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2008年4月29日 (火)

新婚なの! 10-1

 
 いくつか転送ポートを経由して、日本に到着。
最後のポートまでは渋滞もなく順調でしたが、最後で引っかかってしまいました。
転送先の安全確認――この場合は誰かに見られてはいけない、という"安全"――に手間取ったのが原因です。
モニターで様子を伺い、最低、周囲100mばかりに人気の無いことを確認。それからの転送となりました。
場所は人気のない、臨海公園の雑木林の中。
真っ白な光の中、目を開けるとまた辺りは靄が漂い、まだ転送中のような意識のはっきりしないような印象を抱かせます。
辺りを伺っていると、途端に飛び出るくしゃみ。
こちらもそろそろ冬の足音が間近に聞こえる時期、それなりの格好をしてきたつもりでしたが、少し肌寒かったようです。

「うぃ~、ちょっと寒ぃな」
「私も。だったらもうちょっとこっち来てー」
「むぐぐ。ったく、しょうがないヤツだな」
「んも~、素直じゃないだから、ヴィータちゃんは」

 お互い寒いのですから、くっつくのは道理に適っているとは言え、あくまでなのはがそうしたいという態度を崩さない。
なのはもなのはで、そういうヴィータが好きなのですから、別に構いはしません。
それでも、素直にしてくれれば文句はないのですけど、これからだよー、とばかりに余裕の構えです。

「ふぃー。それにしてもひっさしぶりだな……って。なのは、どうかしたか?」
「う、ん? どうかしたの、ヴィータちゃん」
「そりゃこっちのセリフだ。どうかしたのかって聞いてんの。何だかボーっとしてさ」
「そんなつもりはなかったんだけど。ああ、もう良いじゃない。ほらほら」
「こ、こら! 質問に答えろ! なのは!」
「はいはい。まだ朝早いんだから声が響きますよ~」

 荷物で両手の塞がったヴィータは、両手で背中を押されて雑木林の中を進んでいくのでした。
雑木林を抜け、朝日を照り返すキラキラと眩しい海を臨み、潮の香りを懐かしみながら臨海公園を歩く二人。
陽の光が降り注いでいますが、それでも海からの風が頬や髪を撫ぜ、その熱を奪っていってしまいます。
一層身体を寄せ合う二人。
空と海からの光が眩しく、ぽつりぽつりと見える人影は黒くなり、それは相手からも自分達がそう見えていることを現しています。
それならばくっ付いていても気にすることはなく、なのはもそれを踏んで黙ってそのまま。
幾らか歩き、そろそろ臨海公園を抜けようかとする頃。
いささか遅い疑問ではありましたが、聞かないわけにもいかず、なのはに尋ねるのでした。

「なあ、やっぱこの時間は早かったんじゃないのか?」
「どうして?」
「これからお店の準備するんだろ? そんな忙しい時に帰ってきたら迷惑だろ。あ、そういやお前――」
「ちゃんと連絡してあるよ。だから午後からお店を手伝うことになってるんだ。宜しくね、ヴィータちゃん」
「ああ、それならべつ……っておい。アタシも手伝いこと決定なのかよ」
「そりゃ私のお嫁さんなんだもん。管理局を辞めたりした時に役に立つよ、きっと」
「や、辞めたらってお前……だったら精々開店資金を貯めるんだな。自分で」

 なのはの勝手な将来設計にヴィータはぶっきら棒に答えますが、最後の一言には力を込めて。
案の定「え~!」と不満の声を上げるなのは。
朝だから声が響くと言ったのはどこのどいつだ、などと言ってもその耳には届いていません。
釈迦に説法、とは重々承知していますが、店の経営など大変でとてもじゃないが思いつきで出来る物じゃないと文句を言います。
そんな心配などどこ吹く風、とでも言いたげに、なのはは自分をぐいぐいと押しながら、二人で経営する喫茶翠屋ミッドチルダ店に想いを馳せています。
いい加減にしろ、と身体を捻って肩越しに覗きますが、当人の幸せそうな顔を見て、暫く放っておくことにするのでした。
せめてもの抵抗として、一つ盛大に溜息を吐いて。

「ふぅん。この辺りは人通りが多いな」
「そだね。全然変わってないように思えるよ。こうやって学校に行ってたなぁって」

 臨海公園を抜け、大通りを渡り街中に入っていきます。
この辺りになれば人通りも多く、スーツ姿のサラリーマンに制服を着た学生。そろそろ背負う鞄の姿も様なってきた小学生。
忙しそうに行きかう人々を横目に歩くヴィータとは別に、なのはは懐かしそうに眺めていました。
見上げる顔に、ふと思い出す。
数年前はこの中に混じって、なのは達も毎日のように学校に通っていたんだと言うこと。
そうして考えるのは、管理局に入ることなく、また、自分たちの姿が時と共に変わっていくのであれば、普通の高校生としてこの中に居たのだろうか、と。
もしや、その往来の中に顔見知りが居たりするのではないだろうか。
だとして相手がこちらを見つければ面倒だ――と、口には出せず胸の内に収める。
なのはとしても、久しぶりに友人と会うなどして、それを「面倒だ」などといって片付けられては悲しむに違いない。
ヴィータはなるべく早くにこの場を離れることにしました。

「おい、行くぞ。桃子さんたちが待ってるんだからな」
「……そだね。朝は忙しいから」

 これなら傷つけずにすんだろうか。
一応。その時の用意はしてあり、言い訳を考えてないわけではない。
事前に二人で口裏あわせを行っていたのだ。
だからと言って……
ヴィータがなのはの横顔を見つめたまま、あれこれ考えていましたが。

「考えてた言い訳、使わなくて済みそうだね。せっかく考えてもらったのに。ホント言うとちょっと面倒かな~って。えへへ」
「……まったく。そんな言うなら今度からアタシは手を貸さないぞ」
「え~、そんな意地悪言わないでよ~」

 荷物を持った手の、負担を減らしてくれるかのように手首を持ち上げてくれる。
なのはとしては気を使ってくれたのだろうか。
引っ張るように前を歩くその顔を見ることは出来なくて、判断がつかない。
けれど。この握る手から伝わる温かさ。
肌寒さのせいか、それとも――
ヴィータは、なるべく良い方向へ考えたとしても悪くは無いだろうと、そのまま黙ってついていくのでした。

 

 

「ねぇ、ヴィータちゃん。一つ聞いて良いかな」
「今更一つ位で伺ったりすんなよ。で、なんだ。こんなとこまで来て」
「あのね。私の家から先でよかったの? なんならヴィータちゃんの用を先に済ませても……」
「あ、あのなぁ。それならこっちに来る前に言えよ」

 二人はどのくらい久しぶりになるか正確に言えないほど久しぶりに、高町家の前に立っています。
表通りから入った住宅街の中でも、辺りは朝の通勤通学で足早に道を行き交う人たちの気配を多く感じます。
きっと家の中でも朝の準備に追われている人たちが、バタバタと家の中を歩き回っていることでしょう。
そんな中。
ヴィータはなのはの的外れな気遣いに思い切り顔を崩すのでした。
その時初めて気付いたのか、なのはは取り繕うように乾いた笑いをするのが精一杯。
気が利いてるのか利いてないのか。
気に掛けてくれるのは嬉しいけれど、出来ればもう少し早く言うか、普段の我侭を減らしてくれ――
ヴィータは今日二度目の溜息を吐く羽目に合うのでした。

「アタシの用事は明日で充分だ。それも帰る前でさ。だから今日は一日こっちでゆっくりしろよ」
「い、いいの? 私は別にどっちでも……」
「ダメだ。結婚の報告もしてねーし、大体前に里帰りしたの何時だよ? ちゃんと思い出せるのか? 出来ないだろ」
「え、え~っと…………あはは。その通りです」
「それみろ。だから今日は一日親孝行しろ。そんで一番最初に報告だ、いいな?」
「はーい。分かりました」
「ったく。しょうのないヤツだな。ほれ、インターホン押せよ。アタシは両手が塞がってるんだから」

 荷物をぶら下げた両手を、さも重そうに振舞えば、無言で頷くなのは。
そんなことしなくとも自分の家なのですから、押すのは当たり前だとしても、久しぶりの実家。
柄にもなく緊張の面持ちであったのを察して、背中を押してあげるのです。
一つ息を吐き、ゆっくりと手を伸ばします。
普段との様子の違いに、思わず可笑しくて笑ってしまいそうになるのを抑え、なのはの指先をジッと待ちました。
何度も深呼吸しながら伸ばした手は、ついにインターホンを捉え、ゆっくりと押し込まれると、ピンポーン、と懐かしい音が聞こえます。
ピンポーン。
二度目の知らせが静かに響きます。
ミッドチルダでは聞くことのなくなった、その懐かしい音を感慨深く思う間もなく、玄関向こうの様子に耳を澄ませます。
しかし、二人の耳に届くのは、相変わらずどこか遠くを行きかう人々の気配だけで、高町家の中からは一向に聞こえてきません。
顔を見合わせる二人。

「……おい。まさかとは思うが」
「それはないと思うな。だって、そんなに早くは出かけてなかったもん」
「コレに関しては信用するけどな。今日は偶々早くに出たって可能性は?」
「う~ん、私が帰ってくるって伝えてるんだからそれはないと思いたいなぁ」
「だとすると――」

 特に次の言葉が思い浮かんだわけではありません。
けれど、なにかあったのでは?と考え始めたところで、ドタドタと太鼓を叩き鳴らすような足音が聞こえてきました。

「なのはっ!?」

 玄関が勢いよく開け放たれ、その場で押し合いへし合いお互いが引っかかっている三人。
見事にバランスが取れているのか、ひっかかったまま身動きが取れなくなっています。
思わず噴出す二人。
何だ何だと、お互いがお互いに譲るように言い合っていた三人も一瞬にして静まり、釣られて笑い出しました。
静かな朝。
図ったように、近くで雀などの鳴き声が、遠くの喧騒の合間を縫うように聞こえ。
感じた肌寒さも少しずつ温まっていき、澄んだ青空に上り行くお天道様の下、暫く家族の笑い声が響くのでした。

 

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2008年4月27日 (日)

リリカルなのはカテゴリー

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2008年4月26日 (土)

