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新婚なの! 9-2 (2)

「はやて。シグナムとシャマル、ザフィーラはどうしてんの?」

 また一通りヴィータ弄りを堪能した二人。
そろそろいい時間ですので、はやては晩ご飯を用意することにしました。
久しぶりにヴィータの口に入るご飯ということもあって、腕まくりをし、気合十分に台所に立つエプロン姿のはやて。
予めヴィータとなのはが来ることは分かっていましたので、冷蔵庫には食材がいっぱい。
一緒に覗いた二人に「どんなんか楽しみに待っとってね?」とはやて。
どんな料理が出来上がるのか、二人はダイニングに移動してテーブルに頬杖を付きながら楽しみに待つことにします。

「シグナムは帰ってこれへんって。シャマルはちょい遅なるけど夕ご飯までには。ザフィーラも帰りに合流する言うてたよ」
「ふーん、そっか」
「そうそう。シグナムといえば、この間会うたみたいやね? 宜しく伝えられたわ」
「うん。本局で偶然さ。時間なくて会いにいけなかったら」
「ふふふ。シグナムなんて言うてた? ブツブツ文句言ってたんやない?」
「流石はやて。その通り、ちゃんと顔見せに来いってさ。やっぱ家でも文句言ってたのか」
「いんや。心配してたんやよ」
「???」
「ま、シグナムもあれで素直やないところがあるからなぁ。本人目の前にしたら照れくさくて言えんかったんやろ」
「ふーん。そんなもんかな」
「そうだね。それはそう思うよ」
「あんでなのはまでそんなこと言うんだよ」
「だってね。あ、やっぱり……うん、そうかもね」

 ヴィータの隣で、黙って余り面白くなさそうにしていたなのはが、ようやく口を開きます。
シグナムと何があったのか。ヴィータのみならずとも気になる言い方をします。
なのはとしては本当にシグナムを気遣ったのですが、その話の切り方は絶妙で、はやての興味を俄然引きました。

「全っ然、大丈夫やから。烈火の将はそない小さなこと気にしたりせーへんて。な、ヴィータ」
「い、いや。はやて、それは可哀想だって」
「エエから。黙ってたら分からへんもん。そんでそんで? シグナムがなんやって?」
「あ、えっと」

 手を休め、キッチンカウンターにもたれかかり、興味津々になのはの次の言葉を待ちます。
その期待に満ちた視線に、断りきれなさそうな空気を感じ取ったなのはは、チラリとヴィータに視線をやります。
いくらヴィータと言えど、いや、ヴィータだからこそ、はやてには敵いません。
話の内容は分かりませんが、シグナムへのフォローは任せとけと言う意思を込めて、ゆっくりと頷きました。

「あ、あのね。この間。三週間ぐらい前だったかな、ミッドの航空隊に教導に来てたんだ」
「そうやったの。一言言うてくれれば会いに行ったのに。やっぱ空のことはちょいと届かんみたいやね」
「ごめんごめん。でね。そのとき、二日目だったかな。シグナムさんに……え~っと」
「なんだよ。どうした」
「う、う~んとね。あ、そうそう。仕事が終わってちょっと顔見せに来てくれたんだ、挨拶にね」

 話し始めた途端、なのはは気まずそうに口ごもり、何かを誤魔化そうとします。
それは誰の目にも明らかでしたが、はやては敢えてこの場で指摘することはしませんでした。
隣に座っているヴィータは数瞬考えをめぐらせて、何故なのはが口ごもっているのかピンときました。

「(はは~ん。シグナムが言ってたのはこのことだな。今の今まですっかり忘れてたや)」
「シグナムもその辺ちゃんとしてるんやなぁ。偉い偉い」
「それでね。結婚してから会うの初めてだったし。シグナムさん、ヴィータちゃんのこと心配してたのかな。色々聞かれちゃって」
「ほぉ~う。それでそれで?」
「それでね? シグナムさんヴィータちゃんに対して素っ気無い振りしてても、その実凄く心配してるんだなーって」
「ま、家族やからね」

 予想したような――それこそはやての喜ぶような――話ではありませんでしたが、はやては幾らか満足したようです。
にんまり口の端を持ち上げるのと同時に身体を起こし、既に捲くってある袖を再度捲くる仕草をしながら、こちらに背を向けます。
話が拗れずに済んだと、ホッと胸を撫で下ろすなのは。
ヴィータは良い機会だと思い、念話で尋ねてみることにします。

