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新婚なの! 9-2 (1)

「せっかく来てくれてこないな話するのもなんやけど、何時までおれるの? 今日ぐらいは泊まっていけるやろ?」
「うん、そのつもり。だけど明日の夜にはこっちを発たなきゃいけないかな。ね、ヴィータちゃん」
「そうなんだ、はやて。時差とか考えて、向こうに昼前には着きたいから」
「発つってどこへ? 向こう言うことは……まさか新婚旅行?」

 お茶請けを幾つか空け、先ほどとは打って変わってマッタリ雰囲気。
正午過ぎにやってきたので三時のオヤツには丁度良い時間。
そろそろ夕ご飯の準備をしようかというはやては、煎餅を銜えたまま少々行儀悪く尋ねます。
二人の返事は予想通りのもの。
何かと忙しい、特になのはは短期の教導が多いとは言え、先週のように様々な世界、部署へ出かけなければなりません。
連休を取るのは非常に困難であることは誰の目にも明らかですが、万が一と思い確認を取ったのです。

「新婚旅行ってほどロマンチックなものじゃないけどね。海鳴に帰るんだ」
「なのはの実家にも挨拶いかねーとさ。だから何とかして休み取ったんだ。また何時になるか知れないし」
「そやね。うん、なるべく早い方がエエやろうと思うよ。向こうさんも待ちくたびれてるんやない?」
「ああ、それはないと思うよ」
「なんで? なのはちゃんとこは大騒ぎやったんやないの? 特に士郎さんとか。流石に次元の壁は越えられへんやろうけど」
「ううん。だってね。まだ言ってないもん」
「「――――はぁ?」」

 ポッキーをフリフリ、真面目な振りして二人をからかうようにニヤニヤするはやて。
しかしその顔も一瞬だけ。思わずポッキーをスカートの上に落としてしまいます。
それはヴィータも同じで、呆気に取られ思わず咥えていた煎餅を落としてしまう始末。
それほどなのはの発言はとんでもないモノなのでした。
まさか、未だに親に報告していなかったなどと誰が思ったでしょうか。

「驚かせちゃおうかなーって。うん、二人がそんなに驚いてくれるなら大丈夫そうだよね」
「あ、ああ、あ……」
「もう、ヴィータちゃんまでそんなに驚かなくても良いのに~」
「――アホっ! んな話じゃねーよ! 娘が結婚するだなんて一家の一大事だろうが! それを黙ってるだなんてどういう神経してんだ!」
「ま、まあ、ヴィータの言う通りかな。流石に一ヶ月黙ってるいうのはアカンことない?」

 ヴィータのボルテージは一気に沸点を突き抜け、家の中で出す声としては非常識なレベルの大声で怒鳴りました。
怒られたことよりも、その声の大きさに驚いてキョトンとなってしまうなのは。
ヴィータの後ろから顔を覗かせては、はやても控えめに同意します。
しかし、当の本人は誤解があるのだと言いたげに首を振るのでした。

「なんだよ、聞いてやるから言ってみろ」
「あ、あのね。そういうのもあるけど、面と向かって言わないと向こうで大騒ぎしちゃいそうで。その、戸籍のこととか。
 特例でメールのやり取りは出来るけど、やっぱりちゃんと顔を見て報告したいってのが本音というか。さっきのは冗……うん、ごめんなさい」
「……あのな。アタシ相手だから良いものの。過ぎるぞ、なのは」
「そういうこと。ヴィータ相手やとちょいと気が緩みすぎやない? 戦技教導官さま」
「うぅ……ごめんなさい」
「それは桃子さんと士郎さんのときにな。アタシに言ったってしょうがねぇだろ」
「は~い」

 はやてにとって、今のヴィータとなのはの関係は、殆ど自分の知らないところで構築され、ぼんやりとしか把握していません。
飽くまでもフェイト・なのは・ヴィータという間柄で、フェイトとヴィータの役割がある程度互換性を持ったものだと。そういう認識でした。
しかし、今のヴィータの怒り方となのはのしょげ方。
お互いが好きあっている恋人、または夫婦というより、お母さんと娘といった方がしっくり来そうな勢いです。
その点。なのはとフェイトは、フェイトの心配性という気性を抜けば恋人同士のような関係でした。
ですから、そんなフェイトと互換性をもったヴィータ、という関係であると踏んでいたはやては、表には出さないものの大変驚いていました。

「(ふーん。こりゃ思ってた以上に面白そうやわ)」
「まあお前の言うことは分かる。アタシはさ、その辺メールで済ませちまったのもあるし。あんま文句言えねぇっていうか、その」
「でも、ヴィータちゃんは結婚の了解取りにはやてちゃんに一回会ってるし」
「いやさ。そういう問題じゃなくてよ。こういうのはキッチリしとかなくちゃいけねーんだ」
「(ふぅん。好きな子に悪戯する・されるってだけの関係やないわけや。ヴィータと……特になのはちゃん。何があったんやろかね)」
「でも、明後日には報告できるわけだし。ギリギリでヴィータちゃんに言うつもりだったから」
「なんでだよ」
「だって」
「だってなんだよ」
「……今みたいに怒られちゃうから」
「!? ぶっ……うわっはははははは!」
「わっ! な、なんだよはやて。急に大声出したりして」
「あっははははははは! あー、ひー。いやぁごめんごめん。ちょっと考え事してたところやったもんで。それにしても、こりゃ傑作やなぁ」
「ったくもう。はやてはいっつもそうんだからさ」