新婚なの! 9-18

 
「はぁ~、肩こった。もうちっと早く助けろよな」

 仰々しく首を捻っては肩を鳴らし、肩がこったとアピール。
はやてとなのはは用があると席を外してしまい、この場には自分とザフィーラしかいません。
本当は肩なんて凝っていないのですが、次に会うのはいつになるか分からない相手に対しての口実なのでした。
しかし、相手にはそのような気持ちなどないのか、前足に顎をぐったり乗せたまま片目でチラリと伺うだけです。
反射的にスリッパを投げつけても。
ふんわり飛んだスリッパの柔らかい部分が、首周りにふさっと当たるだけ。
「投げつけた」割には柔らかい反応に、変な気遣いなんてしてやるんじゃなかったと思うのでした。

「なぁ、こんな朝早くからどこ行ってたんだ? 散歩にしちゃ変だよな」
「……護衛、というのも大げさだがな。散歩と称してな」
「ふぅん。別に実害があるわけでなし、大げさすぎないか?」
「女の一人歩きは危ない。それに、シャマルも気味悪がっているしな」
「それもそっか。……はやては?」
「主にも出来るだけ同行させて頂いている。ただ研修に事件にと、機会は少ないがな」

 毛の多いその顔からも不安や不満が見て取れます。
心配性だな、と思いながらも、はやての元を離れてしまったことで後ろめたい気持ちもあり、それを口には出来ません。
ヴィータは"その視線"の主に対して苛立ちを募らせます。
それでも。はやてのこれまでと、これからを無駄にするわけにはいかず、ただグッと堪えるしかありませんでした。

「主とシャマルのことは任せておけ。お前は代わりに自分の伴侶を守ってやるんだな」
「……うん? なのはもそうなのか?」
「そうだ。言うならばテスタロッサも対象らしい」
「……はやてを中心に仲がいい連中は全部ってことか」

 首をもたげ、黙って頷く。
全く予想外とまでいかなくとも、事実であると分かれば多少なりともショックであるものです。
特になのはは自分と結婚したことでマークが強くなっているのではないか。
自分に心配をかけまいと、"その視線"に気付いていても黙っているのではないか。
あの分かりやすいなのはが、もし隠しているとすれば……
素直な分、顔に出やすいヴィータ。
ザフィーラは起き上がると、ソファーで難しい顔をしてるヴィータの足元に移りました。

「高町は教導隊だ。我らの中ではテスタロッサの次に近づきにくい相手だろう」
「う、うーん。そう言われりゃそうかもしんねーけどさ」
「何を心配している? 高町に足を引っ張られる主か。それとも高町自身のことか?」
「う、うっせーよ!」
「一人で二人も三人も守ろうとするのは贅沢だぞ、ヴィータ」

 その言葉に反論の言葉を飲み込んでしまう。
図星だな、とでも言いたげな顔をするザフィーラから思わず目を逸らします。
確かにその時。
脳裏には仲の良い人たちの顔が次々に映し出されていたからです。
それに、なのはに要らぬ心配をかけやしないか。はやてがそのことを知って胸を痛めたりしないか。
その表情の通り。
見事に図星を指されていたのです。

「悪い癖だ。それは昔から変わらぬな。いや、寧ろ悪くなったぐらいだ」
「ふん! うっせーよ! そうそう簡単に変わるってんならお前の辛気臭い表情、何とかしてみせろよな」
「し、辛気臭い……」
「ニコッとしろとは言わねーけどさ。犬じゃねーときぐらい愛想良くしてみせろって」
「む、むむ……!」
「それにさ。近所の犬だってもう少し可愛げあるぞ? こうだな、口の端をむにーっとあげて」

 口に手を突っ込み、無理やり笑った顔を作らせます。
口だけは笑ったように見えますが、割と鋭い歯がぎらりと並び、赤い歯茎がその白さを際立たせています。
しかも目は全く笑っていないので、不気味なことこの上ありません。
これなら無愛想な方が幾らか印象が良いだろうと、手を放すのでした。

「うわっ。涎、ばっちぃ」
「……人の身体で拭くな。ちゃんと手を洗って来い」
「へーい。分かりましたよーっと。それ、いけザフィーラ。洗面所だ」
「……仕方あるまい。しっかり掴まっているんだぞ」

 背中に飛び移ったヴィータを乗せて、ザフィーラはゆっくりと洗面所へ向かうのでした。

 

 

「ヴィータ。今日はどのくらいにこっちを発つ予定なん?」
「う~んと。お昼過ぎー。移動時間とか時差とか考えるとそれぐらいで丁度よくなるはずだから」
「そか。んならお昼は一緒できるね」

 着替えを済まし、こちらから持っていくもののチェックをしていると、はやてが時計を気にしながら聞きます。
予定を聞くとゆっくりと席を立ち、腕まくりをしながら台所へ向かいました。
お昼ご飯を作ってくれるようです。
時間としては少々早い気もしますが、作ってくれるのですから文句はありません。
しかもそれがはやてとあっては尚更のこと。
ヴィータはアンテナをピン!と立てながら、足を跳ねてソファーから降り、はやての後を追いかけました。

「うんもー。ヴィータちゃんたらホントにはやてちゃんの事が好きなんだからぁ」
「そうだな」
「ザフィーラさんもそう思います? あ、そうだ。今なら聞こえちゃったりしないかな」

 荷物チェックを放り出してしまったヴィータの代わりをするなのは。
ザフィーラの声に耳を傾けながらも、視線はヴィータの背中を追ったままです。
そうしたまま、別に聞こえなければそれで良いといった具合で、ボソリと呟きました。

「ヴィータちゃんって、はやてちゃんの所に来た時から、ずっとあんな感じでしたか?」
「……いや。そうでもなかったぞ」
「ふぅん。やっぱりツンツンしてたんですか?」
「どちらかと言えば戸惑いの方が大きかったかもしれん。それはヴィータに限らず、だが」
「戸惑いかぁ。はやてちゃんって変わってたのかな。私はそうは思わないけど」
「我らにとって。我らの世界とは主が全てであり、それ以外はないも同然、という面があることは否定しない。
 その上で"今までの主"を基準に考えれば、八神はやて、としてではなく、我らの主としてはそういう事かもしれん。
 ただ、これまでの暮らしで広がった世界から考えれば……ヴィータの戸惑いもどちらの意味であったのか。それは分からん」
「……暗に変わり者だって言ってるようなものですよ? ザフィーラさん」
「む……。ただ、今までの我らの経験からすると、今の主はイレギュラーであることは否定しない」

 お互いに視線を合わせることなく、独り言でも呟くように会話は続いていきます。
なのははヴィータを。
ザフィーラははやてを。
視線の先にいる二人が楽しそうにお昼ご飯の用意をしているのを、とても楽しげに見つめています。
ただ、表情に反して声のトーンはそれほど高くありませんでした。

「ヴィータちゃんってああ見えて人見知りっていうか、初対面の人に弱いですよね」
「そういう意味でシャマルは強いな。物怖じしないとでも言おうか、この時代にも一番に馴染んだからな」
「ふふふ。そういうイメージですよね。どこへ行ってもやっていけそうで……一番バイタリティ溢れてるのかも」
「アレも昔はそうでなかったのだがな」
「へぇ~。じゃあ、ザフィーラさんとシグナムさんはどうだったんですか?」
「……シグナムは表面上、余り変化はないかもしれんな」
「うふふ。ザフィーラさんでも照れたりするんですね」

 僅かな沈黙と上擦った語尾。
それが照れから来るものであるのは明白で、初めてザフィーラのことが可愛いと思いました。
実際のところどうなのか。
後でヴィータから聞いてみるのも良いかも知れない、と思いながらも、今日のところは止めておくことに。
それより出来るだけ自分の知らないヴィータの話を聞くことにしました。

「はやてちゃんに戸惑うヴィータちゃんなんて想像できないな、私」
「こちらに現れて十年。我等とてあの日の出来事は夢の中の出来事のように感じるぐらいだ。そう感じて当然だろう」
「ちょっと見てみたかったな。はやてちゃんにツンツンするヴィータちゃん」
「……ヴィータと初めて会った時のこと。覚えているか」
「初めて、ですか? そうだなぁ……覚えてますよ。インパクト抜群でしたから」
「それの少しまろやで、戸惑いを足した分で想像すると近いかもしれん」
「ま、まろやか、ですか」
「初めから従者として対するのと、敵対するのと。それだけの違いだ。前者が主であり、後者が高町だった」
「基本的に同じなんですね。そっかぁ。素直になれずツンツン戸惑うヴィータちゃん……うふふ」

 自分に対する態度の違いは、主であることと、そうでないことだけ。
けれど今は夫婦なのですから、きっと近いうちに、はやてに対するそれと近くなっていくのかもしれません。
そんな希望観測と共に、自分に対するように、はやてにツンケンするヴィータを想像します。
今のデレ期を分かった上で、想像するそれは愉快でしょうがありません。
もし、出会った当初の態度を今に見せてあげたら悶絶してしまうんじゃないかしら。
台所へ視線を投げたまま、楽しげに笑うなのは。
ザフィーラは楽しげな雰囲気を感じ取ると、ゆっくりと瞼を下ろします。

「私、こんなにザフィーラさんとお喋りしたの初めてかもしれませんね」
「……少々、お喋りが過ぎたようだ」
「ふふふ。今後もこういう機会があると嬉しいですね、私としては」
「家族になったのだ。この先幾らでもあるだろう」
「そうですね。じゃあまた今度、お願いできますか? ヴィータちゃんのお話」
「ああ。精々ヴィータの耳に入らぬよう気をつけねばな」

 荷物を纏めた鞄をに寄りかかるなのはと、前足を組んで寝そべるザフィーラ。
二人の鼻と耳には、美味しそうなお昼ご飯を予感させる匂いと、賑やかな音が届いているのでした。

 

 

「そんなら宜しくね。粗相するんやないよ。ヴィータなら大丈夫やとは思うけど、まあ一応な」
「大丈夫だって。そんじゃお土産楽しみにしててくれよ、はやて」
「最近私も帰ってへんし楽しみにしとくわ。ああ、なのはちゃん。そっちもお願いね」
「うん。義姉さんからの大事な言付けなんだから。それでなくても、顔は出すつもりだったから」
「そか。んなら久しぶりに実家、楽しんできてな」
「二人とも道中気をつけてな」
「お。お前がそういう心配するって珍しいな」
「そういう日もあるよ、ヴィータちゃん。ねぇ、ザフィーラさん」

 軽くウインクするなのはに視線だけで応えるザフィーラ。
ヴィータは不思議に思いましたが、はやてだけは何か納得している模様。
いつまでもここに居るとヴィータに付き合わねばならなくなってしまうので、強引に手を牽いてその場を離れるなのは。
当然不満たらたらに、何だ何だと声を上げながら遠ざかっていくヴィータに、はやては二人の姿が見えなくなるまで手を振るのでした。

