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新婚なの! 8-3 (3)

「あんときゃ、まだ説明する前だったからなぁ」

 よく考えるまでもなく、端末で呼び出せば良いのだが久しぶりという事もあったのかもしれない。
一週間空け、一日休暇。それでもどういう訳か今日の午前は暇で、こうしてブラブラしていられるのだけど。
それに、シグナムの話を聞いた後だから余計に。
こうでもして時間を作りたかった。

「夕飯、他所でしっかり食ってたんだったらよ、そう言えっての」

 ゴミ箱に何も無かったのは、不精が働いたわけではなく外食ばかりしていたせいか。
……いや、それもある意味不精かもしれないけど。しっかり食べているなら問題ない。
大体、一人暮らし出来ていたヤツを今更心配することなんてなかったんだ。
あれこれ考えて心配したのが馬鹿みたいだ。
そうだそうだ。うん、そういうことにしよう。

「ふぃ~。筋肉痛には運動が良いって言うけど、ちょっとキツイ、な」

 しばらく歩いたが、どうにも身体の硬直が抜けない。
フラフラと歩いていると、また顔見知りと何人か顔をあわせた。
局を空けていた期間に何か変わったことはあったかと聞けば「どうして?」という返事しか返ってこない。
こりゃ何も無かった証拠だろう。軽く挨拶だけして別れる。
そこで呼び止められもしなければ、急用で呼ぶヤツも居ない。
誰かに見つかって足止めされるのもイヤだから、人気の少ない通路に足を向ける。
どんどん歩いていくと人が少なくなっていくに連れ熱気も減っていくせいか、頬に触れる空気がヒンヤリする気がする。
空調が効いているんだ、そんな訳ないのに不思議だなー、と目当ての見晴らし良い窓辺に置かれた長椅子に腰を下ろした。

「うぃ~。今日もいい天気だな」

 そこら中に置いてあるくせに、やけに座り心地のいい、スプリングの絶妙な長椅子。
普段ですら寝転がったら気持ち良いだろと誘惑するものだから、今日はもう寝てしまいたい気分だ。
ぼんやり窓の外を眺めながら足を投げ出す。
人通りのない通路だから、誰かが足に引っかかることを心配する必要もない。

「……まあ、本局施設内だから天気良いとか関係ないけどー」

 全面にガラス張りされた窓から日差しがポカポカと温かくしてくれるけど、少しずつ高くなった日はそれほど奥へ差し込んでこない。
空調が効いているとそれの有り難味が薄れて、なんとも風情に欠ける。
温かい時ぐらい、空調切りゃ良いのにな。何とか温暖化とか縁の無い世界だけど。
そんなどうでも良いことを考えていたら、不意に視界が暗くなった。

「……だ、だれだよ」
「私ですわ、ヴィータさん」
「こんな時まで寄ってくんなよ」
「失礼な。今回に限ってはヴィータさんが寄ってらしたのよ?」
「あ、そう」
「うふふ。これが噂のツンデレと言うヤツですわね。ああ、ヴィータさんのツンデレというのは素敵ですわ」
「お、おい。勝手に話進めんな」
「こんな人気の無いところへ偶然を装って近づいて、いざ本人を目の前にしたら"寄ってくんなよ"。ああ~」
「も、戻って来い! 何処に行くんだ!」
「しかし! 私はその言葉の裏に隠された意味を見逃したりしませんわ! さぁ、ヴィータさん。私の薄めの胸に飛び込んでらっしゃい!」
「……自分で薄めとかいうの寂しくねーの?」
「いえ、別に。ヴィータさんが豊満なマシュマロ胸が宜しいと言うのであれば吝かではありませんけれど」
「あっそ」
「そういえば旦那様はスタイル宜しい人でしたわね?」
「だからなんだよ。言っとくけどな。そういうの全く関係ねーからな」

 一人やたらと盛り上がるので、周囲に人が居なくて助かったと胸を撫で下ろす。
胸の大きさは関係ないといえば何が理由なのかと不思議そうな顔をする。
アタシはそんなに胸好きに見えるのか……?

