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新婚なの! 9-3 (4)

  
「ヴィータ。お風呂入っておいで」
「んー。分かった」

 以前のようにザフィーラ座椅子にもたれてノンビリとテレビを見ているヴィータ。
旦那様はどうしているかと言うと、大人しくシャマルと並んでソファーに座っています。
本当なら隣にくっ付いていたいところですが、幾ら座椅子本人に勧められ、長い付き合いになる仲だといっても流石に気が引けたからでした。
しかも、なのはの脳裏には人間型のザフィーラの姿もチラつくため、それも躊躇させる原因でした。
「詰まらんことを気にするんだな」というザフィーラと、「ザフィーラ分かってないわね」と思うシャマルなのでした。
そんな中。途中まで一緒にテレビを見ていたはやては、そろそろ時間ということで席を立ち、お風呂の準備。
それが整ったのでヴィータに勧めたところでした。

「よいしょっと。んじゃ先に失礼するわ」
「んもー。なんやの他人行儀に。あ、そや。久しぶりやから一緒に入ろか? な? うん、そうしよ」
「そーする? えへー、はやてと入るの久しぶ……」

 意気揚々と立ち上がるヴィータでしたが、そう言い掛けては、チラリとソファーへ視線をやります。
なのはは、如何にも今気がついたように振舞い、笑顔で手を振るだけでした。

「よーし。旦那様の許可も出たことやし、久しぶりに頭洗ったげるな?」
「お、おう」

 手を引かれて浴室へ向かうヴィータでしたが、直ぐにテレビへ視線を戻してしまったなのはが気になって仕方ありません。
本当に気にならないのか、気を使ってくれたのか。
さっきまでの態度からするに、普通に考えてはこう易々とはやてに譲りそうに無かったからです。
それでも、目の前のなのはは"許可"をくれた訳ですし、ここは大人しくはやてとのお風呂を楽しむべきだと気持ちを切り替えました。

「ヴィータ。着替え持ってきてる? あの鞄か?」
「そう。一応下着だけ。海鳴に帰る前に一回家に行くから。荷物少なくしたかったし」
「それもそか。普通こっちは日帰りコースやもんね……っと。それならもうちょい積極的に顔出してくれへーん?」
「うにににに。なるへくそーふるー」

 洗面所で服を脱いでは、ほっぺをムニムニされるヴィータ。
久しぶりのムニムニに手を重ねて、前もこうしてたなぁ、というヴィータに、はやてはそのまま続けました。

「そうそう、ヴィータ。その指輪、もういっぺん見せてくれへん? ああ、外さんでエエから」
「ど、どう? アタシさ、こういうの分かんないから」
「ふーん。随分とシンプルやね、うん。これはなのはちゃんが選んだんやったね?」
「そう。何だか加工が難しいとか何とか、お店の人が言ってた。ま、あんま色々付いてても仕事の邪魔だし、そうなるのイヤだからさ」
「せやね。なるべくそう言うのは排除したいわな。せっかくの結婚指輪なんやから。しっかし、それにしても」
「ん? どうしたのさ」
「あんときの話は笑ったわ、なのはちゃんってあない計画性の無い子やったかなぁって」
「ホ、ホントだって。アタシが金持ってなかったらどうする気だったんだよ、全く」

 ヴィータの左薬指に収まったままのシンプルな指輪を、表面を触ってみたり角度を変えたり、まじまじと見つめるはやて。
前に報告に来たとは然程興味を示さなかったのに、今日はどうしてしまったんだろう。とするヴィータに、視線を上げないまま聞きました。

「……なんやな、こない小さな手に指輪が収まってるの。改めて見てみたら不思議な気ぃして、な」
「そ、そか? アタシはもう慣れたっていうか」
「ふふふ。ああやってブツブツ文句言うてたのがつい先日みたいや思うのになぁ」
「そ、そうかな。もう2ヶ月近く経ってる気がしないでもないけど……う~ん」
「その馴染んだ指輪、大切にしや? くれた旦那さんと同じに」
「へ、へん。それはなのはに言っといてくれよ」
「照れない照れない。ホント、ヴィータは可愛らしい子やなぁ~。ぐいぐい~」

 顔を上げると同時に、頭を抱きこみ赤い頭をわしわしと撫でぐります。
かなり力が入ってしまってヴィータとしては痛いぐらいですが、その強さがはやての気持ちであるかのように感じられるのでした。