「う~、寒い寒い。折角温まったのに冷えたら勿体無いわ。さっさと中に入って温まり直そかね」

 黙って頷き玄関ドアを開けるザフィーラ。
犬状態で器用にこなすものだ、と何度かテレビ出演も考えたはしましたが、こちらの世界ではそれほど珍しくなかったようです。
玄関で足を拭きているザフィーラの尻尾を見つめながら、何か芸でも仕込もうかと思案します。

「まあ、それはエエとして」
「何でしょうか、主」
「結構なのはちゃんと仲がエエんやね。あんま接点ないと思ってたんやけど。何かあったん?」
「いいえ、特には。ヴィータの扱い方をレクチャーしたぐらいです」
「ふ、ふふふ……クレチャーかぁ。そりゃ教えたらないかんねぇ、義姉としては」
「是非そうなさってください。高町も楽しみにしているそうです」

 先に上がり主を待つザフィーラ。
突っ掛けを乱雑に脱ぎ捨て、さっさとリビングへ引っ込んでいくはやて。
ザフィーラは黙って突っ掛けを揃えると、ほんの少しご機嫌斜めな主の下へ向かうのでした。

 
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2008年4月24日 (木)

まさかそうくるとは


 今日はメーテルのコスをイメージされているらしい麗の出番です。

 出だしがなにやら深刻な雰囲気ですが――


昨日まで――ホタ姉様がバス派だなんて――知らなかったんだもの。


 いや、これは深刻です。
旅行というのは道中どうするのかも大変重要な要素なんですから。
この兄に頼み込む――しかも他の家族も覗くであろう日記で――なんの工作にもならないじゃない。
しかし、それほどに必死なのが窺えるというものです。

 この「ホタ姉様がバス派だなんて」という言葉。
これは麗同様に蛍はバスが好きだと言うことなのか、それとも単にバスでの移動を主張しているだけなのか。
麗のことですから、電車でないと分かって大げさに言っている可能性もありますが。
もし蛍がそこまでバスが好きだと言うなら、それはそれで!
しかし、単に家族の都合を考えた上でバスでの移動を主張しているなら。
例えば「電車で20人移動するのはお金が掛かる」「荷物や座席の確保が(小さい子組のために)難しい」という点であるかもしれません。
けれど、「昨日まで知らなかったんだもの」という辺り、単に都合のものでは済まない気がします。
やはり、蛍は麗が電車を愛するようにバスを愛しているのかもしれません。

でもまあ、麗のことですからやっぱり単に先走って勘違いしてるって可能性も捨て切れませんけど。


あなたはただ――麗に賛成って言ってくれればいいわ。


 これって、普段兄は「麗」と呼び捨てにしているのでしょうか。
別の家族なのだから構わないわ、ということかしら。
なんとなく、氷柱と麗は呼び捨てにされるのを嫌がるようなイメージだったのですけど。

 こんな無理難題を吹っかけて明日当たりに家族会議の顛末が語られるのでしょうね。
前回海晴姉が来てますから霙姉か、それとも当事者の一人である蛍でしょうか。
なんだか結局電車になってしまいそうな感じもしますけど。
「ちゃんと小さい子たちの面倒も見るから!」とか麗に約束させて。以前の真璃のときのように。

 

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2008年4月21日 (月)

新婚なの! 9-17

 
「はーい、ご飯だぞ~」

 火が入っていくらか経たち、目が覚めていう家に久方ぶりの声が響きます。
台所からはフライパンの上で踊るウィンナーとベーコンの油が焼ける匂い。
それに混じってトーストが色づいていくのを知らせる香りが漂い、テーブルの二人の口は自然と潤ってきます。
フライパンが揺れ、お皿が並び、冷蔵庫の扉が開閉するリズムにのせてカウンターの向こうで赤い頭が忙しなく動きます。
チン、とトースターが軽快に音を鳴らせば、湯気と足音と共に朝食が運ばれてきました。
そこにはちゃっかり席に着いて、ご飯を待つばかりの二人。
特にはやては、足をバタバタと年甲斐もなく喜んでいるのでした。

「ごめん、はやて。あんま凝ったもん作れなくて。何だかすんげー普通の朝ご飯になっちゃった」
「気にせんでエエって。ちゃ~んと約束守ってくれただけで幸せや」
「そうだよヴィータちゃん。何も特別じゃなくたって良いじゃない。その気持ちが大切なんだから」
「う、うっせーよ。こういうのは自分で口にするこっちゃねーだろ」
「さてさて。冷めてまわん内にヴィータの作ってくれた朝ご飯、ご馳走になるとしよかね」
「はーい。ほら、ヴィータちゃんも座って座って」

 三人分の朝ご飯。
ヴィータが席に着くまでに、なのはが全部のトーストにバターを塗っておいてくれます。
はやては調味料と紅茶の準備をこなしました。
三人揃っていただきます、の挨拶。
いつもと少しだけ違う朝食に、新しい家族が一人。
普段と違う面々が揃ったテーブルには、違うようで、温かな空気が満ちていました。

「今日はスクランブルエッグなんだね」
「よ、よよ余計なこと言うんじゃねーって!」
「やっぱ、そーやよなぁ。前に聞いたときは目玉焼きいうてたのにーって。どうしたん?」
「あ、それは、えっと」
「久しぶりのはやてちゃんだから頑張っちゃったんだよねー?」
「そうなんか。うんうん、私のために頑張ってくれたかぁ。あぁ、なんて幸せなお姉ちゃんなんやろなぁ」
「う、うぅ~」
「ヴィータちゃん可っ愛いー!」
「ホンマやね。ヴィータの可愛さは三国一やわ~」
「そんな可愛いヴィータちゃんをお嫁さんにもらえた私って幸せ~」
「せや! こない可愛い子をお嫁にもらったなのはちゃんは三国一の幸せモノや!」

 フォークをかじかじ噛みながら恥かしげに俯くヴィータに、朝っぱらからテンション高い二人。
右手になのは、正面にはやて。
ヴィータに逃げ場なし。
余計なことを言いやがってー、と目で訴えながらも、指摘してくれたなのはに少しだけ感謝します。
しかし、それとこれとは話が別。
ジタバタと暴れるのは行儀もよくない上に、自分に構われては堪りません。
せっかく作ったんだから冷めないうちに早く食べてくれ、と言ってささやかな抵抗に留まるのでした。

「ごちそうさまでした~」
「さま~」
「お、お粗末さまでした……ぐふっ」

 普段よりちょっぴり時間のかかった朝ご飯。
久しぶりな上に待ちに待ったはやては勿論、朝にゆっくり一緒出来ないなのは。
二人ともに、ヴィータとの時間をゆっくり過ごしたい動機があったからです。
はやては、普段の朝ご飯の風景がどういうものか。
例えばシャマルは少しだけマシになったとか、シグナムはヴィータに隠れていただけで相当味に五月蝿かったとか。
そしてザフィーラはシャマルの実験体にされ続けた末に、味覚障害になりかけたとか嘘を吐いて、乾いた笑いを提供していました。
代わってなのはは、寝起きが可愛いだのお弁当の中身を教えてくれないなどの、はやてを羨ましがらせることばかり言います。
しかし調子に乗りすぎたのか、「もう少しベタベタしてたいのに、させてくれない」などと口走ってしまいました。
言い終わるか終わらないかの内に「もっと早起きすりゃ良いだろ!」と怒られてしまいます。
そこで終わらないのがなのは。
「だったら朝からベタベタして良いってことなんだねー」といえば「あはは。失言やったかなぁ?」とはやて。
ヴィータはしまった、とばかりに俯くのでした。
そんなこんなで終わった朝ご飯。
目立って珍しいメニューではありませんでしたが、その味以上に二人は大満足。
そんな二人に引き換え、挟まれたヴィータは昨日の夜の如く、ぐったりと。
はやてのテンションの高さに心配になったぐらいでしたが、久しぶりに見た笑顔に疲れなど吹っ飛んだ……と言いたいところでした。

「さってと。早めに片付けちゃうね、はやて」
「私もお手伝いする~」
「あ~、それやったら私も~」
「ダメだって。はやては座っててくんなきゃ」
「え~、いけずぅ。そない二人っきりの甘々後片付けを邪魔されたないん?」
「ち、ちちち違うったら!」
「んも~。そうならそうと言ってくれたら良いのに~。ヴィータちゃんの恥かしがり屋さ~ん」
「ちげーって言ってるだろー!」

 腰を浮かせたところを座らせようと手を出したところで、ガッチリ両脇を掴み膝へ抱きかかえます。
まんまとお膝の上に乗せられてしまったヴィータ。
口の端を持ち上げニマニマにヴィータのお腹をつんつんします。
ヴィータとしては暴れても良かったのですが、久しぶりのはやての膝は何と無しにその力と意思を奪っていってしまいます。
抵抗の意思がないことを読み取りニタニタとご満悦に頬を緩ませていると、なのはとアイコンタクト。
ヴィータに大人しくしているように言うと、なのははニッコリと一人台所へ向かうのでした。

 

 

「悪かったね、なのはちゃん」
「ううん。後片付けはいつもしないから偶には、ね」
「そうだぞ。お前全然家事しないじゃんか。そんな今日だけしたって駄目なんだぞ」
「まあまあ、そう言わんと。偶のことでも褒めへんと伸びへんよ」
「だって。コイツは余り褒めると調子に……あ、そうだ。今日帰ったら桃子さんに言いつけてやるからな」
「そ、それは勘弁してくださいヴィータちゃん」
「やなこった。んなことぐらい里帰りするんだから当然だろ。今更そんな顔したってダメなんだかんな」
「ああ~ん、ヴィータちゃ~ん」

 ソファーに座ったヴィータにすがり付くなのは。
管理局戦技教導官、不屈のエースオブエースでも怖いモノは存在したようです。
その希少な存在の中でも一際頭の上がらないであろうその人、高町桃子さん。
すっかり立派になろうとも、その辺は変わらないのだなと思いながら、はやては別の理由で喉をくくくっと鳴らすのでした。

「ほれ見ろ。はやてにも笑われてるぞ。お前が情けないばっかりに」
「うぇ~ん、ヴィータちゃんの意地悪~。お願いはやてちゃん、はやてちゃんからも何とか言って~」
「んふふ。そやね、親友の頼みやし聞かん訳にはいかんか。ほれ、ヴィータ」
「あにさ、はやて」
「そない怒るなら私の膝を降りてからにせんと。全然威厳あらへんよ?」
「あ! あ、あう……」