『おい、なのは』
『な、なにかな。ヴィータちゃん』
『ホントはシグナムになに話したんだよ』
『え、え? なんのことかな。私は知らないよ、ホント。仕事が終わってからシグナムさんを誘ったりなんてしてないし』
『あっそ。くれぐれも余計なことは言うなよ。シグナムは家族だからまだ良いとして』
『言ってないったら。ヴィータちゃんが可愛いなんて話は絶対』
『……まあ、お前の気持ちも分からんではないからさ。今回だけは見逃してやる』
『いいの?』
『なんでさ。何か怒らなきゃいけないか?』
『ダメってわけじゃないけど。だって、いつもそういう事すると怒るから……』
『あのな。分かってんだったら自重しろ。それに言ったろ? 気持ちも分からんではないってさ』

 念話と言うのは大変便利です。
他人に悟られず意中の相手と会話をすることが出来るのですから。
しかし、それも普通に会話するように視線を合わせてはいけませんし、雰囲気で悟られてもダメなど、気をつけるべき点は幾らかあります。
ヴィータは今回それを逆手に取ったのです。
テーブルに頬杖をつき台所を向いたまま、なのはに背を向けて念話を使います。
普通に、面と向かって"気持ちも分からんではない"なんて言えるはずがありません。だって、恥ずかしいから。
顔をあわせない、念話だからこそ出来る内容なのでした。

『ふぅん。えへへへー。そっか~』
『な、なんだよ。気色悪ぃなー。お前、はやてもそうだけど他所でそういうのやってないだろうな』
『大丈夫大丈夫。ヴィータちゃんの前でしかしないから』
『なら、良いんだけどよ。そういうの。イメージ崩れるっていうか、あんま上品じゃねーんだ。分かってるのか?』
『分かってますよー』
『ホント分かってんのかよ。普段からやってるとな。イザって時に出ちまうんだぞ?』

 本当に分かっているのか心配になる口ぶりですが、ここはなのはを信用することにしたヴィータ。
こういう事は結婚する前から割りと口酸っぱく言ってきていたので、いい加減自分で言わなくてもしてもらわなければ困ります。
そういう期待も込めて、それ以上突っ込むのをやめたヴィータでしたが、なのはは思うところがあったようで話を続けます。

『ねぇねぇ。はやてちゃんも一緒なの?』
『うん? なにがさ』
『はやてちゃんもね。付き合いの長い私達だと驚くというか、外だと別人みたいだよ』
『そうか? 仕事してるんだから普通だろ。だけどさ、お前はどうしてるか知らねーもん』
『武装隊にいた頃とかは捜査官補佐でよく一緒だったモンね。そっかぁ、良いなぁ』
『話聞けよ』
『職場でも一緒だっていうの。やっぱり憧れるなー。私のね、教導隊にもご夫婦で所属してる人いるんだよ』
『夫婦で教導隊か……そこん家の子供にはなりたくねーなぁ』
『そんな失礼なこと言っちゃダメだよヴィータちゃん! とっても素敵なご夫妻なんだから!』
『お、おう。悪かったよ』

 大きな声が頭の中に鳴り響く。
念話を使っているときは相手の雰囲気などに注意を払わないので、急なことにも慣れているはずですが、思わず背筋が伸びてしまいました。
はやてが背を向けていて良かった。そうでなければ念話を使っているのがバレるところでした。
胸に手を当て呼吸を整える。
何とか落ち着いたところで、三つ編みの横からなのはがヌッと顔を覗かせます。

「な、なんだよ。何かようか」
「九日十日。ねぇ、教導隊に来るつもりない?」
「なんだよ、藪から棒に」
「ヴィータちゃんは興味ない? 大変だけど楽しいよ?」
「そりゃお前が続けられるんだからそうなんだろうよ。言われなくたって分かるや」
「むー。どうしてそう意地悪な物言いになるのー? もっとこう、なんていうのかな。言い方があるんじゃないかなぁ」
「知らないね。あと、そうやって後ろから抱きつくな。重い」
「知ーらない。えへへー、そう言うヴィータちゃんはこうだよー」

