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新婚なの! 9-6 (1)

「はーい、ご飯だぞ~」

 火が入っていくらか経たち、目が覚めていう家に久方ぶりの声が響きます。
台所からはフライパンの上で踊るウィンナーとベーコンの油が焼ける匂い。
それに混じってトーストが色づいていくのを知らせる香りが漂い、テーブルの二人の口は自然と潤ってきます。
フライパンが揺れ、お皿が並び、冷蔵庫の扉が開閉するリズムにのせてカウンターの向こうで赤い頭が忙しなく動きます。
チン、とトースターが軽快に音を鳴らせば、湯気と足音と共に朝食が運ばれてきました。
そこにはちゃっかり席に着いて、ご飯を待つばかりの二人。
特にはやては、足をバタバタと年甲斐もなく喜んでいるのでした。

「ごめん、はやて。あんま凝ったもん作れなくて。何だかすんげー普通の朝ご飯になっちゃった」
「気にせんでエエって。ちゃ~んと約束守ってくれただけで幸せや」
「そうだよヴィータちゃん。何も特別じゃなくたって良いじゃない。その気持ちが大切なんだから」
「う、うっせーよ。こういうのは自分で口にするこっちゃねーだろ」
「さてさて。冷めてまわん内にヴィータの作ってくれた朝ご飯、ご馳走になるとしよかね」
「はーい。ほら、ヴィータちゃんも座って座って」

 三人分の朝ご飯。
ヴィータが席に着くまでに、なのはが全部のトーストにバターを塗っておいてくれます。
はやては調味料と紅茶の準備をこなしました。
三人揃っていただきます、の挨拶。
いつもと少しだけ違う朝食に、新しい家族が一人。
普段と違う面々が揃ったテーブルには、違うようで、温かな空気が満ちていました。

「今日はスクランブルエッグなんだね」
「よ、よよ余計なこと言うんじゃねーって!」
「やっぱ、そーやよなぁ。前に聞いたときは目玉焼きいうてたのにーって。どうしたん?」
「あ、それは、えっと」
「久しぶりのはやてちゃんだから頑張っちゃったんだよねー?」
「そうなんか。うんうん、私のために頑張ってくれたかぁ。あぁ、なんて幸せなお姉ちゃんなんやろなぁ」
「う、うぅ~」
「ヴィータちゃん可っ愛いー!」
「ホンマやね。ヴィータの可愛さは三国一やわ~」
「そんな可愛いヴィータちゃんをお嫁さんにもらえた私って幸せ~」
「せや! こない可愛い子をお嫁にもらったなのはちゃんは三国一の幸せモノや!」

 フォークをかじかじ噛みながら恥かしげに俯くヴィータに、朝っぱらからテンション高い二人。
右手になのは、正面にはやて。
ヴィータに逃げ場なし。
余計なことを言いやがってー、と目で訴えながらも、指摘してくれたなのはに少しだけ感謝します。
しかし、それとこれとは話が別。
ジタバタと暴れるのは行儀もよくない上に、自分に構われては堪りません。
せっかく作ったんだから冷めないうちに早く食べてくれ、と言ってささやかな抵抗に留まるのでした。

「ごちそうさまでした~」
「さま~」
「お、お粗末さまでした……ぐふっ」

 普段よりちょっぴり時間のかかった朝ご飯。
久しぶりな上に待ちに待ったはやては勿論、朝にゆっくり一緒出来ないなのは。
二人ともに、ヴィータとの時間をゆっくり過ごしたい動機があったからです。
はやては、普段の朝ご飯の風景がどういうものか。
例えばシャマルは少しだけマシになったとか、シグナムはヴィータに隠れていただけで相当味に五月蝿かったとか。
そしてザフィーラはシャマルの実験体にされ続けた末に、味覚障害になりかけたとか嘘を吐いて、乾いた笑いを提供していました。
代わってなのはは、寝起きが可愛いだのお弁当の中身を教えてくれないなどの、はやてを羨ましがらせることばかり言います。
しかし調子に乗りすぎたのか、「もう少しベタベタしてたいのに、させてくれない」などと口走ってしまいました。
言い終わるか終わらないかの内に「もっと早起きすりゃ良いだろ!」と怒られてしまいます。
そこで終わらないのがなのは。
「だったら朝からベタベタして良いってことなんだねー」といえば「あはは。失言やったかなぁ?」とはやて。
ヴィータはしまった、とばかりに俯くのでした。
そんなこんなで終わった朝ご飯。
目立って珍しいメニューではありませんでしたが、その味以上に二人は大満足。
そんな二人に引き換え、挟まれたヴィータは昨日の夜の如く、ぐったりと。
はやてのテンションの高さに心配になったぐらいでしたが、久しぶりに見た笑顔に疲れなど吹っ飛んだ……と言いたいところでした。

「さってと。早めに片付けちゃうね、はやて」
「私もお手伝いする~」
「あ~、それやったら私も~」
「ダメだって。はやては座っててくんなきゃ」
「え~、いけずぅ。そない二人っきりの甘々後片付けを邪魔されたないん?」
「ち、ちちち違うったら!」
「んも~。そうならそうと言ってくれたら良いのに~。ヴィータちゃんの恥かしがり屋さ~ん」
「ちげーって言ってるだろー!」