 しっかりとソファーに座ったはやてに抱きかかえられたまま、なのはに説教していたヴィータ。
よく見れば、いえ、よく見なくても全く珍妙な光景です。
そんなヴィータを、はやてとなのはが揃って笑えば、タイミングよくセキュリティーが鳴りました。
どうやら誰かが帰ってきたようです。

「ただいま帰りました、主」
「お帰んなさい。おや、今日は珍しい人間姿のままなんやね」
「まだ寝ていらっしゃるかと思いましたので」
「そやね。犬さんのままやと足拭いたりせないかんから。外は寒かったやろ? なんか温かいもん淹れたるね」

 パタパタと台所へ向かうはやてに、ヴィータはザフィーラを手招きしました。

「ほれ、こっちこいよ。温まるぞ」
「ああ、そのつもりだ。今日は特に冷え込んでいる。帰るときは気をつけることだ」
「わーってるって。さっき天気予報みたからさ」

 天井に埋め込まれたエアコンの下へ、犬の姿になったザフィーラがなのはの前を横切っていきます。
センサーによって人の身体に当たらないようになっていますが、冷たいものが近づいてくるとその辺は調節してくれる優れものです。
ザフィーラの移動につれて、そよそよと風の向きが変わっていくのが分かります。

「なんでヴィータちゃんまでくっ付いてくの?」
「こっちの方があったけーからだよ。ほれ、もうちっと寄せろって」
「あ、なに? 私もそっちに行って良いってこと? それなら行っちゃうよー」
「バッカ! 呼んでねーよ! 風が当たらないから詰めろって言っただけだ!」

 ザフィーラに抱きつくヴィータに抱きつくなのは。
しっかりと座り込み動く気配のないザフィーラに、ぐいぐい押し付けてくるなのは。
二人の挟まれてヴィータは昨日に続き、またもや潰れてしまいそうです。
流石に双方を退ける力はなく、朝っぱらから面倒なことになったと思った矢先、助けの声が響きました。

「お待たせ。あれ、犬さんになってるんやったら、こっちのお皿の方が良かったかね」
「……いえ、お手を煩わせることはありません」
「うわっと! いててて……」
「あ~、ザフィーラさん退いちゃったね」

 変身して退いてしまったために、なのはの重みで床に抱きつく羽目に。
湯気の立つコップはエアコンの風に揺れ、ザフィーラの方向へ吹いていることを示しています。
そうなってしまえばこんなところで寝転んでいることもありません。
さっさと立ち上がろうとしても、なのはがしっかり上から乗っかっているために身動きが取れません。
もそもそと亀のように動くヴィータを見て、さも楽しそうに笑うはやて。
なのはは、自分の胸の下でムッツリ顔のヴィータを抱えてご満悦でした。

「……お前が退いてくれると嬉しいんだけどな」
「うぅ~ん、残念。ヴィータちゃんの喜ぶことは出来るだけしてあげたいんだけどなぁ」
「ちっくしょう……」
「あははは。ヴィータは朝から可愛えなぁ、ほいほい。そんなら私も抱きつこかね。ほいっしょ!」
「うぎぎぎぎ! 重い、流石に二人は重い!」

 更に上からはやてが乗っかり、ヴィータは潰れないようにするだけで精一杯。
ほっぺをぷにぷにされたり、まだ結ってない髪を弄ばれたり、ぽちょぽちょのわき腹を掴まれたりとやりたい放題。
暫くしてホットミルクを飲み終わったザフィーラに助け出されるまで、そのままなヴィータでした。

 
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2008年4月19日 (土)

下らない思いつき

 
「ティアナの髪って金髪っぽく見えるね?」
「え? 私、のが……ですか? 今までそんな風に言われたこと」
「こうやって――日に透かすとね。そんな感じがするんだ」
「あっ――そう、だったんですか」
「へぇ~、流石女の子。ちゃんと気を使ってるんだ」

 訓練の終わった後、ティアナの髪の毛を弄ぶなのは。
ティアナは驚きながらも、絡まり、すり抜けていく指の感触に身を委ねていた。

「……」

 

「あ、アリサちゃん? 久しぶり~、元気してた?」
「そんな心配するなら頻繁に連絡寄越しなさいな」
「それよりアリサちゃん。もう伸ばす予定はないの? せっかくなのに勿体無~い」
「ないわね。大体アンタやフェイトが長くしすぎなのよ。ちょっとは切りなさいって」

 そう言いながらも満更でないアリサは、短くなった髪を弄りながら話を続けている。

「……」

 

「ヴィヴィオ~。たっだいま~。ちゃんとお利口してた?」
「ちゃんと出来てたも~ん。えへへ~」
「よしよし。あ、今日はアイナさんにしてもらったの?」
「うん! この前にママが可愛い~って言ってくれたから~。どう? 今日も可愛い?」
「可愛い可愛い。勿論ヴィヴィオは可愛いよ~、そ~れ」
「わーい!」

 ヴィヴィオを抱き上げ、その豊かで腰のある髪に顔を埋めるなのは。
大好きなママに抱っこされ髪を褒められたヴィヴィオの興奮の度合いは、その頬の紅潮具合から伝わってくる。

「……」

 

「お疲れ様、フェイトちゃん」
「ただいま、なのは――んもう、帰ってくるなり抱きついちゃ駄目だったら。皺になっちゃう」
「二着あるんだから大丈夫だよ~。んー、良い匂い」

 照れて身を捩りながらも振りほどくほどではないフェイト。
少し色素は薄いが艶やかで真っ直ぐと伸びた髪を目一杯愛でるなのは。
先で結んだリボンを解いては、指の間を通っていく髪の感触をジックリ味わうのでした。

「…………」

 

「なのはさ~ん」
「高町教導官~」
「高町一等空尉~」
「はいはい。ちゃんと並んで一人ずつね」

 なのはの周りにはこうやって人が集まる事は珍しくありません。
周りに可愛い女の子達を侍らせて上機嫌な様子は、ある色に彩られていました。

「…………」

 

「……はぁ」
「どうしたの、ヴィータちゃん。朝からご機嫌斜めだね」
「……あ、あのさ。若しもの話だけどさ」
「うん? なぁに」
「ア、アタシが……アタシに金髪って……に、似合うかな」
「ヴィータちゃんが金髪ぅ? またなんで」
「べ、べべ別にお前がいつも回りに金髪の女を侍らせてる事とか関係ないんだからな!」
「ははぁ~ん、なるほど。う~ん、どうかな?」
「どうかなって、なんなんだよ」
「……変なヴィータちゃん。ヴィータちゃんはその紅くて長い三つ編みが可愛いんだから変えちゃ駄目だよ」
「そ、そうか? へ、へへへ」
「んもー。たまたま周りにいる子がそうだっただけで、そうじゃないから好きじゃないなんてないよ~」
「だ、だから! お前の好みなんて関係ないっていってるだろー!」
「はいはい。も~、素直じゃないんだからぁ、ヴィータちゃんは」

 


 
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2008年4月17日 (木)

流石お姉ちゃん

 

 ゼロ歳児あさひさんの注目の誕生日でした。
小雨がぶちまけたのは一人分だったのか19人分(あさひ除く)だったのか。
立夏がふくれるだなんて、もう中学生だというのに少しお姉さん分が少ないんじゃないかしら。
まだ家族の誕生日を祝うより、そのパーティーにでるケーキの苺がお目当てなさくら。
目立った行動をしたのは上記の三人だけだっただけで、その他の面々はどうだったのか想像するのも楽しいですね。

 さて。
いい加減二度連続更新の不名誉から逃れられた麗。
そうでなければ次に来るのは今まで咎めてきた海晴姉さんがぴったりでしょう。


こんどこそたっぷり満足できた?

お・に・い・ちゃ・ん(はぁと


 もうお兄ちゃんをせざるを得ないじゃないですか?
普段の彼がどうやって妹達に接しているかは想像の範疇でしかありませんが、しっかり"お兄ちゃん"しているのでしょう。
そこで他の姉妹と比べて麗とだけ海晴姉さんから見て距離があったのかもしれません。
その上での「こんどこそたっぷり満足できた?」発言。
若しかして、麗の日記を読んだあとの彼は落ち込んでいたり不満に思って(麗が悪いと言う意味でなく)いたのかもしれません。
それらを見抜いた上での海晴姉さん。
これは年上で、長姉にしかなしえない(霙姉さんでも良いかも知れませんがやはりここは)"お姉ちゃんぶり"なのではないでしょうか。


単に苦手なだけなのよ。
昔っから食わず嫌いの性格で、凝り性で固くて――


 安心したと言うかなんと言うか。
男嫌いになる何かしら重苦しい理由でもあっては――と心配していましたが、単に「食わず嫌い」であったと。
麗のように精神年齢の高い子(ここの姉妹は総じてその傾向が見られますが)ならば、特に同級生は駄目だったりするかもしれません。
そこはお姉ちゃん。
しっかり心配していて、色々な対策を練ったうちの一つが「積極的に日記を書かせて交流を図る」という。
蛍と比べると幾分か家庭的な部分が少ないかのように見えて、その実一番高い視点から姉妹を見守っているのでした。
麗の「凝り性で固くて――」という、その気質は以前の、そして今回の日記にもよく現れているかと。
一度、一つの事に凝り始めてしまうと頑として動かない。
その価値観の頑なさが悪い方へ働いていたようですね。今回の件は。


なんて――おねーちゃんは思ってるの(はぁと


 より"お姉ちゃん"であることを強調するかのような口ぶり。
これは麗の姉であり、そして同時に"あなたのお姉ちゃんでもあるのよ"という意思。
以前に"海晴は世界で1番かわいいボクのステキなお天気おねーさん"なんて言わせた素敵お姉ちゃん。
ここでは、お兄ちゃんとしてではなくて、海晴お姉ちゃんの弟として接したくなるじゃない?


