訝しげに見つめるアタシを他所に、なのはは表情を崩さない。
チラリと横目で見やれば、遅れてレイジングハートが点滅する。

<<そ、そんなに言うなら明日からまた元の位置だかんな!>>
「ありがとう、レイジングハート。で。どうかな、ヴィータちゃん」
「どうかも何も。アタシの声じゃねーか。それがどうしたよ」
「分かんないかな~。じゃあ、もう一回」
<<そ、そんなに言うなら明日からまた元の位置だかんな!>>
「流石に分かったでしょ」
「―――あ、あーっ!」
「そういうこと。言わないなら元の位置に戻らなくて良いんだよね?」
「うぐ、ぐぐぐ!」
「ベルカの騎士に二言はないんだもんね?」
「そ、そんなこと言った覚えはねーけど……いっぺん口に出したことだ。翻したりしねー……くぅ」

 なんてこった。
勢いに任せて言うもんじゃない。今日はそんなばっか言ってる気がする。
くそっ、この得意げな顔に顎を少し上げる姿。天狗になるとはよく言ったものだ。

「じゃあ、そういうことでー……宜しくね、ヴィータちゃん♪」
「だ、だから抱きつくな! 飯食べてる時ぐらい大人しくしろって! また湯のみ倒すぞ!」
「はーい。"ご飯食べてる時は"大人しくしま~す」
「あっ! か、あ……しまったぁ」
「久しぶりのご飯だからもっとゆっくりしたいけど、早く食べちゃおうね~」

 しっかりと回していた腕をあっさり放したかと思ったら、それはアタシの失言が原因だった。
そうだよな。なのはがそんな直ぐに放すなんて変だと思ったんだ。
横では言われたとおり、大人しく夕飯の続きを始めたなのは。
憎らしいほど箸は軽快に動き、表情は晴れやかだ。

「……うん? どうしたの、ヴィータちゃん」
「あ、うん。まあ、なんていうか―――早く食べないとなくなっちまうなって」
「私そんなことしないったら」
「さてね」

 ぼんやり憎たらしいその顔を見つめながら、これはこれで良いかな。と思わなくもなかった。


 


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