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新婚なの! 9-5 (3)

 
「うぃ~……喉渇いたや」

 足元に小さく明かりが灯るだけの廊下を抜け、台所へ向かうヴィータ。
久しく歩くこの廊下も身体が覚えているのか、起き抜けの寝ぼけた頭でも迷うことなく辿りつけました。
日本と違い、全く音のしない、そのせいで不気味に思えるほどの台所で、何か無いものかと探っていれば背後で気配がします。

「……なんだ、ザフィーラか。足音消して歩くんじゃねーよ」
「これで深夜は響くものだ」
「掘っ立て小屋じゃあるまいし。んで。ザフィーラも喉が渇いたのか?」
「いや、そうではない。少し話があってな」
「ふーん。それさ、これ飲んでからでいいか」
「構わん」

 今度は少しだけ爪を鳴らしながらリビングへ引っ込んでいくザフィーラ。
今は鳴らさなくて良いんだよ、とペットボトルを傾け、冷蔵庫へ静かにしまうとザフィーラの元へ向かいます。
以前と変わらぬ、ソファーの前に寝そべるその姿に。何だか昔、はやてに内緒で蒐集をしていた頃を思い出すヴィータ。
片耳だけ動かして音を探る仕草もそのままで、ザフィーラも同じ事を考えているんじゃないかと意味も無く思うのでした。

「そんで? 話ってなにさ」
「本局勤めだったな。最近、自身の周りでなにか視線を感じたことは無いか?」
「視線? 誰にかに"見られてる"ってことか。……そうだな」
「心当たりはないようだな」
「まあなー。大体、アタシらにバレるようじゃ査察としちゃ失敗だろ。アコース査察官レベルは別としてさ」
「……全くだ。呼び止めて悪かった」

 話すためにもたげていた首を下ろし、、大きく欠伸をして足の上に顎を乗せる。
自分から声をかけておいたくせに――しかも何やら気になることを言って。
その癖に一人納得しては寝入るなんて酷いじゃないか。ヴィータは声を出すよりも早く、ザフィーラの口を掴みました。
突飛な行動に目を白黒させますが、そんなの知ったことではないと、ヴィータは続けざまにヘッドロックを仕掛けます。

「なに勝手に寝ようとしてんだよ」
「ど、どうした。何か気になることでも……あったか?」
「ったりめーだろ。どうしてそんなこと聞くのか気になるじゃねーか。しかも内緒でよ」
「……む。それもそうだな」
「そういうこと。ほれ」

 一旦は離れたヴィータでしたが、寝入ってしまった家の空気は存外に冷たく思わず抱きつき直してしまいます。
結構冷えてたんだな、とザフィーラに抱きついて初めて気付いたのでした。
長い体毛をかき分け奥の短く柔らかい毛に身体を密着させます。
人間体であれば別にそうでもないのに、犬に変身すると体温が上がるのは何故だろう、と不思議に思いながら話の続きを待ちました。

「最近は主の近くでその身をお守りすることも少なくてな」
「特別捜査官のあれで外を飛び回ってりゃ別だろうけど、最近だとそうかもな。んで」
「空いた時間で要人警護をすることも増えた。主経由で話を頂いてな。そんなある一人から話を聞いたのだ」
「ふーん。どんな」
「なるべく大人しくしていることだ。揚げ足取りの材料は少ない方がいい、と」
「……ソイツって信用できるのか? 聞き様によっちゃ脅し文句と変わらねーじゃねーかよ」
「懇意にしている相手だ。主も疑ってはいまい。個人的に警護の手配を頼むぐらいだ」
「それも信用させる手かもしんないけど。ま、全部疑ってかかってたら話にもならないし。そんで、それがどうしたのさ」
「私は身に覚えがなくてな。ヴィータなら若しやと思ったのだが」
「生憎さっき言ったとおり。アタシもさっぱりだ」
「お前は有名な分、気付きやすいと思ったが――逆だったかも知れんな」