キミなら――
男の子だってなかなかいいとこあるのよってところを――


 随分信頼されちゃってるわね。
これ。海晴お姉ちゃんは何かあるのでしょうか。自分が、そう思えることに。
そりゃ既にお天気お姉さんをしているぐらいですし、今まで色々な人を見てきているでしょうから。
でも、そんな感想を抱いている海晴お姉ちゃんに"キミなら――"って言わしめる彼。
ふぅん。きっと可愛らしい、男の子らしくて、それでいて良い子なんでしょうね。


あ、大丈夫よ、あの子に罵られて傷ついたハートは
私がしっかり慰めてあげるから――ね(はぁと

ナデナデでもムギュムギュでも――
サービスするわよ?
なんて、ウフフ――(はぁと


 なんてご褒美。
麗に罵られれば(この時点でご褒美な方もいらっしゃるでしょうけど)海晴お姉ちゃんが慰めてくれるだなんて。
以前のバレンタインからしたらナデナデぐらいなら日常的にしてくれていそうですけど、さらにムギュムギュだなんて!
流石にムギュムギュはサービス、に入るようですけど、思い切り甘えればいつでもしてくれそうな勢いです。
最後に「なんて、ウフフ――」なんて少し冗談めかしているけれど、絶対本気ですよね。
既にいくらか時間が経ったとはいえ、年頃の男の子が女の子に囲まれた生活は刺激が強いはず。
その上に年上の可愛いお姉さんにこんな風に誘惑されてしまっては、ドギマギして顔も真っ赤になってたんじゃないかしら。
そうやって、いたいけな青少年をからかっては楽しんでいるんでしょうね。
実際――お願いされたらOKサインを出してしまいそうなイケナイお姉さん振りを発揮している海晴お姉ちゃんですけど。

 

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ツンデレーションは流行るわね

 GAME(DVD付) 【初回限定盤】

Twinkle Snow Powdery Snowを聞いてからの、にわかファンなので明日からノンビリ聞いていこうかなぁと。
詞が好きだわぁ。

*アフィリエイトはジャケット写真が貼りたかっただけです。

 
*追記

 たら~っと聞きました。
アルバム曲の「plastic smile」「シークレットシークレット」「Puppy love」がいいですね。
こういう素敵ワードできゅんきゅんしたいです。
 
 今回のアルバムには「SEVENTH HEAVEN」が入ってなくて残念。
これも好きなのだけど。カップリングじゃなくて、両A面扱いじゃないから仕方ないわね。

 

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2008年4月16日 (水)

新婚なの! 9-16

 

「うぃ~……喉渇いたや」

 足元に小さく明かりが灯るだけの廊下を抜け、台所へ向かうヴィータ。
久しく歩くこの廊下も身体が覚えているのか、起き抜けの寝ぼけた頭でも迷うことなく辿りつけました。
日本と違い、全く音のしない、そのせいで不気味に思えるほどの台所で、何か無いものかと探っていれば背後で気配がします。

「……なんだ、ザフィーラか。足音消して歩くんじゃねーよ」
「これで深夜は響くものだ」
「掘っ立て小屋じゃあるまいし。んで。ザフィーラも喉が渇いたのか?」
「いや、そうではない。少し話があってな」
「ふーん。それさ、これ飲んでからでいいか」
「構わん」

 今度は少しだけ爪を鳴らしながらリビングへ引っ込んでいくザフィーラ。
今は鳴らさなくて良いんだよ、とペットボトルを傾け、冷蔵庫へ静かにしまうとザフィーラの元へ向かいます。
以前と変わらぬ、ソファーの前に寝そべるその姿に。何だか昔、はやてに内緒で蒐集をしていた頃を思い出すヴィータ。
片耳だけ動かして音を探る仕草もそのままで、ザフィーラも同じ事を考えているんじゃないかと意味も無く思うのでした。

「そんで? 話ってなにさ」
「本局勤めだったな。最近、自身の周りでなにか視線を感じたことは無いか?」
「視線? 誰にかに"見られてる"ってことか。……そうだな」
「心当たりはないようだな」
「まあなー。大体、アタシらにバレるようじゃ査察としちゃ失敗だろ。アコース査察官レベルは別としてさ」
「……全くだ。呼び止めて悪かった」

 話すためにもたげていた首を下ろし、、大きく欠伸をして足の上に顎を乗せる。
自分から声をかけておいたくせに――しかも何やら気になることを言って。
その癖に一人納得しては寝入るなんて酷いじゃないか。ヴィータは声を出すよりも早く、ザフィーラの口を掴みました。
突飛な行動に目を白黒させますが、そんなの知ったことではないと、ヴィータは続けざまにヘッドロックを仕掛けます。

「なに勝手に寝ようとしてんだよ」
「ど、どうした。何か気になることでも……あったか?」
「ったりめーだろ。どうしてそんなこと聞くのか気になるじゃねーか。しかも内緒でよ」
「……む。それもそうだな」
「そういうこと。ほれ」

 一旦は離れたヴィータでしたが、寝入ってしまった家の空気は存外に冷たく思わず抱きつき直してしまいます。
結構冷えてたんだな、とザフィーラに抱きついて初めて気付いたのでした。
長い体毛をかき分け奥の短く柔らかい毛に身体を密着させます。
人間体であれば別にそうでもないのに、犬に変身すると体温が上がるのは何故だろう、と不思議に思いながら話の続きを待ちました。

「最近は主の近くでその身をお守りすることも少なくてな」
「特別捜査官のあれで外を飛び回ってりゃ別だろうけど、最近だとそうかもな。んで」
「空いた時間で要人警護をすることも増えた。主経由で話を頂いてな。そんなある一人から話を聞いたのだ」
「ふーん。どんな」
「なるべく大人しくしていることだ。揚げ足取りの材料は少ない方がいい、と」
「……ソイツって信用できるのか? 聞き様によっちゃ脅し文句と変わらねーじゃねーかよ」
「懇意にしている相手だ。主も疑ってはいまい。個人的に警護の手配を頼むぐらいだ」
「それも信用させる手かもしんないけど。ま、全部疑ってかかってたら話にもならないし。そんで、それがどうしたのさ」
「私は身に覚えがなくてな。ヴィータなら若しやと思ったのだが」
「生憎さっき言ったとおり。アタシもさっぱりだ」
「お前は有名な分、気付きやすいと思ったが――逆だったかも知れんな」

 犬の表情は分かりづらい。
割と表情が豊かな生き物ですが、ザフィーラは特に。普段も感情を余り表に出すタイプではありません。
その只でさえ分かりにくい表情すら、ヴィータからは拝むことができす余計に判断に苦しみます。
ただ、誠実で実直な性格から、表情を伺ってあれこれ考える必要のない相手ですので、それほど気にすることもないか、と思うのでした。

「でさ。アタシに内緒で言ったってことは、勿論はやてには内緒なんだな?」
「ああ。主も同じ相手から聞いている可能性もあるが、わざわざ私に伝えたところを考えればそれも低いだろう」
「なるほどね。シグナムとシャマルも?」
「お前が最後だ。私も主に同行してココを離れていたのでな、伝えるチャンスがなかったのだ」
「暫く? はやて、なんか事件抱えてるのか?」

 ぐいっと顔を寄せ、首周りの特に長い毛から顔を覗かせます。
ピクピクと動く耳が可愛い。けれどザフィーラにはさっぱり似合わないな、と毎度ように思うヴィータでした。

「相変わらず多次元に渡る密輸や違法魔導師の捜査だ。主の望んでいた事件の一端に関わっている、な」
「……ふ~ん。しっかし、ああいう奴等ってホントかなわないよなぁ。飛び石みたいにそこらで悪いことしやがって」
「先日の空港火災もそうではないかと言われているが……話が逸れたな」
「まあ話は分かったから良いや。ありがとな、ザフィーラ。今度から気をつけてみるわ」
「そうしてくれ。だからと言って何が出来ると言うわけではないが」
「相手はアタシらのことをよく思ってないヤツだ。……こればっかりは仕方ないさ」
「せめて主の足を引っ張ることのないようにするだけ、か」
「そういう事。はやての夢。アタシらが潰したりする訳にはいかないから」

 ザフィーラの頭をワシワシと乱暴に撫で、リビングを後にするのでした。

「うぃ~。寒い寒い」

 なるべく足音を立てないように、出来るだけ早足で寝室へと向かいます。
そっと扉を開け、爪先歩きでベッドへ近づけば思わず声を上げてしまいそうな光景が広がっていました。

「な、ななな……んぐ。なんで二人が抱き合ってんだよ」

 この状況で自分が寝ていたら見事に潰されていただろうほど、二人はガッチリと抱き合っています。
それほど身長の違わない二人ですが、なのはがはやてを胸に抱くような形を取っています。
どうしたモノかとベッドの脇で腕組みをして悩むヴィータ。
元の位置に戻るにはガッチリ抱き合った二人を引き剥がさなければなりません。そうなれば起こしてしまうのは確実でしょう。
折角寝ているのに起すのは偲ばれるし――ならば、真ん中に寄った二人。
当然左右は一人分ずつ空いているわけです。

「さて。どちらに入ったら良いものか……」

 その幅に違いはなく、それがヴィータを悩ますのです。
どちらかに偏っていれば、より空いている方へ入ればよいのですが、違いのない場合"誰の隣で寝るか"という選択になってしまうからです。
答えの出ない一人問答を巡らせていると背筋に寒気が走り、小さくくしゃみを漏らしてしまいました。

「こ、これじゃ早く寝た意味がなくなっちまう……仕方ない、こっちにするとするか」

 スリッパを脱ぎ、そのまま布団へ潜り込むヴィータ。
もそもそと中を進んでいき、ぴったりと抱き合っているその背中に抱きついて眠ることにしました。

「うぅ~、寒ぃ~。頼むから起きないでくれよぉ……」

 別に抱きつく必要などないのですが、冷えたままでは眠りに就くことは出来ません。
ある程度適切な体温が必要です。
それを確保するため。
そう。これは快適な眠りのために必要なんだ、仕方ないんだぞ。他意はないんだからな、と誰も聞いていない言い訳をして目を瞑るのでした。

 
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2008年4月14日 (月)

新婚なの! 9-15

 
「なあ、なのは。そういやさっき"相変わらず~"っつったけど、この家に来て泊まったことあったっけ?」
「うん、あるよ。ねぇ~、はやてちゃん」
「そうや。こっちに越してきて、えっと~……いや、その前やったかな。あ、それで思い出したんやけど、あんときは大変やったな~」
「大変? なんかあったのか?」
「あれよ、あれ。空港火災事件。丁度遊びに来てくれてた時やったんよ。そんでその後お泊りしたんや。な~、なのはちゃん?」
「そうそう。あの日は大変だったよね。遊びに来たのにいきなりあんなことになって」
「へー。あの日だったのか。アタシはこっちにいなかったから全然知らなかったや」
「うん。ヴィータにもなのはちゃんが遊びに来ること教えるかどうか迷ってな? まあ結局教えずじまいやったんやけど」
「なんで教えてくんなかったのさ。あ、べ、別になのはに会いたいとかそんなんじゃねーから」
「え~、ショックだな~」
「あんな? 教えても仕事とかで会えへんのなら逆に寂しがるやろと思って……私なりに悩んだんよ?」
「べ、べべ別にそんなこと思ったりしねーです」