「さぁて。裸同士でいつまでもイチャイチャしとるのも旦那さんに悪いかね」
「あ、ああぅ。そうしてくれると有難いです」

 髪をクシャクシャにしたまま、いざお風呂へ入ろうとした時。ヴィータはあることに気がつきました。

「そういや寝巻き忘れた……」
「ふーむ。ちょいとした荷物減らしでなまかわしたらイカン言うことやね。どうする? シャマルにお願いするか?」
「どうだろ。家から家だし、一応引っかからないとは思うけどさ」
「まあ、出てから考えよか。アカンかったら探したげるし。ちゃ~んと捨ててあらへんよ、ヴィータの寝巻き」
「あ、そっか。アタシは持ってこなくて良かったんだ。ありがと、はやて。あ、でも、なのはの分……」
「なのはちゃんならシャマルと同じぐらいやない? 多分大丈夫やろ」
「う、うーん。そうするしかないかな」
「そうそう。ほれ、風邪ひいてまわん内に早う入ろな?」

 トントンと背中を押され、浴室へ入っていくヴィータ。
中には暖かな雰囲気満天さを演出するかのように湯気が立ち込め、今の我が家よりも一回り大きい湯船にはたっぷりとお湯が張られています。
くるくると髪を纏めている内にはやてにかけ湯をしてもらい、換わってかけ湯をしてあげてから、湯船に浸かります。
そのとき。先に入ったヴィータはとても自然に手を差し出しました。

「あっ、そっか。もう良いんだったよな。えへ、えへへへ」
「もう八年も前のことやのに。やっぱヴィータはエエ子やね。よしよし」
「う、ううん……」

 恥ずかしそうに俯くヴィータ。
こちらに越してくる以前にしなくなった、まだはやての足が不自由だった頃の名残。
どうして今のタイミングで出たのか。それは本人にも分かりませんが、はやては湯船に浸からずとも、とても暖かな気持ちになってのでした。

「ふぃ~。一番風呂は久しぶりや~。どうこう言う訳やないのに、なんや気持ちエエ気がするね~」
「うん。アタシも一番風呂は久しぶり」
「そうなんか? と言うことは何時もはなのはちゃんが一番風呂なん」
「うん。なのはは朝早いからさ。早く入れないとちっとも寝ないの。放っておくと遅くまで起きてたりするし」
「ふぅん。何時までもテレビ見てるとか? いや~、それはないと思うけど」
「あのさ。いつもって訳じゃないけど、仕事持って帰ってきたりして全然寝なくて。
 身体が資本の仕事してるくせによ、全然顧みなくって。人よりまず自分の心配しろって言っても聞かなくてさ。だから」
「ふぅ~ん。そうなん」
「いっつもいっつも人に心配かけてよ。あんなんで一人暮らししてた時のこと考えると、ホント寒気がす――ど、どうしたの、はやて」

 電灯の明かりを受けて、ゆらゆらと煌く水面を見つめながら、いつしか口調が変わっていくヴィータ。
その変化に、はやてはニヤニヤと口元が歪むのを抑えられません。
ハッと気づいた時に遅く、湯船に浸かっているにも関わらず、背筋に走る寒気に思わず後ずさりするヴィータでした。

「ふーん、ふ~ん。ヴィータってホンマお嫁さんしてるんやねぇ」
「そ、そうかな? いや、別にこれぐらいは何て言うか、その……」
「お嫁さんやのうてもする? そうやろか。まあ、本当になのはちゃんのことが好きなら当たり前かも知れへんけど」
「す、好きぃっ!? ど、どどどどうしてそう言う話になんのさ!」
「どうしてって。私はお友達やけど、そこまでしたれるか?って聞かれたらちょいと疑問やなぁ」
「は、はやてだって一緒に暮らしたらさ。思わずそうしちまうって。はやては優しいもん」
「そやろかね」
「け、結婚する前からしてた事だし、あんま特別してるって感じしなくて。どうしても、なんか放っておけないっていうか……」
「まあ、放っとけない感じいうんは同意するかな」

 視線を逸らすヴィータに対し、天井を仰ぎ見るように湯船の縁にもたれ掛かるはやて。
立ち込める湯気と、それに乱反射してボンヤリと柔らかに明かりを灯す電灯。
雰囲気はとても暖かな浴室ですが、その一瞬だけ。
足の先が触れ合いそうな距離が、とても遠くに。一つの湯船に浸かっているとは思えなく感じるのでした。
その距離感がヴィータを押し黙らせます。
そして、横たわる沈黙がぶくぶくと大きくなっていき、息苦しくなってきた頃。
はやてはそのままの格好でボソリと呟きました。


 


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コメント

ザフィーラが椅子扱いになってるΣ('-'っ)っ
似合ってるしそうだと思うけどザフィーラを誉めていいのか嘆いたらいいのか^^;
指輪を買った時の話から気になってましたがやっぱり何か仕掛けあるのでしょうか?
どちらにしろ次回も楽しみに待ってますねw

投稿: 時祭 | 2008年4月 1日 (火) 01時02分

ザフィーラ座椅子は、A's3話ではやてとヴィータがそうしていた頃からの八神家の伝統なのです。

今後とも当ブログを宜しくお願いいたします。

投稿: あや | 2008年4月 1日 (火) 20時10分

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