 腰を浮かせたところを座らせようと手を出したところで、ガッチリ両脇を掴み膝へ抱きかかえます。
まんまとお膝の上に乗せられてしまったヴィータ。
口の端を持ち上げニマニマにヴィータのお腹をつんつんします。
ヴィータとしては暴れても良かったのですが、久しぶりのはやての膝は何と無しにその力と意思を奪っていってしまいます。
抵抗の意思がないことを読み取りニタニタとご満悦に頬を緩ませていると、なのはとアイコンタクト。
ヴィータに大人しくしているように言うと、なのははニッコリと一人台所へ向かうのでした。

 

 

「悪かったね、なのはちゃん」
「ううん。後片付けはいつもしないから偶には、ね」
「そうだぞ。お前全然家事しないじゃんか。そんな今日だけしたって駄目なんだぞ」
「まあまあ、そう言わんと。偶のことでも褒めへんと伸びへんよ」
「だって。コイツは余り褒めると調子に……あ、そうだ。今日帰ったら桃子さんに言いつけてやるからな」
「そ、それは勘弁してくださいヴィータちゃん」
「やなこった。んなことぐらい里帰りするんだから当然だろ。今更そんな顔したってダメなんだかんな」
「ああ~ん、ヴィータちゃ~ん」

 ソファーに座ったヴィータにすがり付くなのは。
管理局戦技教導官、不屈のエースオブエースでも怖いモノは存在したようです。
その希少な存在の中でも一際頭の上がらないであろうその人、高町桃子さん。
すっかり立派になろうとも、その辺は変わらないのだなと思いながら、はやては別の理由で喉をくくくっと鳴らすのでした。

「ほれ見ろ。はやてにも笑われてるぞ。お前が情けないばっかりに」
「うぇ~ん、ヴィータちゃんの意地悪~。お願いはやてちゃん、はやてちゃんからも何とか言って~」
「んふふ。そやね、親友の頼みやし聞かん訳にはいかんか。ほれ、ヴィータ」
「あにさ、はやて」
「そない怒るなら私の膝を降りてからにせんと。全然威厳あらへんよ?」
「あ! あ、あう……」

 しっかりとソファーに座ったはやてに抱きかかえられたまま、なのはに説教していたヴィータ。
よく見れば、いえ、よく見なくても全く珍妙な光景です。
そんなヴィータを、はやてとなのはが揃って笑えば、タイミングよくセキュリティーが鳴りました。
どうやら誰かが帰ってきたようです。

「ただいま帰りました、主」
「お帰んなさい。おや、今日は珍しい人間姿のままなんやね」
「まだ寝ていらっしゃるかと思いましたので」
「そやね。犬さんのままやと足拭いたりせないかんから。外は寒かったやろ? なんか温かいもん淹れたるね」

 パタパタと台所へ向かうはやてに、ヴィータはザフィーラを手招きしました。

「ほれ、こっちこいよ。温まるぞ」
「ああ、そのつもりだ。今日は特に冷え込んでいる。帰るときは気をつけることだ」
「わーってるって。さっき天気予報みたからさ」

 天井に埋め込まれたエアコンの下へ、犬の姿になったザフィーラがなのはの前を横切っていきます。
センサーによって人の身体に当たらないようになっていますが、冷たいものが近づいてくるとその辺は調節してくれる優れものです。
ザフィーラの移動につれて、そよそよと風の向きが変わっていくのが分かります。

「なんでヴィータちゃんまでくっ付いてくの?」
「こっちの方があったけーからだよ。ほれ、もうちっと寄せろって」
「あ、なに? 私もそっちに行って良いってこと? それなら行っちゃうよー」
「バッカ! 呼んでねーよ! 風が当たらないから詰めろって言っただけだ!」

 ザフィーラに抱きつくヴィータに抱きつくなのは。
しっかりと座り込み動く気配のないザフィーラに、ぐいぐい押し付けてくるなのは。
二人の挟まれてヴィータは昨日に続き、またもや潰れてしまいそうです。
流石に双方を退ける力はなく、朝っぱらから面倒なことになったと思った矢先、助けの声が響きました。

「お待たせ。あれ、犬さんになってるんやったら、こっちのお皿の方が良かったかね」
「……いえ、お手を煩わせることはありません」
「うわっと! いててて……」
「あ~、ザフィーラさん退いちゃったね」

 変身して退いてしまったために、なのはの重みで床に抱きつく羽目に。
湯気の立つコップはエアコンの風に揺れ、ザフィーラの方向へ吹いていることを示しています。
そうなってしまえばこんなところで寝転んでいることもありません。
さっさと立ち上がろうとしても、なのはがしっかり上から乗っかっているために身動きが取れません。
もそもそと亀のように動くヴィータを見て、さも楽しそうに笑うはやて。
なのはは、自分の胸の下でムッツリ顔のヴィータを抱えてご満悦でした。

「……お前が退いてくれると嬉しいんだけどな」
「うぅ~ん、残念。ヴィータちゃんの喜ぶことは出来るだけしてあげたいんだけどなぁ」
「ちっくしょう……」
「あははは。ヴィータは朝から可愛えなぁ、ほいほい。そんなら私も抱きつこかね。ほいっしょ!」
「うぎぎぎぎ! 重い、流石に二人は重い!」

 更に上からはやてが乗っかり、ヴィータは潰れないようにするだけで精一杯。
ほっぺをぷにぷにされたり、まだ結ってない髪を弄ばれたり、ぽちょぽちょのわき腹を掴まれたりとやりたい放題。
暫くしてホットミルクを飲み終わったザフィーラに助け出されるまで、そのままなヴィータでした。


 


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