 ヴィータは上を向いたまま、なのはとはやては身体を横にしてヴィータの横顔を見つめています。

「もう。嘘でも少しは寂しいとか残念だったとか言ってよ~」
「アタシは嘘吐くの苦手なんだ。それに、嘘言われて嬉しいか? 嬉しかないだろ」
「そうやろか。例え嘘やとしても最後まで騙し通してくれるんなら、言われた人の中では本当なんやし? 私はそれでも別にエエと思うけどね」
「……そだね。やっぱりヴィータちゃんがいつも正直に私のことを好きだーって言ってくれる方が嬉しいよ」
「……ふん。嘘でも言わねーよ」
「ああん、照れない照れない~。もう、可愛いんだから~」
「ギギギ……! あんま引っ付くんじゃねーよ」

 なのはがくっ付いたのを合図にはやても腕を伸ばし、挟まれて照れるヴィータを見つめてニコニコ。
真ん中のヴィータはどちらを向くわけにもいかず、仕方なく天井を見つめるまま。
その為か、二人の――特になのはの――ニコニコ顔がいつもと少し違うことに気付かなかったのでした。

「ねぇ、はやてちゃん。ヴィータちゃんには言ったの? あの時の話」
「うん、一応ね。あんときは協力するーって言うてくれたけど、今はどうやろ?」
「あん時の? その時なに話したのさ」
「はやてちゃんの指揮する新設部隊の話。私は勿論って返事したんだよ」
「な、なに言ってんだよ、はやて! そんなの賛成に決まってんじゃん! はやての夢なんだからさ! 聞くまでないって!」
「そうやけど、ヴィータはヴィータでここ幾らかで立場も変わったんやろ? それに自分のしたいこととか。ほれ、教官資格のこと」
「あ、それは……で、でも! それでもアタシははやてについて行くんだ!」

 相変わらず天井を見つめたままで。
はやての言うとおり、確かに立場も変わり当時のように簡単に口に出来るはずもありません。
そうであっても、ヴィータは改めてはやてに対して自分の意思を強く伝えます。
これが普段、二人きりのときに言われたのであれば少し違ったのかもしれませんが、今はそうしないといけないような気がしたのです。
はやてはそこまで言ってくれたヴィータの為に、コネでも何でも使って可能な限り思い同じくする人を集めようと思うのでした。

「ありがとな、ヴィータ。まあ、ヴィータが引っ張れんでも、なのはちゃん呼べばセットやからなぁ」
「セ、セットって。アタシはそういう扱いなのか……?」
「逆にヴィータ引っ張ればなのはちゃんがセットなんやけどね」
「うんもー。はやてちゃんったら~。私のヴィータちゃんへの愛を試してるの?」
「オホホホ。まあそんなとこかな? と言うのは冗談。夫婦なんやからその辺の申請通りやすいやん。近いとこで休暇届とか」
「へ~、そういうシステムあるn…………ちょっと待ってはやて」
「はい、なんじゃらほい」
「夫婦なら申請通りやすいってのも初耳なんだけどさ。それで休暇届とかどういうの?」

 堪らずはやての方へ寝返りを打つヴィータ。
窓から漏れるミッドの月明かりを受けたヴィータの顔は、なんとも訳が分からぬといった顔をし、その後ろでなのはも同様にしています。
二人の態度に説明を求めずとも大体の事態を飲み込めたはやてでしたが、一応にと確認を取ってみることにしました。

「あんな? 夫婦で揃って休暇が取りやすくなるんよ。絶対という訳やないけど結構融通してくれるって聞いてるけどね」
「ほ、ほぇ~。全っ然、知らなかったや……」
「あれま。そうやったん。てっきり申請が通るか通らんかで大変なんやと思ってたわ」
「わ、私も知らなかった……うん、そっか。今から思えばあのご夫婦はそれで同じ教導隊にいるんだね……」
「これが分かってりゃあの時あんな苦労しなくて済んだのによ。なんで誰も教えてくんねーんだ」

 目をまん丸に驚いてみせるヴィータに、その向こうではう~んと納得顔のなのは。
はやては、なのはならまだしもヴィータなら福利厚生もしっかりと把握しているだろうと思っていた手前、面には出さない物の驚いていました。

「あのとき? なんや、今日と違って他にもあったんか?」
「あのね? 結婚してから――むぐむぐ!」
「う、うっさい! 寝しなにそんな話しなくても良いだろうが~」
「えー、なんやの! そんなとこで話切らんといてー! 余計気になって眠れへんやないの~!」
「ま、また今度! 機会があったら話すから!」
「むぐむぐ――!」
「なのはちゃんも死んでまいそうやし、うん。また今度でエエわ。でもや。これで次からはもうちょっと楽に来られそうやし」
「分かったよぉ。今度からはもっと頻繁に顔出すからさぁ」
「ん~……プハッ! えへへー。いいこと聞いちゃったね、ヴィータちゃん」
「まあ、な」

 息を吹き返したなのはが後ろから手を回せば、ヴィータは邪魔そうにしつつも手を外そうとする素振りはみせません。
何だかんだと二人のやり取りに、自分の知らない時間を垣間見たはやては嬉しくもあり寂しくもあるのでした。

「さて。せっかく早くベッドインしたのにこのままやと意味のうなってまうね」
「あ、ホントだ。でも、日付が変わる前に寝れるなんてどれぐらい振りだろ……」
「結婚する前からなかったから随分になるよねー」
「……お前がその台詞を吐くのかよ。うん?」
「えへ、えへへ~。分かってますよー」

 基本帰りが遅い仕事ですが、その上でも何やらと立て込んで中々就寝出来ないであろうことは手に取るように分かります。
それでもガツンと怒ったりしないだろう新妻の態度に、そうやって甘やかすからダメなんじゃないかと。
しかし、そんな二人――特にヴィータ――を見るのは新鮮で、寂しいばかりでもないモノやな、と思うはやてでした。

「それじゃ、はやてちゃん。お休み~」
「はいはい、そいじゃお休みね。お二人さん」
「うん。お休み、はやて。なのはもな」

 ヴィータを中心に向き合うはやてとなのは。
挟まれて眠るどころではないヴィータなど放って、さっさと目を瞑ってしまうのでした。
寝なきゃ寝なきゃと思うほど眠れなくなるもの。
しかも、左には可愛く寝息を立てるはやて、右には抱きついたまま聞きなれた寝息を立てるなのは。
段々と眠れぬ焦りが苛立ちに変わってきますが、ぶつける相手が居るはずもなく、ただただ眠れぬ夜を一人過ごすのでした。

 

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2008年4月13日 (日)

新婚なの! 9-14

 

 なのはをお風呂に入れている間、ヴィータは酷くシャマルを叱りました。
しかし、なのはから聞いた話を"ヴィータの目の前で"はやてに伝えるまで死ぬわけにはいきません。
頭をポコポコと叩かれたり頬を抓られたりわき腹を掴まれて「太ったぞ」と言われても、鉄のような意志で続けました。
挫けそうになるシャマルを支えたのは、勿論ヴィータの可愛らしい姿です。
恥ずかしい話をはやての前で言われ、二人でキャーキャー言う光景はヴィータにとって拷問に近く、顔が真っ赤になったり涙目になったり。
普段はそれなりに中身が大人なヴィータも、その時ばかりは外見に相応しい振る舞いになってしまい、二人のテンションもぐんぐん上がっていきます。
自分の抗議の様子が二人のテンションを上げると分かっていても、シャマルの口を塞ごうとせずには要られません。
なのはが風呂から上がってくる頃には、グッタリしたヴィータにボロボロになったシャマルがソファーに横たわっているのでした。

「それじゃお休みなさい、シャマルさん」
「お休みだシャマル。明日覚悟しとけ――っててて! 痛いってはやて」
「そういう怖い顔せんの。ほんじゃねシャマル。早う風呂入って寝やーね。電気とテレビ、忘れんように」
「は、はいはーい……お休みなさい、はやてちゃん、なのはちゃん。それにヴィータちゃん……ガクッ」
「お休みなさいませ、主。シャマルのことはお任せください」
「うん、ザフィーラ。そんならお願いね」

 ソファーの上で力尽きるシャマルに、すくっと立ち上がったザフィーラを残し、三人は寝室へと向かいました。

「相変わらず広いベッドだねー」
「自由に小さしたり大き出来たりしたら便利なんやけどねーっと。ほいほい、二人とも。こっちいらっしゃいな」
「な、なんかそうやってベッドを叩く仕草ってオジサンみたい……」
「お前もそう思うか。実はアタシもそう思ってたところだ」
「うぅ、酷い! ヴィータは結婚して変わってまった! 前はそないなこと言う子やなかったのに!」

 大げさにベッドに伏せて泣く振りをするはやて。
どうしたモノかとヴィータが駆け寄ればまるで食虫植物の如く腕を伸ばして絡めとり、そのまま布団の中へ引きずり込んでしまいます。
出遅れた!とばかりになのはもベッドに飛び込めば、盛り上がった布団の中からギユッと不思議な音が聞こえてきました。

「ってーぞなのは!」
「きゃー! んもう、ヴィータちゃんひどい~。頭打ったじゃない」
「上から乗るほうが悪いんだろうが。それに! いつも家で埃が立つから止めろって言ってるだろ。止めないお前が悪いんだ」
「ふぁ~い。分かりました、すいませんー」
「ちっとも謝ってる風に聞こえないのは気のせいじゃないよな。全く、ここは自分家じゃないんだぞ」

 横を向いてさっぱり謝る気のなさそうななのはに呆れていると、布団の中から髪を乱したはやてが顔を出しては可笑しそうに笑います。
怒っているところに水を差されたようなヴィータは、何が可笑しいのだと尋ねれば、頬杖をついてニッコリと答えました。

「いやね。もう"二人の家"になってまったんやなぁって」
「へ? そんなこと言ったっけ?」
「ふふふ。それは置いといて。いっつもそうやって怒ったりしてるんかなって。そういうなのはちゃんが何や新鮮で、つい」
「う、むー。ほ、ほれ見ろ。笑われちまったじゃねーか。大体リラックスし過ぎなんだよ」
「うぅーん。ちょっとはしゃぎ過ぎました。ごめんなさい」
「うん、なら良い」

 ベッドの上で仁王立ちしていたヴィータは、布団に入ると端を捲り手招きをします。
床にペタンと女の子座りしたままのなのはが不思議そうに見ていると、ヴィータはちょっぴり頬を染めてそっぽを向いてしまいました。
更に訳の分からぬといった顔のなのは。
堪らず、はやてが如何にも楽しそうといった風にヴィータの向こうから顔を出しました。