 まさか。
鬼教官、とまでは行かないものの厳しい高町教導官。しかも魔導師ランクは空戦S。
この若さにて不屈のエースオブエースと呼び声高い人が、見た目小学生の女の子に対して「怒られちゃうから」
こんな愉快なことがあるでしょうか。
今まで教導を受けたことがある人。一緒に空を飛んだことがある人。関わった人たちに言ったところで信じては貰えそうにありません。
一瞬で様々な場面が脳裏を駆け巡り、堪らず噴出してしまうはやてでした。

「そんなに面白いこと考えてたの? 昨日見たテレビ番組とか?」
「うーん。まあ、そんなところやね。さてさて。今晩は何食べよう? リクエストあるならこの八神はやてちゃんがお応えするけど?」
「マジか!? わーい! はやてのご飯久しぶりー」
「私も久しぶりー」
「そんなに期待されては頑張らんわけにはいかんね? うりうり、このヴィータの柔らかほっぺを落っことしてあげるわ~」
「えへへ~、はやてのなら本当にそうなっちゃうかもな~」
「む、むー!」

 正に子供のように喜ぶヴィータの頬っぺたを突付くはやて。
久しぶりのやり取りに、思わず出会って間もないころの外見相応な反応をになってしまいます。
それが嬉しくて、はやても思わず抱き寄せて、頬をスリスリします。
ただ、そんな微笑ましい光景も一人放っておかれた旦那様は面白くありません。
自分を放って嫁に抱きつく十年来の親友に、抱かれて嬉しそうにする嫁。
いくら姉と妹とは言え、黙って見過ごすわけにはいきません。

「ダメ! ヴィータちゃんは私のお嫁さんなんだから! それは私の役目なの!」
「わっ、ちょっと! そないなこと言うたかてヴィータは私の妹でもあるんやよ? これぐらいエエやんか。なぁ、ヴィータ」
「ダメったらダメなの!」
「いた、いたたたたた! ちょ、ちょいと引っ張らないでくれ二人とも!」

 二人に腕を取られ、両方へ引っ張られるヴィータ。
ガッチリわき腹へ腕を回している分、はやてが有利でしょうか。
二の腕を両手で掴んで引っ張るなのはに、ヴィータに抱きつき頬擦りしながら余裕の構えをするはやて。
そんな二人のやり取りは、さながら大岡裁きを彷彿させます。

「ヴィータが痛いそうやよ、なのはちゃん」
「はやてちゃんこそ。ヴィータちゃんが痛がってるよ」
「ど、どっちでも良いから離してくれよ。頼む……」
「なのはちゃん。大岡裁きって話、名前ぐらいは聞いたことあるやろ?」
「何が言いたいのかな、はやてちゃん。知っているのなら言った本人がそうしたら良いと思うよ、私は」
「よくご存知やない。だったら私に手を離すよう勧めるんは、ちょいと筋が通らんのと違うかな。そうやろ?」
「さぁ? とにかく。ヴィータちゃんは渡しません」
「それはこっちの台詞や。こない可愛い子を離したりする訳ないやない。なー? ヴィータ」

 結果はどちらにしろ、大岡裁きの話が出た時点で抱いた淡い期待は、ぶつかり合う二人の意地によって儚くも砕け散ってしまいました。
穏やかな口調の下に隠された、二人のこの手を離すまいとする意思に、ヴィータは今にも泣き出してしまいそうでした。
どっちに付こうが、どちらにしろ碌なことにならない。
はやてに頬を突付かれて、デレっと目じりを下げていたのが、遥か昔のことのようにさえ思えてきます。
そんなヴィータの両隣で未だに笑顔で睨みあっている姉と旦那。
Sランクの二人がこれほどの緊張状態。
並みの人間ならその空気に触れてだけで泣き出してしまうほどです。

「早く諦めて離して。ヴィータちゃんのことを可愛いと思ってるなら、どうするべきか分かってるよね?」
「なにが。可愛いヴィータを離すわけないやん。可愛かったら腕を離す? まさか。可愛いからこそ離さへんのや」
「……ふふふ。同感だね、はやてちゃん」
「流石なのはちゃん。世の中の道理が分かってるやないの」
「うふふふふ」
「にへへへへ」
「……???」
「あ~ん、もう~! やっぱりヴィータちゃんは可愛いなの~」
「うぅ~ん。このホッペのモチモチ具合。堪らんなぁ」
「???!!!」

 一体二人の間に何が起きたのか。
一触即発。
見た事はないけれど、二人が本気で喧嘩を始めてしまったらどうすれば良いのか。
ヴィータの心配は既にこのマンション。そしてこの街全体へと及んでいました。
しかし。そんなヴィータの心配など知らぬ顔。
いきなり二人は笑い出したのです。
呆気に取られるヴィータ。
抱きついて広がる髪の毛に顔を埋めるなのは。
改めて頬擦りを始めるはやて。
訳の分からぬ展開に、先ほどまでとは別の意味で泣き出してしまいそうなヴィータでした。


 


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