 後ろからもたれ掛かり、抱きついた手でヴィータの三つ編みを解きにかかるなのは。
腕を押さえられているせいで、なのはの手を追い払うことが出来ません。
しかも、頬同士がくっ付き、その大きな瞳にドキドキと胸が自然と高鳴っていってしまいます。
僅かな鼻息が頬を撫ぜ、押し当てられたサイドポニーが揺れるたびに、甘い香りが鼻をくすぐるのです。
すっかり抵抗することを忘れて、ボーっとされるがままになっていたのをヴィータは気付きませんでした。

「…………」
「せっかく結ったんだけど、偶のはやてちゃんに会うんだモノ。ちょっと変わった感じの方が良いよね?」
「……あ、ああ」
「んふふー。どうしたの急に。やっぱりはやてちゃんの前だから何時もみたいに出来ないのかなー? ……よいしょ」
「わっ! な、なにすんだよ!」
「抱っこだよー。はーい、お膝の上~」
「お膝の上~、やあらへん!」
「「わっ!?」」

 なのはに抱きかかえられ、膝に乗せられたヴィータ。
ご機嫌に頭を撫ぜようとしたところで、思わぬ邪魔が入りました。
台所に居たはずのはやてが、いつの間にか二人の目の前でジットリとした視線でこちらを見ていたのです。
ボーっとしていたヴィータは心臓が口から飛び出そうなほど驚きました。

「ど、どうしたのかな。もう準備は終わっちゃったの? それとも何か手伝った方が良かった?」
「べーっつに。二人はそのまま大人ししとってくれたらエエんよ」
「あぁ、はやて。おい、ちょっと放せって」

 じとーっとした目のまま、何か言いたそうに台所へ引き返す。
何が原因か分かりませんが、はやての機嫌が悪そうなのは確かだとヴィータはなのはの手を振り切って後を追います。
焦って後を追うヴィータの後姿を、なのはは空っぽになった膝を抱えて見ていました。

「あ、あのさはやて。五月蝿かったりした?」
「……うんや」
「じゃあさ、なんでその。なんつーか」
「……ふーん。やっぱこういう手はいけ好かんね。自分でやっといてなんやけど」
「? ど、どうしたのさ。はやて」
「んへへへ。悪いね、ヴィータ。こうしたらこっちに来てくれるんやないかって。そういう付けこむような真似、アカンね」
「だったら普通に呼んでくれりゃ良いのに……別にそんなことしなくてもさ」

 まな板に向かったまま、その背中は自分を拒否しているように感じられ、ヴィータは少し距離を保って伺います。
自分に構わず、目の前でなのはとイチャついていたのでご機嫌を斜めにしたのだと、至極真っ当な予想でした。
しかし、そう見えたのもヴィータの関心を引くための手であったと、種明かし。
それを聞いて怒ることもなく、ただ、ヴィータは寂しくなりました。

「ねぇ、はやて」
「うん? やっぱ怒ったかな」
「……あのさ。やっぱ家に戻った方が良いかな。はやてとさ、離れてるの。なんていうかさ」
「そーやね。寂しいか寂しくないかと言えば、寂しいってのが本音やね」
「やっぱり…………」
「ごめんな、ヴィータ。そういうんや無いんよ。その、なんて言うかな」

 軽快に包丁がまな板を叩く音が止んだかと思うと、人差し指で鼻の頭をポリポリとかきます。

「……羨ましかったんやね」
「羨ましい? 誰が?」
「なのはちゃんが。ヴィータにああいう風にくっついてられるなのはちゃんが。そんで……妬いたんやね。
 でな。正直にこっち来てー言うんも、なんや負けたような気ぃするし。そんでちょっと意地悪な手使った、ってとこ」
「はやて……」
「せやけど、帰ってきて欲しいとかそう言うのとは違うかな。今は所属も違って、ここでは不便やって言うのやし。
 そんなん私の我侭やもん。それでヴィータに迷惑かけるようじゃ、主失格やもんな? ああ、主いうのは一家の主いう意味で」
「はやてがそうやって言ってくれるの。分かってるけどさ。でも、やっぱ聞いちゃうと……」
「私もまだまだやって事やね。いざ幸せそうにしてるの見たら我慢できへんのやもん。あ~あ、情けない」

 再び包丁を手にしリズムよくまた板を叩いていきますが、その音は口調と共に自嘲気味に感じられました。

「……」
「お、おおっと。なによヴィータ。昔から包丁使ってるときは抱きついたらイカン言ってるやろ? んもー、どうしたん?」
「……別に。なんでもないから。アタシが勝手してるだけだから」
「……そか。ほんならそのまま大人ししとってね?」


 


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