 犬の表情は分かりづらい。
割と表情が豊かな生き物ですが、ザフィーラは特に。普段も感情を余り表に出すタイプではありません。
その只でさえ分かりにくい表情すら、ヴィータからは拝むことができす余計に判断に苦しみます。
ただ、誠実で実直な性格から、表情を伺ってあれこれ考える必要のない相手ですので、それほど気にすることもないか、と思うのでした。

「でさ。アタシに内緒で言ったってことは、勿論はやてには内緒なんだな?」
「ああ。主も同じ相手から聞いている可能性もあるが、わざわざ私に伝えたところを考えればそれも低いだろう」
「なるほどね。シグナムとシャマルも?」
「お前が最後だ。私も主に同行してココを離れていたのでな、伝えるチャンスがなかったのだ」
「暫く? はやて、なんか事件抱えてるのか?」

 ぐいっと顔を寄せ、首周りの特に長い毛から顔を覗かせます。
ピクピクと動く耳が可愛い。けれどザフィーラにはさっぱり似合わないな、と毎度ように思うヴィータでした。

「相変わらず多次元に渡る密輸や違法魔導師の捜査だ。主の望んでいた事件の一端に関わっている、な」
「……ふ~ん。しっかし、ああいう奴等ってホントかなわないよなぁ。飛び石みたいにそこらで悪いことしやがって」
「先日の空港火災もそうではないかと言われているが……話が逸れたな」
「まあ話は分かったから良いや。ありがとな、ザフィーラ。今度から気をつけてみるわ」
「そうしてくれ。だからと言って何が出来ると言うわけではないが」
「相手はアタシらのことをよく思ってないヤツだ。……こればっかりは仕方ないさ」
「せめて主の足を引っ張ることのないようにするだけ、か」
「そういう事。はやての夢。アタシらが潰したりする訳にはいかないから」

 ザフィーラの頭をワシワシと乱暴に撫で、リビングを後にするのでした。

「うぃ~。寒い寒い」

 なるべく足音を立てないように、出来るだけ早足で寝室へと向かいます。
そっと扉を開け、爪先歩きでベッドへ近づけば思わず声を上げてしまいそうな光景が広がっていました。

「な、ななな……んぐ。なんで二人が抱き合ってんだよ」

 この状況で自分が寝ていたら見事に潰されていただろうほど、二人はガッチリと抱き合っています。
それほど身長の違わない二人ですが、なのはがはやてを胸に抱くような形を取っています。
どうしたモノかとベッドの脇で腕組みをして悩むヴィータ。
元の位置に戻るにはガッチリ抱き合った二人を引き剥がさなければなりません。そうなれば起こしてしまうのは確実でしょう。
折角寝ているのに起すのは偲ばれるし――ならば、真ん中に寄った二人。
当然左右は一人分ずつ空いているわけです。

「さて。どちらに入ったら良いものか……」

 その幅に違いはなく、それがヴィータを悩ますのです。
どちらかに偏っていれば、より空いている方へ入ればよいのですが、違いのない場合"誰の隣で寝るか"という選択になってしまうからです。
答えの出ない一人問答を巡らせていると背筋に寒気が走り、小さくくしゃみを漏らしてしまいました。

「こ、これじゃ早く寝た意味がなくなっちまう……仕方ない、こっちにするとするか」

 スリッパを脱ぎ、そのまま布団へ潜り込むヴィータ。
もそもそと中を進んでいき、ぴったりと抱き合っているその背中に抱きついて眠ることにしました。

「うぅ~、寒ぃ~。頼むから起きないでくれよぉ……」

 別に抱きつく必要などないのですが、冷えたままでは眠りに就くことは出来ません。
ある程度適切な体温が必要です。
それを確保するため。
そう。これは快適な眠りのために必要なんだ、仕方ないんだぞ。他意はないんだからな、と誰も聞いていない言い訳をして目を瞑るのでした。


 


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