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新婚なの! 8-3 (2)

「んで。なんだよ、アタシは暇じゃねーんだぞ」
「私とて暇を持て余している訳ではない。本局の航空隊と次に行う予定の交流会について打ち合わせに来ているのだからな」
「それなのにか? へーん、副隊長ってのは随分なご身分なんだな」
「事務レベルで調節済みだからな。今日は隊長同士の顔見世程度なのだ。私はそれほど必要ではない」
「……段々と手を抜くのが上手くなってきたと言うか」
「お前を見ていると息が詰まりそうだ」

 お天道様がガラス越しに降り注ぎ、空調とは一味も二味も違った、思わず眠りたくなってしまうような温かみを提供してくれる。
窓際に設置されたテーブル席に二人で腰を下ろし、シグナムを無視して外へ視線を投げた。
思ったより強い日差しに目を細め、外の景色が僅かに色を失う。
徐々に取り戻していく色を確かめていると、頬杖をついたシグナムが話しかけてきた。

「結婚報告がメールだけとは、幾ら忙しいとは言え随分じゃないか?」
「いや、ちゃんと会って言ったほうが良いとは思ったんだけどさ。二人そろって。んでもよ……」
「なのはは忙しいからな。中々スケジュールが合わんのだろう?」
「分かってんなら聞くなよ。アタシだって、はやてに言えなくてヤキモキしてんだからよ」
「分かっていらっしゃるだろうが、私からも伝えておこう」
「うん、あんがとな」

 視線は合わさない。
長い間一緒にいるんだからそういう事しなくても良いし、なによりなのはの話を誰かと面と向かってするのは居心地が悪い。
特に相手がなのはと自分の事を知っていたりすると、見透かされてるような気がするから。
まあ、考えすぎってのもあるだろうけどさ。
アタシとなのはのやり取りを想像されるかと思うと気持ちが悪い。

「主はお前がしっかりとお嫁さん出来ているか気を揉んでおられたぞ」
「へ、へー。それで?」
「私も相槌を打っていたが、つい先日な。しっかり出来ているようだとお伝えしたところだ」
「な、なんでそんなこと言えんだよ」
「フフフ。今もなのはが何処で仕事をしているか知らないわけではあるまい?」
「いま? 今は確か…………あ、あーっ!?」
「そうだ。ミッドの航空隊にて教導中だ」
「ま、待て待て。どうしてそれでさ、お前に話が行くんだよ」
「どうした? 珍しく食いついてきたじゃないか」
「御託はいいから早く喋れ」
「落ち着け、まだ時間はある」

 何処からか――しかもその相手がなのはと来れば尚更――話を聞いたといわれれば、身を乗り出さずにはいられない。
変わってシグナムは、身体をゆっくりと斜めにし足を組み替えて視線を外へやる。
コイツ、意外と気にしてやがったな。詰まらないところでマナーや常識ぶるから面倒なんだよ。
人目もある。仕方なく腰を下ろし、何事もなかったかのようにポーズを元に戻した。
二人そろって外を眺めてるのは傍から見たらおかしな格好だろうな。

「若手の教導でな。本局とも遜色ないとのお墨付きだ」
「早く本題に入れよ」
「モノには順序と言うものがある……まあ良い。そこでな、私は首都航空隊の副隊長としても顔見世程度はしておかなければならん」
「……そこでか」
「そういうことだ」

 チラリとこちらへ目配せしては先ほどのようにニヤリと口元が歪む。
何がそんなに面白いんだよ。アタシは不愉快寸前だ。
こちらの反応を確かめてから、何事もなかったかのように喋りだす。
いつもみたいにそうやって凛々しくしてろよ。そっちの方がまだマシだ。

「知らない仲ではないからな。しかも教導を要請している身としては挨拶をしない訳にもいかんだろう」
「ふぅん。全くの偶然、ってわけじゃなかったんだ」
「? まあ良い。そこで二日目が終わった辺りか。こちらから聞くまでもなく話し始めてな」
「……アタシのことをか」
「安心しろ。個人的に夕食に誘ったときだ。私以外に誰もいない」
「その程度の分別はあったか」
「色々話はあるが、結論だけ言えばお前の嫁振りには大層満足しているようだ」
「色々っつーのが気になるけど……本当だろうな」
「やはり気になるか? 旦那の評価は」

 もう少しもったいぶって話すかと思ったら、やけにあっさり結論を言いやがった。
その"色々話はあるが"というのが重要な気もしないけど。
しかし、コイツだけ知っててアタシが知らないってのは気になるな。本当にどういう話をしやがったんだ。
ここで下手を踏みたくない。
さあ聞けとばかりにニヤニヤとするシグナムに対し、努めて平静を装っては続きを待った。