「こっち来やーってこと。ヴィータも素直やないねぇ。口に出して一緒に寝よー言えばエエのに。うりうり~」
「べ、別にそう言うんじゃねーもん。た、ただ……」
「ただ?」
「風邪ひかれるとさ、迷惑だし。局で仕事してる他の人たちにさ、もう責任ある立場なんだし」
「ふぅ~ん。じゃあ看病すること自体は迷惑やと思っとらんわけや。エエなぁ、ヴィータに看病して貰いたいなぁ」
「ブフッ! そういう訳じゃないって! まだ話の途中なんだから口挟まないでくれよ~!」
「じゃあどういう意味なん? ほれほれ、向こうで期待して待っとる旦那さんに向かって言ってみ?」
「うぅ……」

 身を乗り出し期待に胸膨らませるなのはに、頬を突付きながらニヤニヤと笑うはやて。
二人に挟まれては普段の強面―と本人は思っている―航空隊のヴィータさんも形無しであります。
待ちきれなくなった旦那さま。
素早い匍匐前進で詰め寄ると、はやてに占領された頬を避けわき腹を掴みに掛かり鼻の頭でくしゅくしゅと擽ります。
布団の中でモソモソと動くなのはに、ヴィータはなす術もなく二人にいい様に扱われてしまうのでした。

「な、なのは! いい加減にしろ! はやてもぉ~、勘弁してくれったら!」
「あーかーん。普段からそうやって二人でイチャイチャしてるんかと思ったら我慢出来へんもん!」
「えへへー、羨ましいでしょ? こうやって~、毎晩してるんだぁ。くしゅくしゅー」
「うへ、うひゃひゃひゃ! や、止めろってなのは! そ、それに毎晩だなんて嘘つくなよ! してないじゃんか!」
「あれ。毎晩しとらんの?」
「うーん、それはヴィータちゃんが知らないだけなの」
「な、なんだって! ちゃ、ちゃんとアタシより先に寝てるじゃないか! それがどうして!」

 ヴィータの疑問に布団から顔を出したなのはは、ちょいとばかり照れ笑いを浮かべれば、毎晩ヴィータの寝た後に悪戯していると言います。
それを聞けば黙っていられません。
毎朝起きないなのはを叩き起こすのにどれだけの労力を割いているのか。
思わず、えへへっと笑うなのはの両頬を抓ってやります。

「じょ、じょーらんれふ、じょーらん。うひょだよ~……うひ~、痛かった~」
「性質の悪い冗談なんていうからだ。その頬の痛みを忘れるなよ、嘘を吐く前にその痛みを思い出せ」
「ほうほう。嘘って言うたんが嘘っぽいけどなぁ。んでも、ヴィータが毎晩でないにしろ、結構イチャイチャしてるんは認めるんやなぁ」

 ヴィータの頬をツンツンしながら、なのはを肩越しに覗き込むはやての目の前でヴィータの耳はみるみる赤くなっていきます。
触れる指先から伝わる体温は、明らかに普段のモノとは違ったように感じれら、どれほど照れているのかを伺わせます。
その向こうでは、ヴィータが余計なこと言っただの、なのはが失言じゃないのなどと言い合っている。
それでもなのははとても幸せそうで、つい、つつく人差し指に力が篭ってしまうのでした。

「はぁ~あ。二人のイチャイチャを見せつけられんのも見飽きたし、そろそろ寝るとしよかね」
「あ、ごめんはやてちゃん」
「う、うん、わかった。もう寝ることにする。ほ、ほれ。ちゃんと布団被れって」

 ヴィータに布団を被せてもらい、三人はようやくベッドの上で川の字になることになりました。
広いベッドに三人。
窓側から、はやて、ヴィータ、なのはの順で。
先ほどまでの騒がしさが嘘のように寝室は静まり返り、お互いの呼吸すらはっきりと耳に届きます。
規則正しいお互いの息遣いを感じながら、早く寝てしまおうとジッと瞼を落としますが気分が高まってしまってさっぱり眠れそうにありません。
それを何故か気まずく思ったヴィータが先陣を切って、天井を向いたまま独り言のように喋り始めした。

 

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2008年4月11日 (金)

新婚なの! 9-13

 

「…………う、うぇえー」
「バーカ。調子に乗ってグルグル回ってるからだ」
「空戦魔導師がこの調子やなんて。どうしてまったの、なのはちゃん? 具合でも悪かったん?」
「……ちょ、ちょっと油断してしまいまして。視点を固定してたのがダメだった……みたい。うえぇ~」
「ホホホ。ヴィータをじぃっと見すぎや。その点ちょいとヴィータは余裕あったみたいやねぇ?」
「どうせ調子乗るだろうって思ってたから、後のこと考えてたの。そしたらこの通り。えいっ、この。反撃できないだろ。ほれほれ」
「うぅー。頭突っつかないでぇ……」
「はいはい。もう良いでしょ、ヴィータちゃん。今からヒーリング魔法かけますね~」

 ソファーにひっくり返って目を回しているのは、普段空をグルグルと飛んでいる高町なのはさん。
お嫁さんのヴィータに膝枕されながら目を伏せていますが、ちょいちょいとお凸を突っつかれ、ささやかな反撃を受けています。
余りに具合が悪そうなので、堪らずシャマルが治療魔法をかけることにします。
頭にかざした手に、優しげな緑色した光が灯り、見ているだけで効果がありそうなその光になのはの表情も幾分か和らいでいきました。

「全く。いくら親友とはいえ、嫁の実家ではしゃぎ過ぎだ。自重しろ、なのは」
「ふぁ~い」

 先ほどまで豪く怒っていたはずなのに、いつの間にか悪戯娘をなだめる母親のような口調をしています。
はやてとシャマルは、またそれを話のネタにしようかと思いましたが、今日は少しはしゃぎ過ぎたと思い、自重する事にしました。
顔色が幾分か良くなるにつれ、緑色の光は弱まっていき、一息ついたところでシャマルは腰を上げました。

「もう良いんじゃないかしら。そうだ。何か飲む? のど渇いたものね」
「シャマルが飲みたいだけじゃねーの? へへへ、じゃあアタシも貰おうかな。なのははどうするよ」
「私も欲しい~」
「ほいじゃ私もお願いしよかな」

 頷きスリッパをパタパタと言わせながら台所へ向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しコップを二つ、抱えます。
冷えたミネラルウォーターが心地いい音を立ててコップに注がれ、まずははやてとヴィータに手渡されます。
ガラスのコップを通じて伝わる冷たさが火照った手に心地よく、耳と手から冷やされていくのでした。

「ん~……プハァ。シャマル、私はもうエエわ」
「ほれ、頭起こせ。……あんだよ、その口は。ひょっとこの真似でもしてるのか?」
「んー。口移しー。んー」
「バ、バカッ! 頭からぶっ掛けるぞ!」
「ああ~ん。怒らないでぇ~。おきます、起きますったら~。もう、ヴィータちゃんは怒りん坊さんなんだから~」
「気持ち悪いんだから大人しくしてろよ。ほれ、水飲め。冷たくて気持ちいいぞ」

 コップを傾け、冷たいミネラルウォーターが喉を下っていきます。
景気よく飲み終わり、お代わりを要求する様子にホッとするヴィータ。それをジッと見つめていたはやてが口を出しました。

「ヴィータちゃんなぁ。さっきから豪い優しいことない? さっきまでの勢いはどこいってまったん?」
「それは私も思いました。口調よりも目が優しくなってるっていうか、そういうの他の人にしないですよねぇ」
「うん、それは私も思ってたとこ。なんや目の前でイチャイチャされて、こっち中てられっぱなしやわぁー。なぁ、シャマルぅ」
「ええ。それはもう。新婚オーラに中てられっぱなしで、調子狂っちゃいますよ~。ねぇ、ザフィーラ?」
「……いや、別nグエッ!」
「オホホホ。ザフィーラもそうですって」
「ひ、ひでーな。シャマル……」

 足蹴にされるザフィーラに同情をしつつ、シャマルはこんなキャラだったろうかと考えるヴィータ。
普段は突っ込みやのに偶にひっくり返ったりして面白い関係やなぁ、と他人事のように思っているはやて。
なのはは、ヴィータが優しくしてくれるのが嬉しくて割とシャマル先生の蹴りをスルーすることに。
普段優しい医者が家族の犬の鼻を足蹴にするなんて。
そこを一番に気にするべきな事に誰も気付かぬまま、ザフィーラは一人鼻を抱えてうずくまるばかりでした。

「なぁ、ヴィータ。そろそろなのはちゃん放したりーな。お風呂にも入れたらないかんやろうし」
「むー。コイツをこうやってしとかないと誰になに喋るか分かったもんじゃないし。ほら、さっきのシャマルにしたみたいに」
「そうは言うてもなぁ。寝巻きを取ってきてくれたんはシャマルやし、下着だけで寝るわけにもいかんやろ?」
「ヴィータちゃん。忘れちゃったのを悔やむしかないわね。ホホホ」
「ちぇっ。長風呂控えてさっさと出てくりゃ良かったかな。でもさ、せっかくのはやてと久しぶりの……」
「ノンノン。ヴィータちゃんがいくら早く上がったところで無理な相談だわ。ねぇ、なのはちゃん」

 ニッコリとなのはに話を振るシャマルに、何がノンノンだ、などと眉間をひそめるヴィータ。
二杯目を飲み終わりコップを返したところで、なのはもニッコリと答えました。

「そうですね。なにせ、ヴィータちゃんがお風呂に入る前から喋ってたんですから」
「…………は? いつ、どこでさ」
「どこでって。ここで。ソファーに座ってですよ。ねぇ、シャマルさん」
「ええ。あ、なにその顔。全然話が見えないんだけどって感じね。うふふ、じゃあ種明かしちゃおうかしら」
「もったいぶらずに早く喋れって。あ、なのはは動くな」

 そっと距離をとろうとするなのはをガッチリ捕まえ、シャマルの次の一言を待ちます。
もったいぶっている癖に喋りたくて堪らないといった感じで、うずうずと頬がピクピクしています。
なのはとアイコンタクトの後、咳払いをしたシャマルは胸を張って答えました。

「実はねヴィータちゃん。とても基本的な話でね? テレビを見る振りをしながら念話でコンタクトを取ってたのよ」
「ぬぅわぁにぃ! こんな近くで念話使ってただって!? 全然分かんなかったぞ!」
「侮ってもらっちゃ困るわ。私だって魔導師の端くれなのよ? 一応に訓練の一つは受けてるんだから」
「それが寄りによって内緒話とは……要らないことばっか覚えやがってさ」
「ふっふーん。残念だったわね、ヴィータちゃん。それに私の相棒の存在も忘れてもらったら困るわよ? ほら」