「それもそうですわね」
「分かってくれたか」
「ええ。もしそうなら執務官を選んでましたでしょ? 私としたことが簡単なことを見落としてましたわ……」
「な、なにをさ」
「ふふ。そうとくれば! さぁ!」
「さぁ! じゃねーよ。待ってましたとばかりに腕を広げるの、止めろ」
「了解」

 なんの未練も無く腕を下ろし、毎度表情を崩さす何事も無かったかのような顔をした。
やっぱアタシをからかう為の演技だったのだろうか。腹立つなぁ、人の旦那選びを馬鹿にされた気がするぞ。

「大体だな。人の価値を胸基準に考えるんじゃねー」
「そうですわね。貧乳はステータスだ、という言葉もあるようですし」
「人の話、聞いてんのか?」
「Ja」
「……嘘くせぇ。ああ、もう良い。そろそろ戻るぞ」
「はーい」

 ぼんやり休む気も削がれてしまった。
もっとも。コイツがいちゃ休まるものも休まらないし、元々の用事も済ませなきゃいけない。
足を跳ね上げ勢いよく立ち上がると、メンテを従えてその場を後にした。

「一つ聞きたいことがあるんだけどよ、良いか?」
「スリーサイズとか口座の暗証番号だったりなかったり?」
「……身体、どっか痛いところないか? 一昨日までのことでさ」
「何だかそれだけ聞くとイヤラシイ発言っぽいですわね」
「筋肉痛だ。アタシもフーガもな」
「……うーん、そうですわね。それなりに、というところでっしょいですの」

 至って平然。どこも問題なさそうに見える。
何が三人を分けたのだろう。アタシとフーガは酷い。特にフーガはさ。
体質か……それならどうしようもないけどさ。ちと気になるにはなる、な。

「それを聞くためだけに私を探しちゃったりしてましたの?」
「まあな。あ、勘違いスンナよ」
「なにをですの」
「筋肉痛解消のために運動したり、久しぶりに顔合わせに行ったついでってだけ。お前のは片手間だ」
「と、いう理由付けですのね。うふふふふ」

 隣にべったりくっ付かれるのは趣味じゃない。
しかしこの状態で、歩幅の広いコイツより早く歩くのは難儀というか無理だ。
仕方なく隣を歩かせているが、知り合いというかなのはの耳には入れたくない。
大体。この一週間の任務で何が変わったんだ? 前はこんなに引っ付いてこなかったじゃないか。

「もう人通り多くなるから離れろ。良いな?」
「了解、ですわ」
「ったく。余計に肩がこっちまったじゃねーか」
「うふふ。それほど緊張なさらずとも」
「分かってんならな」
「それに"勘違いされたら困るから"みたいなところですの? うふ。やっぱり周囲にはそう見えてしまうと言うことですわね」
「自覚あるんなら止めろ」

 そう言われても相変わらずピッタリと横をついて歩く。
どうやって歩幅を調節してるのか。ちとその辺のコツって言うのを聞いてみたい気もする。
そんでよ。そのノウハウをだな。なの――止めとこ。
聞いたとしてなんつって言うんだよ。
「隣で一緒に歩きたいからこうやってやるんだぞ」って言うのか?
他にも言いようはあるだろうけど、何もいい案が思いつく気配がない。

「私の足になにか付いてます?」
「い、いや。なにも」
「チラチラと視線を落としてますけど。靴は……みなと同じものですわ」
「だからなんでもねーって」
「そういう事にしておきましょうね」
「う、うぐぐ」

 下手に暴れたり口を開いたりするとド壷に嵌る。
そのまま二人で連れ立って部隊室まで帰ると、そこにはアタシが部屋を後にしたままの格好で寝ているヤツがいた。

「ほれ、ああいう風だ」
「ふーん。重症ですわね。身体が丈夫であることぐらいが唯一の取り柄ですのに」
「そりゃ言いすぎだけどよ。あれだけ凹んでるのは酷いだろ?」
「普段の心掛けが良いと筋肉痛にもなりませんのね」
「言ってろ」

 ふふんと自慢げなメンテなど知らぬフーガは、割と可愛げのある寝息を立てていた。


 


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