「気にならないわけないだろ。こっちだって無い頭捻ってやってんだ」
「フフフ。しかし、なんというか」
「んだよ」
「以前からお前がなのはに参っているのは知っていたが、まさかココまでとは思わなかったぞ?」
「な、なぁっ!?」
「結婚するくらいだ。そうだろうとは思うがな。いざ目の当たりにすると違うものだ。クックックッ」
「~~~っ!」
「だがな。お前が結婚すると聞いたとき、驚いたぞ?」
「う、ん? どうしてだよ」
「今回の話、お前からでなくなのはからあったらしいじゃないか」
「……はやてから聞いたのか?」
「私はてっきり、なのははテスタロッサと結婚するものだと思っていたからな」
「…………あのさ」
「どうした」
「お前の頭の中じゃ、女同士で結婚するのが普通なのか?」

 アタシの言葉にさして動揺するでもなく、さも当然かのように頷いた。
長い付き合いになるけどよ。そういう趣味だったなんて知ったのは初めてだ。
それとも、はやての元に来てから趣向が変わったのか?
まあ今はどっちでも良いや。
アタシ達に迷惑さえ掛からなけりゃさ。

「どちらにしろ、私としては歓迎すべき事態であるのは変わらん」
「歓迎? ……あんま聞きたくないけどよ。聞いて欲しいのか?」
「聞きたければ教えてやるぞ?」
「じゃあ要らね。忙しいってんだろ。じゃあな」
「待て待て。落ち着けヴィータ」

 何が言いたいかは直ぐにピンと来た。その表情を見りゃな。
結論の分かりきってる話しは聞かなくていい。経過に余程の興味が無ければ。
呆れて席を立つところを慌てて制止する。
余程聞いて欲しいらしい。一々面倒だな、シグナム。

「手短にだぞ」
「フフフ。お前がなのはと結婚してしまえば、当然残された者がいるわけだ」
「まあ、なのはは人気者だからな。結婚まで扱ぎ付けるかは別として」
「嫁の余裕か? それが誰か、分かっているだろう」
「手短にと言ったはずだぞ」
「……傷心のテスタロッサだ。私の出番だろう?」
「そういう言い方。褒められたモンじゃねーな」
「流石言うことが違うじゃないか。うん?」
「おい。シグナム。冗談でも言うんじゃねーって」
「どうした」
「そういう易い慰めは返って傷つけるだけだぞ。本当にフェイトのことを思ってるならな……」
「……む」

 こういうことで悪ふざけするタイプじゃないとは思ったけど、思い違いみたいだ。
腹の底に熱が篭り、胸の辺りがムカムカする。
シグナムなりに真剣にフェイトのことを想ってるという考えは改めないといけないか?
悪いけど、顔も見たくない。
強く席を立ち、一瞥もくれないままその場を後にするつもりだ。

「そんなバカ話するために呼び止めたのか? 今度こそ行くぞ。じゃあな」
「待て。今のは冗談だ」
「冗談? 随分と性質が悪いな」
「……」
「フェイトの気持ちは……ある程度分かってるつもりだ」
「……ふむ、そうか」
「どうするか、シグナムの勝手だけどよ。フェイトを悲しませるようなことはするなよ」
「当たり前だ。お前に言われたくはない」
「アタシだってよ。なのはと結婚したこと、フェイトとのことも含めて。シグナムに言われたくねーよ」

 アタシは背を向けた。相変わらずシグナムは外を見たままなのだろうか。
今は至って真面目な口調だ。そこまで演技上手ではないだろう、これがシグナムの本音だ。
背を向けたまま、シグナムが聞こえるかどうかぐらいで続けた。

「約束したんだ。絶対になのはを離さないってさ。フェイトが……納得してくれるようにって」
「……フッ。テスタロッサに寝取られんよう、気をつけることだ」
「フェイトにはそのぐらいの積極性がある方が良いかもな」
「余裕だな、ヴィータ」

 シグナムは軽い調子で返す。
結局何のために呼び止めたか分からずじまいだったけど、久しぶりに家族と話せたのは良かったかもしれない。
椅子を片付け、今度こそこの場を後にしようとした時。
ボソリとシグナムが呟いた。

「……なのはは」
「―――うん?」
「誰かにお前のことを喋りたくて仕方がなかったみたいだな。夕食に誘った日。一晩中付き合わされたぞ?」
「へ、へー」
「三日ほど付き合ったか。私の部下が同席した日もあったな。当然顔見知りだが。辟易していたぞ?」
「……悪ぃ、注意しとく」
「任務ならば仕方ないが……寂しい思いをさせるな? それこそテスタロッサに盗られるぞ」

 そのまま黙っていてもシグナムも続けなかった。言いたいことは全て吐いたのだろうか。
用事もあることだし特に挨拶もしないまま、その場を後にした。


 


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