 ガッカリと肩を落とすヴィータの頭を、なのはが優しく撫ぜます。
シャマルは勝ち誇ったように高らかに笑い、小脇からクラールヴィントを取り出します。
照明の明かりを受けてなのか自身の輝きなのか。
シャマルの相棒も少し誇らしげに見えます。

「ええーい、もう没収だ! アタシがいる間は没収!」
「ああん! 返してよ~。それがないと仕事だって出来なかったりするんだからぁ」
「だったら返してもらえるまで仕事が来ないよう神様にでも祈るんだな」
「神様……うーん。そう言えば私達ってどんな神様を信じてることになってるのかしら。やっぱりベルカの?」
「そやなぁ。ベルカってどういう神様がおるんやろ。やっぱカリムんとこの聖王って人になるんやろか。聖王さま~ってな具合に」
「そうなのかも。今度聞いてみたら?」
「あかんあかん。私らも聖王教会に入れられてまうし」

 シャマルからデバイスを取り上げたヴィータも、ソファーに腰掛けたままの二人も、う~んと考え込んでしまいます。
聖王教会の偉い人であるカリムと知り合いとはいえ、その辺りに全く疎い八神家の面々と高町教導官なのでした。

「さて。折角早くにお風呂したんやし、なのはちゃんもお呼ばれしたって?」
「は~い。じゃあ、お呼ばれしちゃいま~す。ねぇ、ヴィータちゃん。汗かいちゃったでしょ?」
「もう一回は入らないぞ。結構風呂って疲れんだ。それにだな……」
「新婚さんを一緒にお風呂入れたらお湯が汚れてまうやないねぇ? まだシャマルもザフィーラも控えてる言うのに」
「いや~ん。はやてちゃんのえっちぃ」
「???」
「あはははは。まだヴィータには早かったみたいやね」
「そうみたい。それじゃ行ってきま~す」

 はやてとシャマルは顔を見合わせ口の端をにんまりと持ち上げ、なのはは一人頬を染めてイヤンイヤンしています。
その中で一人訳の分からぬといった顔をしているヴィータを残して、なのはは脱衣所へ向かいました。

 

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2008年4月 9日 (水)

新婚なの! 9-12

 

「あれ。これヴィータの寝巻きか?」
「えっと。うん、そう。いつも着てるやつ。あんでここにあるんだろ……」
「さっきシャマルが持ってきてくれたんやよね? 実はなのはちゃんの鞄に入っとったんと違う?」
「う~ん……そんな準備良いとは思えないし、そんな風にしてたの見てないから違うと思う」
「そか。まあ素っ裸でおってもしゃーないしね。さっさと着替えてシャマルにお話聞きに行こか。ちと残念やけどねぇ」
「な、なにが?」
「んー? 前に着てた寝巻きどこやったかな~って考えてたところやから。まあ、見たことないヴィータを見れるんやしそんなこともないかな?」
「そ、そっか……」
「んふふー。ヴィータの寝巻き姿、楽しみにしてるんやよ~?」

 脱衣籠の横に並べられた小さめの下着と見慣れぬ寝巻き。
シャマルが二人分を持ってきたと言っているので、この小さく見慣れぬ下着と寝巻きはヴィータのモノに違いありません。
しかし、先ほどヴィータ自身が持ってきていないと言っています。
その忘れ物が目の前にあるのです。
疑問が残るところですが、いくら空調が効いているとはいえ、いつまでも裸でいるわけにも行きません。
はやてが早く寝巻き姿が見たいとせがむのも手伝って、さっさと寝巻きに袖を通しリビングへ戻ることにしました。

「はやてちゃん。随分お風呂長かったですね。はい、お水。ヴィータちゃんも飲む?」
「おー。さんきゅーな、シャマル」
「ヴィータちゃん。髪の毛洗ってもらったの?」
「まあな。んでもさ、なんでそう思うんだよ。アタシが自分で洗ったかもしんないじゃんか」
「うーん、その頭のタオルの巻き方がちょっと違ったから。いつもよりちゃんと巻いてあるっていうか。上手くいえないけど」

 リビングへ帰る途中で待ち構えていたシャマルからミネラルウォーターを受け取る二人。
コップを傾けると、適度に冷えた水が喉を落ちていきジンワリとお腹に広がっていくのと同時に汗がスーッと引いていくようです。
これを五臓六腑に染み渡るなんて言うのかな、とヴィータ。
二人が丁度飲み終わったところで、なのはまでこちらへ寄ってきました。
頭に巻かれたタオルを見て、ヴィータ自身が髪を洗ったのでないと見破るなのはに、はやては感心するのでした。

「なるほどな。このやり方を教えたったのは私やし、ヴィータなりのアレンジ入った分が違和感やったんやろね」
「へ~え。なのはちゃんってホントよく見てるんですね。私なんか言われてもちっとも分かりませんでしたよ」
「……いや。シャマルのは単なるうっかり屋さんなだけやと思うわ」
「大体シャマルはアタシの普段見てないじゃん」
「あ、そっか」
「……ほれ。やっぱりうっかり屋さんや」

 シャマルの反論を受け付けないと言わんばかりにカウンターに空のコップを置き、ヴィータもそれに続きます。
しかし当のシャマルは感心するばかりで、はやての言葉が脳に届いておらず、頷きながらペットボトルを冷蔵庫へ片付けました。
四人でぞろぞろとリビングへ戻り、変わらず寝そべるザフィーラに一声かけて、ソファーへどっかりと腰を下ろします。

「ああ、シャマル。このヴィータの寝巻きどうしたん?」
「ヴィータちゃんのですか? ピンクで可愛いですよね。若しかしてなのはちゃんとお揃いなのかしら」
「私のはピンク色じゃないですけど」
「ちゃんと話を聞きんさい。どうしたんや聞いてるの。ヴィータの話やとこっちへ持ってきてへんって」
「あ、ああ。そのことですか。それならですね、なのはちゃん協力の下、魔法のマジックハンドでちょちょいのちょい、っと」
「ははーん、なるほどな。まあ、取ってきたとなればそれしかないわな。な、ヴィータ」

 待機状態のクラールヴィントをかざして、ちょいちょいと手招きの仕草。
それで二人の疑問は氷解しましたが、ヴィータは新たな疑問というか問題が生じたようで、小難しそうな顔をしていました。

「あのさ。なのはの協力って、具体的になにしたのさ」
「ええっとね。レイジングハートのナビに従ってあっちと繋げてね? そこからはなのはちゃんの指示で……あ、そうそう!」
「どうしたん、シャマルゥ。落ち着け」
「あのですねはやてちゃん聞いてください! あーもー! これは凄い話なんですよ!
 きっと聞いたら居ても立ってもいられなくなっちゃうと思うんです! 
 私なんかさっきからヴィータちゃんが早く出てこないか、もうそればっかり考えてて!
 実は何と! ヴィータちゃんとなのはちゃんは同じ部屋で寝起きしてるんですよ!
 ダブルベッドというには少し小さいベッドで、少しヴィータちゃんが窮屈そうに寝てるんです! 凄いでしょ!」
「あ、あー! てめー! 勝手になに喋りやがるんだ! おいバカヤロウ!」
「ほぉ~う。ヴィータはずっと私と寝とったから、一人で寝れるか心配やったんやけどやっぱ誰かと一緒に寝とったかね」
「ち、違うってはやて! アタシは一人で寝てるんだって――ふがふが!」

 咄嗟にヴィータを押さえ込み、なのはへ視線を送ります。
それを受けしっかりと頷くと、すくっと立ち上がり胸を張って応えました。

「えーっとね。引っ越してからずっと一人だったのは本当。だけどね、結婚してからは二人で寝てるんだー」
「お~! 流石新婚さん!」
「それなら大き目のベッドを買った方が良いんじゃない? いくらヴィータちゃんが小さいとはいえ無理があるように思うの」
「んぐー! んぐー!」
「その辺はご心配なくなの。毎晩ヴィータちゃんを抱いて寝ているからあれぐらいの大きさで充分なのですー」
「おお~! 流石新婚さん!」
「大きいベッドだと逃げちゃうと思うの。だから少し窮屈なのを理由にくっ付いていられると言う理想的な状態なんですー」
「おお~お! 流石新婚さん!」
「寝室には私の私物を増やしちゃってるから、何かと理由をつけてヴィータちゃんのお部屋に入れるのー」
「お~! 策士なのはちゃんやな!」
「でも、それはヴィータちゃんが嫌がったんじゃないかしら?」
「えへへー。それはですね。忙しくて中々片付けられないでいたからヴィータちゃんが片付けてくれたんです」
「なるほどね。なのはちゃん自分の部屋でそのまんまにしとくと、大変なことになりそうやもんなぁ」
「それに元の家は引き払っちゃって荷物をこっちに持ってきちゃったから、私の部屋は荷物でいっぱいなの」

 暴れるヴィータにシャマルの援軍。
二人に押さえ込まれては、流石のヴィータでも易々とは振りほどくことが出来ません。
しかも、口を押さえられているので徐々に酸欠気味に陥り、段々と意識も遠のき、手足の力も弱まってきました。

「なのはちゃんから沢山お話聞けたんですよ? 二人は一緒にお風呂に入れたんですからそのぐらいの役得はあっても良いですよねぇ?」
「お風呂長かったからねぇ。随分色んなこと話せたんと違う? 羨ましいわぁ~」
「オッホホホホ―――んげっ!?」
「ッラー! いつまで抱きついてやがるんだ!」
「おおう、ヴィータ。シャマルの首があり得ん方向へ曲がってるやん……」
「少しはしゃぎすぎだ、シャマル」

 お尻を上にひっくり返り、首が横へ九十度曲がってしまっているシャマル。
なのはは肝を冷やし駆け寄りますが、はやてとザフィーラの冷ややかな反応に、どうしたものかと困惑気味です。
はやての腕を振り払い、鼻息荒いヴィータはズンズンと大股でなのはに迫ります。

「余計なこと言うなって言ったじゃんか!」
「だ、だってぇー」
「だってじゃない! そ、そんな二人のこと外で喋るんじゃねーって言ってるだろ!」
「ヴィータ? 自分が恥ずかしいことしてるって自覚はあるんやねぇ。そうやなかったら外で喋るなって言わへんもんなぁ?」
「そー